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21ダブルデートって初めてですが〜2

大事なことは、勘違いしちゃいけないってことだ。


数真の『好き』『愛してる』は支配欲と征服欲から来ている。


それは間違いない。


快楽に飲み込まれそうな私は、それを勘違いしそうになっていた。勘違いしてもかまわないと心のどこかで…見てみぬふりをしていたんだ、たぶん。


絡めとられてゆく、快楽。

そう、きっとそんな自分が怖くて、堕ちてゆく自分が恐ろしくて、だからきっと。

だからこんなに…落ち着かない。そうだ。


そうだ。だからもう自己分析はやめないと。


頭は冷えているのに、足元がふわふわして。

どこを歩いてるんだろう?


「和音ちゃん?」



雅也さんの顔。


その向こうには駅前のモール一階にあるお高そうなカフェテリアって感じのオシャレな喫茶店。


「今からだと映画は少し早いからちょっと休んで行こうか」


「和音、気分悪いの?」


心配そうに私を見てくる兄妹。


そして。


淡いグレーのシャツにサンドカーキの涼しげなパンツをさらりと着こなした弟が立っていた。


数真。


私を眺めている。

そう、見ている、ではなく見つめているのでもなく、

眺めている。

まるで景色か何かを眺めているように。


その口元には、微笑。



…でも。


「姉さんは、別に無理しないでもいいのに?」


あの瞳、だ。


茶色の瞳はうっすらとグレーがかかっている。


たまに見るその色は、怒りや興奮の時に現れる。


数真…?


優しい笑みを漂わせている。あくまでも優しい、見る者をとろけさせるような…懐かしいいつもの優等生の表情なのに、柔らかいその言葉の中に刀の抜き身のような冷たさを感じて、私は口ごもる。


数真は。もしかして。


私が来て迷惑…だった?


いやそんなこと口にしたらうっとおしさ倍増だ。



それに、二人はともかく、雅也さんは巻き込まれただけなんだから、せっかくのお休みを楽しんでもらわないとダメだ。


「迷惑はかけないよ。私…私も雅也さんと一緒にいられるなんて、嬉しいし」



「嬉しいね。僕も和音ちゃんとデート出来て役得だな。数真、お姉ちゃんのことは心配いらない…僕がしっかりみてますからね。君はミヤと楽しめばいい。さて、さっさと中に入りましょうかね?」


私に調子を合わせて言うと、私の肩を抱いて雅也さんが歩き出した。


「…」


何か言いたげに目を細めた数真をミヤが促しているらしい、明るい声。


「そんな怖い顔しなくてもアニキはドクターだから、ね?入ろ入ろ!」



数真がそれに応えて返している。


そのやりとりはひどく遠い。


私…やっぱり来るべきじゃなかったのかもしれない。

数真の反応に自分でも思った以上にショックを受けていたらしい。


―…穏やかなBGMがおずおずと耳に入り始める。


目の前にはレモンソーダが置かれている。


ぼんやりしていたみたいだ。

そのレモンイエローというにはやや薄い色の中に炭酸が踊っている。


弾ける泡の粒を見詰めるといつも思う。


海みたいだ。

青い炭酸水は南の海の中にいるみたいだけど、淡いイエローのソーダはそれはそれでファンタジー。


夏の暑い日に飲む炭酸水は夢の中にいるみたいに私を心地よくしてくれる。


いつも。

炭酸を飲んでいると数真が側にいて。

私はどうでもいい話を数真にして。

数真はにこにこしていて。


レモンソーダから視線を外す。


今、目の前には雅也さんがいる。

隣のテーブルでは楽しそうに笑いながら会話する数真とミヤ。


雅也さんはゆったり寛いだ様子でアイスコーヒーを飲んでいる。


よくみたら、確かに昨日まであったはずの無精髭がキレイになくなっている。

確かにかなりうっすらとだったけど、今はぜんぜん…全くない。


じっと見ていたら、雅也さんは『ああ』、と 呟いて微苦笑した。



「さすがにナイトが口髭ボーボーではまずいでしょ」


「ワイルドで似合ってましたよ?」



「へえ、和音ちゃん口髭の魅力わかるんだね。これは嬉しいなあ」


…にっこりキラースマイル…うん、いつもの私ならドキドキしてマトモに会話も出来ないだろう雅也さんの微笑だ。


でも今はなんだか…こう…

変に見えないように気持ちを張ってるせいか、かえって落ち着いて受け答え出来ている。


「可愛いお姫様に釣り合うようにこれでも磨いてきたつもりなんだけど…そうか、お姫様は無精髭がお好みなんだ?」


「ぷっ」


「あ、笑わなくていいとこだから、ここ」


「すみませんでも…なんかおかしくて」


「今日は僕らはオマケなんだから…そんなにしゃちほこばらなくても、楽しめばいいんだからね?」


「しゃち?」


「あ〜、わかんないか。ジェネレーションギャップだな」


「ジェネレーション…」


「知らない?」


「ごめんなさい…」



雅也さんが難しい言葉を連発する。

私も時代劇とか好きだし小説をよく読むから、よく何ソレって言われるんだけど。言葉は難しい。


「まあとにかく、今日は気楽に、ね?」


「はい」


雅也さんでよかった。

もし佐々木くんだったらこんなにリラックスして話せてたかな。



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