表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獰猛な竜騎士と草食系悪役令嬢  作者: 待鳥園子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/29

002 提案

「……いいえ! まさか。そんなわけはありません。すべて誤解なのです。ですが、私の話を聞いて貰えるような状況ではありませんでした」


 そうだった。私の言葉に耳を傾けてくれる人なんて、誰も居なかった。


 だから、絶望した。


 どんなに言葉を重ねても、誰もわかってくれないと、心を閉ざした。


 夜会中に、企んでもいない殺害未遂を突然告発されてフレデリックに婚約破棄された私は、こうして城から着の身着のままで路上に放り出されてて、国外追放されることになった。


 それは、罪によって与えられた罰であるかもしれないけれど、私にとっては誰の味方も居ない世界からの解放を意味していたのだ。


「要するに、君は誰かに陥れられた……と? だから、婚約破棄をされてしまったと? ああ。そうだった。すまない。先に名前を聞こうか」


 ヴィルフリートに矢継ぎ早に質問されて、そういえば名乗っていなかったと思い至った。とにかくお礼を言わねばと気が急いてしまって、すぐに事情説明に入ったからする暇がなかったのだ。


 ヴィルフリートは姿を見せないことで、とても有名なのだ。彼が私のことだって知らないのも無理はない。


 レイド公爵家の跡継ぎ嫡男だというのに、何故か社交界に出て来ないことで有名だった。


 彼はウィルタリア王国にある聖竜騎士団の一員で、公爵家の跡取りという身分なのに竜騎士として勤務していた。だから、ウィルタリア王国貴族としての日々より竜騎士として過ごす時間が多い。


 そして、ヴィルフリートは逆ハーレム内サブヒーローだし中盤を過ぎてからの登場なので、当然のことながら出番は少ない。


 作中では私が婚約破棄された後に物語は一区切りして、ヒロインであるフロレンティーナは謎めいたドS竜騎士と出会い彼は恋に落ちるのだ。


 ……そういえば、思い出すとヴィルフリートの人嫌いの理由は作中でも謎のままで、明かされることはなかった。


「私は、ブライス・ルブラン。ルブラン公爵ヘンリーの娘です。ああ……本日、国外追放の罪を受けることになったので、もう貴族ではないかもしれませんが……」


 ……そうだった。私は悪役令嬢というよりも『元』悪役令嬢で、断罪されて終わった。


 本当に良かったのだわ。これで……そうよ。苦しめられた役割から解放されて、もうどうにかしようともがくことはない。


「……いや、確たる情報を聞くまでは、それは判断しない方が良い。まだ何も聞いていないなら、どうなっているかわからんだろう。君の父君には、話は?」


「いえ。ルブラン公爵である父に会うことは、許されませんでした。オーキッド公爵令息より、これは王命だと……」


 私は父に会うことも、ルブラン公爵邸へと戻ることすら許されなかった。だから、貴族令嬢なのに着の身着のままの状態で、城の外に出されることになってしまった。


 とは言え、ルブラン公爵家から迎えの馬車が来ていない状態で、その理由はお察しなのかもしれない。


 殺害未遂の罪で国外追放、挙げ句にその場に居た婚約者から婚約破棄をされ、家の恥として、私はきっと、家族にも捨てられてしまったのだわ……。


「もう一度聞くが、どうして、オーキッド公爵令息と婚約破棄になった? 貴族が犯した殺人未遂ならば、取り調べのために長い期間が掛かるだろう。それも、親にも会えぬ国外追放など聞いたことがない」


 立ったままのヴィルフリートは、腕を組んで不機嫌そうだ。理解不能な事態を前に困惑しているのだろう。


 そうよね。誰しもそう思うはずだ。けれど、仕方ない。


 主人公(ヒロイン)は物語の中でただ唯一の『特別』なのだから。


「……私が聖なる力を持つ女性を虐めて……それに、毒薬で殺そうと画策したと……それは、許し難いことであると」


 言いにくい……けれど、これが起こったことすべてなのだ。


 ヴィルフリートは目を見開き、口に手を当てた。


「……やったのか?」


 疑わしい目線を向けられて、私は慌てて首を振った。


「していません! ……けれど、私がどんなに否定しても、聞いてもらえる状況ではありませんでした。彼女は美しい聖女で、私の婚約者も特別視して心酔していました。何を言っても言い逃れだと思われてしまい、犯人にされてしまったのです」


 彼女に恋をしているフレデリックには、操作があってもなくても、私が何を言おうが同じことだった。


 『あの清らかなフロレンティーナが、そんなことをするはずがない。おかしいのは彼女を嫌うブライスだ』


 誤解だった。すべて、誤解だったけれど、誰も私の言葉を信じてくれなかった。


 婚約者……ああ。元婚約者の、フレデリックさえも。


「おい。冤罪だとわかっていながらも、逃げるのか? どういうことだ。通常であれば濡れ衣を晴らす方向だろう。簡潔に説明しろ」


 理解し切れない状況に苛立ったのか、ヴィルフリートに鋭く睨まれて、私はふうっと息をついた。


 こうなったら、彼に話してしまおう、すべてを。


 国外へと逃れてしまえば、彼とはもう二度と会う事もない。フロレンティーナへ恋する予定の彼に『彼女の真実』を教えること。


 これは……彼女への復讐になってしまうのだろうか。


「被害者であるはずの彼女から、私は以前から多くの嫌がらせを受けていました。聖女の世話係として選ばれたフレデリックと婚約者であったことが、気に入らなかったようで……そして、ついには殺人未遂罪の濡れ衣を着せられ、私はフレデリックから婚約破棄を宣言されて、その結果、こうして国外追放になりました」


 私の話を聞いたヴィルフリートは、何か変な物でも食べたような顔をした。


「うわ……なんだよ。それ。聖女の世話係だと何だとしても、婚約者の女性を優先することは当然の話だ。あまりにも酷過ぎるだろう。何かをやり返すことは、不可能だったのか?」


「……無理です。彼女は清らかで美しくて……私の目以外には、ひとかけらの悪意も感じさせぬ天使に映るのです」


 整った顔にはけぶる長い睫毛に無邪気な微笑み、名工の手による磁器人形(ピスクドール)のように、うっすらと紅色に色づいた白い頬。


 ああ……私だけにとっては、恐怖の対象だった可憐な聖女。


「いやいや、あまりにも酷すぎる。俺が代理で、その女に復讐してやろうか?」


 ヴィルフリートは好戦的な表情を浮かべて、フロレンティーナへの復讐を私へと提案した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
::::::୨୧::::::::::୨୧:::::::::::新発売作品リンク::::::::::୨୧::::::::::୨୧::::::

【10/4発売】
i945962
溺愛策士な護衛騎士は純粋培養令嬢に意地悪したい。
ストーリアダッシュ連載版 第4話


【12/26に6話シーモア先行発売】
i945962
【シーモア先行配信ページです】
素直になれない雪乙女は眠れる竜騎士に甘くとかされる


【8/22発売】
i945962
婚約者が病弱な妹に恋をしたので、家を出ます。
私は護衛騎士と幸せになってもいいですよね


【6/5発売】
i945962
素直になれない雪乙女は眠れる竜騎士に甘くとかされる
(BKブックスf)
★シーモアのみ電子書籍先行配信作品ページ
※コミックシーモア様にて9/12よりコミカライズ連載先行開始。

:::୨୧::::::::::୨୧:::::::::::コミカライズWeb連載中::::::::::୨୧::::::::::୨୧::::

竹コミ!『溺愛策士な護衛騎士は純粋培養令嬢に意地悪したい。』

MAGCOMI『ひとりぼっちの花娘は檻の中の竜騎士に恋願う』

:::୨୧::::::::::୨୧:::::::::::作品ご購入リンク::::::::::୨୧::::::::::୨୧::::

【電子書籍】婚約者が病弱な妹に恋をしたので、家を出ます。
私は護衛騎士と幸せになってもいいですよね


【紙書籍】「素直になれない雪乙女は眠れる竜騎士に甘くとかされる

【紙書籍】「ひとりぼっちの花娘は檻の中の竜騎士に恋願う3巻

【紙書籍】「ひとりぼっちの花娘は檻の中の竜騎士に恋願う2巻

【紙書籍】「ひとりぼっちの花娘は檻の中の竜騎士に恋願う

【コミック】ひとりぼっちの花娘は檻の中の竜騎士に恋願う THE COMIC

【紙書籍】「急募:俺と結婚してください!」の
看板を掲げる勇者様と結婚したら、
溺愛されることになりました


【電子書籍】私が婚約破棄してあげた王子様は、未だに傷心中のようです。
~貴方にはもうすぐ運命の人が現れるので、悪役令嬢の私に執着しないでください!~


【短編コミカライズ】今夜中に婚約破棄してもらわナイト

【短編コミカライズ】婚約破棄、したいです!
〜大好きな王子様の幸せのために、見事フラれてみせましょう〜


【短編コミカライズ】断罪不可避の悪役令嬢、純愛騎士の腕の中に墜つ。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ