23ダブルデートって初めてですが4
涙っていうのは。
悲しくなくても出る。
体験からそう学習したのはいくつの時だったか。
悔しい時、苦しい時、それと…たまらなく空っぽの自分を感じる時。
ああ、こないだ泣いたのはいつだったっけ?
確か、あれも数真がらみ。
なんで泣いてるのかわからない類いの涙。
意味がない。
こんな時に泣くなんて迷惑。
自分に酔ってるみたいで余計に自己嫌悪…1人の時に泣けって自分でも思うよ。
でも感情を押さえるほどに、出口を求めてなのか私の目から涙が溢れてきた。
そんな自分を叱ってなだめて、ようやく落ち着いた頃、テーブルに戻る。雅也さんは気楽に『お帰り〜』と手を振ってくれた。
「ミヤたちは?」
「先に行ったよ」
うっ、ごめんなさい…
映画は指定席だから、ギリギリでも間に合えば座れるだろう…けど。
いつの間にか曲調は変わっていて、ゆるいボサノバのBGMが流れていた。
私は雅也さんに頭を下げた。
「雅也さん、ごめんなさい…映画、観られなくなってしまって」
「ん?別に?それほど観たい訳でもなし、こうしてゆっくりのんびりしてるほうがいいよ。
可愛い女の子と一緒ならなおさら、ね」
「本当にごめんなさい」
「いいっていいって」
茶目っ気たっぷりに片方の目をばしばしさせている。
「…どうしたんですか?」
「ウィンク。難しいよね〜昔からなかなか上手くできないんだよ。目薬点すときも口開けちゃう派だしさ」
他人事みたいにつぶやいているとイマドキの?大人の男というよりはなんか近所のお兄さんみたい…まあ実際そうなんだけど。
雅也さんてカッコいいのに、やっぱり飄々としてる。
昔とおんなじ。
「ふふっ」
「あ、笑ったね?笑った罰として何か食べる?」
「もう、ワケわかりません…何ですかソレ」
たまらずクスクス笑ってしまう。
昔みたいにどこか人を喰った態度なのに、とぼけていて憎めない。
ホッとする。
雅也さんは変わっていない。凄くカッコいいオーラを出しまくっているけど、変わっていない。雅也さんはニヤリとイタズラっぽく私を見てきた。
「和音ちゃん」
「へ?」
「やっぱり笑顔がいいね」
…
「何があったか聞かないけどさ、迷った時にどっちにしようかなって時。和音ちゃんは難しく考えてやたらしんどい方へ行っちゃうタイプかな?」
流し目を送ってくる雅也さんの吐いた言葉に、背筋が一瞬でビッシリと凍りついた。
―…
「今さっき、ちょっと僕のこといいなと思ったでしょ」
「…」
「でも和音ちゃんは自分の気持ちを伝えてくれないよね。それって男からしたら、脈がないって判断しちゃうかもよ?せっかくアピールしても無反応なら脈ナシって思うだろうね」
雅也さんは口調も相変わらずのんびりしてる。
数真といい美形は表情が読みづらい。
何が言いたいのだろう。
私の戸惑いに気づかないフリで雅也さんは喋り続けている。
「つまり。俺は和音ちゃんをいいなって思ってるよ?ってこと」
「は?」
「付き合ってみない?」
ニッコリ。
…そんな顎を手に乗せて、甘く微笑まないでください…たぶん素敵すぎています、よ。
「え…あの?」
「俺はさ、アツい情熱って、恋愛には鬼門だと思ってるから…いつ冷めるかわからない…そんな恋愛では幸せにはなれないと思うんだよね。情熱って、執着と同意義語だと解釈してるから」
まだ三分の1残っているすっかり氷がとけて薄くなったアイスコーヒー。雅也さんは直接飲むと、あぜんとしたままの私をじっと見つめて、優しく笑った。
「誠実なのは保証するよ、あっそれとも危険な男がいいのかな?
…数真みたいに」
雅也さんは優しく優しく、笑った―…。




