699・海中の世界
第699話になります。
よろしくお願いします。
運動すれば、お腹も空く。
海で遊んだ僕らは、ちょうど時間もよかったので、近くの食堂で昼食を取ることにした。
小さな食事処だ。
旅人相手というよりは、地元民を相手に商売しているような店舗だった。
初老のご夫婦だけで経営しているらしくて、僕らは水着の上に上着を羽織っただけの状態で、その食事処でテーブルの1つを囲んだ。
谷間の時間なのか、他の客の姿はない。
僕ら5人は思い思いに注文して、やがて、15分ほどで料理がテーブルに並んだ。
(わぁ……美味しそう!)
その海鮮料理たちに、僕は目を輝かせた。
魚介類の網焼き、刺身、天ぷら、フライ、塩焼きなどなど……色んな海の幸が見事な料理となっていた。
仄かな潮の香りがして、食欲をそそる。
ゴクッ
僕らは、唾を呑む。
「いただきまぁす!」
皆で手を合わせ、そして僕らは料理へとフォークやナイフを伸ばした。
(ん!)
やっぱり美味しい!
僕は刺身を食べたんだけど、食材が新鮮なのか、思った以上に味が良くて、ちょっと感動するぐらいだった。
「んん……たまんないわぁ」
食いしん坊なソルティスも、網焼きされたサザエみたいな貝の身を頬張って恍惚の表情だ。
ポーちゃんは、海老の天ぷらをモグモグ。
イルティミナさんは白米も頼んでいて、焼き魚と一緒に口に運んでは「ん……これは良い味付けですね」と感心したように頷いていた。
キルトさんは、
「ぷはぁ♪」
あぶった魚の骨の入ったお酒のグラスを片手に、満足そうな笑顔だ。
うん、いいお店に当たったね。
小さな食事処だけど、料理は本当に美味しくて、僕らは5人とも幸せな時間を過ごせたんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
他にお客さんがいないからか、店主のご夫婦と色々と話をしたりした。
このお店には、やはり、あまり旅人は来ないらしくて、だからこそ、僕らみたいな旅人には興味があったらしく、向こうもお喋りしてみたかったみたいなんだ。
その中で、セントルーズ湾についての話をした。
海は危険だ。
それは、前世の海よりも危険な生物が多いから。
例えば、僕らが遊んでいたビーチは浅瀬なので、毒クラゲやウミヘビなど以外は、特に危険は少ないらしい。
でも、そこから少し先は様子が変わる。
水深20~30メードぐらいの海中には、鮫などの他、体長5メード未満の海の魔物……例えば、龍魚や鬼蜘蛛大蛸などが生息しているそうだ。
(…………)
想像したら、背筋が寒くなった。
何もない広い海中。
その奥の暗がりから音もなく、そうした人も喰らう巨大な魔物などが姿を現す光景は、想像だけで充分、実際には体験したくない光景だろう。
そんな海域の更に奥。
水深100メード以上の海中には、体長30メード以上の超巨大な魔物も出没するとか。
中には、300メードを越える海龍や巨大イカの魔物なども目撃されたことがあるそうで、まさに人外の魔境となるそうだ。
あぁ……やだやだ。
そんな沖の海には、絶対に行きたくないよ。
話を聞いたソルティスも青い顔で、でも、モグモグとスルメの足を齧るのだけは止めていなかったけど……。
ちなみに、漁師たちも水深20~30メード付近の海でしか漁をしていなくて、それより沖には、よほどのことがない限りは出ないんだって。
(うん、その方がいいよ)
そうした安全への意識に、僕は激しく同意だ。
キルトさんは、グラスの酒を飲みつつ、
「ふむ……実はわらわたちは『光の昆布』と『蒼白の花苔』という海草を探しておっての。この辺の海で手に入ると聞いたのじゃが、ご主人たちは知っておるかの?」
と、店主のご夫婦に訊ねた。
ご夫婦は顔を見合わせ、こう答えた。
その2つの海草は、水深20~30メードの海域の海底によく生えていたらしい。
10年前まではかなり繁殖していて、漁師たちも小遣い稼ぎのように素潜りで採取しては、素材を扱う行商人などに売っていたそうだ。
でも、そうした乱獲で数が減った。
ここ数年は、滅多に目にすることもなくなって、現在は漁師たちも集めていない。
だから今、海に潜っても入手できるかはわからない。
…………。
その答えに、僕らは顔を見合わせてしまった。
ソルティスの話では、その2つの素材は環境変化にも弱くて、今年の異常気象で更に数を減らしていると予想されていた。
それも考えると、
(もしかして見つけること自体、できないかも……?)
そんな気がしてきた。
しかも、意外と危険な海域での探索と採取になるみたいだし、コロンチュードさんの話を聞いた時にはわからなかったけど、思った以上に大変な依頼だったかもしれない。
キルトさんも「ふぅむ」と水着の胸の前で腕組みして唸ってしまった。
やがて、食事も終わり。
僕らは店主のご夫婦にお礼を伝えて、食事処をあとにしたんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
僕らは、白い砂浜のビーチへと戻ってきた。
ザザァン
波が打ち寄せる。
広がる海面は夏の太陽の光を反射して、キラキラと万華鏡のように輝いていた。
「…………」
僕ら5人は砂浜から、その海を見ていた。
しばらく、誰も喋らない。
やがて、イルティミナさんが黒い水着の銀髪の美女を見ながら、口を開いた。
「どうします?」
「……ふむ」
「地元民にもう少し聞き込みをしても良いですが、似たような回答になりそうです。どうやら、かなり採取し辛い素材のようですね」
「そうじゃな」
キルトさんは重々しく頷いた。
銀の前髪をかき上げ、
「まぁ、コロンの依頼じゃ。失敗しても構わぬが……」
「ちょ、待ってよ!」
抗議の声をあげたのは、ソルティスだ。
両手を上下させ、育った胸を揺らしながら、
「コロンチュード様に直々に頼まれたのよ!? 失敗なんてできる訳ないじゃない! 簡単に諦めないでよ!」
ちょっと泣きそうな顔だ。
本当に尊敬してるもんね、コロンチュードさんのこと。
ちなみに、
ブンブン
その養女である金髪の幼女は、隣で相棒を真似て、両手を上下させていた。
(…………)
うん……遊んでる姿から、ポーちゃん自身はそこまで依頼の成否にこだわりないみたい。
とはいえ、
「でも、まだ話を聞いただけだよね」
「む?」
「実際の海の状況はわからないし、潜ったら、案外生えているかもしれないよ?」
と僕は、みんなに言ってみた。
諦めるのは、いつでもできる。
だったら、それまで色々と粘って、本当に諦めなければいけないのかを確認してみてもいいと思うんだ。
僕だって、コロンチュードさんのことは好きだ。
色々お世話になってるし、できるなら、彼女の欲しがっている素材を手に入れて、それで喜んでもらえたらなって思う。
ソルティスの落ち込む姿も見たくないしさ。
その紫髪の少女は「マール……」と驚き、すがるように僕を見つめた。
僕は微笑む。
それから、キルトさん、イルティミナさんを見た。
「ふむ……」
キルトさんは、あごに手を当て考え込む。
僕の奥さんは「キルト」と名を呼び、自分の豊かな胸に片手を当てて、情熱的に訴えた。
「マールの言葉ですよ?」
「…………」
「それに簡単に依頼失敗などしたら、鬼姫キルトの名が廃るでしょう。コロンチュードも、そんな貴方をどんな目で見ると思います?」
「……む」
キルトさん、美貌をしかめた。
僕、ソルティス、ポーちゃんも黒い水着の美女を見つめる。
やがて、彼女は嘆息した。
「仕方あるまい」
「キルトさん」
「マールの言う通りじゃ。まずはやるだけやってみるかの」
と、僕に苦笑した。
僕も「うん」と笑った。
ソルティスも「キルトォ」と嬉しそうに抱きつき、ポーちゃんも反対側から両手を回した。
2人に抱きつかれ、苦しそうなキルトさん。
その様子に、僕とイルティミナさんは顔を見合わせて笑ってしまった。
キルトさんは年下2人の頭を撫でる。
それから、ポニーテールにされた銀髪を振るって、僕らを見回した。
「よし! ならば、午後はこのまま実際に海中に潜って、どのような状態かの下調べと行こうかの」
「うん」
「はい」
「そうしましょ!」
「承知」
その銀髪の美女の言葉に、僕らも笑顔で応えたんだ。
ご覧いただき、ありがとうございました。
次回更新は、来週の月曜日を予定しています。どうぞ、よろしくお願いします。
また日曜日に、新作小説を投稿しようかと思っています。
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