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孤島オンライン  作者: 西谷夏樹
航海、そして空へ
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ファーム 後編


「こんにちはー、ログインしてたんすね」

「お、リオンさんこんにちはー。僕らはいまログインしたとこだよ」

「そうなんですか。で、何してるんです?」

「見たまんまさ」


 三人は鍋を囲むようにして集まっていた。かなこ♪はお玉を持って味見をしていて、二人は後ろからその様子を眺めている。料理の具合を観察してたってことかな。


 かなこ♪はこちらに振り返りグーサインを出した。


 Takaはその反応を見てmiyabiに笑いかけた。


「良い感じみたいですね」

「ええ」


 そう言う二人はどこか嬉しそうだった。


「料理に何かあるんです?」

「ああ、料理に僕と先輩が育てた野菜を使ってもらったんだよ」

「野菜ですか」


 補足するようにmiyabiは言葉を継いだ。


「厳密にはタララ草って植物ね。昨日言ったでしょ?農園を作ったって」

「ああ……イカダに乗ったとき言ってましたね。どこに作ったんです?」

「屋上」


 miyabiは人差し指で上を指して言った。


 だから見当たらなかったのか。拠点の屋上なら野良プレイヤーに荒らされることもないだろうし良いかもしれないな。


 Takaはインベントリからタララ草を取り出して見せた。


「どう?野生のやつより艶がある気がしない?」

「あるような……ないような?いやすみません食材の良し悪しとか全然わかんないっす……」


 タララ草はニラのように平らで細長い見た目をしている。リアルでも野菜売り場なんて滅多に行かないし、その違いなんてわかりようがなかった。


 俺が申し訳なさそうにしていると、Takaはさらに熱心な口調で言った。


「野生のやつよりは栄養豊富なはずだよ。肥料をしっかり用意したし、なにより温室を作ったんだよ!水晶って素材があるのは知ってるよね。あれの使い道を探してたら『ガラスの壁』と『ガラスの天井』って建材があるらしくてさ。それを使ってみたら植物の生育に適した温室が作れてね」

「へえー温室ですか。そこまでやったならたしかに作物の質も高いかも……」


 そういやニードルタレットも野生のは元気がなくて萎びていたんだよな。あれは湖の環境のせいもあるのかもしれないが、逆に考えると環境さえ良ければコスニアの植物は元気に育つってことかもしれない。


 こういうことはリアルでは当たり前のことだが、ゲームによってはそういう些細な仕様は雑に作ってあることもままある。だから、一つ一つ実際に試してみないとわからない。


 かなこ♪ははしゃぎながら自信を持った表情で言う。


「食べて食べて!味がする!味がするよ!」

「じゃ、みんなでいっせいので食べてみるか」

「いいね」

「賛成」


 木の深皿がテーブルに並び、野菜スープのような何かがよそわれていく。


 四人とも着席し、同時にスープを口にすると、たしかに舌に刺激が走った。


「マジで味がするぞ!」


 ニンニクと生姜をガンガンに効かせたコンソメスープ……あるいはなんだ?長ネギを生で噛んだみたいな辛み?


 決して美味いってわけじゃないが、VRゲームでこれまで体験した中で最も味を感じる野菜スープだ。辛みのある野菜の食感が、舌の上でたしかな存在感を放っている。


「いいね。VRの制限に挑戦するこの感じ」

「悪くない」


 Takaとmiyabiも驚きを顔に出していた。


「お褒めに預かり光栄です!今回は薬味系の植物をドカ盛りにしてみたのよね。汁物でこれだけイケるなら次は炒め物かな。うん、次は炒め物でやってみます!」

「ちなみに栄養はどうなんだ?」

「栄養はそこそこかな?タララ草は栄養価高いみたいだけど、ほかに投入したコチの実とかはアイテム説明にも栄養価が低いって書いてあったから」

「なるほど」


 各種食材アイテムをじっくり吟味して作ってるんだな。俺にはない熱意だからこそ、素直に尊敬できる。みんななんだかんだで、それぞれギルドでの役割を見つけている。


 ギルドマスターとして、俺も仕事はちゃんとしないとな。


「「ごちそうさまでした」」

「みんな感想いろいろありがとー」


 かなこ♪は満足そうに頷いて、空になった鍋をインベントリに片付けた。中々満足度の高い食事だった。ついでに健康系のステータスも回復できて一石二鳥だな。


 食事が終わったので俺たちはそれぞれ自分の食器を片付けた。食後の軽い伸びをしていたTakaは思い出したように言った。


「そうだリオンさん。昨日僕らトド島に行ったじゃないですか」

「ん。ああ、はい」


 トド島。あの巨大な海獣モンスターがいっぱいいた島だ。


「思うにあの島に前哨基地みたいのを作りたいんですけど、どう思います?」

「あの島に基地を作ってどうするんです?」

「レベルが30近辺まで上がって経験値の入りが鈍くなったので、レベル上げにランプシール狩りはどうかなーと。島の内陸にも経験値が美味いモンスターはいますけど、ランプシールみたいにあんなまとまってはいないじゃないですか」


 トド島をレベル上げのための狩場にしようって話か。たしかに昨日くらいからジャイアントクラブが味のしないガム並みに稼げない相手になっていたし、狩場を移すには頃合いかもな。


 島までの距離の問題も、Takaの言うように向こうに前哨基地を作りベッドを設置してしまえば死んでリスポーンするだけで移動可能だ。俺はTakaに頷いた。


「いいっすね。マルボロさんが来るまでにささっと前哨基地作りに行きますか!」

「ありがとうございます。んじゃ、ちょっと槍とか用意してきます」

「あ、鉄はアイテムボックスの中にあるやつ持っていけるだけ持って行っていいっすよ」

「わかりましたー」


 Takaが拠点を出ていく一方で、miyabiはハシゴを登って屋上に上がろうとしている。かなこ♪は不思議そうに訊いた。


「あれ、姉御は行かないの?」

「ベッド置いてくるんでしょ?なら全員で行く必要ないじゃない。私はニードルタレットの用意とかしてるから」

「あー……それもそっか。リオン、あたしもそれでいい?もうちょっと試したいレシピがあるんだよね」

「もちろん。船の操作は俺もタカさんもばっちりだし」

「ありがとー。それじゃちゃちゃっと作ってくる!」

「もう行っていいわよね。じゃ、それでよろしく」

「はーい……」


 miyabiさんは相変わらず素っ気ない人だなぁ。まあ、だからこそTakaと合うのか。


 ひとまず俺はTakaを追って拠点を出た。鍛冶場のほうに行くとTakaは重量ギリギリまで荷物を持った状態なのか重い足取りで砂浜に向かおうとしていた。


「何持ちました?」

「とりあえず鉄とベッドだけです。リオンさんは建材の用意をお願いしてもいいです?前哨基地の規模感とかどれだけ素材を使っていいかとか、僕はわからないんで」

「了解っす」


 軽く答えたけど、正直俺もその辺りの判断は悩むところだ。


 ギルドマスターだし、資材の運用についてはある程度権限はあると思う。用途がギルド全体の役に立つ前哨基地の作成だし……今回は多少多めに使ってもいいよな?


 確認のためアイテムボックスを開けると、鍛冶場に並ぶアイテムボックスの中身は鉄と灰と燃焼材に使う木材ばかりだった。前哨基地を作るには石材が必要になる。拠点内のアイテムボックスを見てみると、こっちはそれぞれのアイテムボックスごとに内容物が整理整頓されていた。


 石材だけが詰まっているアイテムボックス。木材だけが詰まっているアイテムボックスという具合だ。


 誰がやったんだろう。外のアイテムボックスもそうだが、几帳面な誰かがアイテムボックスの整理をしてくれているらしい。


 必要な資材が探しやすくて助かるなと思いながら、ギルド共有と思われるアイテムボックスの資材を 消費して2x2規模の豆腐ハウス用建材を作る。


 これで建材の用意は良し。ベッドと鉄はTakaが持って行ってくれたから、あと必要なのは修理で使うことになるだろう作業台か?木材も多少持って行ったほうがいいな。あっちじゃ木材の補充も難しそうだし。


 そうこうして用意を済ませ、俺はTakaと共にトド島へと出発した。


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