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獰猛な竜騎士と草食系悪役令嬢  作者: 待鳥園子


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13/28

013 説明

「ブライス。おはよう」


「……ヴィルフリート! おはようございます」


 食堂で朝食を取っている時に、ヴィルフリートが前の席に座ったので私は驚いた。これまで彼は食堂で私を見掛けても、挨拶する程度で一緒に食事をすることはなかったからだ。


「昨日のあれからの話は、ブライスは何も知らず驚いただろう。伝えるのは、まだ先にするつもりだったんだが……知ってしまったからには、軽く説明しておくことにした」


「あ。フレデリックのこと……ですよね?」


 昨日あった大きな出来事……私の元婚約者、フレデリック・オーキッドと偶然会ってしまったこと。


「そうだ」


 ヴィルフリートは私の質問に頷き、トレイの中にあったサンドイッチを大きな口で食べた。


「……フレデリックは私が、ここで庭師見習いをしていることを知っていました……ね?」


 そして、彼はそれはヴィルフリートが王太子に進言し、陛下もそれを許したと言っていた。だから、国外追放を言い渡された私もヴィルフリートが後見人となり、保護することが許されたと……。


「まず、先に言っておくが、ブライスの両親ルブラン公爵夫妻は、ブライスが聖女を殺害未遂したことについて強い抗議と異議を申し立てていて、陛下もそれに応じ、詳細な再調査が入ることになっていた。だが、オーキッド公爵が自分の権限を使い、それよりも先に罪状がブライスの元へ届くようにした……」


「え! お父様とお母様が……?」


 私は両親の様子を聞いて、驚いてしまった。


 日頃からあまり関心を持たれていないと思っていたし、フロレンティーナについて何を言っても聞いては貰えなかったからだ。


「……おそらくは、婚約者に近付く恋のライバルに、過剰反応しているとでも思って居たんだろう。実際に若い女の子であれば、ありがちなことだ……だが、一人娘を虚仮にされて国外追放までされると聞かされたルブラン公爵の怒りは凄まじく、国王陛下も動かしたんだ。でなければ、俺が保護をすると申し出たとは言え、国外追放を言い渡されたら、流石に王城には留まれまい」


「まあ……お父様」


 思いもしなかった事実に、私は言葉をなくして、口を手で押さえた。


 だって、これまでに愛されていないと思っていた。私がどれだけ苦しんでいても、何もしてくれなかったのに。


 けれど、ヴィルフリートの言った通りであれば、私はまだルブラン公爵令嬢ブライス。お父様とお母様の娘のままなのだわ。


「何故、これを今までブライスに伝えていなかったかと言うと、ブライスが殺人未遂を犯したという現場にはおかしな点が多かったからだ。毒を盛られたというが、そのグラスは不自然に粉々だ。だが、毒を盛っているところを見た給仕は目撃したと言うし、周囲に居たという貴族たちはブライスが犯人だと口を揃える……おかしいだろう。あまりに出来過ぎている」


 ヴィルフリートの青い瞳には、強い意志が宿る。彼は不思議な力を持つフロレンティーナにも、決して操作されたりしない人。


「ヴィルフリート……」


 ああ。嘘でしょう。まさか、彼がわかってくれるなんて、全く思ってもみなかった。


「……あと、調査中はブライスには、当事者同士の接近禁止の命令が下っているはずだ。だから、オーキッドは遠目に見ようと思い、本人と鉢合わせしたんだろうな……俺はこれも仕事なので、奴のやらかしをちゃんと報告した」


「え! そうなんですか」


 私が驚いてそう言えば、ヴィルフリートは眉を寄せて嫌そうな顔をして頷いた。


「当然だろ。あれは、相当嫌な奴だ。両親にも叱られて酷い目に遭えば良い」


「まあ……ふふふ」


 ヴィルフリートは私に合わせた訳でもなく、どうやら本当にフレデリックが嫌いなようだ。


「……それで、まあ……今こういう報告になった訳だ。何か疑問があれば、受け付ける」


 ヴィルフリートはそう言い、目の前にある食事を続けることにしたようなので、私は何が聞きたいか心の中で整理していた。


 びっくりした。


 けれど、確かに王城の中で国外追放の罰を受けた人が居たら、バレない方がおかしいかもしれない。私が偽名を使うことなく、ここに居られたのもヴィルフリートや聖竜騎士団の皆さんが配慮してくれていたからだったんだ。


 ……少なくともヴィルフリートは、聖女フロレンティーナの味方ではない。あの天使のような容姿と微笑みには、間違いなく騙されなさそうだった。


「……どうして。もっと早くに、教えてくれなかったんですか?」


 それについては、なんだか不思議だった。


「ここに来てすぐのブライスは、俺の言うことなんて、信じなさそうだった。だから、敢えて時間を置いた。それに、庭師見習いの仕事で自信が付けば、ある程度落ち着くと思っていた。別に隠して居た訳ではないけど……ブライスは、今なら話も聞いてくれる」


「あ……」


 そういえば、そうだった。私はフロレンティーナから、延々嫌がらせを受け続けて、完全に人間不信になっていた。


 けれど、ここで庭師見習いとして認められて、だいぶ自分が戻って来たような気がする。


「……まあ、再調査は時間が掛かるだろう。ブライスへの罪状の速さも異例だった。何か変なことになっていそうだと……俺も思う」


 ヴィルフリートはそう言って立ち上がり、他の竜騎士と共に去って行った。


 変なことになっていると、私もそう思う……フロレンティーナは、そこもきっと操作したのだろう。


「じゃあな」


 ヴィルフリートは手を挙げて立ち上がり、先に食堂を出る途中に周囲の竜騎士たちから小突かれて揶揄われているようだ。


 ……そっか。おそらく私は彼らから複雑な事情を持つ『ヴィルフリートの恋人』みたいに思われていたのかもしれない。


 言葉はきつくて荒いけど、ヴィルフリートは私の言葉を理解してくれる。フレデリックのように私を頭ごなしに否定したりしない。


 けど……別に恋なんてしたくない。


 ヴィルフリートは、ただ、私に同情してくれただけってわかっているから。


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