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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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602・記録と任務

第602話になります。

よろしくお願いします。

 ロベルト将軍がいるのは、獣国の王城にある政務室の1つだった。


 他国のお城を勝手に使っていいの?


 そう思ったけど、考えたら、今はもう使う人が誰もいないんだ。


 それにイルティミナさんが言うには、そういう部屋は警備もし易く、防音設備も整い、軍事機密に関わる仕事をするには都合がいいんだって。


「つまりは、有効活用ですね」


(なるほど)


 その説明に、僕は大いに納得してしまった。


 …………。


 そんな訳で、僕らはアル・ファンドリアを見渡せる王城の一室で、執務机の奥に座るロベルト将軍と対面した。


「呼びつけてすまないな」


 彼は、最初にそう謝った。


 キルトさんは「構わん」と鷹揚だ。


「それで、何があった?」


 そう問いかける瞳は、ギラリと鋭く細められる。


 ロベルト将軍は、手元の紙束を揺らして、


「実は、この城内部の探索も行ってな。そこで、グノーバリス竜国が獣国アルファンダルに攻めてきた時の記録が発見できた」


(えっ?)


 僕らは目を見開いた。


 それから僕らは、ロベルト将軍の勧めで政務室のソファーに腰を下ろした。


 そこで話を聞かされる。


 記録によれば、竜国軍が北の国境を侵犯してきたのは、今から5ヶ月ほど前の話だそうだ。


 竜国の軍勢は、およそ10万。


 獣国軍はすぐに応戦した。


 獣国アルファンダルには、十牙将軍と呼ばれる10人の将軍がいたそうだ。


 その1人が5万の軍勢を率いて、竜国軍を迎え撃った。


 だが、


「その将軍は即日に戦死。5万の獣国軍も壊滅してしまったようだ」

「…………」

「…………」

「…………」


 ロベルト将軍の話に、僕らは言葉もない。


 相手には『竜国の武具』があったのだろう。その威力は、古代に悪魔を討つために造られた『タナトス魔法武具』と遜色ないものだ。


 それを知らない獣国軍には、最初から勝ち目はなかったのだ。


 獣国の王は、すぐに決断した。


 十牙将軍の全てと獣国全軍50万人を動員し、獣王自らが率いて戦うことを。


(……凄いな)


 素直に思う。


 たった1戦で、敵の脅威を正しく見抜き、全力で抗うことを決めたんだ。


 その危機察知能力は、まさに野生の獣みたいだ。


 だけど、


「結論から言う。50万の獣国軍は、半月も持たずに敗北した」 


 ロベルト将軍の声は重い。


 総力戦の結果、十牙将軍の5人が死亡、動員された兵士も半数以上が亡くなって、生き残ったのは20万人ほどだったそうだ。


 前に、その情報は聞いた。


 キルトさんは問う。


「竜国側の被害は?」

「獣国の記録によれば、与えられた損害は1000人に届かなかったようだ」


 1000人以下!?


 キルトさん、イルティミナさんも驚いている。


「それほどか?」

「あぁ」


 頷くロベルト将軍の表情も暗い。


 この数字の1つ1つの意味は、人1人の命である。


 数字だけで、軽々しく考えてはいけない。


 それはわかっているけれど、たった1000人の損害で1つの国を落とせるなんて、とんでもないことだと思ってしまった。


 その後、獣王は降伏を宣言した。


 獣国を支配した竜国軍は、獣国全土から民間人を首都アル・ファンドリアに集め、人質にした。


 そのあとは、知っての通り。


 20万の獣国軍は、人質となった民の命と引き換えに、エルフの国へと侵攻するよう命じられたのだ。


 それが、およそ3ヶ月前のことである。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 その場には、しばらく沈黙が落ちた。


 キルトさんが、重い何かを吐き出すように息を吐いた。


 顔をあげ、


「竜国軍そのものについての情報はないか?」

「あるぞ」


 ロベルト将軍は頷いた。


 彼は、報告書のページをめくる。


「予想しているとは思うが、やはり竜人たちは『魔法の武具』を装備していたようだ。その力に蹂躙されたと、記録には記されている」

「…………」

「それともう1つ」


 ロベルト将軍は、人差し指を立てた。


 それを上に向け、


「空だ」


(……空?)


 キョトンとなる僕ら3人。


「奴らの中には、黒い金属の翼を生やして空を飛ぶ『航空部隊』が存在するようだ」

「!」


 僕はハッとなった。


(アイツだ!)


 1月ほど前、『第1の拠点都市』を襲ってきた『闇の竜王』も、同じような翼で空を飛んでいたんだ。


 あの翼は、きっと『魔道具』だ。


 つまり、量産品。


 そして話にあった航空部隊も、きっと同じ装備で空を飛んだのだ。


 キルトさんが唸った。


「……空、か」


 表情は厳しかった。


 頭上を敵に支配されるとなれば、それがどれだけ不利かは、僕でもわかる。


 ロベルト将軍は言う。


「航空部隊の数は、1000人ほどと多くはなかったようだ。だが、戦場において致命的な活躍をされたそうだ」

「…………」

「…………」

「…………」

「これは憶測だが、奴らは竜国のエリート部隊かもしれんな」


 ……確かに。


 10万人の中の選ばれた1000人だけがなれる『航空部隊』といったところかな?


 ロベルト将軍は、指で額を押さえる。


 息を吐き、


「今後は、対空用の備えもしておかなければいかんな」


 と、重い口調で呟いた。


 僕らは頷く。


 特に対空攻撃となれば、最も活躍するであろう『白翼の槍』を持つイルティミナさんは、真剣な表情となっていた。


 キュッ


 僕は、そんな自分の奥さんの手を握った。


 彼女は驚いた顔をして、僕の顔を見る。


 僕は笑った。


(……うん)


 僕だって、空を飛べる。


 1人じゃないんだ。


 だから、一緒にがんばろうね、イルティミナさん。


 そう思いを込めて見つめた。


 僕の眼差しを受けて、やがて彼女は頷くと、すぐに優しい微笑みを浮かべてくれた。


 一緒に笑い合う。


 そんな僕らに、キルトさんは苦笑し、ロベルト将軍は驚いた表情だ。


 すぐに彼も苦笑して、


「何と言うか……こういう状況に置いて、マール殿の存在は実に精神を安定させてくれるな」

「で、あろ?」


 キルトさんは、なぜか得意げに答えた。


(???)


 そうなの?


 自分ではよくわからない。


 ただイルティミナさんは、嬉しそうに僕の手を握り締めてくれていたけど……。


 やがて、ロベルト将軍は、


「報告は以上だ」


 と言った。


 それから頷いた僕らに対して、


「次は、君たちに頼みたい任務がある」


 と続けた。


(え? 頼みたい任務?)


 僕はキョトンとなり、イルティミナさん、キルトさんも目を丸くした。


 そんな僕らに、ロベルト将軍は言った。


「これからしばらくの間、君たちには、コロンチュード・レスタの護衛として、彼女のそばに居続けてもらいたいのだ」



 ◇◇◇◇◇◇◇



(コロンチュードさんの?)


 思わぬ提案だ。


 キルトさんは「ふむ」と呟いて、


「構わぬ。だが、理由は?」


 そう問いかけた。


 ロベルト将軍は、モスグリーンの瞳を伏せて、少し間を空けた。


 そして、言う。


「今、我らの命運はコロンチュード・レスタ1人の手に握られているからだ」


 ズシリとした重い声だ。


 彼は続ける。


「今語ったように、竜国軍の力は圧倒的だ。我ら王国軍とて勝ち目はないだろう。だが、彼女の発明した魔法装置があれば、竜国軍相手にも充分に戦える可能性があるのだ」


(なるほど)


 確かにその通りだ。


 竜国軍の『竜国の武具』と『魔法兵器』を無効、減衰させる魔法装置は、現状、コロンチュードさんしか造れなかった。


 逆に言えば、彼女がいなくなれば、僕らが竜国軍に対抗する手段はなくなる。


 それだけじゃない。


 現在の王国軍では、物資の補給、人員の補充は全て『転移魔法陣』で行われていた。


 これが作成できるのも、コロンチュードさんのみだ。


 もし『転移魔法陣』が使えなくなれば、僕らは戦線を維持することは愚か、退却すらままならなくなるのだ。


 ――彼女1人で。


 僕を含めた王国軍全てが支えられていた。


 彼女がいるからこそ、世界の人々は、グノーバリス竜国に抗うことができるのだ。


(…………)


 そうした話を聞かされ、改めて彼女の偉大さを認識させられる。


 1000年を生きたハイエルフ。


 シュムリア王国で100年以上も『金印の冒険者』であり続けた伝説の存在は、やはり伊達ではないのだ。


「…………」


 キルトさんは沈黙していた。


 実はキルトさんとコロンチュードさんは、馬が合わない。


 人々を守るため戦い続けたキルトさんと、自分の研究のため世俗を捨てたコロンチュードさんとでは、大切にする価値観が違っているのだ。


 だけど、


「……そうじゃな」


 キルトさんは吐息をこぼし、頷いた。


 最近のコロンチュードさんは、みんなのためにいっぱいがんばっている――その事実をキルトさんも知っていた。


「コロンはかけがえのない存在じゃ」


 だから、はっきりそう口にする。


 僕とイルティミナさんは頷いた。


 ロベルト将軍も頷いて、


「アル・ファンドリアは、竜国との国境も近い。奴らが仕掛けてくる可能性は高いだろう。だからこそ、コロンチュード・レスタの護衛を頼みたいのだ」


 狙われるならまず彼女だろうから、とのことだ。


(うん、そうだね)


 コロンチュードさんは、王国軍の明確なアキレス腱だった。


 僕が敵だったら、間違いなく彼女を狙う。


 キルトさんは頷いて、


「わかった、任せるが良い。コロンの奴は、わらわたちが必ず守ろう」


 トン


 そう告げて、自分の胸を拳で軽く叩いてみせたんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、来週の月曜日を予定しています。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ 竜国の戦闘力が無双ゲームのキャラクター並みな件。 しかも対空戦も考慮しないといけないとか無理ゲーが過ぎる。 獣国が負けたのは必然てしたね。 まぁ、其れを言った…
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