3.記憶・3
湿気っぽい空気のなか、埃が待っている。
一歩、また一歩階段を上がっていく。
(ここは……)
美夕はぼんやりと自分の行く手を見つめる。
どこだったろう。これと同じ景色を前に見た記憶が蘇ってくる。
石で作られた螺旋階段。窓から月の光が差し込んでいる。
(塔のなか)
美夕はやっとそれがどこなのかを思い出した。
ゲームのなかに出てきたマーテルの塔、その塔の階段を自分は今登っている。
――おいで。
塔の上のほうから声が聞こえてくる。
――僕が君を救ってあげよう。
誰なのかはわからない。それでも、その軟らかな声に心を引き寄せられる。
(どうして?)
周囲にも人の姿が見える。
鎧を纏った戦士。マントを羽織った魔道士。顔ははっきりとわからないが、すべての人たちがこの石段を辿り、塔の最上階を目指している。
その動きにゾクリと寒気がした。
皆、さまざまなキャラクターに扮しているが、その一団となって同じ方向を目指して動く姿は軍隊を思わせる。まるで何かに取り付かれたかのように、視線を上にあげて黙々と足を動かしていく。
――美夕
ふと、自分を呼ぶ声が背後から聞こえ立ち止まる。
(誰?)
――美夕
はっとして振り返る。後ろから近づいてくる黒いマント。細い手がぬっと伸び、美夕の腕をギュッと握った。
――行っちゃだめよ。
(誰なの?)
その顔がはっきりと月の光に浮かび上がる。
(真奈美?)
そこに麻生真奈美の顔が見えた。




