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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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750・我が家への訪問客

第750話になります。

よろしくお願いします。

 歓迎の宴から3日が経った。


 アルン使節団の人々は、あれから王国の偉い人たちとの話し合いの日々を送り、忙しくしているようだ。


 当然、フレデリカさんとも会えていない。


(……はぁ)


 いつ会えるのかな?


 ぼんやりそんなことを思う僕は、今、自宅にいた。


 アルン使節団が――つまり、フレデリカさんがシュムリア王国いる間は、冒険者の仕事は休みにしてもらってたんだ。


 それは僕ら夫婦だけでなく、ソルティス、ポーちゃんも一緒。


 なので今日は、


「どう、イルナ姉?」


「ええ、美味しくできています。本当に上達しましたね、ソル」


「えっへへへ♪」


 と、台所を見れば、美人姉妹が仲良くお菓子作りをしている姿があった。


 せっかく休みが同じなので、この3日間は、ほぼ毎日、ソルティスたちがこの家に遊びに来てるんだよね。


 2人の笑顔も明るい。


(……うん)


 昔、この家で3人で暮らしていた頃を思い出してしまう。


 なんか、ほっこり。


 見れば、僕の隣にいたポーちゃんも、穏やかな眼差しで相棒の背中を眺めていた。


 ふと、僕の視線に気づく。


「…………」


「…………」


 お互い何も言わないまま、僕は微笑み、ポーちゃんは無表情のまま頷く。


 やがて、姉妹は完成したお菓子のクッキーを山盛りにしたお皿を、僕らのいるリビングまで運んできた。


 うん、いい匂い。


 ソルティスは明るく笑って、


「ほい、2人とも、お待たせ~!」


「うん、待ってたよ」


「ポーも、待ち侘びた、と白状する」


「ふふっ、ソルティスの手作りクッキー、良い出来ですよ。あ……私は紅茶を淹れてきますね」


「ありがと、イルナ姉」


「ありがとう、イルティミナさん」


「感謝」


「いいえ」


 そんな感じで、4人でリビングのテーブルを囲む。


(では、早速)


 パクッ


 こんがり狐色のクッキーをかじってみる。


 ん……美味しい!


 バターの風味と砂糖の甘さ、それにこれは……うん、隠し味の蜂蜜かな? どれもお互いの良さを引き立てて、凄くマッチしてる。


 紫髪の少女は、僕を見つめ、


「どう?」


「ん……悔しいけど、本当に美味しい」


「あはは、そう!」


「ソルティス、本当に料理上手になったんだね?」


「ふふん、まあね」


 と、彼女は得意げに鼻を鳴らす。


 それから、僕の横でカリカリカリ……と、小動物みたいにクッキーを食べる金髪幼女を見る。


 小さく笑って、


「ま、イルナ姉には及ばないけどさ」


「…………」


「でも、せっかくなら美味しく食べてもらいたいじゃない? だから、それなりにがんばったのよ」


「……そっか」


 同居する相棒のため、彼女も努力したのだろう。


 ソルティスは天才だ。


 だけど、努力ができる天才なのだ。


(さすがだよね……)


 そんな彼女がかつての仲間として誇らしいし、負けられないなと強く思う。


 やがて、イルティミナさんも戻ってきて、彼女の淹れてくれた紅茶を飲みながら、4人で一緒にクッキータイムを楽しんだ。


「ん、いい味ですね」


「えへへ……♪」


 うん、姉に褒められるのが、やっぱり1番嬉しそう。


 そんな姉妹に、僕も笑ってしまった。 


(せっかくだから、キルトさんも遊びに来ないかなぁ?)


 なんて、ふと思い、


 カラン カラン


 その時、玄関の来客を知らせる鐘が鳴らされた。


 お……?


 思わず、4人で顔を見合わせる。


 もしかして、虫の報せ?


(いや、まさかね)


 なんて思いつつ、けれど、内心では期待しながら「はーい」と答えて、僕はソファーから立ち上がった。


 家主のイルティミナさんも席を立ち、一緒に玄関へと向かう。


 お客の2人は、リビングからこちらを窺っている。


 ガチャン


 扉を開けると、


「よう、約束を守りに来たぞ」


 と、そこには陽光に銀髪を輝かせるキルトさんが本当に立っていた。


(嘘ぉ)


 僕は唖然としつつも、『さすが、キルトさん』と感心する。


 と、同時に、


(ん? 約束?)


 その言葉にキョトンとする。


 そして、僕の隣のイルティミナさんは、ふと銀髪美女の後ろの方に視線を向けて、


「……ぁ」


 その瞬間、真紅の瞳を大きく見開いた。


 え、何?


 僕からは、ちょうど角度が悪くて見えない。


 ヒョイ


 なので、僕は首を斜めに傾けた。


 そして、キルトさんの背後が見える。


 いつも見慣れた玄関前の景色、その通りと家までの空間に、背の高い青髪の美女が立っていた。


(…………)


 え?


 僕の日常の景色の中に、彼女が立っていた。


 高級そうな白シャツと黒地のスラックス姿で、その表情には少しの緊張と気恥ずかしそうな色があった。


 左頬には薄く傷跡が残る。


 彼女は、その美貌を少しぎこちなく微笑ませて、


「――やぁ、マール殿。久しぶりだな」


 と、白い片手をあげる。


 その手のひらは、女の人だけど、鍛錬による硬い剣ダコができた軍人の手だった。


 だからこそ、その生き様が感じられて美しい。


 ゴクン


 僕は、唾を飲む。 


 そして、懐かしさに胸がいっぱいになり、少し泣き笑いになった。


 必死に、言葉を紡ぐ。


「……うんっ。いらっしゃい、フレデリカさん!」



 ◇◇◇◇◇◇◇



 異国の友人を、僕らはすぐに家の中に招いた。


「あらやだ、フレデリカじゃないの!」


 突然の来訪に、ソルティスも立ち上がって驚いていた。


 アルンの美女は微笑み、


「やぁ、ソルティス殿。しばらく見ない間に、ずいぶんと大人の女性らしくなったな」


「え? そう? ふふぅん♪」


 年上の友人に褒められて、ソルティスは満更でもない様子。


 初めて出会った時より、ずっと大きく育った胸を逸らして、得意げに鼻を鳴らしている。


 その隣で、ぺったんこな金髪幼女も真似しているのはご愛敬だ。


 フレデリカさんも、クスッと笑う。


 僕も笑って、


「でも、急に来るからびっくりした」


「ああ、そうだな。驚かせてすまない」


「ううん、会えて嬉しいよ」


「……そうか。私もだ」


 僕の言葉に、彼女はその碧色の瞳を細める。


 その瞳を、一緒に来訪した銀髪の美女に向けて、


「実は、キルト殿のおかげでな」


「キルトさん?」


 僕も、彼女を見る。


 キルトさんは片手を腰に当てて笑い、


「何、連中が自分たちのことばかりでおったからの。少し脅しをかけてやったのじゃ」


「脅し?」


「救国の『神狗』が友人に会えなくて泣いておったぞ、とな」


「…………」


「レクリア王女も、アルンの大臣も青い顔をして、すぐにフレデリカを貸してくれたぞ」


 それ、脅しなの……?


 フレデリカさんも苦笑している。


 まぁ、どちらの国も神々への信仰が篤い国だし、そういうこともあるのかな。


(でも、僕、泣いてないぞ)


 そんな泣き虫、格好悪い。


 ソルティスは「へ~、やるじゃん」と、笑うキルトさんと拳をぶつけ合っていた。


 そしてキルトさんは、


「ふふっ、3日間は自由行動可じゃ」


 と、3本指をこちらに立てて、白い歯を見せた。 


 3日間か。


 僕は頷き、


「うん。ありがとう、キルトさん」


 と、心からお礼を言った。


 約束を守って、フレデリカさんとの時間を作ってくれた――そのことが本当に嬉しかった。


 キルトさんも鷹揚に頷く。


 そんな会話の中、イルティミナさんだけは何も喋らなかった。


 フレデリカさんも、それに気づく。


 僕の奥さんを見て、


「貴殿とマール殿の家に、急に押しかけてすまない」


 と、生真面目に頭を下げた。


(え……?)


 僕は驚き、イルティミナさんは、そんな彼女の頭を見下ろした。


 そして、


「いいえ」


 長い髪を揺らしながら、首を振る。


 アルンの友人を見つめて、


「貴方に会えて、マールも……そして私も、とても嬉しく思っていますよ」


「…………」


「貴方には狭い家かもしれませんが、どうかゆっくりしてください」


 そう伝えた。 


 狭い家……あ、そうか。


 フレデリカさんの父親は、アルンの大将軍だ。


 つまり、彼女も大貴族の令嬢な訳で、考えたら、アルン神皇国にある実家も凄く大きな邸宅だったんだ。 


(うわ……)


 身分差、忘れてた。


 彼女にしたら、この家も小さな庶民の家なのかもしれない。


 なんか、ドキドキ。


 見つめる僕の前で、青髪の美女はゆっくりと室内を見回した。


 それから、イルティミナさんを見る。


「手入れが行き届いた良い家だ」


「…………」


「自分たちの暮らしぶりを大事にしていることが、その時間にある2人の愛情の深さが伝わってくるようだ」


「…………」


「私の暮らす邸宅も多くの使用人に手入れをされた良い空間だが、ここもそれに劣らない。いや……それ以上に、人の営みと暮らす家人の優しさを感じるよ」


 彼女は頷いて、


「ああ、本当に素敵な家だ」


 と、力強く断言してくれた。


 イルティミナさんは、少し驚いた表情だった。


 やがて、瞳を伏せ、


「そうですか」


 何かを受け入れたような、さっきより優しい声で頷いた。


 そんな2人のお姉さんのやり取りに、キルトさんは微笑み、ソルティスは「ふぅん」とどこか楽しそうに呟く。


 ポーちゃんは、


 ポム


 小さな手で、なぜか僕の肩を軽く叩く。


(あは……)


 彼女たちの様子に、僕もつい笑ってしまう。


 やがて、僕の奥さんが、


「今、ちょうど妹がクッキーを焼いて、皆で相伴に預かっていたのです。よければフレデリカ、貴方も一緒にどうですか?」


「ああ、頂こう」


 青髪の麗人も、その誘いに嬉しそうに頷いた。


 2人はリビングのソファーに向かう。


 僕は、そんな彼女たちの背中を眺めた。


 自分たちの暮らす家に、遠い異国の友人がいて、僕の大好きな奥さんがそれをもてなしている――それが、何だか不思議な景色に見えた。


 僕は、青い瞳を細め、


(――うん)


 大きく頷くと、すぐに彼女たちを追いかけた。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、今週の金曜日を予定しています。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
750話、おめでとうございます! もうすぐ、21000ポイントですね! 日常回も良いですね。 フレデリカさんは、同名(同盟?)のキャラクターが、『銀河英雄伝説』のヒロインなので、やっぱり個人的に気に…
2024/10/21 00:39 退会済み
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