表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獰猛な竜騎士と草食系悪役令嬢  作者: 待鳥園子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/27

015 理解

 フロレンティーナはその場を去ってから、数分立ったままだった私は、なんとなく真っ直ぐ自室には帰りたくなくて、近くにあった建物の屋上へと上がることにした。


 屋上は城の皆に開放されていて、景色を楽しみながらお昼を食べる人も多いと聞いていたからだ。


「わ……すごい」


 まるで絵画のように美しい夕焼けが広がる空を見て、思わずそう言ってしまった。


 ヴィルフリートが所属する聖竜騎士団も、この時間に騎乗訓練をしているらしく、遠くには光を弾ききらめく銀色の光が見えた。


 目に入るすべてが……綺麗だった。それなのに、今の私はその光景を見て、素直に感動することが出来ない。


 ついさっきに会った人を思えば、楽観的に考えることなんて、無理そうだった。


 自分の今の状況を、思い出してしまった。


 フロレンティーナから逃れることが出来たと思って居たのも束の間、彼女は役目を終えたはずの悪役令嬢である私のことを、どうにかしてやろうと思って居る。


 今思うと、記憶を取り戻した当初から、聖女フロレンティーナに転生した『彼女』には、負けていた気がする。


 自分の世話係であるフレデリックもすぐに愛されて手玉に取っていたし、そんな彼女を前に私はすべてが後手にまわり、気が付いた時には針のむしろに座っていた。


 今でも、たまに思ったりする。


 私は何をどうすれば、良かったんだろう……フロレンティーナを差し置いて、フレデリックに好かれることは、きっと難しかったと思う。


 それに、数々の嫌がらせをされてきたけれど、私は彼女に嫌がらせを仕返したいとは、どうしても思えなかった。


 ……そうよ。そこで私が強くあれたなら……今が変わっていたのかもしれない。


 そんな情けない私を下に見たフロレンティーナは、狩るべき獲物として認識していたはずだから。


 ……私自身にだって、こうなった原因はあると思う。


 お父様とお母様が、娘がこうなった時に必死に助けてくれようとしているなら、私だってもっと彼らを説得しようとすればそれは出来たことなのかもしれない。


 それに、フロレンティーナがここに現れたということは、自分を好きになるはずのヴィルフリートにこれ以上関わるのなら容赦しないと、そう言いたいということだろう。


 ヴィルフリートは正義感が強いから、私をどうにかして守ろうとしてくれるはずだ。


 いえ……駄目だわ。ヴィルフリートは優しいけれど、このままでは、私はあの人から逃げられない。


 だから、ウィルタリア王国を、一刻も早く出た方が良いと思った。


 そうすれば、フロレンティーナは彼女の進めたい物語から無関係の人物として私を扱い、ただ助けてくれようとしただけのヴィルフリートには何もしないだろう。


 そうよ。私さえ居なければフレデリックと同じように、ヴィルフリートに愛されるように振る舞うはずだ。


 一度、部屋に戻って、これまでに稼ぐことの出来た給金を数えてみよう。


 王城で働こう! と思った時に、庭師見習いを選んで良かったのが、その辺に生えた薬草でも採取したり増やしたりして、お金に換えられそうな有益な知識を得られたことだった。


 隣国まで行って落ち着けそうな場所で、ゆっくりとお金を増やそう。


 今は婚約破棄されたばかりの貴族令嬢でもない……ここ三ヶ月ほどで、一人で生きていけそうな知識も得ることが出来た。


 私は夕焼けを見ながら決意し、スカートをはたきながら、立ち上がろうと思った。


 ……ら、背中を誰かに強く押されて、気が付いたら浮遊していた。


 え!


「っ……!!!」


「……っ、ブライス!!」


 落下していく速度がゆっくりと思えた中、私の名前を呼ぶ声が聞こえて、腰には太い腕ががっちりと巻き付いていた。


「ヴィルフリート……」


 もう死んだと咄嗟に思った私は、助けてくれた彼の名前を呆然として呼んだ。ヴィルフリートの乗っている銀竜は地上スレスレにまで降下して、彼は私の身体をどうにか受け止めてくれたらしい。


「まじか……あの女、本当に最低だな」


 高度を上げて体勢を安定させると、ヴィルフリートは私がついさっきまで居たはずの屋上を睨み付けていた。


「……ヴィルフリート。私の背中を押した人……見たの?」


「ああ。見た。金髪の聖女だろう。今日もブライスに禁じられた接近したと聞いて、陛下に報告しに行くつもりだった。あの女。かなり良い気になっている。どうにかしてやりたい」


 私が恐る恐る尋ねると、ヴィルフリートは怒りの表情で頷いた。


「嘘……ヴィルフリートは、私ではなくて、フロレンティーナの方が悪いって思う?」


「は? ……何言ってんだ。あの高さから落とされたら、普通死ぬんだぞ! どっちが悪いかなんて、一目瞭然だろ。立派な殺人未遂だ。あいつだって、国外追放の罪だな」


 ヴィルフリートは低い声で唸るように言い、私はなんだか嬉しくて涙がこみ上げて来た。


「私の言葉を……信じてくれるの……?」


「……自分の目に見えたものを信じないのは、なかなかに難しいな」


「っ……っ……私っ……っ……私」


「まっ……待て待て。大丈夫だ。ブライス。もう助かった。命は助かったんだ。悪かった。怖かったのに、怖がらせるような事を言ってすまなかった」


 ヴィルフリートは泣いてしまった私の背中を撫でて戸惑っていたけれど、私が何故泣いているかは……彼には理解して貰えないと思う。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
::::::୨୧::::::::::୨୧:::::::::::新発売作品リンク::::::::::୨୧::::::::::୨୧::::::

【10/4発売】
i945962
溺愛策士な護衛騎士は純粋培養令嬢に意地悪したい。
ストーリアダッシュ連載版 第4話


【12/26に6話シーモア先行発売】
i945962
【シーモア先行配信ページです】
素直になれない雪乙女は眠れる竜騎士に甘くとかされる


【8/22発売】
i945962
婚約者が病弱な妹に恋をしたので、家を出ます。
私は護衛騎士と幸せになってもいいですよね


【6/5発売】
i945962
素直になれない雪乙女は眠れる竜騎士に甘くとかされる
(BKブックスf)
★シーモアのみ電子書籍先行配信作品ページ
※コミックシーモア様にて9/12よりコミカライズ連載先行開始。

:::୨୧::::::::::୨୧:::::::::::コミカライズWeb連載中::::::::::୨୧::::::::::୨୧::::

竹コミ!『溺愛策士な護衛騎士は純粋培養令嬢に意地悪したい。』

MAGCOMI『ひとりぼっちの花娘は檻の中の竜騎士に恋願う』

:::୨୧::::::::::୨୧:::::::::::作品ご購入リンク::::::::::୨୧::::::::::୨୧::::

【電子書籍】婚約者が病弱な妹に恋をしたので、家を出ます。
私は護衛騎士と幸せになってもいいですよね


【紙書籍】「素直になれない雪乙女は眠れる竜騎士に甘くとかされる

【紙書籍】「ひとりぼっちの花娘は檻の中の竜騎士に恋願う3巻

【紙書籍】「ひとりぼっちの花娘は檻の中の竜騎士に恋願う2巻

【紙書籍】「ひとりぼっちの花娘は檻の中の竜騎士に恋願う

【コミック】ひとりぼっちの花娘は檻の中の竜騎士に恋願う THE COMIC

【紙書籍】「急募:俺と結婚してください!」の
看板を掲げる勇者様と結婚したら、
溺愛されることになりました


【電子書籍】私が婚約破棄してあげた王子様は、未だに傷心中のようです。
~貴方にはもうすぐ運命の人が現れるので、悪役令嬢の私に執着しないでください!~


【短編コミカライズ】今夜中に婚約破棄してもらわナイト

【短編コミカライズ】婚約破棄、したいです!
〜大好きな王子様の幸せのために、見事フラれてみせましょう〜


【短編コミカライズ】断罪不可避の悪役令嬢、純愛騎士の腕の中に墜つ。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ