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24ダブルデートって初めてですが〜5


気にならなかったといえば私は大嘘つきだ。



「…関係ないですよ…数真は…」


のどから声を絞り出す。

名前を口にするだけで胸がドキドキと苦しくなる。


「あいつはかなりヤバい。和音ちゃんもわかってるよね?うん、わかってるはずだよ。だからこうして僕といるんだから…」


雅也さんの瞳が見られない。柔らかな目線の奥から突き刺さる視線が…

全てを知っているようで。

「ここから先はあくまで仮定の話ね」


ボサノバはまだ流れている。雅也さんの落ち着いた声はゆるやかなギターに乗って紛れることなく響いてくる。


「数真は君にとっていわば捕食者なのかな」


「…捕食者?」



「そう。君は数真の行動に翻弄されてる。それって仮に恋愛だったとしてどうなのかな。楽しい?

相手に支配されて心のどこかで安らぎを感じるとしたら、それは恋愛とは違うんじゃないかな。


たとえそうだとしても、相手への愛情なんかは沸いてこないんじゃない?


相手の幸せを考えられるのが幸せな恋愛だとしたら。少なくとも健全じゃあない。支配被支配の共依存関係になりかけているのかもしれないね」


恋愛…か。


人を好きになること。


改めて言われると何もわかっていない自分に気づいて茫然とする。



でも相手の幸せを考えるって…実際出来るの?


雅也さんの話だと私と数真はお互いに依存しあっている…ってこと?


お互いにお互いの幸せを考えられない関係?


なんかたまらない気分がしてきた…


「…じゃあ雅也さん?」


「うん」


「心変わりした相手の幸せを祈るようなことって出来るんですか?その人が他のコと二股かけてたり本命が出来たとかってサヨナラされても、変わらずに優しく出来るんですか?」


私には無理だ。

たぶん佐々木くんはすぐに私から離れていく気がする。だから告白されても気分が高揚しなかったのかもしれない。


「難しいね…まあ男と女は違うし、惚れた弱みといっても程度はあるしね」


「なら…」


数真ならどうなんだろう?

私を支配しようとする数真。その代償として、絶対に裏切らない心変わりしない存在として側にいてくれるのだろうか?


じゃあなんでミヤとデートしてるんだろう…


「じゃあそろそろ出ますか?」


にっこり苦笑した雅也さんと目が合った。それから雅也さんと本屋さんに行ったり、ステーショナリーみたり。

街をぶらぶら久しぶりに歩いている間中、私は何も考えられなかった。


雅也さんはどこまで気づいているんだろう、とか。

あの二人は今頃どうしてるんだろう…まあまだ映画なんだろうけど。

とかそんなことばかりがぼんやりとした頭の中を、ぐるぐると巡っていた。


「この服、和音ちゃんに似合うんじゃない?」


「え…って、こんなミニのジャンスカいつ着るんですか!?」


サテンのてろんとしたかなりなミニのジャンスカはボーダーカットソーと合わせて、『秋マリン』となる、らしい。そう雑誌の切り抜きが可愛く服の側で張り付けてデコレートしてある。


「こんな足丸出しの格好で電車に乗れません!」



「だから、俺とデートの時に、ね?ならいいでしょ」


何が、『ね?』なの…でしょう、か…?


ああなんでこんな大人のカッコいい男性とデートしてるんだろう…周りからロコツにチラチラ見られる視線が痛い痛い…


すみませんね…こんながきんちょが側にいて。大学生みたいなお姉さんにやたらじろじろ見られてるよ。


「はあ…もう雅也さんが着たらいいじゃないですか。私よりきっと似合いますよ?」


「ダメダメ。和音ちゃんが恥じらいながら着てるのがいいんじゃないか。だから、さっ試着試着!」


「まったくスルーですね…」


しぶしぶ着てみる。

結構、強引だな雅也さん。たぶん元気づけようとしてくれてるんだろうけど、考えてることが掴みにくい。


「おお」


「あんまり見ないでくださいよ…って、雅也さん!?」


「あ、すみませんこれ着ていきます」


側で営業スマイルの店員さんに話しかけている。


「ではお召し物をお包みいたしますねェ〜」


「ありがとう」


「あの…雅也さん?」


振り返るその笑顔はにこやかだ。


「ん?そのまま着てけばいいよ。帰りはクルマで送ってくからね」


「ありがとうございます…ってなんでそんな悪いです」


足をもじもじさせながら手をブンブン振る。

こんなミニ着て歩くのか?それも雅也さんと。


「やめて下さい…本当にお気遣いなくっ」


恥ずかしすぎる…


「僕からのプレゼントだよ喜んでほしいなあ…お礼ならありがとうのキスがいいんだけど、ね?」


お会計を済ませた雅也さんに、店員さんが私の着ていた服の入った包みを渡している。


後はもう、なし崩し的に…店から連れ出された。


「プレゼントなんてそんな誕生日でもないのに貰えないですよ」


「好きなコにプレゼントするのに理由なんかないよ?」


「う…」


最後の抵抗も、キラめく笑顔に撃沈。

なんてさらりとキザなセリフを…


雅也さんあなたホストさんですか…?


「俺、君に付き合ってって申し込んだよね。まさか忘れちゃった?」


そ、そうでした…

忘れてたわけじゃないんです、でも…


「和音ちゃんと一緒で僕は嬉しいけど肝心の本人はなぜか上の空だよね?」


「そ…うですか?」


服屋さんの後はまた数真たちと合流だ。ご飯を食べにイタリア料理のカジュアルレストランへ行く予定。


「数真のことが気になる?」


「…あ」


またそこへ戻りますか…


数真のことを好きかなんてわからない。

依存してるのはそうかもしれない。


私の頭と身体を支配しつつあるのかもしれない。


外国童話の、赤い靴のお話。

赤い靴を履いて…踊り続けた女の子。


やめたくてもとまらない。呪われた赤い靴。


踊り続けた女の子は偶然出会った木こりに、自分の足を斬ってくれと頼んだのだ。


そうして、命だけは助かった―――――。



誰かに必要とされたい欲ばかり。私は勝手な人間だ。


でも誰でもいいんなら。


じゃあもちろん数真じゃなく佐々木くんでもなく、もし雅也さんとなら?


穏やかな『恋愛』が出来るのかな。

誰かを大切にその幸せを願えるような、そんな『恋愛』が…


出来るのかな…

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