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◇37神官王〜2

扉が開く。

…側に厳めしい武装した門番も地獄の獄卒みたいな兵士もいなかった。



拍子抜けした気分で、重そうな石造りの扉をミカエルさんに続いて広間の中へ足を踏み入れた。

石造りのドアなんて初めてだ。

ミカエルさんが扉の模様の一部に掌をあわせると、青い光りがそこから発光しゆっくりと周囲に広がった。私とミカエルさんを青い光りが包み、光りはキラキラとまとわりついたかと思うと唐突に消えた。

まるで打ち上げ花火の残光かというようなあえやかな輝きだった。


「さあ、入りましょう」



―…


息をのむ。


凄い。


これは…なんだ。


圧倒される。


「広いでしょう?」

ええ。まさか地下にこんな天井が高い広々とした広間があるとは。かなり度肝を抜かれた…


市民体育館位の広さはあり…ちょっとしたアイドルのコンサートくらい開けそうだ。

この世界にアイドルがいるのか知らないけれど、ここは神殿だからミサ?祈祷?降臨の儀式?

…とにかく神にまつわるなんらかの会合というか集会でも開く場所なんだろうか?


全校集会…なんて高校以来の懐かしい響きの風景を思い出す。まあ、通路が狭いから、そんな人数は危険で集められないだろうけど。


「こちらですよ、レディ」

「す、すみません」


レディ、は、…スペイン語ならセニョリータ。日本語ならお嬢さん。未婚女性の一般呼称だ。

恥ずかしいね…でもミカエルさんは騎士だから。


文句なんて言えません…

衣食住の元になる御方に逆らえるわけないじゃないか。今の私は単なる穀潰し。立場はわきまえてる。


今更ながらここの世界の言葉は日本語として脳内変換されて理解出来るから便利。

でも文字はかなり気合いをいれないとさっぱりわからない。ついでにミカエルさんの離宮にあった書斎の本は読んでもいいと言われたが神語とか古代文字が混ざり過ぎててまったくわからなかった。

よってこの世界の基本的知識はミカエルさん頼み。忙しい彼に無理も言えず、トリップしてきて2ヶ月近くたつのにたいして知識は増えていない。

…もといた世界の仕事…については考えないようにしている。たぶんクビになっている…ね、うん。


舞台のように少し高くなっている場所を目指して歩くミカエルさんを追う。


舞台の脇にある一見普通のドアも、さっきと同じように聖紋の認証にて解除し通り抜ける。

聖紋ってこの場合、最新鋭のロックシステムみたいだ。静脈確認とか…顔認識とか…


「着きましたよ」


細い通路の先にあるドアを今度は普通にノックし、待つ。


やがて、ドアは開き招き入れられる。




「レディ?」



世界が、白くなる。



その瞬間、息を忘れた。



「…」


自分が、息をのんだきり動けなくなるのはとても不思議な現象だと思う。しかもそれを知覚しながらも全く動けない…


懐かしい人がいた。


「来たな…ミカエル」


振り向いた、その人は。

「はい。陛下。こちらがお話ししたご婦人です」


「異界からの稀れ人か…どうした?」


声も……


「レディ?」


ミカエルさんが何か声をかけてくれている。


「…ど…して…?」


その人から視線を外せられない。


胸が痛い。熱い。


身体中が、軋むように熱い。

唇が勝手に震えて声は私の意志を無視する。


こんなに、似ているなんて。


「か…ずま」


その人は訝しげに眉をひそめる。


「なんだ?具合が悪いならまたの機会にしてもいいが」


「レディ?」


似ている。

声も顔も。体格も雰囲気も。


不遜で傲岸な、でも繊細な…その強い輝きに煌めく茶色の妖しげな静かな瞳。


数真だ…


私の目の前、2メートル先にいた姿は。


まさにかつての数真そのものだった。



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