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25ダブルデートが終わりましたが

映画はかなり面白かったらしい。


昔の映画のリバイバルで、映画館もアートな感じのミニシアター。


ミヤが映画の話をして、数真が相づちをうち、雅也さんがまた話を振るという絶妙なコンビネーションでようやくダブルデートっぽさが出てきた。


家庭的なイタリアンを出す、知る人ぞ知る隠れ家的レストランでの美味なる昼食会。おだやかにおだやかに時は流れる。


にこやかにひたすら頷いていたのは私。


ジャンスカにボーダーTをさんざかミヤに冷やかされた時は恥ずかし過ぎたが。まあ…まあそれ以外は…

ん、無難に会話出来た。


ようやくラストのデザートになり、さっぱりとしたほどよい甘さのジェラードを食べていた。




「今日は楽しかったね」


しみじみと言い、雅也さんは私を見てきた。


「楽しめたかな?和音ちゃんは」


「そうですね…楽しかったです。なんか色々とありがとうございました」


本当に雅也さんに迷惑かけてしまった。

こんなコドモに付き合わされてうんざりしてないだろうか?

そう心配になるが、そんなことあまりにもうざそうで言えない。


それに…こんなこと思ってはいけないんだろうけど、雅也さん…に。観察されているみたいなその視線にどこか落ち着かない。


「なるほどね」


雅也さんがクスクス笑っている。


見ると、テーブルに肘をついて組んだ手に顎を乗せて…なんだか楽しそうだ。


一部始終観察し終わったとばかりに言ってきた。


「いいのかな?否定しなくて」


その目線は数真に向けられている。


「なんのことですか?」


「へぇ。もしかして予定調和の余裕かな?」



私は思わず数真を見た。


二人は何を言ってるんだ?

数真は雅也さんに薄く笑いかけ首をすくめている。

くだらない、と言葉に出すまでもないのだろうか。


「人聞きが悪いですね…なんのことですか?」


かわす数真に絡む雅也さん。珍しい。雅也さんが熱っぽく話してるのはなんのことなんだろう?


「…偶然、ね。今日はなんのためにこんなデートを企画したのか聞くほど野暮じゃないけどさ、和音ちゃんを悲しませるような趣味は持っちゃだめだよ?数真クン」


「意味がわかりませんけど」



え…なんで?微妙に険悪になってるし。はらはらして二人のやりとりを見守る…というかテニスのラリーを見てるような緊迫感が、びしびし伝わってくる…


「優等生でもわからないことはあるんだね」


「あなたこそ。もっと一途なロマンチストだとみくびってました」


「と言うと?」


「和音ちゃんを利用しないでください…自分の想いの昇華のために」


「言うね」


「言いますよ」


う、わ、あ。

なんでこんなコワイ空気になるんだよ…


もうじきお開き、解散だっていうのにケンカしないでください…


なんで二人はケンカしてるんだ?


ミヤがボソッと呟いている。

「モテる女は辛いわね…」

「は?」


「いえいえ」


なんなんだ…。


「和音ちゃん」


「は、はいっ!!」


なんかいきなり名前を呼ばれて、授業中に当てられたみたいな錯覚だよ。


雅也さんがにっこり私を見つめてくる…


やな予感…


雅也さんは何か楽しそうに微笑んできた。


「この際、二人には言っちゃおうか?約束した件について」


…まさか。



「こそこそするのは嫌なんだよね…」



「雅也さん?あの」



とんでもないことを言いませんように。


数真の目線が痛い。温度がすうっと下がった気がするのは気のせいだよね?


頼むから、気のせいだと言って。


「あの…?雅也さん?」


しかし私の祈りもむなしく雅也さんは爆弾を投下した。


「今度は二人でデートだから、ね?」


あ、あ。


言っちゃった、よ。


大人なのに、なぜ空気を無視しますかね!?

なんでこのタイミングで言っちゃいますか…


「あの…数真…」


と、数真が薄い唇をほころばせ、静かに静かに言ってきた。


「和音ちゃん」


「は、うん!?」


ごくりと喉がなる。

カラカラに渇いている。


数真が見ている。


数真。


数真。


見てくれている。

やっと合わせてくれた、その視線は冷たくもなく乾いてもいない。


ちょっぴり安堵だ。よかった。




――え?


いまなんて思った私?



あたふたする私を数真が優しく見つめてくる。



「和音ちゃん」


「…う、ん」


「帰ろう」


惑いを吹き飛ばす懐かしい笑顔。


その伸ばされた手に頭の奥から温かな感情がじわじわと呼び起こされてゆく。


帰ろう。



鮮やかによみがえる。



染み渡る、数真の言葉。


数真の瞳に捕らえられる。

薄茶の瞳。柔らかな睫毛の陰。


うなずいていた。

気づいたら、身体が勝手に何度もうなずいていた。


「うん」



そうしたら。


また優しい空間に戻れるようなそんな気がしていた。


すでに手遅れなのかもしれない――


なんて。思ってもいなかったんだ。


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