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孤島オンライン  作者: 西谷夏樹
アイランド・ウォー
78/102

パトロール 前編


「おかえりー!」

「ただいま――って、ケツァールテイルが凄いことになってないか!?」


 拠点に戻ると、かなこ♪は背部がカスタムされたケツァールテイルに乗って俺を待っていた。


 ケツァールテイル用の鞍は巨大で、一辺三メートルほどの四角い建築可能スペースが設けられている。俺がログインしていない間にそのスペースに建築をやってみた結果なのだろうけど、ケツァールテイルの背中には2x2の石拠点やマシンタレットが亀の甲羅のようにくっ付いていた。


「マルボロさんがやってくれたんですよね~?」

「ええ、まだ試行錯誤している段階ですが」


 かなこ♪の声にマルボロが頷いた。


 マルボロがやってくれたのか。でも、こんな重そうな石拠点や兵装を背負って普通に飛べるものなのか……?


「重みで墜落とかしないですよね?」

「ふふ、大丈夫です。重量は圧迫されてますけど普通に飛べますよ」

「マジですか……ケツァールテイルってかなりタフだな」


 ケツァールテイルは穏やかな表情のままじっとしている。


 空で追いかけっこをしていたときは巨大な翼ばかりに目が行っていたけれど、こうしてまじまじと近くで見てみるとけっこう可愛い顔をしている。


 見た目は色鮮やかなトサカが印象的だけど、首が長くて前足を持った四足獣であるせいか、鳥というよりはドラゴンとかワイバーンみたいなファンタジー生物の仲間のように思える。


「うーん、ケツァールテイルって生物学的にはどういう扱いなんですかね?」

「厳密にどれとは言えませんけど、元ネタとして一番近いのはグリフォンじゃないですか?四足歩行で身体が羽毛に包まれているって共通点がありますから」

「ああ、たしかにグリフォンは近いっすね」


 ドラゴン系は鱗のイメージが強い。首が長いところはともかくとして、グリフォンの仲間というのは的を射ていると思った。


 俺がケツァールテイルの身体をペタペタ触っていると、拠点からフューネスが出てきた。


「準備出来たよ」

「おっ、ちょうど来たね!リオンとフューネスが揃ったしパトロール行こう!」


 かなこ♪は待ってましたと言わんばかりにケツァールテイルの手綱を振った。


 ああ、そういえば時間があるときにパトロールをするって約束をしたんだっけ。さきほどのマルボロとの実験でいろいろ知識を頭に入れ過ぎて忘れていた。


「マルボロさんも行きます?」

「私はタバコ休憩に行くので皆さんでどうぞ」

「了解です。いろいろ見せてもらってありがとうございました」

「いえいえ」


 マルボロは軽く手を振って拠点に歩いて行った。


 かなこ♪はケツァールテイルの上に俺たちを引き上げるために縄ハシゴを下ろした。


「ほら!乗って乗って!」

「おいおい、そんな急がなくても」

「二人には訊きたいことが山ほどあるからね~」

「わかってるって」


 ニヤついているかなこ♪の表情に辟易としつつも、ハシゴを登りきる。


 全員が乗り込むのを待って、かなこ♪はケツァールテイルを空へと飛翔させた。



 ■



「二人が幼馴染と知ったときはほんと驚いたよね~。それって運命の再会ってやつ?」

「そんなんじゃないって……」


 かなこ♪の言葉にフューネスは何度したかわからない溜息と共に首を振る。そして、肩に乗せたショルダードラゴンを撫でながら言った。


「わかる?カナがこの間からずっとこんな調子で困ってるのよ」

「よーくわかりました」


 苦笑しつつ、下界の景色に目を向ける。


 マウンテンコンドルに掴まれてケツァールテイルを追い回したときも空からの景色は見たけれど、ケツァールテイルの上からだとだいぶ落ち着いて島の様子を見ることができた。


 パトロールはロンの拠点を見つけ出すためだけれど、三人であちこち見ていれば彼らの拠点が見つかるのも時間の問題だろうな。


「つーか、俺とフューネスのことばっかじゃなくて、カナのことも聞かせてくれよ。カナはフューネスと中学が一緒だったんだろ?」

「あー、その話しちゃう?」


 かなこ♪はもったいぶった言い回しで身体をもじもじさせた。フューネスはその様子が癪に障ったのか、さっきまでの仕返しとばかりに脇をくすぐった。


「わっ!?ちょっと運転中なんですけど!?」

「落ちてもリスポーンすれば済む話でしょ」

「そうだけどさ~!」


 飛び始めてから知ったことだけど、ケツァールテイルの背中に建てられた石拠点の中には発電機とベッドが設置されている。


 そのためもしもケツァールテイルの上で足を滑らせても、ベッドで即リスポーンが可能となっているらしい。


 慌てるかなこ♪にちょっかいを出し続けながら、フューネスは俺のほうを向いて言った。


「カナは中学からずっとアイドルをやってるから、芸能人が集まるような高校に進学したのよ」

「え、アイドル?」


 突然の暴露に思わず聞き返す。


 フューネスは普段と同じ調子で「そうそう」と言って肯定した。


「おーい!勝手にバラさないでよ!」

「別に隠すようなことでもないでしょ?」

「そうは言ってもよ!あ、ちなみに別にそんなに売れてるわけじゃないから」

「あぁ、なんだそんなに売れてないのか」

「う、落胆されるとちょっと傷つくなぁ……」

「いや、落胆はしてないって。なんかカナがアイドルってのは逆に腑に落ちて納得してしまったというかさ。ほら、ファーストコンタクトから常人とは違う感じだったろ?」


 かなこ♪は初対面のときにいきなりポージングを決めながら自己紹介をしてきたりと、なかなかアピール性が高いキャラをしていた。あれが職業アイドル故のものと言われれば、驚くよりもそういうことかと落ち着いて頷けてしまう。


 かなこ♪はやれやれと肩を竦めながら言った。


「まあアイドルにとって第一印象をよく見せるのは大事だからね……練習もするし」

「いや、第一印象が良かったと言われるとそうでもなかったような……だって俺の第一印象は『地雷か?』だったしな」


 かなこ♪と初めて会ったときはマズいメンバーを入れることになったと思ったっけな。実際は真面目にギルド活動に参加してくれたし、フューネスと連携して手助けしてくれたりとありがたい存在になってくれたけど。


 俺の言いように憤慨した様子でかなこ♪はこちらを振り向いた。


「それはヒドすぎない!?」

「だってオンラインゲームでもあんな登場の仕方する人っていないしな……」

「私も何も言わなかったけど、カナのはやりすぎだと思ったよ」

「そう思ったならそんときに言って欲しかった!」

「ごめん」


 フューネスはまったく悪びれた様子もなく謝り、さらに続けて言った。


「でもカナと私ってそういう周りが見えてなかったりするところが似た者同士なのか、中学のときは妙にウマが合ったよね」

「うーん……それあたしたちが変人仲間ってこと?」

「違うの?」


 かなこ♪はいまいち同意しかねているのか首を捻っている。


 アクションや言動は突飛だったりすることも多いけれど、かなこ♪は割と内面は常識人なのかもしれないな。


 それからかなこ♪は「はぁ……」と溜息を吐いて、手綱を操作してケツァールテイルの高度を落としていった。


「とりあえずロンの拠点探ししよっか……」

「え、俺はカナの仕事のこととか興味あるんだけど」

「守秘義務があるんですぅ~。それに別に大して面白い話はないから」

「社会の闇みたいな話ばかりだもんね」

「そうそう」

「あの、普通にそういうの聞いてみたいんだけど……」


 この話題でもう少し粘ろうとしてみたが、二人にとっては本当にどうでもいい話だったのか適当に流されてしまった。


 社会の闇とか面白そうなのに……。


 俺の好奇心は置いてけぼりにされたまま、二人はロンの拠点探しに意識を向けていた。


「海岸沿いとかいるんじゃないかな~?」

「どうだろう。内陸の森の中とかじゃないの?」


 気になる話題がスルーされたのは残念すぎるけれど、ロンの拠点を探してあちこち指差している二人は楽しそうだった。まあ、リアルはリアル。ゲームはゲームということなのかもしれない。


 俺たちはそれぞれがリアルと地続きの人間関係を築いているけれど、ゲーム内にまでそこでの立場や関係性を引きずったり、詮索するのは良くないことなのだろう。


 俺はかなこ♪の芸能生活について追求するのは諦めて、島の端っこのほうを指差した。


「あっちにある離れ小島みたいなとこ行ってみないか?なにかあるかも」

「りょーかーい!」


 ケツァールテイルは進路を変えて小島に向かって行った。



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