タレットタワー
ランプシール狩りは夜まで続き、おかげでギルドメンバーはランプシール狩りに限れば全員がプロ並の動きができるようになった。
レベルも†刹那†が53に到達し、当初の目標だったケツァールテイルの鞍を作るための45レベルはクリアすることが出来た。
攻略の進みはかなり実感できているけど、さすがに狩りはもうお腹いっぱいかもしれない。何時間レベル上げしてたんだろう?4時間?5時間か?
合間で休憩を挟んだり、トド島の探索をしてみたりもした。島にも初期島同様に水晶の生成されている洞窟があるようで、奥にはやはりモンスターがたくさん湧いていた。
実際に洞窟内を見るのは初めてだったけど、中は松明で明かりを灯していないと何も見えないくらいに真っ暗でちょっとホラゲー感がある。ファンタジー系のMMOだと洞窟内が異空間になっていて、空や海まであったりなんでもアリな景色を楽しめるのだけど、やはりコスニアはどこまで行ってもリアル寄りのスタンスを崩さないらしい。
洞窟の探索はいずれは手を付けないとな。優先度は低いけれど、おそらく何かしら有用なアイテムが手に入ったりするのだろうと思う。いかにリアル寄りのゲームでも、洞窟なんて意味ありげな場所に何もないわけがない。
そんなこんなで、長かった狩りを終えて島に戻ってきた後、俺は今日の残り時間は各自自由行動にしようと言ってみんなを解散させた。ケツァールテイルのテイムもやろうと思えば出来ないこともなかったのだけど、疲れている状態で長丁場になるかもしれないテイムを敢行するのはハードすぎると判断したのだ。
そして、ログアウトまでの暇な時間を俺がどう過ごすのかと言うと、最近ゲームばかりやっていて積んでしまっていたアニメを消化することにした。
拠点前のベンチに座って、ゲーム内のシステム画面ではなく、ヘッドギアのほうのシステム画面を呼び出す。そこから契約している動画配信サイトにアクセスすると、視界には動画ページが開かれるという仕組みだ。
VRヘッドギアはこんな風にけっこう多機能だ。ゲーム機であると同時に動画再生機器であるというのは、家庭用ゲーム機の歴史の潮流にVRヘッドギアもしっかりと組み込まれている証なのかもしれない。
動画を映画館並の大画面に拡大表示してしばらく鑑賞を楽しんでいると、視界の隅に何やら作業をしているマルボロの姿が映った。
「ん、マルボロさん何やってるんですか?」
動画を一時停止して声を掛けると、マルボロは片手を挙げて応えた。
「ニードルタレットの設置作業ですよ。時間が出来たので、拠点の防衛力を強化しようと思いまして」
「あ、手伝います?」
「気にせずゆっくりしていてください。ニードルタレットの設置も建築担当としての仕事の一部ですし、こういうのは自分で好きにレイアウトを決めれるのが楽しいんです」
「はは、了解です」
そう言われてしまっては手は出せない。にしても、いつの間にか拠点の外周一帯に凄い数のプランターが設置されていた。あのプランターにニードルタレットを植えるということだろうけど、ざっと見ただけで五十基以上はある。
プランターは木材を正方形に組んだ物で、大きさは建築土台と同じ一辺一メートルほどで、厚さは二十センチもない程度。
ニードルタレットの種は二度と集めなくて済むよう大量に採取したつもりだけど、この調子で二百、三百とプランターが増えたら足りなくなりそうだ。
「リオンさんは動画鑑賞ですか?」
「はい。最近流行ってるアニメがあるらしいんでそれ見ようかなって」
「なるほど。私は最近はゲームの時間を確保するのに精一杯で、アニメも映画もあんまり見れてないんですよねぇ」
「同感です。コスニア始めてからは特に忙しいですもんね」
高校生の俺がこうなんだから、社会人だとなおさら時間のやりくりが大変だよなぁ。マルボロにしても工場長たちにしても、ゲームに懸ける熱意は並々ならないものがあると思う。
マルボロは「本当にそうですよ」と苦笑しつつ、設置済みのプランターのほうを見て言った。
「ニードルタレットはあの配置で機能すると思います?」
「どうですかね?高低差があるところはちょっと隠れちゃってる気もしますけど」
地面にプランターを直置きしている上に、拠点の近辺は傾斜がある。斜面から深く地面にえぐり込んでいる場所もちらほらあり、そこはニードルタレットの斜線には入っていないように見えた。
「ちょっと問題がありますよね。なので、状況を改善するためにいくらか資材を使ってもいいですか?傾斜の影をカバーするためにプランター用の塔を建築したいんです」
「塔……ですか?」
「はい。名付けてタレットタワーと言ったところでしょうか。高所からの撃ち下ろしなら射程範囲も広がりますし、防衛能力も向上すると思います」
タレットタワーか、また資材を食いそうな名前の建物だな……。でもまあ、拠点の防衛能力を高めるのが大事なのはわかるし、作ってみてもいいか。
「まあ守りのためっすからね。資材は好きに使ってください」
「ありがとうございます。まあ、プランターを作るのに既に相当資材を使っているので事後報告みたいなものですが」
「えっ」
「はは、プランターも木材消費が一基あたり五十ほど掛かったので」
「……」
一基五十ってことは、五十基だと二千五百以上……!?
さらっととんでもないこと言ったなこの人。無言で千単位の資材を使ってたとかけっこう大事なのでは……。いや、建築を全権委任したのは俺なんだけど。
マルボロの浪費に内心で驚愕しつつ、作業に戻っていくその背を見送る。
「うん……まあ、資材集めは明日頑張ろう」
拠点の資材庫は空になっているだろう。しかし、溜め込み性も良くないよなと無理やり前向きに考えて、俺は動画の再生ボタンを再びタップした。




