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孤島オンライン  作者: 西谷夏樹
ギルド結成
20/102

合併




「フューネスさーん!」

「あ!こっちこっち!」


 砂浜から内陸におよそ百メートルの位置。フューネスが見つけた鉱床は山の麓にあった。


 軽自動車ほどの大きさの岩の上に座り込んでいたフューネスは、俺たちを見ると岩から飛び降りた。


「この岩から鉄鉱石が出たよ。岩に白い筋が入ってるから、見た瞬間に何かの鉱石だってわかった」

「ナイス!叩いてみていい?」

「どうぞ」


 スタミナが回復するのも待たず、早速石斧を振り下ろす。


【獲得アイテム】

・鉄鉱石x4

・鉄鉱石x2

・石材x3

・鉄鉱石x4

・石材x4


「出た出た!こんな出るのか!」


 中々見つからなかった鉄鉱石がぼろぼろ採取できることに感動すら覚える。ただの資源アイテムなのに、掘り出すたびに宝石を手に入れたみたいだ。


 ある程度採取してから、冷静になってインベントリで確認する。鉄鉱石は1つあたり1キロもあるようだ。生肉が1つあたり0.1キロなのと比べると、重量がかなり重い。


 プレイヤーが持てる重量は初期ステだと100キロまでだから、たくさん持ち帰ろうと思ったら重量にステ振りをしないといけないな。


 マルボロはきょろきょろと辺りを見回した。


「フューネスさん、鉄鉱床はほかにもありますか?」

「ありますよ。このあたりにある岩はほとんど鉄鉱石だと思います」

「これ全部ですか。それはまた凄い当たりを引き当てましたね」


 麓は斜面になっていて、木々が生えていないこともあって見晴らしが良い。辺りには見える範囲でいくつもの岩石が転がっていた。大きさはどれも同じくらいで、資源オブジェクトだとすぐに判別できるわかりやすい見た目をしている。傾斜の具合を見るに上のほうは徒歩だと登れなさそうだが、そんな高所にも鉄鉱石の岩はあった。


「移動速度に振っておいて良かった。実はここに来る途中、けっこう凶悪そうなモンスターに襲われたの。速度振りのおかげで振り切れたけど」

「フューネスさん移動速度振りだったんだ。たしかにピンチになったら逃げれるし探索には便利そうだよな」

「……ちなみに、その凶悪なモンスターって近くにいたりします?」


 マルボロは不安げに問いかけた。昨日のアングリーライノのことが頭を過ぎったのかもしれない。俺も初日からあんな目に遭ったら警戒しただろうな。


 フューネスはマルボロの反応に苦笑で答えた。


「大丈夫だと思います。見かけたのは山の内陸側のほうでしたから。そこから逃げるように海を目指してたらここを見つけて」

「……なら良かったです」

「マルボロさんは昨日は災難だったからなー。でもてっきり鉄鉱石は内陸にしかないかと思ったけど、案外砂浜からすぐのとこにもあったんだな」

「内陸かどうかってよりも鉄鉱石は山岳や斜面に多いのかもね」

「それあり得るな。けどここ拠点から遠いな……」


 砂浜に近いとはいえ、鉄鉱石のスポーンポイントは拠点からだいぶ離れている。ダッシュで十分は掛かっただろうか。鉄鉱石の重量を考えると、採掘のために往復するのは少々手間かもしれない。


 考える俺にマルボロは顎を撫でながら言った。


「そうですね……では、こちらに引っ越すというのはどうでしょう?」

「拠点を移動させるってことっすか?」

「ええ、あの拠点は別荘的な位置づけにして、こちらに本拠点を作るんです。採掘の利便性を考えるならそれが効率的かなと」

「言われてみれば……けど……うーん……」


 ガシガシと頭を掻く。理屈はわかるが、昨日作ったあの拠点を実質放棄するってのは勿体ない気もする。俺が納得していないのを察したのか、マルボロは言葉を重ねた。


「それにあの拠点は木の拠点ですよね。おそらくですが、木の拠点は防衛の面でかなり脆弱だと思います。建築に使える資源には種類があり、その中で木材の家は最も耐久値が低い建築のようです。せめて木よりも耐久値が高い石建築に移行すべきではないかと」

「えっ、石で家が建てれるんですか?」

「はい。設計図一覧に載っていますよ。リオンさんもいまのレベルなら確認できるはずです」

「ほんとだ。じゃあ拠点の引っ越しはやってみてもいいかもしれないっすね……」


 木の拠点の脆さは俺も気になっていたことだ。今日の襲撃にしても、石斧で殴り続けるだけでドアが破られるのはさすがにマズいと思った。石のドアの耐久力がより優秀なら石建築に改築したほうがいいし、改築するくらいなら新たに石建築の拠点を作ったほうがいい。


 マルボロの案は現状だとベストの判断かもしれない。


「……わかりました。じゃあマルボロさんの言うように引っ越ししましょう。今日いますぐってのはもう夜遅いんで無理ですけど、明日ログインしたらこっちに仮拠点を作っておくんで、マルボロさんがログインしてから建築に取り掛かりましょう」

「はい、わかりました」

「私もそれでいいと思う。ただ……」

「どうかした?」

「実はこのあたり、先住民がいるみたい」

「マジ?」

「そっちの砂浜のほうなんだけど」


 フューネスの案内に付いて行く。先住民というのは、俺たちよりも先にこの辺りに拠点を建てていた人たちの事だろう。


 この狭い島の中で土地の取り合いをするとなると、いずれは衝突も避けられないとは思っていた。まさかこんなに早い段階でそういう話になるとは予想外だけど。


 しかし、俺の想像に反して先住民さんたちの拠点は木の土台2x2サイズの小さな建物だった。てっきり大規模なギルドが拠点を構えているのかと思っていただけに、やや肩透かしだ。


 住人はちょうど肉を焼いていたところらしく、俺たちがやってくると警戒した様子で立ち上がった。


「なんじゃぁ君らは?」


 プレイヤーの声はけっこう年老いた感じで、五十代は越えていそうな雰囲気だ。マルボロもおっさんボイスだが、それでも三十代くらいに聞こえる。俺もさすがに五十代以上のプレイヤーと話した経験はあまりない。


 レベルは5。名前は「ゲンジ」と言うらしい。形だけのギルドを作っているのか、名前の上には初期設定そのままの名前と思われる「ゲンジ’sのギルド」と表示が出ていた。


 キャラのアバター自体は若々しい見た目をしている。肩まで垂らした白髪の髪は癖があってカリブの海賊にでも出てきそうだ。身体は締まっていて、武道家のようにも見えた。


 ただ、現状は装備を着けている様子もなく初期装備の白パン一枚。まごうことなき初心者プレイヤーのようだった。


 俺は前に歩み出て言った。


「初めまして。ここからだいぶ離れたところに拠点を建てて遊んでいるんですけど、このあたりに湧いてる鉄鉱石を見てこっちに引っ越そうかとみんなと相談してるところなんです」

「そうなの?じゃけどここらけっこう危ないモンスターも多いんよ?裏山とか虎みたいなの出るし。儂らは逆にこのあたりから他所の平和そうなとこに逃げようかと思っとってね」


 ソロプレイヤーというわけではないらしい。拠点の規模などを見るにあまり大勢で始めたってわけではなさそうだが……。


 にしても危ないモンスターか。フューネスが逃げてきたって言ってたやつのことだろうか?


「俺たちはそこそこレベル上げたのでなんとか戦えると思います。それに鉄鉱石はかなり有用な資源だと思うんで、そこら辺の危険も飲み込むつもりです」

「鉄鉱石ってそんなにレアなんじゃのう。重いばっかりで使い道ないんかと思った」

「ある程度レベルを上げると使い道が一気に広がるみたいっすね」

「ああ、儂ら強いモンスターに狩られてばかりでレベリングできてないでな」


 なるほどそれでレベルが低いのか。今後拠点を引っ越すことを考えると、ゲンジたちのギルドは無視できない存在だ。出来るならカルテットに提案して失敗した合併をお願いしたいところだな……。


 お互いに言語は日本語。そしてゲンジたちはレベリングに苦労している。合併することによるメリットを示せば合意を引き出すのは不可能じゃないはずだ。


「それなら……良かったら俺たちと一緒にやりません?ギルドを合併してくれれば、レベリングとかも手伝えますよ」

「良いの?そうしてくれるならありがたいね。連れに聞いときますわ。じゃけど、そいついまはログインしてないから確認は後になるけど」


 難航するかと思った合併の提案に、ゲンジはあっさりと肯定的な反応を見せた。カルテットの4人とは違って、あまりギルドという枠組みに執着があるわけではないらしい。


「それでもいいですよ。どっちみち引っ越し作業は明日の夕方くらいからやるんで」

「おお、夕方か……」


 ゲンジは顎を撫でながら考える素振りをする。


「夕方じゃと少し儂らの時間帯とズレてしまうかもしれんの……」

「ゲンジさんたちは深夜帯にやってるんですか?」

「そうじゃな。儂と連れの一人は深夜勢じゃ」


 深夜帯のプレイヤーか。その時間帯のプレイヤーは既にマルボロがいるけど、マルボロは俺たちがログアウトしたらその後ずっと一人だけになっていたんだよな。


 マルボロは苦笑しながらも口を開いた。


「リオンさんとフューネスさんは学生さんです。いまはギルドで社会人は私だけで……なので、ゲンジさんたちが入ってくれると心強いです」

「ほうほう」


 マルボロはゲンジたちに加入して欲しそうだ。もしかしたらギルドの状況に思うところがあるのかもしれないな。三姉弟が加入して現在のギルドメンバーの平均年齢は十代半ばになっている。歳の離れたメンバーばかりなことに居心地の悪さを感じていたのかもしれない。


 ゲンジはそんなマルボロの言葉を聞いて、決心したように言った。


「決めた。儂の独断じゃが合併してもええよ。今夜もまだ長いしね」

「良いんですか?」

「構わんよ。いままでも三人でどっかのギルドに一緒に加入させてもらって遊んできたから。そんでどうしようか。とりあえず儂だけでも先にそちらに入りたいんだけど、ギルド作ってある場合ってどうすればいいんじゃろ?」


 ゲンジは困ったように唸った。すると、後ろで話を聞いていたフューネスが手を挙げた。


「ゲンジさんはギルドのマスターだから、ギルドタブから合併申請をリオンさんに出せば合併できるはずですよ」

「お、そういうことらしいですけど、ゲンジさん合併申請出せます?」

「やってみましょう」


 それからゲンジが俺に合併申請を出して、俺たちのギルドがゲンジたちのギルドを吸収する形で合併が成立した。ゲンジとその連れである「工場長」と「トマトママ」がギルドに加わった。


 どうやら合併を行うとゲンジたちが建てていた拠点も譲渡されるらしく、意図せず明日の引っ越しのための下準備も出来てしまった。


「ギルドルールはあとでグループチャットのトップにピン留めしておくんで目を通しておいてください。俺はもう眠さやばいんで落ちます」

「私も落ちます。お疲れさまでした」

「お疲れ様です~」

「おつかれ」


 後のことはマルボロに任せて、俺とフューネスはゲンジたちの拠点でログアウトした。


 VRゲームをしていても眠気はやって来る。時刻は既に零時を回っていた。さすがに今日は長時間やりすぎたな……明日も学校だし早く寝よう。


 でもゲンジとマルボロがあの後なにやってるのか気になるな。あー、明日も早くインしてえ。引っ越し作業もどう進めたものか。ゲンジが言ってた虎みたいなモンスターって――


 考え事をしているうちに、瞼が鉛のように重くなっていき意識は闇に沈んで行った。



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