表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/825

007・イルティミナ・ウォン

第7話になります。

よろしくお願いします。

 色々と諦めた僕は、隠れていた女神像の後ろから出る。


 イルティミナと名乗ったその女の人は、そんな僕へと近づくと、ゆっくりと床に片膝をついた。


 子供の僕を威圧しないように、目線を下げてくれたんだ。


(うん……やっぱり、いい人かも)


 マール査定の評価を上げる、お姉さん。


 その桜色の唇が開いて、


「マール、また教えて欲しいのですが……」

「?」


 首をかしげる僕の前で、その真紅の瞳は、ゆっくりと礼拝堂の中を見回した。


「ここに、なぜ私がいるのか、貴方は知っていますか?」


 あ、そうか。


 イルティミナさんにしてみれば、森で倒れたはずが、目が覚めたら突然、この見知らぬ場所にいたんだ。


(それは、びっくりしたよね)


 そう納得しながら、僕は、素直に頷いた。


「うん、知ってる。僕が、ここまでイルティミナさんを運んできたんだ」

「……貴方が? 私を?」


 彼女は、目を丸くする。


 どう説明したものか、僕は悩んだ。


(あ、そうだ)


「こっち来て」

「?」


 不思議そうなイルティミナさんを手招きしながら、僕は螺旋階段へと駆けていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「これは……っ」


 見張り台の眼下に広がる、広大な森の世界を見つけて、イルティミナさんは驚きの声を漏らした。


(あは、いい顔するなぁ)


 なぜか、ちょっと嬉しい。


 僕は、そんな彼女の腕を引っ張って、ちょうど反対側にあった巨大な崖の方を、小さな指で示した。


「あそこ、崩れているのがわかる? 僕は、あそこでイルティミナさんを見つけたんだ」

「あれは……トグルの断崖」


(……トグルの断崖?)


 そういう名前の崖だったのかな。


 吹き抜ける風が、彼女の美しい髪を長くたなびかせる。


 それを手で押さえながら、彼女は、しばらく自分の発見場所となった崖の部分を見つめていた。


「そうですか……私は、森の深層部に落ちてしまったのですね」


 独り言のような、小さな呟き。


 それから、彼女は僕を見た。


 さっきまでと違って、少し怖い表情だった。


「マール」

「ん?」

「もしや、そこには赤い竜がいませんでしたか?」


(赤い竜というと、あれかな?)


 僕は頷いた。


「いた。死んでた」

「…………。そうですか」


 僕の答えに、彼女は、とても安心したように息を吐いた。


(え……まさか?)


 その反応に、僕はふと思ってしまった。


 恐る恐る、訊ねてみる。 


「あの……もしかして、あの竜をやっつけたのは、イルティミナさんなの?」

「はい」


 当たり前のように頷くお姉さん。


(えぇえええ、本当に!?)


 衝撃の事実に、まじまじと、その美貌を見つめてしまう。


 この綺麗なお姉さんは、その美しい見た目に反して、思った以上の武人さんだったようだ。


 正直、信じられない。


 いや、嘘を言っているようには見えないんだけれど、見た目とのギャップが大きすぎて、すぐには受け入れられなかったんだ。


 僕の視線に、イルティミナさんは、少し困ったように笑っていた。


 やがて表情を改めて、


「私を見つけた時、そばに白い槍は落ちていませんでしたか?」


 こんなことを訊ねられた。 


(白い槍?)


「私の槍です。先端の方に、鳥の翼のような大きな飾りが付いているのですが、見ませんでしたか?」


 キョトンとする僕に、手ぶりも交えて説明する。


(…………)


 僕は、首を横に振った。


「ごめんなさい、覚えてない」

「…………」

「僕が見つけた時、イルティミナさんは大怪我をしていたんだ。それで……他のことなんて、気にする余裕はなかったから」

「大怪我……」


 彼女の白い手が、自分の脇腹に触れた。


 その部分の鎧には、大きな穴が空いていて、その下にある白い素肌が見えてしまっている。


 イルティミナさんは、その傷口を見つめ、それから僕を見る。


「貴方が治してくれたのですか?」

「…………」

「赤牙竜に不覚を取り、その牙でここを貫かれたことは覚えています。もしや、マールは、回復魔法が使えるのでは?」

「ううん、違うよ」


 変な誤解をされないよう、はっきりと否定する。


「助けたのは、それ」


 僕の小さな指は、イルティミナさん自身を示す。


 正確には、その大きな胸の谷間にある『灰色の石』のペンダントだ。


「これは……?」


 その存在に気づいていなかったらしい彼女は、白い手にそれを取る。


 数秒、それを見つめ、


「え……? まさか、これは『命の輝石』!?」


 驚愕の表情で叫んだ。


 信じられないものを見つめる顔で、色々な角度から眺めて、やがて大きく息を吐いた。


「……間違いありません、本物です」


 凄い反応だった。


(もしかして、貴重なアイテムだったのかな?)


 よくわからない僕は、首をかしげてしまう。


 でも、それを伝えた以上、僕は、やっぱり自分の罪も告白しなければいけなかった。


「ごめんなさい、イルティミナさん」

「……え?」


 謝る僕を、彼女は驚いたように見る。


 僕は言った。


「あの時、僕は何もできなくて。……そのペンダントに任せて、大怪我したイルティミナさんが死ぬのを、そのまま待っていたんだ」

「…………」


 イルティミナさんは生き返った。


 でも言い換えれば、それは彼女を一度、見殺しにしたということだ。 


(…………)


 怒られるだろうか?


 呆れられるだろうか?


 軽蔑されるだろうか?


 心の中では、不安がいっぱいだった。


 うつむいた顔が上げられない。


 でも、僕は甘んじて、その怒りを受けなければならないと思った。


 沈黙が落ちる。


 穏やかな陽光の差し込む見張り台なのに、僕には、とても暗いように感じられた。


「頭を上げてください、マール」


 美しい声がした。


 緊張しながら顔を上げると、そこには優しく微笑むイルティミナさんの姿があった。


「それでは、マールは、死んでしまった私を、こうして生き返らせてくれたのですね」

「いや、それは――」


 僕じゃなくて、そのペンダントが。


 ギュッ


 そう続けようとした僕の身体が、突然、イルティミナさんに抱きしめられた。


(……え?)


「ありがとう、マール」


 白い手が、優しく髪を撫でてくれる。


「こんな見知らぬ女のために、貴方は『命の輝石』を使ってくれた。私を助けてくれた」

「…………」


 少しだけ身体が離れる。


 僕の両肩に白い手を置いて、その真紅の瞳は、真っ直ぐに僕の青い瞳を見つめた。


「このイルティミナ・ウォンは、その恩を決して忘れません」


 ギュッ


 また抱きしめられた。


(…………)


 触れ合う身体が温かかった。


 その優しい声に、心が震えた。


 突然、異世界の森に転生してから、ずっと1人ぼっちだった心に、その人肌の温もりはとても懐かしかった。


(……っ)


 その胸の中で、僕は少しだけ泣いてしまった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミックファイア様よりコミック1~2巻が発売中です!
i000000

i000000

ご購入して下さった皆さんは、本当にありがとうございます♪

もし興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、ぜひご検討をよろしくお願いします。どうかその手に取って楽しんで下さいね♪

HJノベルス様より小説の書籍1~3巻、発売中です!
i000000

i000000

i000000

こちらも楽しんで頂けたら幸いです♪

『小説家になろう 勝手にランキング』に参加しています。もしよかったら、クリックして下さいね~。
『小説家になろう 勝手にランキング』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ