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18夏休みになりました〜4

よく朝。


世間的には楽しく自由なはずの夏休み第1日目を私は迎えた。

昨日までの開放感は消え、変わりにまたプレッシャーが気分を重くさせる。


とうとう夏休みかあ…

今年は頑張らないと。


ふかふかのベッドにいつもと違う肌触りのシーツから起き上がり、夏休みの予定を思い浮かべる。


学校の補習授業、予備校の夏期講座。模試。

相変わらず代わり映えしないラインナップだな―。

しかし先生に言われるまでもなく夏に伸びないと本気でマズイんだよね…


昨日は久しぶりにかなり勉強した。これくらいのペースでいければ下がることはないだろう。出来たら飛躍的上昇を図りたいけど、みんなも頑張ってるから相対的には上がることはないかもしれない…偏差値とか判定とかね。



とりあえず成績は置いておくとして、それ以前にまず問題は、勉強に集中することなんだよね…



真面目だけが取り柄なのに、カラダはココロと裏腹で数真に翻弄されっぱなし。

そうして。

カラダに引きずられるように私は確かにヘンだった。

ついこの間まで、数真に強気だった自分が嘘みたいだ。

数真のことが気になってしょうがないのだから。


これは恋愛感情じゃあない…なんでメールに返事がないのか気になって仕方ない…それだけだ。


情けないな、私。


…とりあえず着替えを済ますことにしよう。




うまく働かない頭を動かしてゆく。

…そういえば昨日は、ミヤんちの客室に泊めてもらったんだっけ…


そうだった。


昨日は家に帰らなかったんだ。


――と。


数真の顔がふいに浮かんだ…それを頭の隅へ押し込む。


それにしても。


客室が二つもあるんだよ…ミヤんちは。

我が家もそんなに狭苦しさはないけど、家が広いんじゃなくてただ人口密度が低いだけだし。


いつもふたりだけだから。

……。


だめだ。

数真の顔がぐるぐる浮かんでくる。

胸の底がなんだか落ち着かない。

そわそわと。むずむずするような。

息をするたび何かを忘れているような気がする。


なんなの、これは。


とにかく今日は早めに家に帰ろう。

自分の気持ちに名前をつけたくなくて、私は着替えを済ませベッドを整えるとキッチンへ降りていった。



◇◇◇


「おはよう和音」



「おはようミヤ…ごめん手伝えなくて」


「弥生さんが全部してくれて、あたしは並べただけ。アニキはまだ寝てるしさ…もう食べちゃおうよ?」


すでにキッチンからダイニングテーブルへと朝食は並べられて、美味しそうな湯気がたちのぼっている。


スクランブルエッグにサラダ、ヨーグルト。フルーツもある。


プレートにキレイに盛られた料理をみて、私は感嘆をもらした。


「すごい…朝から豪勢ですね」



「そんな…豪勢だなんて。お口に合えばと今日は洋食にしたんです。確か卵はスクランブルが和音さんのお好みでしたよね。

飲み物は何にしますか?

コーヒー、紅茶?牛乳にオレンジジュースも用意できますよ」



弥生さんは私の為にトーストを焼く準備をしながら聞いてくれた。


なんか凄い…

久しぶりに宮岸家にお泊まりしたけど客室といい食事といいホテルみたい…


「じゃあ、オレンジジュースで」


「はい。今すぐお注ぎしますからテーブルへどうぞ」

「すみません…いただきます」


すでに身支度を完璧に整えたミヤはテーブルに座り、紅茶を飲み始めている。


「和音、お先に」


「ううん…あ」


「どうしたのよ?」


一足先に焼けたトーストをオレンジジュースと一緒に受け取り、私はバターを選んで塗る。


マーガリンよりも固く白いカタマりが、キツネ色のサクサクした表面にゆっくりと溶けてゆく。


「なんか…うん」


「何?」


ミヤも弥生さんからトーストを受け取り、ブルーベリージャムを選んで手早く塗っている。


髪は艶やかな茶髪のストレートロング。

モデルみたいに細くて背が高い。大きくて華やかな目元、繊細な唇とほっそりと通った鼻筋。


今日は淡いピンクのふんわりしたミニワンピを着て、流行りらしい変わったベストを重ねている。見た目がモデル出身の女優みたいだからか、こうして見ると、まさに『お嬢様』だなあ。


眼の保養だ。白薔薇の妖精みたいだ、なんて子供みたいに思ってしまう。



じっくりと眺めていると、ミヤは怪訝そうに聞いてきた。


「なによ?どうしたのさっきから和音…ああこのカッコが気になる?」


「うん。どっか行くの?」

「まあね」


綺麗に化粧した顔を私に向けてミヤは顔をしかめた。


「実は今朝、シスコン君から頼まれたの。デートしてくれってさ」



え?



「でね?良かったら和音も一緒にって言ったんだけどそれじゃデートにならないって。だからまあ、ダブルデートならいっかなとその条件でオッケーしたの」



ええ?どういう?


「シスコン君にはブラコン姉がつきものでしょ?だから」



…は?


私は口の中のトーストをどうにか飲み込んだ。


ダブルデート?

いやいや、あの…その前に。

数真がミヤとデート?

そんなこと今まであったっけ?


また動悸がしてきた。

なんだろう、もう。数真がらみで最近こうなることが多いよ。


ミヤと数真。


考えてもいなかった。

深紅の薔薇と白薔薇の組み合わせ。


動揺する私をよそに、ミヤは気だるそうに続けてきた。


「男子、今から調達するから誰か好みあったら言って?佐々木でもいいけど初デートがダブルデートではアレかなと思うし」


「…」


またいきなりな展開に。

私ひとりがついていけないのだった。

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