騎乗
「……おお、なんか強そう」
拠点に戻った俺たちは早速アングリーライノに鞍を取り付けた。鞍は古代の戦象が付けていそうな装いで、赤と青の染色がされた布地がなかなか派手だ。
「お洒落で良いね!こういうのを東洋風って言うんだっけ?」
「なんかインドっぽいよね」
フューネスとかなこ♪は二人して頷いている。
言われてみるとたしかにインドの寺院とか、あっちのほうの装飾っぽいな。ほかのモンスターも同じような雰囲気なんだろうか。もしかして鞍の見た目変更は課金スキンだったりするのか?
余談だけど、最近のオンラインゲームは買い切り型としてリリースしておきながら、後から有料DLCを販売して集金するパターンが多い。コスニアは現状買い切りオンリーなものの、それは現在の話であって将来的にDLCが追加される可能性は高い。
問題はそのDLCがどういった要素を孕むかという点だ。
新マップ・新スキン・経験値ブースト・有用アイテムなどetc……。
デフォルトスキンが妙に凝っているのは、「後から課金スキンなんて出しませんよ!」というアピールなのか、それとも課金スキンとの差異を強調するためのものなのか……これは中々難しいな。バイトを増やして課金に備えたほうがいいんだろうか。
俺が頭を悩ませていると、かなこ♪がみんなを見回して言った。
「誰が最初に乗る?」
その問いかけに†刹那†と針金は名乗り出なかった。自信を無くしたようにしょんぼりしているあたり、さきほど振り落とされたのがけっこうショックだったのかもしれない。
……よし、ここは俺が乗ってみせるか。
「安全確認のために俺が最初に乗るよ」
「さすがマスターじゃあよろしく~」
かなこ♪の声を背に、俺は鞍を掴んでアングリーライノの背中に飛び乗った。
「おお……思った以上に目線が高くなるな」
視界が広く感じられるし乗り心地も良い。別ゲーでもモンスターに乗ったことはあるけど、それらに比べてもモンスターの息遣いや鼓動がより生々しく感じられる。
「マスター、気ィつけてな……」
「そんな心配することないぞ。手綱があるから動きも操作できるだろうし」
心配そうに見ている†刹那†を安心させようと、試しに手綱を引っ張ってみる。
「あれ?」
だが、アングリーライノは特に反応を返さない。うーん、どうやったら動くんだ?
困っているとアナウンスが聞こえてきた。
『騎乗モンスターの操作方法を解説します。準備はよろしいですか?』
「よろしく頼む」
『これからする解説はCosmos Pioneers Online内の騎乗方法についてのものです。実際の騎乗技術とは大きく異なるのでご注意ください。このチュートリアルは後程ヘルプ欄からもう一度受けることができます』
「オーケー。これみんなも聞こえてる?」
「聞こえてる」
フューネスが頷いたのを見て、俺はチュートリアルに意識を向けた。
『それでは解説を始めます。モンスターの操縦は口頭で指示を出すことでオート操作可能ですが、手綱を利用することでマニュアル操縦することができます』
……なるほど、面倒だったら声で指示すればいいだけなのか。そういえば拠点に連れてくるときもアングリーライノはそれでちゃんと従ってたな。
『マニュアル操縦の場合、モンスターを停止した状態から動かすには、跨った状態からモンスターの腹を軽く足で蹴ってください』
「えーと、腹を軽く蹴るんだな」
「ブオォ……」
「うお、動き出した!」
腹を蹴るとアングリーライノがゆったりと足を前に進めた。アングリーライノが一歩を踏み出すたびに巨大な筋肉が脈動している感触が伝わってくる。
「マスター!?」
「大丈夫大丈夫!見ててくれ!」
軽く手を振って安全を示す。俺はみんなが見守る中、チュートリアルを続けた。
『左右への移動は身体を進行方向に向け、張った状態の手綱を曲がりたい方向に開くことで可能です』
「開く?左に曲がるなら左の脇を開けばいいってことかな」
「ボフォッ……」
どうやら正解らしい。それまできゅっと閉めていた両腕を左腕だけ開くと、アングリーライノは俺の思ったように左に動いてくれた。左に曲がって森に向かいそうになったのを、今度は右に向かうように動かしてみる。よし、左右の方向転換もこれで出来るようになった。
『加速は再び腹を蹴ることで出来ます』
「よっしゃ、加速だ!」
「ブォッ!」
脚で蹴ると、アングリーライノが小さく鳴いて走り出した。
「はっや!停止は!?停止はどうするんだ!?」
『停止は手綱を引くことで可能です』
「ブ、ブォッ!?」
思いきり手綱を引くと、アングリーライノは前につっぱりながらも急停止した。ゲーム内の生き物だけど、なんだか慌てさせてしまったのが可哀そうだな。
『騎乗モンスターに採取をさせる場合は、対応した資源に向かって攻撃指示をすることで可能です。各モンスターの細かな攻撃内容の説明については、対象のモンスターをテイム後にヘルプ欄に追加されます』
「なるほど……」
停止した状態のまま、ヘルプ欄を開いてみるとたしかにアングリーライノの攻撃方法についての解説が載っていた。解説によればアングリーライノの攻撃手段は二つ。通常攻撃の『突進』と、特殊攻撃の『突き上げ』だ。
「アングリーライノ、あの木に向かって突進だ!」
「ブォッ!ブォッ!」
俺の指示を聞いてアングリーライノが突進を仕掛けた。
加速の勢いに身体が持っていかれそうになる。姿勢を低くして吹っ飛ばされないように鞍の持ち手にしがみつくと、直後、激しい衝撃と共にターゲットとなったシャノミの木は突進によって一発でへし折れた。
【獲得アイテム】
・木材x24
・シャノミの実x3
「突進一回でこんな木材が取れるのかよ!?すごいなマジか」
モンスターで採取ができるのは知っていたけど、こんなに一瞬で資材が集まるとは思わなかった。これなら人力で採取をやるよりも圧倒的に効率がいい。
「アングリーライノ、次は突き上げだ!そこらへんの草むらを突き上げろ!」
特殊攻撃の突き上げを指示されたアングリーライノは、地面を掘り返す勢いで草むらの植物を突き上げた。
【獲得アイテム】
・パラの実x8
・ゴリンの実x6
・ステンス草x8
・コチの実x3
おいおい、一回の突き上げでこの量が手に入るってこれバランス大丈夫なのか……?
少し不安になりつつも、何度も突き上げで植物から採取を行ってみる。するとものの数分もしないうちにアングリーライノの重量がマックスになってしまい、移動制限を受けてしまった。
『チュートリアルはこれで終了です。それでは開拓者の皆さん、よい開拓を』
「はー、凄いなこれは」
勝手がわかったところで、一旦アングリーライノから降りる。
一部始終を眺めていたみんなはどっとアングリーライノに群がった。
「リオンさん、次は私に乗らせて」
「私でしょーそこは!」
「カナ姉たちずりーぞ!俺らも乗る!」
「慌てるなって。みんなじゃんけんでもして決めてくれ」
怖がっていたメンバーもすっかり乗り気なったらしい。こりゃしばらく騒ぎは収まらないな。一頭だけじゃなく、あの場にいた他の二頭もテイムしておくべきだったかも。
それからアングリーライノの争奪戦はしばらく続いた。
そして、ようやくメンバー全員一巡したかなという良いタイミングで、マルボロからグループチャットが届いた。
『マルボロ:拠点が完成したので、みなさん見に来てください』




