619・のぼせる露天風呂
第619話になります。
よろしくお願いします。
『ここがいいわね』
しばらく進むと大河があり、マリアーヌさんは、その岸辺の岩場を見て頷いた。
彼女に命じられて、護衛の3人の竜人さんが大きな竜の手と爪で岩をどかし、地面を掘っていく。
すると、地面の奥から、湯気をあげるお湯が湧き出してきた。
わっ?
「温泉だ!」
驚く僕に、マリア―ニさんは満足そうに笑った。
どうやらこの地域一帯は、活火山が近くにある影響で、地熱が物凄く高いらしい。
そのため、地面を掘ると温泉が湧いてくるのだそうだ。
(凄いなぁ)
源泉のままだと熱いので、川の水を引いて温度調整。
調整したら、水路に大きな岩を置いて塞ぐ――これで、天然露天風呂の完成だ。
ピチョッ
指で触る。
42~43度ぐらいかな?
(うん、ちょうど良さそうだ)
そうして、僕らは極寒の寒空の下、温かな温泉に入れることになった。
◇◇◇◇◇◇◇
『はぁ……いいお湯ね』
竜に似た顔を緩ませて、マリアーヌさんは吐息をこぼした。
キルトさんも『うむ』と笑っている。
でも、僕は笑えなかった。
もちろん、ソルティスも笑っていなかった。
ポーちゃんは無表情。
そしてイルティミナさんは、
「マール? せっかくの温泉なのですから、そんなに硬くならないで、もっとリラックスしていてくださいな」
と、僕に優しく微笑みかけて、肩を揉んでくれた。
…………。
いや、無理です。
だって僕は今、露天風呂にみんなと一緒に入らされているんだから。
男は、僕1人。
みんなは、もちろん全裸。
ちなみに護衛の3人は、見張りのために岩場の周囲で外側を向いていた。
(なぜ、こんなことになった……?)
僕は心の中で頭を抱える。
いや、最初は順番に入るつもりだったんだよ?
でも、マリアーヌさんが僕もいるのに、当たり前のように服を脱ぎだして、僕は慌てて顔を逸らしたんだ。
みんなも驚いていた。
でも、彼女は『?』と首をかしげ、
『何をしてるの? みんな、早く入りましょう?』
なんて言うんだ。
僕は『あとで入る』って言ったんだ。
だけど、彼女はおかしそうに笑って、
『別に竜人の身体に欲情する訳でもないんでしょ? それに神狗様は子供なんだから、周りだって気にしないわよ。――ねぇ?」
そう女性陣に問いかける。
いやいや。
竜人さんは、手足や背中に鱗はあるし、竜の顔や尻尾もあるけど、それ以外は人間と似ているんだ。
マリアーヌさんも、胸からお腹、下半身にかけては、人間の女性にそっくり。
胸の谷間には、首飾りの円盤が揺れている。
人のように毛がない分、胸やお腹はツルツルして滑らかな光沢があり、肌触りも良さそうだった。
なので、やっぱりドキドキするのだ。
それに、
『僕、成人してるんだけど……』
と訴えた。
彼女は『え? そうなの?』と驚いていた。
まぁ、見た目はチビの童顔で、まだ15歳以下の未成年に見えるからわかるんだけどね……。
ソルティスも激しく頷いて、
『マ、マールはあとで、1人で入ればいいでしょ?』
と同じように訴える。
ちょっと頬が赤い。
ポーちゃんは、そんな相棒の横顔をジ~ッと見ていた。
キルトさんは、どっちでも良さそうな顔。
イルティミナさんは、
『1人でなんて、それではマールが寂しいでしょう。私も、あとでマールと共に入りますよ』
と言った。
うん、それがいい。それでいい。
僕はそう思った。
だけどマリアーヌさんは呆れた顔をして、
『何言ってるの? 私たちには目的があるのよ? そんなに時間をかけて温泉に浸かっていられないわ。それに貴方たち、ずっと仲間だったんでしょ? 裸ぐらいいいじゃない』
なんて言ってくるんだ。
た、確かに、あまりのんびりしてる訳にはいかないけどさ。
でも、だからって混浴なんて……。
(うぬぬ……)
僕は、羞恥心と罪悪感の板挟みになってしまった。
ソルティスも同じ顔だ。
そうしたらキルトさんが、
『まぁ、そうじゃな。マールもソルも、今更であろう。ここは皆で入るとするかの』
と頷いちゃったんだ。
僕とソルティスは愕然。
マリアーヌさんは、当然だ、という顔で頷く。
イルティミナさんは頬に手を当て、吐息をこぼした。
『まぁ、仕方ありませんね。でも、マール? 他の女性にはあまり目を向けないで、お風呂の間は、どうか私の裸だけを見ていてくださいな』
そう艶っぽく見つめてくる。
……ゴクッ
思わず、生唾を飲んじゃった。
ソルティスは『嘘でしょ!?』と泣きそうで、
ポンポン
その肩を、ポーちゃんの手が『諦めろ』とでも言うように2回、無情に叩いたんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
そんな訳で、男1人でみんなと温泉に浸かる僕である。
(…………)
なるべく見ないようにしてるけど、ついついみんなの姿が視界に入ってしまったりする。
「ふぅ……いい湯じゃ」
そう言って、両手を天に伸ばすキルトさん。
相変わらず、年齢を感じさせない。
肌はピチピチだし、鍛え抜かれた肉体はプロポーション抜群だ。
小柄だけど、胸もお尻も大きいし……。
しかも、匂い立つような色気もある。
30代になって、まさに女性として成熟し、1番魅力的な時期なのかもしれない。
…………。
そばでは、マリアーヌさんも笑っている。
『そうでしょ?』
と語る竜の顔は、凛々しく、でも、女性らしい柔らかさもあった。
身体は大柄。
でも、人間の感覚からしても滑らかな起伏の肉体は、女性として魅力的にも映るんだ。
異種族だけど、美しいと感じるのは変わらない。
きっと、同じ竜人さんからは、もっと魅力的に見えているのかもしれないね?
…………。
って、見てちゃ駄目だ!
慌てて視線を外す。
そうしたら、その先に、ソルティスがいた。
彼女は、長く艶やかな、少し癖のある紫色の髪を結い上げて、赤い顔はこちらを見ないようにそっぽを向いていた。
すでに18歳。
身体だけはもう立派に大人である。
足もスラリと長くなって、胸もお尻も育っている。
13歳の頃から知ってるだけに、感慨深いような、恥ずかしいような、複雑な気持ちである。
チャポッ
白い手が、うなじを触った。
後れ毛が、どこか色っぽい。
イルティミナさんの妹だけあって、彼女も本当に美人なのだ。
その隣には、ポーちゃんもいた。
クルクルと癖のある金髪を短くした、10歳ぐらいの幼女の姿だ。
中身は誰より年上。
でも、見た目は誰よりも幼い。
白い肌は滑らかで、幼さゆえか、男女の性別がわからなくなるような中性的な印象もあった。
胸もお尻も、真っ直ぐ平ら。
今の僕にとっては、それが妙に安心させてくれる。
と思ったら、
「…………」
彼女は僕の視線に気づいた。
そして、ソルティスの背後に回ると、そこから脇の下を通して、両手を少女の大きくなった胸へと伸ばした。
ムニ ムニョン
「ひやぁあ!? な、何してんのよ、ポー!?」
悲鳴をあげるソルティス。
僕は、形を変える艶めかしい双丘をまともに見てしまって、つい口からブッと吹いてしまった。
真っ赤になったソルティスに怒られるポーちゃん。
でも、怒られながらも、その幼女の視線がチラリと僕に向けられて、
グッ
水面上に、親指を立てた右手が浮かびあがった。
(…………)
いや、そんなポーズされても困るんだけど、ポーちゃん?
ブクブク
赤くなった僕は、水面下に鼻先まで浸かった。
「マール?」
と、気づいたイルティミナさんが声をかけてきた。
視線をあげる。
すぐ隣に、天才彫刻家が命を懸けて創り上げたと言っても信じられるほどの美女がいます。
まさに完璧。
端正な美貌。
美しく艶やかな深緑色の髪は、頭の後ろでまとめられ、どこかの温泉旅館の女将さんみたいだ。
白い肌は白磁の如くで、沁み1つない。
胸は大きく、お尻も豊かで、バランスの取れた高身長のお姉さん。
知的で清楚な雰囲気なのに、どこか肉感的。
ギャップ萌えです。
そんな素敵な美女なのに、僕のことを1番に思ってくれている。
愛してくれている。
時々、ふと我に返ると、こんな幸運ってあっていいの? なんて自問するぐらいだ。
(…………)
この人を好きにできる。
好きにさせてもらえる。
すでに何回も、好きにさせてもらった。
彼女は僕のものだ。
でも、本当にいいのか、と思ったりする。
だって僕は、今でも彼女には心がときめいて、胸が締めつけられて、堪らない思いをさせられてるんだ。
夫なんだから。
自信をもって、堂々と……とは思うんだけど。
でも、彼女が好きすぎて、自分でも怖くなるぐらいなんだよね。
「…………」
今も、そんな彼女の裸身を見つめる。
イルティミナさんの宝石みたいな真紅の瞳と目が合い、見つめ合ってしまう。
ドキドキ
鼓動が収まらない。
すると、その熱が伝染したみたいに、イルティミナさんの頬も赤くなった。
「マ、マール」
少し震えた声。
少しだけ欲情に濡れた、僕だけに聞かせてもらえる声だ。
ゴクッ
唾を飲む。
お互いどうにもできない思いを抱え合って、ただ黙りながらお湯に浸かった。
「…………」
「…………」
でも、さりげなく、
キュッ
お湯の中で手を繋いだ。
イルティミナさんの指も強く握り返してくれる。
熱い温泉だ。
熱くて、のぼせてしまいそうだ。
…………。
でも、僕はもう少し、みんなとこうして過ごせる穏やかな時間を味わうのだった。
ご覧いただき、ありがとうございました。
今回、久しぶりにお風呂の話が書けて楽しかったです♪
皆さんにも、少しでもリラックスした温泉タイムを楽しんで貰えたのなら幸いです♪
※次回更新は、今週の金曜日を予定しています。どうぞ、よろしくお願いします。




