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◇35案内人〜2

「あらら、凍っちゃった?あ、勝手に寛がせてもらうからどうぞおかまいなく」


固まった私の目前をすいと通りすぎ、壁際のソファに座ると男は話を再開する。


「姉さん?」


「私はあんたの姉さんじゃない…止めて。その呼び方」

「ずいぶんと強気だな。昔のあなたとは思えない。でもまあこの状況だし、ね」

この喋り方。

男はわざとらしく真似ている。

こんなことをするのは確かに、マサハルくんじゃない。


「あんまり時間もないからね、要点だけ」


酷薄そうな薄い唇がにい、と歪む。


「あなたの探すべきなのは、『想い』だよ。

弟くんのあなたへの『想い』はこの世界の高貴なお方に憑依した。中途転生…とでも言うかな」


数真の…想い?


「うん。愛を探すなんてロマンチックだね…まあ見つけなければあなたは帰れないからそんな浮かれてもいられないけど」


愛を探す?

いや、この男は今大事なことを言った。


「帰れるの!?」


思わず駆け寄ろうとする私に片手を上げて静止を求める。


「待って。まあ、今の段階ではヒントはこれだけ。取り敢えずは見つけてごらんよ。そうだね…まずはこの国の神官王に会うといいね。次のヒントはそれから。ああ、あとね」


男は立ち上がると、 眼鏡に手を掛けた。


「あなたは守護者ではないけど、似た性質を持ってるから充分気をつけてね。じゃ」


「待っ…!?」



消えた。


「どういう…」


忽然と消えた男の姿は夢じゃないかと不安にさせるが、私はソファの座面に手を当てて確信した。


温かい。ほんのりと。


確かに、いた。 マサハルもどきの男が。


「案内人…」


声に出すと不安よりも戸惑いが強くなる。


元の世界の私を知っている口振りだった。


「なんなの…」


はたから見たらバカみたいなほど私は落ち着きなくうろうろと部屋を歩き回った。


色んな感情が渦巻く。


数真の記憶が…いや記憶ではなく想いといったっけ、それが、『憑依』『中途転生』…?


それとなんといったっけ?

「神官王…に会うこと」



胡散臭げなマサハルもどきに与えられたヒントが、どこまで真実かはわからない。私を踊らせて楽しむだけで言った言葉かもしれないという可能性も、捨てきれない。


でも。


数真。


この世界に来てからも忘れたことはない。むしろ、以前よりもさらに私は数真に会いたくて堪らなかった。


『姉さん』


懐かしい笑顔。


夏の日射しに映える、嬉しそうな笑顔。

数真に受け入れられ、求められている喜び…こうして思い出すだけで胸がじんわり温かくなる。こんな状況なのに。


「…」


会うしかないだろう。


神官王に。 結果はどうなるかわからないけれど、今のところ、それが数真に会うための唯一の手掛かりなのだから。私は大きく溜め息をつくと、キャサリアを捜すために部屋を後にした。

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