漫画マール1巻、発売記念SS・その2
本日も、コミック単行本1巻の発売記念ショートストーリーの2話目をお届けします。
今回は、キルト視点の物語。
それでは、どうかお楽しみ下さいね♪
「――手間をかけてしまったの、マール」
わらわは、そう愛弟子の少年に謝罪した。
茶色い髪の少年は、その髪を揺らして「ううん」と首を振る。
青い瞳でわらわを見つめ、
「大丈夫、師匠であるキルトさんの頼みだもの。何てことないよ」
と、屈託なく笑った。
その笑顔の眩しさに、わらわは自身の金色の瞳を細めてしまう。
そして、視線を下に落とせば、マールの前には、20代ほどの男が倒れていた。
そばの地面には木剣が落ち、革製の兜には打撃を受けた跡がある。生命に別状はないが、頭部に受けた強い衝撃で気を失っていた。
この男は、王都在住の冒険者であり、わらわの弟子となるを志望する者であった。
わらわは、キルト・アマンデス。
かつて、『金印の魔狩人』を務めた元冒険者であり、現在は引退しているが、たまにこのような弟子志願の者が訪れることがあった。
じゃが、忙しい身のため、無論、全てを断っておる。
しかし、たまにしつこく願われることもあり、今回は相手が冒険者であったため、相手の所属冒険者ギルドへの配慮もあって簡単には断れなかったのじゃ。
そこで、わらわは条件を出した。
その内容は、わらわの現在ただ1人の弟子であるマールを倒したならば、弟子入りを許すというもの。
そして本日、王都郊外の森で、弟子志願の男はマールと戦った。
結果は……まぁ、見ての通りじゃ。
マールは「大丈夫かな?」と自分が倒した男を心配そうに見ている。
わらわは苦笑した。
戦った直後だというのに、マールに興奮の名残りは見えない。
汗もなく、呼吸の乱れもない。
この愛弟子にとって、この男との戦いは真剣勝負ではなく、ただの遊戯のようなものだったのじゃ。
その事実が何とも頼もしく、また末恐ろしい。
ポン
わらわは弟子の頭に手を置いて、
「ほんに強うなったの、マール」
と笑って、その成長を褒めてやる。
マールは一瞬キョトンとしたもの、すぐに嬉しそうに破顔したのじゃった。
◇◇◇◇◇◇◇
わらわたちは、王都ムーリアに帰還した。
目を覚ました男はマールの実力に感嘆し、謝罪と感謝を残して、わらわたちの前から去っていった。
(ふむ……)
己の弱さを受け入れる度量はあったか。
実は、あの男は、冒険者登録1年半で『白印』のランクに昇り詰めた逸材であった。
本来、白印とは、平均6年かかって辿り着くランクじゃ。
それだけでも、才能ある将来有望な人材じゃとわかる。
じゃが、それでも、
(相手が悪かったの)
わらわは、隣に立つ少年を見る。
このマールは、その『白印』に登録半年でなった天才じゃ。
秘めた剣才だけならば、このキルト・アマンデスよりも上かも知れぬ。あの男も剣を合わせてその片鱗を感じ、それゆえ素直に敗北を受け入れたのやもしれぬな。
と、マールはわらわの視線に気づいて、
「? 何、キルトさん?」
と、小首をかしげた。
実力に反し、子犬のように愛らしい仕草。
この者が、実は単騎でワイバーンさえ狩れる実力者だとは誰も思うまい。
わらわは笑って、
「今日は助かった。礼に飯でも食いに行かぬか? 奢るぞ?」
「わ、行く! ありがとう」
彼は嬉しそうに、こちらに礼を言った。
いや、だから、礼を言うのはこちらじゃと言うに……。
◇◇◇◇◇◇◇
近くの飯屋に入り、愛弟子と食事を共にした。
マールは意外と大食漢であり、嬉しそうに料理を頬張る姿は、見ていて気持ちが良い。
それを肴に、わらわもエール酒を味わう。
うむ、美味い。
すると、愛弟子が不意に言う。
「キルトさん、本当に美味しそうに飲むね?」
「ふふっ、そなたも飲むか?」
「うん、そうしようかな」
「ほう?」
これは珍しいの。
わらわは「そうか」と笑うと、店員にもう1つグラスを頼み、そこにエールの酒瓶を傾けてやった。
黄金色の液体が満ち、白い泡が柔らかに膨れる。
マールはそれを見つめると「いただきます」とグラスを持ち上げ、中身を飲む。
「うは、苦い」
「くはは、そうか」
「うん。でも、慣れると美味しくなるから不思議だよね」
「ふふっ、そうじゃな」
弟子の可愛い感想に、つい笑ってしまう。
ちなみに未成年に見えるが、マールは成人しておるので飲酒も問題ない。
そこまで考え、ふと思った。
わらわのような30半ばの女が、このような未成年に見える少年と共にいるのは、周りからどのように見えるのか、と。
しかもこのマールは、子犬のように可愛らしい顔立ちじゃ。
(…………)
思わず、酒を飲む手が止まってしまったわ。
「? どうかしたの、キルトさん?」
子犬は、無邪気に訪ねてくる。
わらわは苦笑し、「いや、何でもない」と自分に言い聞かせるように答えた。
まぁ、深くは考えまい。
わらわはただ、大事な愛弟子と酒を酌み交わしているだけじゃ。
それ以上でも、それ以下でもない。
そんなことを思うわらわの顔を、マールの無垢な青い瞳は、真っ直ぐに見つめてくる。
トクン
その穢れのなさに、心を射抜かれる。
(全く……この小僧は)
いつだったか、ソルの奴がマールを『人たらし』と評したことがあったが、なるほど、確かにそうかもしれぬの。
酒に酔ったか、ふと悪戯に訊ねてみる。
「のぅ、マール?」
「ん?」
「そなたから見て、わらわのような年齢の女にも魅力を感じたりするものかの?」
彼は驚き、
「うん、感じるよ」
即、そう答えた。
これには、聞いたわらわも面食らってしまう。
「そ、そうか」
答える声も、少しどもってしまった。
マールは「うん」と無邪気に笑って、頷く。
「年齢はあまり関係ないかな? 美人は美人だし、年上の人って包容力もあって、若い人より1歩引いて世界を見てるから、凄く大人な雰囲気だし」
「…………」
「少なくとも僕は、年上の女の人には魅力を感じるよ」
彼はそう言って、
「もちろん、キルトさんにも」
と、わらわの目を、綺麗な青い瞳でジッと見つめた。
(……ああ)
これは勘違いしそうになるの。
マールは、自分から他人へ向ける好意をまるで隠そうとしない。
まさに子供のように、子犬みたいに、無邪気な心のまま、素直にそれを口にするし態度にも表してくる。
けれど、それは決して恋愛感情ではないのだ。
(全く……)
自分の言動が与える影響をもう少し考えて欲しい。
ただ、まぁ、素直に好意を伝えられて、嬉しくない訳でもないのじゃが……。
わらわは苦笑し、
「そうか、ありがとうの」
「うん」
マールは穢れを知らぬ子犬のように頷いた。
その頬は、少しだけ赤い。
ああ、そうか。マールも少し酒に酔っておるのじゃな? じゃから、いつも以上に素直に心の内を口に出してしまうのじゃろう。
わらわは手を伸ばし、
「マール、そなたは悪い子じゃの」
キュッ
笑いながら、その赤い頬っぺたを指で摘まんでやった。
突然のことに、マールは「ほへ?」と目を丸くしてしまう。
その表情がまたおかしくて、わらわは堪え切れぬ笑い声を、つい周りにも響かせてしまったのじゃ。
ご覧いただき、ありがとうございました。
明日も、発売記念ショートストーリーの3話目を公開します。今度はソルティス視点となりますので、どうぞお楽しみに♪
また、ただ今、『少年マールの転生冒険記』コミック1巻、発売中です!
この表紙が目印
ご購入して下さった皆様、本当にありがとうございます!
まだ買われていない方、迷われている方は、コミック1巻にはあわや先生描き下ろしのおまけ漫画も掲載されていますので、もしよかったら、どうぞ読んでほっこりして下さいね。
最後に、マールの公式のコミック紹介サイト、アマゾン購入サイトのURLも貼っておきます。
マールの公式のコミック紹介サイト
https://firecross.jp/comic/series/525
アマゾン購入サイト
https://www.amazon.co.jp/dp/479863574X
よかったら、ご活用下さいね。
どうぞ、よろしくお願いします♪




