漫画マール1巻、発売記念SS・その3
本日は、コミック単行本1巻の発売記念ショートストーリーの3話目になります。
今回は、また珍しいソルティス視点です。
どうかゆっくりお楽しみ下さいね、よろしくお願いします。
「――アタシ、また告白されちゃってさぁ」
果実酒のグラスを片手に、私はそう呟いた。
それを聞いた目の前の少年――マールは唖然とした表情を浮かべる……って、失礼な。
ここは、ギルド3階にある『キルトの部屋』。
今日は久しぶりに皆の時間が合ったので、いつもの5人、私とポー、マールとイルナ姉、キルトで集まり、食事会をしていたのだ。
最近は滅多に食べられないイルナ姉の手料理に舌鼓を打ちつつ、お互いの近況を話しながら談笑していた時の一幕である。
マールは、少し眉を寄せながら、
「相手は誰?」
と、聞いてきた。
ふふん、気になる? と私は笑い、余裕の表情で答えた。
「依頼主の貴族の息子。なんか、仕事の打ち合わせでお屋敷に出入りしている時に、たまたま見かけた私の美しさに魅了されちゃったんだって」
「…………」
「ま、さすがに断ったんだけど。でも、美しさって罪よねぇ」
私は自慢の艶めく紫髪を手で払いながら、そう嫣然と微笑み、マールを流し見た。
彼は不服そうな顔だ。
やがて、吐息をこぼして、
「世の中、物好きな人って多いよね」
「……何ですって」
グワシッ
額に青筋を立てて、私はマールの顔面を鷲掴みにしてやったわ。
マールは「ぐわっ?」と言いながら暴れたけど、ふん、『魔血の民』の握力を舐めるんじゃないわよ?
案の定、マールは逃れることもできず、涙目になっていた。
見ていたキルトは「今のは、マールが悪いの」と楽しそうに笑いながら蒸留酒の満ちたグラスを傾け、私の相棒のポーは同意するように『うんうん』と頷いている。
そして私の姉、マールの奥さんになったイルナ姉は苦笑しながら、妹の私に頼んだ。
「ごめんなさい、ソル。どうか、それぐらいで」
「……ふん」
ペッ
私はゴミを放るように、マールから手を離した。
「イルナ姉に感謝するのね」
「うぐぐ」
彼は涙目で悔しそうに唸り、けれど、イルナ姉の背中に隠れる。
はっ、情けない奴だわ。
イルナ姉は甘やかすように年下の夫の髪を撫でて慰め、キルトは大笑い、ポーは果実酒の酒瓶を持ってきて私の半分空になったグラスに注ぎ足してくれた。
あら、ありがと。
相変わらず、私の相棒の幼女は気が利くわね。マールも見習ってくれたらいいのに。
それからも、私とマールは昔と変わらず、歯に衣を着せないやり取りを交わして、それをイルナ姉やキルトは楽しそうに笑って眺め、ポーはそんなみんなのお世話をしたりする。
私たちのいつもの風景、いつもの時間。
でも、それが当たり前でないことは、危険な『魔狩人』の仕事をしている私たちは、よく知っている。
だからこそ今を大切に、いつものように私たちは笑った。
今日の食事会も、そんな風に深夜まで続いたの。
◇◇◇◇◇◇◇
日付が変わるような時刻に、食事会はお開きとなった。
いつもなら『キルトの部屋』に泊まったりもするんだけど、生憎、翌日には次のクエストで王都を発たなければいけなかった。
だから、今回はこれで解散。
キルトは少し残念そうな顔で、私たちを見送りしてくれたわ。
そして、私とポー、イルナ姉とマールの4人は、ギルドを出ると、街灯に照らされる深夜の道を歩き、やがて、それぞれの自宅までの分かれ道で立ち止まった。
イルナ姉が私を抱きしめる。
「どうか元気で、ソル。次のクエストも充分気をつけるのですよ」
相変わらず、私にも過保護なのね。
苦笑しつつ、でも、私も抱きしめ返して姉の温もりを味わい、「わかってるわ」と頷いた。
イルナ姉の髪を撫でてくれる手は、昔から心地良い。
私の姉は、妹の相棒を見る。
「ポー、ソルを頼みます」
「…………(コクッ)」
私の頼もしい金髪の幼女は、しっかりと頷いた。
(ふふっ)
心の中で微笑んでいると、ふとマールの視線に気づいた。
その青い瞳と目が合う。
「また食事会しようね、ソルティス」
「そうね」
彼の言葉に、私も頷いた。
再会の約束。
普通の人には何気ないものでも、死と隣り合わせの私たち冒険者には大事な意味がある。
どんな絶望的な状況でも、その約束があるだけで生きる意志を保てたりするからだ。
私は拳を握り、軽く伸ばす。
マールも笑って、
コツン
彼の伸ばした拳が軽くぶつかった。
小さな拳だ。
私は大人になったけど、マールは出会った時からほとんど容姿が変わらない。
(…………)
だから、私の彼に対する思いもずっと変わらないのかもしれない。
マールはポーとも再会の約束を交わし、そして、「またね」と明るい笑顔を残して、イルナ姉と共に去っていく。
立ち去る2人の背中。
結婚して数年経つけど、2人はお互いの気持ちを結ぶように、しっかりと手を繋いでいた。
本当、仲睦まじいことである。
「…………」
街灯の向こうにその姿が消えるまで、私はその場に立って、2人を見送った。
やがて息を吐き、
「じゃあ、私たちも帰ろっか、ポー」
「…………(コクッ)」
無口な相棒は、頷いた。
そして私たちも、自分たちの自宅までの夜道を歩きだした。
コツ コツ
2人分の足音だけが響く。
夜空には紅白の月が輝き、その周囲には無数の星々が煌めいていた。
闇に紛れて吹く風は、秋の季節を感じさせ、少しだけ肌寒い。
その時、ふと隣を歩く金髪の幼女が、私のことを見上げているのに気づいた。
「何?」
私は首をかしげ、聞く。
私の相棒は、水色の瞳で真っ直ぐ私を見たまま、
「ソルは、マールが好きなのか?」
と、言った。
私は咄嗟に答えられず、歩いていた足も止まってしまった。
ポーは数歩先に進んでから、私を振り返る。
色々な返事の仕方が、頭の中に浮かぶ。
でも、ポーの綺麗な水色の瞳は、そうした返事をしてはいけない気にさせた。
やれやれ……。
私は吐息をこぼす。
「――好きよ」
そう、正直に答えた。
多分、マールは私の初恋の相手だろう。
自覚したのは、ずいぶん、あとだと思う。
でも、その時には、マールはイルナ姉が好きで、イルナ姉もマールを愛していた。
出会ったのも、心を交わし合ったのも、イルナ姉が先。
ポーは、ずっと私を見ている。
それでいいのか?
そう問いかけられている気がした。
だから、答えた。
「でも、イルナ姉のことも好きなの。きっと、マールよりね」
「…………」
「だから、いいの」
幼い私のために、いっぱい苦労したイルナ姉が今、幸せそうに笑っている。
それも、私は嬉しいのだ。
ポーは「そうか」と頷いた。
余計なことは言わず、ただ私の思いを受け止めてくれた。
相棒のそういう所が、私は大好きである。
だから私は笑って、少し乱暴に相棒の幼女を抱きしめると、その柔らかな少し癖のある金髪をクシャクシャとかき混ぜてやった。
ポーはただ、それを受け入れる。
そして、
「ポーは、ずっとソルのそばにいる」
ポツリと呟いた。
私は、思わず手を止めた。
彼女の表情は相変わらず無表情のままで、でも、深い愛情と優しさが伝わった。
クシャクシャ
私は、もっと彼女の髪を混ぜた。
混ぜながら、笑って言う。
「明日のクエスト、がんばりましょ」
「承知」
私の言葉に、相棒は頼もしく頷く。
私は手を離し、拘束していた相棒を解放する。
そして今度は、さっきのイルナ姉たちを見習って、手を繋いだ。
小さくて温かく、でも、頼もしくて優しい指だ。
「…………」
「…………」
私は微笑み、ポーも私を見つめる。
そして私たちは手を繋いだまま、紅白の月光に照らされる夜道を2人で歩いていった。
ご覧いただき、ありがとうございました。
明日で、発売記念SSも最後となります。
その最後は、いつも無口なポー視点のお話です。
どうか、お楽しみに♪
ここから恒例の宣伝です。
ただ今、『少年マールの転生冒険記』のコミック1巻が発売中です。
出発業界では、初週の売上次第で今後が決まると言われているそうですので、もし迷われていらっしゃる方は、どうか思い切って購入して頂けると幸いです♪
この表紙が目印
1巻には、描き下ろしおまけ漫画もあるので、どうか読んでほっこりして下さいね。
何卒、よろしくお願いします。
またお買い上げ下さった皆さんは、本当にありがとうございました!
これからも皆さんに楽しんで頂けますよう頑張ります。
最後に、マールの公式のコミック紹介サイト、アマゾン購入サイトのURLも貼っておきますね。
マールの公式のコミック紹介サイト
https://firecross.jp/comic/series/525
アマゾン購入サイト
https://www.amazon.co.jp/dp/479863574X
公式の紹介サイトには各書店様へのリンクもありますので、よかったら活用下さい。
どうぞ、よろしくお願いします!




