707・暑き日の呼集
皆さん、お久しぶりです。
待っていてくれた方、いらっしゃるでしょうか?(い、いますよね?) 本日より『少年マールの転生冒険記』の更新再開です。
実はお休み中、色々あって体調を崩してしまい2週間以上執筆できず、ストックがピンチです……。
で、でも更新、頑張ります!
どうか楽しんで頂けましたら幸いです。
それでは、本日の更新、第707話です。
どうぞ、よろしくお願いします。
「――今日も暑いね」
窓の外から照り付ける真夏の太陽に、僕は小さくため息をついた。
ここは、僕ら夫婦の家。
先日、クエストから帰ってきた僕らは、涼しい自宅で短い休暇の日々を過ごしていた。
台所にいたイルティミナさんは、
「そうですね。雨でも降れば、少しは気温が下がると思うのですが……」
「最近、降ってないよね」
「はい」
と、会話をしながら調理中だ。
魔狩人の仕事は、何よりも体力勝負な面があった。
だからこそ健康管理は重要で、特に食事に関しては、夏の暑さに負けずに取らなければいけなかった。
その点、僕の奥さんは優秀だ。
ただでさえ美味しい料理。
それに加えて、食べ易いように冷製パスタや冷やし雑炊など、夏でもパクパク食べられる物を作ってくれるのだ。
今日のお昼も、
「はい、お待たせしました」
「わぁ……」
「本日は、鶏肉と野菜を煮込んだスープに梅肉をまぶした茶漬けご飯、デザートにフルーツアイスですよ」
コト コト
テーブルに並べられるお皿には、魅力的な料理がたっぷりだ。
うん、美味しそう!
僕は青い目を輝かせて、「早く食べよう?」と促した。
彼女も「はい」とはにかんで、エプロンを外すと、僕と一緒に食卓の椅子に着いた。
2人で『いただきます」と手を合わせる。
それでは、実食。
パクッ モグモグ
「ん、美味しい!」
どれも味が完璧で、その香りと風味が食欲を更に誘う。
水分も多く、食べ易い。
梅で塩分も取れるし、最後のアイスはフルーツの酸味と甘さが合わさって最高だった。
あぁ、幸せ……。
料理上手な年上の奥さんって、素晴らしい。
僕は感動して、
「イルティミナさんと結婚できて、その手料理が食べられて……僕は世界一の幸せ者です」
と、素直な思いを口にした。
イルティミナさんは「まぁ」と驚く。
でも、嬉しそう。
少しだけ頬を赤らめながら、
「私も、マールと結婚できて、こうして愛されて……本当に幸せですよ」
と言ってくれた。
イルティミナさん……。
僕らは、思わず見つめ合ってしまった。
ドキドキ
鼓動が速くなる。
今日の予定は、何もない。
食事が終わったら、2人きりの時間を寝室で過ごすのも悪くないんじゃないかな?
うん、そうしたいな。
若さゆえに、そんなことを考えてしまう。
でも、
「…………」
イルティミナさんの真紅の瞳も、どこか潤んでいた。
そこに宿る、熱っぽい感情の色。
ゴクッ
その艶めかしい表情から、彼女も同じ気持ちなのだと気づいて、僕は思わず唾を飲んでしまった。
よ、よ~し!
今日はがんばるぞ。
イルティミナさんに喜んでもらえるように、精一杯、尽くしてあげるんだ。
僕の表情を読んだのか、
「ふふっ」
僕の奥さんは恥ずかしそうに、でも、嬉しそうに笑った。
暑い夏。
でも、僕らはもっと熱々な夫婦なのだった。
◇◇◇◇◇◇◇
翌日のお昼頃、来客があった。
カラン カラン
玄関の鐘が鳴らされて、僕の奥さんが「はい」と応対に向かった。
僕はリビングで、絵を描いていた。
うん、いつもの趣味だ。
日常のイルティミナさんの姿をスケッチして、あとで色付けしたりするつもりだったんだ。
でも、彼女が行ってしまったので、ちょっと中断。
(誰だろう?)
聞き耳を立てる。
けど、話し声は小さくて、よく聞こえなかった。
そして、3分もしないで、イルティミナさんが玄関から戻ってくる。
「マール」
「ん?」
呼ばれて、振り返った。
彼女の表情は、日常のそれではなく魔狩人の色があった。
(え……?)
と、驚く。
イルティミナさんの切れ長の瞳が僕を見つめた。
そして、言う。
「すみません、マール。来客は、ギルドの職員でした」
「ギルドの人?」
「はい。伝言を伝えられました」
「…………」
伝言?
僕は、キョトンと彼女を見つめ返した。
「誰からの?」
「キルトです」
「キルトさん……?」
「はい。どうやら、金印の魔狩人イルティミナ・ウォンに用があるようで、すぐに彼女の部屋まで来て欲しいとのことです」
「…………」
僕は、目を見開いた。
その物言い。
それは、私的な用事ではない。
つまり公的な、何か大きな事態があったのだと理解した。
僕は、息を吐く。
休暇中で緩んでいた気持ちを切り替えて、
「うん、わかった」
と、絵を描く道具を片付け、ソファーから立ち上がった。
僕ら夫婦は、すぐに外出準備を整える。
もちろん、冒険者の装備だ。
10分ほどして、家を出る。
強い日差しの中、ギルド職員さんが1台の馬車と共に、家前の通りで待っていた。
会釈し、馬車に乗り込む。
ガタ ゴトン
車輪が回り、馬車は動き出した。
その車内で、僕らは向き合うように座席に座っていた。
僕は聞く。
「キルトさん、どんな用事だって?」
「いえ、聞いていません。内容は、私たちに会って直接伝えるつもりだと、伝言で伝えられました」
「そう……」
「ただ」
「ただ……?」
「私たちだけでなく、ソルとポーにも声をかけたとか」
「あの2人にも?」
「はい」
「そっか」
僕は頷いた。
いつもの5人だ。
ソルティスとポーちゃんに会えるのは楽しみで、また一緒に冒険できるのかと思うと少しワクワクする。
でも、彼女たち2人も『銀印』だ。
僕らも入れたら、金印1人、銀印3人。
それに、英雄キルト・アマンデスもいるというかなりの戦力のパーティーになるんだ。
いや、実質、王国最強の冒険者パーティーかも……?
そして、それが求められている。
(…………)
いったい、何なんだろうか?
僕は、窓の外を見る。
広がる王都の景色は、とても暑そうで道の先には陽炎が揺らめいていた。
空は青く、高い。
遠くには、モクモクと育っていく入道雲の威容も見えた。
美しい夏の景色。
それを眺めて、僕は青い瞳を細めた。
この胸に感じる一抹の不安を押し殺しつつ、僕とイルティミナさんは、冒険者ギルドに向かう馬車に揺られていった。
◇◇◇◇◇◇◇
白亜の塔のような建物に到着した。
僕らは、馬車を下りる。
金印の魔狩人イルティミナ・ウォンの登場に気づいた冒険者や職員たちは、少しだけ騒がしくなった。
もちろん、僕の奥さんはそれらの視線を無視だ。
うん、相変わらず孤高の人だね?
それはともかく、僕も彼女を追いかける。
キルトさんの部屋のある3階を目指して、階段へと向かっていると、
「あら、イルナ姉?」
と、聞き慣れた声がした。
(え……?)
と、そちらを見れば、ちょうど同じ階段に向かおうとしていた紫髪の美女と金髪の幼女を見つけた。
「ソルティス、ポーちゃん」
僕は、思わずその名を呼んだ。
2人も片方が「やっほ、マール」と笑い、もう片方はビッと無言で親指を立てたりする。
その様子に、僕も笑ってしまった。
それから、聞く。
「2人も今、着いたとこ?」
「そうよ」
「…………(コクッ)」
「そっか。それじゃあ、一緒にキルトさんの部屋、行かない?」
「いいわよ。……ってか、ここまで来て別々に行く意味なんてないでしょうが」
と、ソルティスは呆れ顔だ。
(それもそっか)
僕も苦笑した。
彼女は「本当、馬鹿マールね」と笑い、肩を竦めている。
ポーちゃんも、その仕草を真似っ子だ。
あはは、面目ない。
そうして僕らは、4人で階段を上る。
途中、イルティミナさんが妹に話しかける。
「ソルたちも休暇だったのですか?」
「ん~、と言うか、今日から休みの予定だったのよ」
「まぁ……」
「色々とやりたいことあったんだけど……でも、この呼び出しで潰れる気配よねぇ……」
ソルティス、遠い目だ。
僕とイルティミナさんは顔を見合わせ、苦笑してしまう。
ポーちゃんは、
ポムッ
慰めるように相棒の肩を叩いていた。
そんな感じで、階段を上ってギルド3階に着くと、廊下を進み、1番奥の突き当たりの部屋の前に辿り着いた。
イルティミナさんが白い手をあげ、
コンコン
と、扉をノックする。
数秒の間、扉の向こうから人の気配がして、ガチャと扉が開けられた。
そこにいたのは、小柄な銀髪の美女。
キルトさんだ。
彼女は僕らを見て、
「うむ、4人ともよく来たの」
と、白い歯を見せて笑った。
そのまま、室内へと案内される。
僕とイルティミナさん、ソルティスとポーちゃんは、荷物を部屋の隅に下ろして、キルトさんに勧められるまま、リビングのソファーに腰を下ろした。
柔らかなクッションが僕らを受け止める。
キルトさんは、紅茶も淹れてくれた。
氷も入れられて冷たくされたそのアイスティーのグラスが目の前のテーブルに並び、僕らはそれぞれミルクや砂糖を足して、それをすする。
(ふぅ……生き返る)
ホッと一息。
外の暑さにかいていた汗がスゥ……と引いていく感じがした。
そんな僕らを、キルトさんは眺めた。
それから場が落ち着いたのを見計らって、口を開く。
「4人とも、暑い中、足労をかけてすまなかったの」
まずは、そう謝罪。
豊かな銀髪を肩からこぼしながら、頭を下げてくる。
僕は「ううん」と首を振った。
キルトさんに悪気がないのはわかっている。
というか、彼女だって、休みの僕らをわざわ呼び出したくはなかったはずだ。
でも、呼んだ。
呼ばざるを得ない何かがあったのだと、僕らも推測していた。
だから、聞く。
「いったい、何があったの?」
と。
イルティミナさん、ソルティス、ポーちゃんも同じ気持ちだろう。
4人を代表した僕の質問、その答えを聞くように、みんなで銀髪の美女を見た。
キルトさんは「うむ」と頷いた。
少し重そうな吐息を1つ。
それから表情を改めて、顔をあげる。
その紅い唇が開いて、
「結論から言うとの。わらわたち5人はシュムリア王家の命によって、今日これから王都を発ち、北方のテテト連合国に行くことになったのじゃ」
と、告げたんだ。
ご覧いただき、ありがとうございました。
次回更新は、今週の金曜日を予定しています。どうぞ、よろしくお願いします。
また、マールのコミカライズ第7話が16日火曜日(の多分、お昼頃)に公開予定です。
URLはこちら
https://firecross.jp/ebook/series/525
マールとイルティミナだけでなく、ついに『あの2人』も漫画に初登場です!
公開されましたら、どうか読んでやって下さいね♪




