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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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605・良い報せと悪い報せ

いつもの投稿時間に遅れてしまいました、申し訳ありません。


本日の更新、第605話になります。

よろしくお願いします。

 獣国の首都アル・ファンドリアに到着して、5日が経った。


「ん……よし」


 コロンチュードさんは、目の前の装置を見上げて、納得したように頷く。


 装置の建造に取り掛かって、3日目だ。


 竜国の『魔力発生装置』を妨害する共振波を送る装置が、まず完成した。見た目は、前世でいうパラボラアンテナに似ていて、直径10メードはある。


 これで国境を越えた竜国南端まで『竜国の武具』は無効化されるそうだ。


(うん)


 僕らとしても、1つの脅威が減って安心だ。


 そして明日には、竜国の『魔法兵器』の使用を感知し、その威力を減衰させる装置も完成予定だとか。


「……あとちょっと」


 目の下に隈を作りながら、コロンチュードさんは次の作業に取り掛かる。


 …………。


 僕らは護衛として、そんな彼女を見守っていた。


 懸念された竜国軍の襲撃は、今の所、何もなかった。


 現在、アル・ファンドリアの上空には、シュムリア竜騎隊の竜が交代で飛び、周辺警戒をしてくれているし、街中にも3万の王国軍がいた。


 向こうも、簡単には手を出せないのかもしれない。


(…………)


 コロンチュードさんは集中した表情で杖を光らせ、魔法球に魔法陣を刻んでいる。


 僕はその背中を見つめる。


 ただ、それしかできない今の自分が、少しだけ心苦しかった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 その夜、客室で休んでいると、


「そなたらに、良い報告と悪い報告がある。どちらから聞きたい?」


 と、キルトさんが言った。


 今日のロベルト将軍との報告会から、彼女が部屋に帰ってきた直後のことだった。


 僕らは顔を見合わせる。


「じゃあ、悪い方から」


 と、僕は言った。


 みんなも異論はなさそうで、キルトさんも「わかった」と頷く。


「この5日で、12万人ほどの石化した獣国民がシュムリアに移送され、現在、7万人ほどが石化を解除された。じゃが、生きていたのは659人。他は全員死亡が確認された」

「…………」


 告げる声は、鉄のようだった。


(……あぁ……そう、か)


 予想はしていたけど、こうした結果を聞くと、やはり心が痛い。


 イルティミナさんは瞳を伏せる。


 ソルティスは首を左右に振り、ポーちゃんは寄り添うようにその背中に抱きついた。


 コロンチュードさんも天井を見上げている。


 そんな僕らを見回して、


「話はまだある」


 キルトさんがそう言った。


 僕らは彼女を見る。


「実は、その生き残った獣国の人々と対応したシュムリア人たちの間で、少しいざこざが起きた」


(え……いざこざ?)


 僕らはキョトンとしてしまった。


 キルトさんは、少し眉をひそめ、言い難そうな顔をする。


 銀色の前髪を指でかき、


「価値観の相違というか、認識の齟齬というか……保護された獣国の人々は、どうも理不尽な行いをしてきたようでの」


 と言った。


 理不尽な行い?


 そうして聞かされたキルトさんの話は、思いもよらないものだった。


 なんと、獣国の人々は、シュムリアの人々を自分たちの奴隷であるかのように、高圧的な態度で様々な命令をしてきたそうなのだ。


(はぁ?)


 僕らは目が点だ。


「前に言ったであろう? 獣国アルファンダルとは、獣人至上主義の国なのじゃと」


 キルトさんは頭が痛そうに言った。


 獣人は、獣神に認められた、誰よりも優れた種族。


 他人種は、皆、劣等種。


 彼らは、獣人のために作られた存在で、獣人に尽くすことが幸せである。


 ――これが獣国の考えなのだ。


 だからこそ、石化から解除された獣国の人々は、感謝もなく、それどころか『なぜ自分たちをもっと早くに助けなかったのか?』とシュムリアの人たちに怒ったそうだ。


 それだけではない。


 石化を解除しても、助からなかった獣国民もいた。


 それを知った彼らは、その責任はシュムリア側にあるとして、その罪を償うために同じだけのシュムリア人が死ぬように要求してきたそうだ。


「……何それ?」


 ソルティスが呆れたように呟いた。


 僕も唖然だ。 


 キルトさんはため息をこぼす。


「連中は『どれだけの犠牲を払ってもいいから、一刻も早く獣国の領土を取り戻せ』とも要求してきた。この場合の犠牲とは、シュムリア人のことじゃ」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 そんなことってあるの?


 あまりの理不尽さに、僕は泣きたくなってしまった。


 キルトさんは言う。


「これは助かった獣国民全てに当てはまる訳ではない。状況を客観視し、自分たちの立場を理解している者たちもおる。じゃが、そうしたいざこざがあったのも事実じゃ」


 そう、なんだ……。


 そんなことを言われたら、シュムリア側だって黙っちゃいない。


 いざこざが起きて当然だ。


 イルティミナさんが少し考え込み、


「富国強兵のため、自分たちの人種が優等種と思わせる国家的手法もあるとは思いますが……そこまで信じ込みますか?」

 

 と呟いた。


 キルトさんは銀の髪をかく。


「保護されたのが、皆、民間人じゃったのが痛いの」


 民間人?


 キョトンとなる僕に、キルトさんは説明する。


 もし王侯貴族ならば、建前上は獣人至上を謳っていても、実際は現実を理解していたりするものなのだそうだ。


 けど、民は違う。


 前世のように、誰もが情報を得られる訳ではないこの世界で、民間人は国外の現実を全く知らないのだ。


 ゆえに広まった考えを信じてしまう。


 心の底から。


 何の疑問も思い浮かぶこともなく。


「ようは、純粋なのじゃ」


 とキルトさん。


 そして今回は、その純粋さが悪い方向に働いてしまったのだろう、とのこと。


 …………。


 そういえば、僕とイルティミナさんとソルティスが戦った獣国の将軍は、僕らに敵としても敬意を払ってくれた。


 ロベルト将軍の話でも、獣王や将軍の息子もそうだったみたいだ。


 彼らぐらいの立場なら、現実を理解しているのだろう。


 だけど、石化したのは全員、人質となった民間人で、そうした広い世界を知る立場の人は皆無だったんだ。


(……なんか、悲しいね)


 自分たちが優等種と信じる人たちが、哀れにも思えてきた。


 ソルティスは、


「なんか、助けたのが馬鹿みたいだわ」


 と唇を尖らせ、怒っていた。


 イルティミナさんも口には出さないけれど、その表情は似たような感情を持っているのだと感じさせた。


 この姉妹は『魔血の民』だ。


 これまでの人生で、理不尽な差別を受けてきたからこそ、彼らの価値観が許せないのかもしれない。


 キルトさんは言う。


「まぁ、連中が何を叫ぼうと、シュムリア側としては力で抑え込めるのじゃ。しばらくすれば、その考え方も矯正されるじゃろう」


 それから僕を見て、


「リマという娘の例もある。時間はかかるが、いつかは友好関係を築けると信じようではないか」

「うん」


 キルトさんは微笑み、僕は頷いた。


 リマちゃんは、僕を獣神だと思ったからか、とても友好的だった。


 幼さゆえかもしれない。


 でも、獣国にもそういう人がいるのだと思えば、未来に希望が感じられた。


 

 ◇◇◇◇◇◇◇



「……で? 良い方の報告は何?」


 コロンチュードさんは、ベッドにうつ伏せになりながら、そうキルトさんに問いかけた。


 チラッ


 キルトさんは、彼女を横目に見る。


 それから僕らを見て、


「エルフの国に、アルン神皇国軍20万が入った。竜国との戦闘が本格化したら、転移魔法で増援となってくれるそうじゃ」

「!」


 それは確かに朗報だ。


 元々、そのアルン軍20万人は、ヴェガ国の防衛に協力するために派遣されていたんだ。


 それが竜国との直接対決に加勢してくれるという。


(実に頼もしいや)


 他のみんなも驚いている。


 イルティミナさんが言う。


「よくエルフたちが、自国領にアルン人が入ることを認めましたね?」

「うむ」


 キルトさんは頷いて、


 ポム


 と、僕の頭に手を置いた。


(お?)


「マールのおかげじゃ。『王配の錫杖』を持つマールが求めたからこそ、エルフたちも許可を出した。内心は複雑であったかもしれぬがな」


 そうなんだ?


(……権威の力って、凄いな)


 あの錫杖を持っているだけで、エルフさんたちが僕に協力してくれるなんて。


 ちょっと怖いぐらいだ。


 でも、よかった。


「これで、また竜国に立ち向かうための力が増えたね?」

「うむ」


 僕の言葉に、キルトさんは力強く頷いた。


「シュムリア、アルンが動いた。ヴェガ国もドル大陸の他3国に働きかけ、連合軍として動いてくれる手筈となっておる。着実に戦力は増しておるぞ」


 その声にも力があった。


 イルティミナさんも頷いている。


 僕らは少しずつ、グノーバリス竜国を追い詰めていた。


 もちろん、一筋縄ではいかない相手だろう。


(でも、このままいけば……きっと)


 そう信じてる。


 ソルティスとポーちゃんは、笑い合っていた。


 ベッドに寝転ぶコロンチュードさんも、少しだけ安心したように目を伏せている。


 僕は言った。


「きっと勝てるよ、竜国に」


 その言葉に、みんなも頷いた。


 …………。


 …………。


 …………。


 その時の僕らは、確かにその未来を信じていた。


 自分たちの成すべきことを成し、それがあまりに順調だったから、真っ直ぐに信じられたんだ。


 だから、忘れてしまっていた。


 なぜ、竜国軍は動かないのか?


 なぜ、僕らに何もしてこないのか?


 そのことについてを、深く考えていなかった。


 その理由がわかったのは、翌日の早朝だった。


 突如、ロベルト将軍に呼び出されたキルトさんが、僕らのいる部屋へと戻ってくる。


 その顔色は悪かった。


(……キルトさん?)


 嫌な予感は、その時に生まれた。


「――ジンガ国が落ちた」


 え?


 最初、意味がわからなかった。


 そして、彼女に告げられた内容に、僕らは全員、言葉を失った。


 ドル大陸にあるジンガ国。


 グノーバリス竜国の東にあり、峻険な山脈によって隔てられた獣人と人が共に暮らす国。


 それが、竜国軍の侵攻によって壊滅したということだった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、今週の金曜日を予定しています。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ 獣国国民の浅はかで滑稽過ぎて色々と憐れ。 自分たちを優良人種として捉えた上での発言なのでしょうが、傲慢過ぎな思想をしてますね。  しかしジンガ国が陥落した事が…
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