14やっと帰還しましたが〜5
…重い。マブタが。
起きなきゃ。
いまいったい何時なんだ?
「ん…」
見覚えのある天井。
クローゼット。
勉強机。
…また自分の部屋だよ。
なんかすんごいエロい夢をみていた…と思いたいけど残念ながら。自分を欺くにはすごい身体の疲労感だ。
これはー、アレだね。
またヤっちゃったといいますかヤラれてしまったというか…
なんて展開だよ…
弟や同級生に告白?されても結局毎日ヤってばっかだし。
いつの間にかパジャマがわりにしてるTシャツを着せられてるし…
ここに運んだのは数真か。時間を確認するとどうやら朝の4時みたいだ。まだ外はうっすらとほのかに暗さがある。
もう朝なんだ。
つまり。昨日もろくに勉強できなかった…んだ。
期末、もう始まるのに…
どうせ推薦は無理だから別にいいんだけどね。
赤点だけは避けたいけどさ…
「ん?」
と、私はふとごみ箱に目がいった。
心持ち増えたティッシュの量、そのてっぺんにちょこんと置かれたピンク色の…
うっ、と声をあげた。
だってそれは…
「ばかっ…!」
埋める!
ティッシュの中にっ。
「はー…」
なに考えてるんだ…数真。
そう、たった今、視界から消した半透明のピンク色の…お祭りで持ち帰った水風船が6日たったらこんなですみたいな…中味が入った…
…アレですが。
数真。
あんたは…私に避妊してくれてありがとうとでもいえというのか?
一瞬でも。
ヤツの中に私に対するアツい何か…をみたのはやっぱりまぼろしだったのか?
それとも。願望があると人は見たいように見てしまう…
つまり自分に都合のよいように相手を解釈しがちなんだけど。
その典型的パターンなのだろうか?
――優しくされたい。
――誰かの特別でいたい。
信じられないと、私を信じさせてくれないと、相手を責めているんだろうか。
私は。
数真や佐々木くんに求めてるんだろうか。
―オマエには価値がある。
―オマエが欲しい。
そう認められ求められたがっているんだろうか?
――キミはいてくれるだけでいいよ。
そう望んでいるんだろうか。
甘い自分を差し置いて。
相手に本気を期待して。
絶対的肯定の繭に包まれたがっている――んだろうか。
肯定される…絶対的に。
それは蕩けるような甘美な響き。
あんたは。
和音…あんたはいったいどうしたいの?
このまま流されるのも何もしないのも、それは非主体的ながらも選択をしたことになるんだよ?
数真とエッチざんまいしてる場合じゃない。
今年は受験だってあるんだ。勉強もやらないと。
そう、佐々木くんは?
告白されたんだよね?
佐々木くん…何を考えているのかわからない、けど優しい人。暖かな春の空気みたいな人。
だからもっと本当の佐々木くんを知りたい興味はあるけれど…
数真は許さないだろう。
私は肺の奥底から息を吐く。
なぜか切ない。
息苦しい。
弟に弄ばれて嫌悪感どころか、数真を受け入れてしまった私のカラダ。
まだ私の心はアイツを弟以上に認めていないから大丈夫。
数真。
その名前はもはや呪縛みたいな響きを持つ。
優れた私の弟、私のすべてを奪った恐ろしい…でも憎めない、その腕に捕らえられると私はなにも考えられなくなる。
からっぽになってしまう。愛とも恐怖とも憎しみとも違う。
それは…
一言でいえば。
呪い、だ。
数真は私を捉えて離さない。
数真に抱かれると私は私でいられなくなってしまう。
おとついよりも昨日。
実際に快楽を得る時間は確実に伸びている。
まるで、赤い靴の童話みたいだ。
いちど履いたら死ぬまで踊り続けさせられる、赤い靴。靴を履いた女の子はどうなったっけ?
ああ。
私の理性よ。
もっと根性みせなければあんたのヨリシロは呪いに焼き尽くされてしまうよ?
もっとしっかりしなくては。
でもどうしっかりしたらいいんだろう。
――あ。
ふと、弾かれた私の意識が何かをひろいあげた。
何処かの家の庭で、蝉が鳴いている。
カナカナ…カナカナカナ…
朝っぱらから哀しげな響きだ。
私の焦燥にピッタリの音色で迎えてくれるひぐらしの鳴く音。
それは私に思い出させてくれるのだった。
慰めでも宣告でもない単なる事実を。
焦りも苛立ちも恐れも。
期待も熱情も安らぎも。
まだ始まったばかり。
夏は。
まだ。




