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獰猛な竜騎士と草食系悪役令嬢  作者: 待鳥園子


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029 ダンス

「……待ちなさい! やめて! 何をするの! ……私がヒロインよ! 私こそが皆に愛されるんだからー!!」


 フロレンティーナは自分の手が縛られるのを、信じられない表情で見て、動かないので最後には肩に担ぎ上げられて大広間を去って行った。


「……夜会を続けよ。これは、王命である」


 オルランドの低い声は、大広間に綺麗に通った。楽隊は音楽を奏で始め、呆気に取られていた貴族たちは散らばって踊り始めたり立食でご飯を食べ始めたりしていた。


 私たち貴族には王族の命令は、絶対なのだから。


 私はそんな姿の彼を見ても、信じられない気持ちで一杯だった。


 ウィルタリア王国の王太子は確かにオルランドというお名前だったけれど、三年前から学術都市に留学していて、まだ帰国していないと聞いていたからだ。


 王族は王位を継げば一生逃れられないため、若い頃の我が儘はある程度許されている。だから、私も今回の王太子殿下は、人嫌いで学問好きの変わり者という話を聞いて育っていた。


 ……まさか、身分を隠して王城の中に居るなんて、まったく思って居なかった。


「ブライス。驚かせてすまなかった」


「いっ……いえ!」


 私はそれ以外、何も言えなかった。オルランドが王太子殿下であるなんて、これまで思わずに接してきたし、どの部分が不敬罪に当たるのかとぐるぐる考えてしまって……。


「オルランド殿下は、王位を継ぐ前は王族で居たくないと仰って……ああして、文官の姿で居たんだよ。別にブライスを騙そうとしたわけじゃないから」


 そうなんだ。オルランド様が望んだ我が儘は、王族で居たくない……だったんだ。だから、あんな風に気ままに昼寝したりしていたんだ。


「そっ……そうなんですか。驚きましたけど、その……」


 私は大きな驚きと緊張で、何を言えば良いかわからなくなった。


「気にしなくて良い。この王国で起こったことについては、王族の責任だからね。神より与えられた聖なる力をあのような悪辣な使い方をする聖女を、野放しにしておく訳にはいくまい」


「……どうするんですか。俺も一応被害者なんで、あの女の処遇についてはお聞きしたいですね」


 ヴィルフリートは竜騎士として守ってきたウィルタリア王国に対する反逆罪を捏造されたのだから、それは色々と言いたいことがあってもおかしくない。


「神殿の儀式で聖女の能力を取り上げた上で、生まれた村に返すことになるだろうね。これまで、何不自由のない生活をしていて、あの年齢から平民になるには、相当辛いと思うよ。公爵家からの支援も終わりだ。オーキッド公爵家には、陛下より直々に罰を与えるそうだ……ヴィルフリート」


 問いかけるように名前を呼ばれ、ヴィルフリートは息を吐いた。


「落とし所としては、悪くないです。あと、あの女には二度とブライスに近付かないようにしてください……出来るでしょう?」


「ああ。それも言っておこう。僕はそろそろ後始末をしに行くよ……ブライス。夜会を楽しんでくれ」


 オルランドはそう言って、去って行った。


 あ。気が付けば、さっきまで居た竜たちの姿はなく、扉は完全に閉まっていた。


「ヴィルフリート。その……ありがとう……私一人だと、絶対にこれは、出来ないことだった」


 こらえられないくらい涙があふれて来たので、ヴィルフリートはハンカチを出して私の頬を拭ってくれた。


「時間が掛かって悪かったよ……こうした貴族たちが集まる夜会に聖竜を持ち込むとなると、色々根回しが要るんだよ。とにかく、役所関係の許可まわりが、時間が掛かった。王太子がこっちの味方でないと、難しかったなー」


 王太子であるオルランド殿下がいろいろと便宜を図ってくれたから、こんな無茶なことも出来てしまったらしい。


 もういろいろと驚き過ぎて興奮も醒めやらないけれど……私はもう、フロレンティーナに脅かされることは、二度とないんだわ。


「すっきりしたか?」


 ヴィルフリートの問いかける声は、優しかった。


 ……ううん。ヴィルフリートはいつも優しかった。厳しい言葉を掛けて来た時も、裏返せば心配してくれていたからだった。


「はい」


「もう大丈夫だ。ブライス。何も心配することはない。もうあの二人がブライスを傷つけることは絶対にない」


「……はい」


 私は涙を拭いて、にっこり微笑んだ。


 嬉しい……嬉しい。話を聞いてもらえる、自分を否定されない。ただそれだけのことなのに、こんなにも嬉しいなんて。


「それでは、せっかくだから俺と祝いのダンスでもするか。ブライス」


 ヴィルフリートは勿体ぶった仕草で手を差し出して、私はその手をすぐに取った。


「……はい!」


 ヴィルフリートは社交の場が苦手だと聞いていたけれど、ダンスの腕は名手だった。何故かというと、姉の練習相手にさせられて大変だったそう。


 おまけに、圧が強くて権力欲の強いお姉様が嫌い過ぎて女性が苦手になり、社交の場にも近付かなかったと聞いて、私は面白くて笑ってばかりだった。


 ヴィルフリートは竜に騎乗出来るとても強い竜騎士なのに、肉親である姉には決して敵わないようだ。


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