686・銀印のポー・レスタ
本日、年内最後の更新となります。
第686話です。
よろしくお願いします。
3日後、僕らは王都ムーリアへと帰還した。
冒険者ギルドで『癒しの霊水』100リオン分を納品すると、本来の倍の量だったので依頼主の商業ギルドからも喜ばれて、後日、特別報酬も出してもらえた。
それも結構な高額。
その額を聞いて、僕は驚いてしまった。
(なるほど)
世間で『癒しの霊水』の需要が高まっているという話は本当なんだね?
それを実感したよ。
でも、今回は魔物との大した戦闘もなくて、魔狩人の僕としては働いた実感があまりなかった。
こんなにもらっていいのかな?
少し悩んじゃう……。
そんな僕に、ソルティスは呆れて、
「アンタって、本当に真面目ねぇ」
と、苦笑していた。
…………。
ともあれ、クエストは達成だ。
通常以上の成果をあげたので、冒険者ギルドからの評価も高くなった。
今回の特殊クエスト――つまり、ポーちゃんの『銀印の冒険者』としての昇印試験は、これで合格間違いなしだろう。
ギルド職員さんも明言しないけど、そんな表情と態度だった。
(……うん)
僕とソルティスは顔を見合わせる。
そして、笑い合った。
ただ当事者であるポーちゃん本人は、あまり興味なさそうだったのがおかしかったけどね。
イルティミナさん、キルトさんは、北部の都市アルトリウムからまだ戻っていなかった。
帰還予定まで、あと3日。
テテト連合国首長たちとの会談は、日程的にもう終わっているはずだから、今は恐らく帰りの馬車に乗っている頃じゃないかな……?
(早く会いたいな……)
遠くにいるお嫁さんを思って、少し切ない。
寂しがる僕を気遣ってくれたのか、ソルティスは3日間、自分たちの家に僕も泊まるように言ってきた。
ちょっと驚く。
「だって、今のマール、1人だと寂しくて死んじゃいそうな顔してるんだもの」
「…………(コクコク)」
「…………」
ソルティスにそう言われ、ポーちゃんにも何度も頷かれてしまった。
僕、兎かな……?
でも、その気遣いは嬉しかったし、実際に寂しかったので素直に甘えることにした。
ありがとう、ソルティス、ポーちゃん。
そうして、その日から3日間、僕は『ソルティスとポーちゃんの家』でお世話になった。
3人での暮らしは、楽しかった。
一緒に料理を作ったり、片づけをしたり、本を読んだり、昼寝をしたり……穏やかな時間を過ごせたんだ。
そんな中、こんな話もした。
ある日の夕食時だ。
ソルティスは、スパゲッティを食べながら、
「アルドリア大森林・深層部の『癒しの霊水』が湧いてる塔の存在って、実は、世間に公表されてないのよね」
と言った。
僕は青い瞳を丸くする。
「そうなの?」
「そうよ。だから、霊水が欲しいって人がいても、実際、それが湧いてる場所を見つけるところから始めなければいけないから大変なのよね」
「ふぅん……でも、なんで秘密なの?」
「まぁ、深層部が危険だから、霊水を求めて安易に人が近づかないように……って配慮もあると思うけど、1番の理由は、やっぱ、マールじゃない?」
「僕……?」
思わず、食事の手が止まってしまった。
モグモグ
ソルティスは止めずに、食事を続ける。
口に頬張ったそれを咀嚼し、嚥下してから、言葉を続けた。
「あそこは、マールにとって大切な場所でしょ?」
「…………」
「つまりさ、王家としての配慮なのよ。色々と自分たちに貢献してくれている『神狗』様への、ね。それで、他人に踏み荒らされないようにしてくれてんの」
「……そっか」
思わぬ理由には、やっぱり驚く。
でも、胸が熱くなった。
確かに、あそこは転生したばかりの僕が暮らした場所で、言うなれば、この世界における実家みたいな存在だ。
そんな僕の思いを、多くの人々が大事にしてくれていた。
そう思うと、堪らない気持ちだった。
「今度、レクリア王女に会ったら、お礼を言っておかないといけないね」
「そうね、そうしときなさいよ」
「うん」
微笑むソルティスに、僕も笑って頷いた。
そんな話をしている間に、気配り屋のポーちゃんは、僕らのグラスに果実水のおかわりを注いでくれた。
うん、ありがとう。
そんな風にして、それからも3人での食事を楽しんだ。
…………。
僕らの時間は流れて、あっという間に3日が経った。
そして、ついにイルティミナさんとキルトさんの2人が帰ってくる日がやって来たんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
「マール!」
冒険者ギルドの前で馬車を降りたイルティミナさんは、直後、出迎えに来ていた僕に抱きついていた。
って、わぁ!?
人目がある中での熱烈な抱擁は、少し恥ずかしい。
でも、僕の奥さんは気にした様子もなくて、「あぁ、マール、マール!」と言いながら僕の顔にキスの雨を降らせたり、髪の匂いを嗅いだりしてくる。
そしてまた、ギュウッと抱きしめてきた。
見れば、彼女の目元には涙が滲んでいた。
(……イルティミナさん)
その姿に、僕は微笑む。
それから、そんな彼女を僕からも強く抱きしめ返してあげたんだ。
…………。
馬車からは、イルティミナさんに続いてキルトさんも降りてきていた。
彼女には、ソルティスが「お疲れ」と声をかけ、ポーちゃんも労うように腕を叩いていて、キルトさんも「うむ」と鷹揚に笑っていた。
それから3人で僕ら夫婦を見て、ポーちゃん以外の2人が苦笑する。
僕は目線を合わせ、
(おかえり、キルトさん)
と微笑んだ。
ちなみに、イルティミナさんの抱擁が強すぎて声は出せなかった。
それを察して、キルトさんは『大変じゃの』という表情を見せてから、すぐに笑顔で頷いてくれた。
…………。
そのあと、2人はギルド長に帰還の報告に向かった。
イルティミナさんが僕を離してくれなかったので、なぜか僕まで同行することになったけど、ムンパさんは笑って受け入れてくれた。
あはは……すみません。
挨拶と報告が終わったあとは、5人で『キルトさんの部屋』に集まった。
2人がシャワーを浴びたりして旅の疲れと汚れを落としたあと、そこでルームサービスの料理を食べながら、お互いの報告会を行った。
僕らは、アルドリア大森林・深層部でのことを話した。
特に問題なく、クエスト達成できたこと。
その際、100リオンの霊水は、やっぱり重かったこと。
でも、『トグルの断崖』は僕の翼で飛び越えたので、その1番の難所は、全然、楽だったこと。
その報告に、
「さすが、マール」
と、僕の奥さんは嬉しそうだった。
(えへへ)
それから最後に、ポーちゃんが無事に『銀印の冒険者』になれそうだと伝えると、2人も納得した表情で頷いていた。
銀髪の美女は、
「ふむ、ようやく、といった感じじゃの」
と言った。
今回のポーちゃんの昇印は、キルトさんの推薦から始まったという。
キルトさんとしても、ポーちゃんほどの実力者には、それに見合った地位にいてもらいたいと前から思っていたのかもしれないね。
僕の奥さんは、
「おめでとうございます、ポー」
と、僕を抱きしめたまま、祝福の言葉を送っていた。
コクン
ポーちゃんは無言で頷いた。
本人的には昇印に興味はないけど、周りの皆が喜んで、祝ってくれることには、何かしら感じるものがあるみたいだ。
優しいよね、ポーちゃん。
こちらの話をしたあとは、2人の番だ。
テテト連合国首長との会談、会合は、どんな様子だったのかを、僕らも聞くことになった。
「ま、普通じゃ」
と、キルトさん。
単純に、そこでは外交上の話が行われたそうだ。
具体的には、テテト連合国は北国で食糧事情に弱いから、シュムリア王国側から食糧の輸出が行われているのだけど、冬に向けてその量を増やしたいという話。
代わりに、連合国側からは、妖精鉄を始めとした鉱石、鉱物などの輸出を行っている。
会談では、その数字、金額などの調整をしたそうだ。
(ふ~ん?)
難しい国同士の話だ。
庶民の僕らには、縁遠いかもしれない。
特に僕らは『魔狩人』が仕事だから、そういった輸出入に関わることもないもんね。
というか、
「イルティミナさんが行く必要、あったの?」
と、僕は首をかしげた。
キルトさんは苦笑する。
イルティミナさんは嘆息して、
「連合国首長が、個人的に私に……シュムリアの『金印』に興味があったみたいですね。外交上の必要性は、全くなかったと言えるでしょう」
「…………」
「本当に馬鹿らしいことです」
「そ、そう」
ご立腹の奥さんに、僕は何も言えなかった。
キルトさんは「それも金印の仕事じゃ」と先達らしい達観した言葉を述べていたけど、僕の奥さんは肩を竦めていた。
そんな2人に、僕とソルティスは顔を見合わせ、困ったように笑った。
ポーちゃんだけは、どうでもよさそう。
その時、
「ただ……まぁ、少し気になる発言はあったのですけどね」
と、イルティミナさん。
気になる発言?
キョトンとする僕に、
「テテト連合国内で、少々、気になる事態が起きているようで……それについての助言を求められました」
「それって?」
「それは……」
言いかけて、彼女は、隣の銀髪の美女を見る。
元・金印の美女は「ふむ」と少し考えると、顔をあげた。
「いや、そのことは気にしなくていい」
「…………」
「状況が動けば、改めてそなたらにも話すかもしれぬが、今は考えても仕方のない部分が大きいからの」
「そうですね」
キルトさんの言葉に頷くイルティミナさん。
…………。
なんか、気になる言い方だ。
でも、2人ともそれ以上は何も語る気はなさそうで、ソルティスも気になったみたいだけど追求はしなかった。
2人のことは、信頼している。
彼女たちがそう言うなら、僕からは聞かないことにしよう。
(……うん)
いつか話せる時が来たら、ちゃんと話してくれると思うから。
…………。
そんな感じで、その日は久しぶりに5人で集まったということで、少し羽目を外しながら『キルトさんの部屋』で泊まって楽しい時間を過ごしたんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
翌日、ポーちゃんが『銀印の魔狩人』に昇印することが、冒険者ギルドから正式に発表された。
そして、就任式も行われた。
冒険者ギルド・月光の風の1階フロアに、所属冒険者、職員が集められて、ギルド長のムンパさん直々にポーちゃんが皆に紹介されたんだ。
式には、もちろん、僕、ソルティス、イルティミナさん、キルトさんも参列した。
実は、イルティミナさん、キルトさんの2人の帰還を待って、今回の就任式が行われたんだ。
2人とも、ギルドの顔だからね。
ザワザワ
ポーちゃんが紹介されて、冒険者たちの中には、ざわつく人もいた。
当然だろう。
だって、彼女の見た目は、まだ10歳ぐらいなのだ。
実際には15歳だけど、人間、やっぱり見た目の印象は強いし、『あんな子供が?』、『大丈夫?』という感情は湧いてしまうものだろう。
けど、紹介が続いて、すぐに皆、納得した。
ポー・レスタ。
そう、彼女は『レスタ』という性なのだ。
それはポーちゃんが、シュムリア王国の伝説の『金印の魔学者』コロンチュード・レスタの養女であるという意味であり、その才能が認められたという証明でもあった。
また、キルトさんも挨拶で、ポーちゃんには一目置いていると明言した。
このギルドのトップとして、10年以上、金印に君臨していた魔狩人からのお墨付きである。
更に、イルティミナさん。
現役の金印である僕の奥さんも、ポーちゃんの実力を認めていると発言して、皆を驚かせた。
同時に、そんなイルティミナ・ウォンの実妹がコンビを組んでいて、そのソルティス・ウォンも『銀印の魔狩人』の実力者だということがよりポーちゃんの信頼を呼んだ。
(……うん)
懐疑的だった視線は、ほとんどなくなった。
むしろ、感心、興味、そうした感情の方が多くなった気がする。
やがて、本人の挨拶。
と言っても、
「がんばる」
その一言。
皆が呆気に取られ、でも、僕らは『ポーちゃんらしい』と笑ってしまった。
どんな時でも、ポーちゃんは変わらない。
それが、何だか嬉しかった。
パチパチパチ
僕は、拍手した。
ソルティス、イルティミナさん、キルトさんも拍手をしていて、それを見た皆も、狐に抓まれた表情のまま拍手をしだした。
パチパチパチ……ッ
フロアに、盛大な拍手の音が響く。
そんな一同に、金髪の幼女は『ども』と会釈する。
ちょっと可愛い。
みんなの表情も、少し和んだ気がした。
ふと気づいたら、隣のソルティスは拍手をしながら、目に涙を浮かべていた。
(…………)
僕は微笑んだ。
同じように気づいたイルティミナさんも、妹の様子に優しい眼差しだった。
キルトさんも黄金の瞳を伏せ、淡く微笑む。
僕らの大切な仲間。
同じ神の眷属。
神龍の幼女。
そんなポーちゃんが今日、ついに『銀印の魔狩人』として人々に認められたんだ。
(……うん)
それが嬉しい。
胸が熱くなるぐらい、嬉しくて、よかった……と思った。
彼女を見つめる。
ポーちゃんは拍手してくれる人々に、小さな両手を軽く振った。
ヒラヒラ
柔らかく動く手。
その右手の甲には、銀色に光る魔法の紋章が美しく輝き、その空間にキラキラした煌めきの結晶を振り撒いていた。
ご覧いただき、ありがとうございました。
これにて年内の『少年マールの転生冒険記』の更新は最後となります。
今年もマールの物語を読みに来て頂いて、皆さん、本当にありがとうございました。
次回は来年、1月12日金曜日に再開予定です。
もしよかったら、どうかまた来年も読みに来てやって下さいね。
それでは、良いお年を~♪




