閑話・少し前の出来事
きっかけがなにかと言えば偶然の遭遇だ。エリーゼさんにお勧めのコーヒー豆を教えてもらい、せっかくだからオズマさんにもお勧めのコーヒー豆を聞きに行った。
それ自体は特になにも問題なくコーヒー豆やおすすめの店などを教えてもらって、帰りに寄って行こうかと思っていた際に……本当に偶然コングさんと遭遇した。
「……ほぅ、そいつはいいな」
「俺としてはかなり使い心地がいいですし、気に入ってますね」
そして他愛のない雑談をしていたのだが、その雑談の中で専用ブラシの話題が出て……意外と言ったら失礼かもしれないが、思いのほかコングさんが話に食い付いていろいろ聞いてきた。
確かにコングさんも体毛がある獣人型魔族なわけだし、そういう意味では専用ブラシは適しているのかもしれないが……あんまり、美容とかを気にする方には思えないのだが……意外と拘りがあったりするんだろうか?
「それは、俺も買うことはできるんだよな?」
「大丈夫だと思いますよ。竜種用のブラシとかもあるので、コングさんの体格でも適したブラシはあると思いますけど……やっぱり、コングさんも毛艶とかに拘りがあるんですか?」
「……う~ん。俺個人としては別にどうでもいいんだが、ほら俺も戦王五将だからよ……親分とかに同行して、かたっ苦しい場に出ることもあるんだよな。そういう場だと、オズマの兄貴とかもビシっとした格好をしてるし、俺もそういう時にしっかりした格好ができるように、日頃から気を付けとけって親分とか兄貴には言われてるんだよな」
「あ~なるほど、来賓として参加するなら確かにある程度しっかりした格好が必要ですよね」
どうもコングさん自身はイメージ通り美容とかは別にどうでもいいみたいだが、立場的に気にしておかなくちゃいけない部分もあるようだった。
「んで、魔力浸透率もしっかり調整しとけとか親分に言われてるんだが……俺、どうもああいう細かい魔力操作は苦手でなぁ。いまだに結構苦労してんだよ。でも、そのブラシがあれば、調整しやすくなるんだろ?」
「フレアさんの話だと、そういうことみたいですよ」
「そりゃいいな。あの面倒な時間を短縮できるんなら大歓迎だぜ! で、どこに行きゃ買えるんだ?」
「買うならヴィクター商会ですけど、いちど事前に確認したほうがいいかもしれません。コングさんがいきなり来訪したら驚くでしょうし……」
「あ~そうか……んじゃ、バッカスにでも頼んで手紙でも出してもらうことにするぜ。カイトから聞いたって言えばいいんだよな?」
「ええ……あっ、どうせならシャロン伯爵家のコーネリアさんに手紙を送ったほうが話がスムーズかもしれないです」
ヴィクター商会でも商会長や魔物学者の人は俺が専用ブラシと買ったって知ってるだろうけど、商会に届いた手紙を読む方が、俺の紹介といって話が通じるかどうかは微妙なので、一度コーネリアさんを経由してからの方がいいだろうと思って伝えると、コングさんは了承の言葉と共に豪快にサムズアップをした。
コングさんとそういうやりとりをした翌日、俺はまた別の場所で専用ブラシについての話をしていた。相手はグラトニーさんであり、顔合わせ以降数ヶ月に一回程度ではあるが、時折お茶に誘われており今回もそれでグラトニーさんの住む亜空間に来ていた。
まぁ、例によって絶妙に美味しくない茶とお菓子ではあるが、グラトニーさんは俺が来て嬉しそうなので、多少の味の悪さぐらいは問題ない。
なんだかんだで、ハーモニックシンフォニーの時とか船上パーティの時とか、たびたびグラトニーさんにはお世話になっているので、このぐらいであればいつでも付き合うつもりである。まぁ、俺の都合とかに配慮しているのか、たまに誘われるぐらいなので……週5ぐらい来るマキナさんよりは全然マトモである。
『なるほど、ミヤマカイト様が愛用しているブラシとなれば、是非私も手にしたいところですね』
「次元獣用ですかね?」
『ええ、次元獣は生態的に魔物に近いものが多く毛や角があるものも居ますからね』
現在は他に誰もいないので、ぬいぐるみ姿のグラトニーさんがそのまま喋っていて、専用ブラシに興味を示しているようだった。
確かにグラトニーさんの次元獣は一種のペット……まぁ、正しくは配下とか眷属なんだろうけど、それ用に専用ブラシというのはありかもしれない。
ちなみに最初の顔合わせの時は邪魔にならないように別の場所に待機させていたみたいだが、普段はこの亜空間に次元獣は沢山いるので、俺も何度も目にしている。
なんというか、次元獣は見た目はクトゥルフ系とでもいうべきか、なかなか凄い見た目や造形をしているのが多く……それこそ、ナターシャさんだけ普通の少女の見た目なのは、一種の突然変異ではと思う程度にはなかなか見た目が凄い。
数万匹居るらしい次元獣があちこちを飛び回るこの亜空間の光景は、一種のホラーのようであり陽菜ちゃんとかは悲鳴を上げて逃げそうな気がする。
そんなことを考えつつ、俺は座っていた席の近くに寄ってきた……なんか強酸で顔の半分が溶けてるみたいな見た目の犬? っぽい次元獣の頭を軽く撫でる。なんかスライムみたいにぶよぶよした感覚だが、この犬っぽい子にも毛はある。
撫でられて嬉しいのか、ぶよぶよの顔を擦り付けてくる仕草は普通に犬っぽくて可愛らしさもある。顔はほぼホラーだが、慣れてしまえば別に大して気にならない。
「興味があるようなら、一度話を聞いてみるのもいいかもしれませんね」
『そうですね。一度シャロン伯爵家に話を通してみようと思います。貴重な情報を教えていただき、心よりの感謝を……ところで、いかがでしょうか? そちらの次元獣は、戦闘力よりも愛玩的な要素を重視して作ったのですが……』
「……手触りがいいですね。あと仕草も可愛いです」
見た目には触れない。目玉半分ぐらい飛び出してるし……これ、顔が溶けて飛び出してるとかじゃなくて、この形で正常なのか……うん。まぁ、仕草は可愛い……仕草は……。
【見るだけで精神にダメージを与えるクトゥルフ的次元獣が現れた】
【クトゥルフ的次元獣はSAN値チェックを仕掛けた】
【快人のSAN値はピクリとも変動しなかった】
【快人は特に気にした様子もなく、クトゥルフ的次元獣の頭を撫でている】
【クトゥルフ的次元獣のSAN値が下がった】
【クトゥルフ的次元獣は快人に懐いて媚びを売り始めた】
【快人は呑気に仕草は可愛いなと考えている】




