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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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592・無人の街

今話が年内最後の更新となります。


それでは本日の更新、第592話です。

よろしくお願いします。

 国境を越えて3日目。


 僕らシュムリア王国軍は、当初の予定通り、目的としていた街に到着した。


 獣国アルファンダルは鎖国されていたので、各地の地名はおろか、この街の名前もわからない。


 なので、僕らはここを『第1の拠点都市』と仮呼称することになった。


「大きな街だね」

「はい」


 僕の言葉に、イルティミナさんが頷く。


 遠く草原の彼方に見える城壁は、とても立派だった。


 多分、1万人ぐらいが暮らしていたんじゃないかな? 少なくとも、小さな町などではなく、かなり規模のある都市だった。


 でも、とても静かだ。


 普通なら感じられる街の賑わいはなく、異質な感じがある。


 廃墟のような雰囲気で、でも、見えている建物は、最近まで使われていたような新しさがあった。なんともチグハグな印象だ。


 3万の王国軍が、その都市へと向かう。


 ここまでの道中は、何事もなかった。


 魔物の襲撃が2度あったぐらいで、けれど、警戒していた竜国軍の攻撃は一切なかったんだ。


(……街に入ったら、何かあるかな?)


 その可能性を考えておく。


 やがて、僕らは何事もなく『第1の拠点都市』に辿り着く。


 開け放たれた城門を潜り、中へと入った。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 街の中は、無人だった。


 前にシュムリア竜騎隊が偵察した通り、獣国の人たちの姿はどこにもない。


「……なんか、不気味ね」


 ソルティスが呟く。


 そこは、美しい街だった。


 獣人のムンパさんのギルド長室や、獣人の多いヴェガ国みたいに、水路と街路樹などの自然が多い。


 けど、建物は近代的だ。


 建物の建築様式には多少の差はあるけれど、文化レベル的には、シュムリア王国とそう差はない発展具合に思えた。


 本来なら、そこにたくさんの獣人たちが笑顔で生活していたのだろう。


 でも、今は誰もいない。


 人々の喧騒はなく、代わりに、王国騎士たちの武骨な甲冑の鳴る足音だけが響いている。


(…………)


 いったい、この街の人たちはどこに行ってしまったんだろう?


 獣国アルファンダルの首都らしい都市で見つかった大量の石化した獣人の中に、この街の人たちもいたのかな?


 真相は、わからない。


 やがて、ロベルト将軍の指示で街の探索が行われ、いつ竜国軍が現れてもいいように、城壁の上に見張りの騎士たちが配置された。


 上空には、シュムリア竜騎隊の竜たちが交代で飛び、周辺監視を行ってくれていた。


 僕ら5人も、街の探索を行う。


 人のいない通りは石畳で、カラフルな色彩のタイルも敷かれていた。


 通りには、街灯もある。


 ソルティス曰く、シュムリア王国と同じ魔力を使って灯す照明だそうだ。


「魔法技術も、結構、しっかりしてるのね」


 少女は、そう感心していた。


 鎖国していたことで、この国のことは王国の誰もが知らない。


 だからこそ、その一端がこうして知れることは嬉しかったけれど、それがこういう形だと思うと悲しかった。


「……マール」


 表情に出ていたのかな?


 イルティミナさんが心配そうにこちらを見つめ、僕の肩に白い手を触れさせた。


 僕は安心させようと微笑み返し、その手に自分の手を重ねる。


 そして、5人でまた街の中を歩き始めた。


 …………。


 どこまで歩いても、誰もいない。


 通りに面した商店には、商品だけが陳列され、生鮮食品などは腐っていた。


 家の中に入ってみる。


 生活感のある空間には、けれど、やはり人の姿だけがなかった。


 中には、テーブルに食事だけが残されていたりもした。


(いったい、何があったのかな?)


 本当に謎だ。


「まるで人の存在だけが、突然、この場から消えてしまったみたいですね」


 僕の奥さんはそんなことを言う。


 でも、うん……確かにそんな感じ。


 そのまま探索を続ける。


 しばらく進むと、街の中央付近に出た。


(お?)


 そこで、初めて異変を見つけた。


 周辺で一番大きな建物が、なぜか崩れていた。


 瓦礫が通りまで散乱している。


 年月の風化とか、そういった理由ではなく、明らかに何らかの外的な力の作用によって破壊された跡だった。


「これは、庁舎か?」


 キルトさんが呟いた。


 庁舎……つまり、この街の行政のための中心となる建物だ。


 それが破壊されている。


 これは、いったい……?


 僕らは戸惑い、キルトさんを見る。


 彼女はしばらく沈黙し、やがて、口を開いた。


「この街は、やはり竜国軍の攻撃を受けたのかもしれぬな」


 竜国軍の? 


「恐らく、上空から何らかの魔法攻撃を受けたのじゃろう。街の頭脳となる人々を建物ごと消して、指揮系統を潰し、そして占領が行われた」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 キルトさんの黄金の瞳は、ギラギラと輝いている。


 まるで過去にその場で起こったことを、今、現実に見ているかのようだった。


 そして、口にされたのは、恐ろしい予測。


 じゃあ、


「……占領された人たちは、どうなったの?」


 恐る恐る聞いた。


 彼女は、豊かな銀の髪を揺らして、首を振る。


「わからぬ」

「…………」

「少なくとも、街中に死体は見えぬ。全住民がどこかに移送されたか、あるいは別の理由があるのか……」


 そこまでは、さすがのキルトさんでもわからないみたいだ。


 でも、


「…………」


 僕は改めて、破壊された庁舎跡を見る。


 この残骸は『グノーバリス竜国が獣国アルファンダルを侵略したのは事実なのだ』と強く示す象徴のように、僕の目には見えたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 夕方までに『第1の拠点都市』の防衛陣形は整った。


 僕ら5人は、この街の一番大きな宿屋の一室で、ロベルト将軍、竜騎隊隊長のレイドルさんの2人と面会をしていた。


「街の北部の城門付近で、戦闘の痕跡が見つかった」


 ロベルト将軍は、そう教えてくれた。


 僕らが街に入ったのは、南側の城門からだったので、その痕跡は見ていなかったのだ。


 彼の言葉に、キルトさんは頷く。


「そうか」


 ロベルト将軍の言葉は、キルトさんの予測が正しかったことを証明していた。


 つまり、この街は竜国軍に占領された、ということ。


 シュムリアの誇る大将軍は、吐息をこぼす。


「状況を見るに、その戦闘は短期間の……それも一方的なものだったようだ。それこそ、街の被害が全くと言っていいほど残されぬほどの、な」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 それは、幸か不幸か、民間人には被害が出なかった……と考えていいのかな?


 そして、それぐらい竜国軍は強い、と。


 イルティミナさんは問う。


「街の住人はどうなったのか、わかりませんか?」

「わからん」


 ロベルト将軍は、首を横に振る。


 そこで、黙って話を聞いていた黒髪の竜騎士レイドルさんが口を開いた。


「最初の偵察任務の時、俺たちも無人の町や村をいくつも見つけて、実際に周辺の土地を調べてもみたんだ。けど、状況はここと同じだった」


 人のいた痕跡だけがあり、死体はない。


 死体がない以上、獣国の人たちが生きている可能性はあるけど……。


(…………)


 数十万の獣国民が石化したという報告が、どうしても頭から離れない。


 彼らは移送され、そして……。


 ブルブル


 その想像を振り払うように、僕は、頭を左右に振った。


 キルトさん、イルティミナさんも厳しい表情だった。


 ソルティスは唇を引き結び、ポーちゃんは、そんな少女の背中に小さな手を当てている。


 ロベルト将軍は言う。


「我らには、コロンチュード・レスタの対抗策が講じられている。だが、それがなくば、竜国軍はこれだけの都市を一瞬で制圧できる戦力があったということだ」


 恐らくは、タナトス武具を真似た『竜国の武具』。


 その力によるものだろう。


 もしくは、庁舎を破壊したのは、タナトス時代と同じような『魔法兵器』なのかもしれない。


 どちらにしても、恐ろしい戦力だ。


「我らは、この『第1の拠点都市』にて、今後、その竜国軍の戦力に抗うことも考えられる。その可能性を、どうか覚悟しておいてくれ」


 ロベルト将軍は強い眼差しで、そう僕らを見回した。


 僕らは頷く。 


 そして、彼から今後の方針についても語られた。


 僕らはこのまま、この『第1の拠点都市』の防衛を努めることになる。


 その間に、竜騎隊のシュナイダルさんがエルフの国との国境まで戻り、コロンチュードさんを『第1の拠点都市』まで連れてくる。


 コロンチュードさんは、ここに転移魔法陣を構築。


 物資と兵士を転移させながら、同時に、彼女には竜国の『魔力発生装置』と『魔法兵器』の対抗装置を作成してもらい、完成次第、僕らはまた次の拠点を目指す。


 それを繰り返して、グノーバリス竜国に向かうのだ。 


 もちろん、全てが順調に進むとは限らない。万が一の場合は、撤退も視野に入れているそうだ。


 ただ、その場合、


「最終防衛ラインは、エルフの国との国境となる。それ以上の撤退はない」


 ロベルト将軍は、重い声で告げた。


 獣国アルファンダルと面しているのは、エルフの国だけだ。


 そのエルフの国は、ヴェガ国とトカゲ人の国にも面しており、もしエルフの国も占領されると、その後、どちらに攻められるかわからない。


 防衛戦力が集中できるのは、エルフの国までなのだ。


 もしもの時は、シュムリア王国から転移魔法陣で更なる王国軍が動員される。


 また、ヴェガ国軍とヴェガ国に駐留される20万のアルン神皇国軍も、エルフの国へと入って竜国軍と戦う予定だ。


 説得が成功したら、他のドル大陸の国々も増援を送ってくれるかもしれない。


 …………。


 もちろん、他人種が来ることを、エルフさんたちは嫌がるだろう。


 でも、そうしなければ、戦火はもっと広がり、竜国の脅威は誰にも止められなくなる可能性がある。


 だから、


(……もしもの時は『王配の錫杖』を使おう)


 僕は、そう心に決めた。


 正直、あまり気乗りはしないけど。


 だけど、きっとそういう可能性のために、エルフの女王ティターニアリス様は、僕にこれを授けてくれたと思うから。


 だから、どうしてもという時は、この権力を使う。


 心が……苦しいけどね。


 …………。


 そうしてロベルト将軍の話を聞き終えると、僕ら5人は退室し、同じ宿屋の客室で休むことになったんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「あら? 思ったよりいいベッドね」


 寝台に横になったソルティスは、意外そうな顔でそう言った。


 紫色の柔らかそうな髪が、シーツに広がっている。


 ここは高級ホテルみたいな建物だったから、客室の寝具も良い品が使われているみたいだった。


 その感触に満更でもなさそうなソルティス。


 と、そんな相棒となる少女を真似て、金髪の幼女も同じように、少女が寝ているベッドへと飛び込んだ。 


 ボフッ


「ぐえっ!?」


 下敷きとなったソルティスから、蛙が潰れたような呻き声が聞こえた。


 ポーちゃんは澄ました顔で目を閉じており、ソルティスは「ちょっと、ポォ~?」と幼女に抱きつき、その頬を両手で挟み込む。


(あはは……)


 その様子に、僕とイルティミナさんは顔を見合わせ、笑ってしまった。


 キルトさんも苦笑する。


 そして彼女は、ゆっくりと客室の窓を振り返った。


 そこからは、夕日に染まった無人の街と、その城壁の向こうに広がる獣国アルファンダルの大地が見えていた。


 …………。


 綺麗な景色だ。


 けど、人の生活が失われた街は、どこか寂しげにも思えた。


 ロベルト将軍の話では、明日、王国騎士によって、この『第1の拠点都市』の周辺の森などで探索が行われることになっていた。


 そこに竜国軍が潜んでいないか、確認するためだ。


 ちなみに、僕ら5人は安全なこの都市内にいるように言われている。


(…………)


 僕は顔をあげた。


「ねぇ、キルトさん?」

「む?」


 銀髪を揺らし、彼女が振り返った。


「明日の探索、僕らも参加することってできないかな?」


 そう聞いた。


 キルトさんは目を丸くする。


 ベッドで積み重なっていたソルティス、ポーちゃんも驚いた顔をしていた。


 イルティミナさんも僕を見て、


「急にどうしたのです、マール?」


 と聞いてきた。


 僕は、自分の心臓辺りを手で押さえて、


「何て言うか……僕、もっと、この獣国アルファンダルのこと、そしてグノーバリス竜国のことを知りたいんだ」


 そう訴えた。


 僕は、この2つの国のことを何も知らない。


 全ては話に聞いた知識ばかりで、この目で、手で触れて感じたものは少なかった。


 特に、グノーバリス竜国。


 いったいグノーバリス竜国が何を求めて、この戦争を起こしているのか、その理由を僕は何も知らない。


 ……知らないというのは、怖いことだ。


 それが余計に状況を悪くしている気もする。


 この街の周辺で獣国と竜国の戦闘があったというなら、その痕跡から何かしら感じられるかもしれない。


 グノーバリス竜国がどんな国かを、感じられるかもしれない。


 だから、


「探索に参加して、実際にこの目で、その痕跡を見つけてみたいんだ」


 そう思いを伝えた。


 みんなは、顔を見合わせる。


 キルトさんが言った。


「気持ちはわかった。じゃが、今回の探索は危険が大きい。最悪、隠れていた竜国軍と鉢合わせる可能性もあるのじゃぞ?」


 そう確かめるように、僕を見つめる。 


(うん、それならそれで構わない)


 僕は頷いた。


 実際に竜国の人に会えるなら、相手をより理解できる気がした。


 もちろん、相手を理解できたとしても、その価値観や考え方を僕自身が受け入れられるかはわからない。


 でも、理解する努力は忘れたくない。


 少なくとも、何も知らないままよりは絶対にいいと思うのだ。


「それでも、行きたい」


 僕の青い瞳は、キルトさんを真っ直ぐに見つめた。


 彼女は沈黙する。


 すると、そんなキルトさんに、僕の奥さんが話しかけた。


「キルト、わかっているでしょう?」

「…………」

「こういう時のマールは、もう誰にも止められません。それに、この子がここまで言うのです。それは、私たちにはわからぬ何かを感じてのことかもしれませんよ?」


 ……えっと。


(特に何かを感じている訳ではないんだけど……)


 僕自身は、ちょっと戸惑う。


 けれど、イルティミナさんは何かを確信しているようで、


「この子の直感を信じましょう、キルト。それに、私たちはこれまで何度も救われてきたのですから」


 そう穏やかに微笑んだ。


 そんなイルティミナさんの説得に、キルトさんは苦笑する。


「そうじゃな」


 と、吐息をこぼした。


 それから、その黄金の瞳は僕を見る。


「わかった、マール。ロベルト将軍には、わらわの方から話を通しておく。じゃが、探索は慎重にな。探索中は、絶対にわらわの指示に従うのじゃぞ?」

「うん!」


 僕は大きく頷いた。


「ありがと、キルトさん、イルティミナさん」


 そう2人に笑いかけた。


 キルトさんは頷き、イルティミナさんは「よかったですね、マール」と微笑んでくれる。


 そんな僕らにソルティスは、


「うへぇ……明日はゆっくり休めると思ったのにぃ……」


 と、顔をしかめていた。


 ポムポム


 そんな少女の背中を、ポーちゃんの小さな手が慰めるように叩く。


(ごめんね、ソルティス) 


 ちょっと申し訳ない。


 でも、文句は言うけれど、反対はしないで付き合おうとしてくれる。それは昔から変わらぬ優しい彼女だった。


 そうしてその日は、柔らかなベッドで僕らはしっかりと休息を取った。


 そして、翌日。


 早朝の朝日を浴びながら、僕ら5人は王国騎士2000人と共に城門を潜り、周辺の探索へと向かったのだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。



これにて、年内の更新も最後となりました。


今年も1年、皆さん、『少年マールの転生冒険記』を読んで下さって本当にありがとうございました!


次回は、2週間ほどお休みを頂きまして、来年の1月9日からの再開とさせて頂きます。(といっても、作者はストックのために書き続けるのですが……(笑))


少し早いですが、皆さん、どうか良きクリスマス、そして良き年末年始をお迎え下さいね♪


また来年も、マール達の冒険を見に来て頂けましたら幸いです。


それでは皆様、良いお年を~!



月ノ宮マクラ

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ < 「……占領された人たちは、どうなったの?」 < 「街の住人はどうなったのか、わかりませんか?」 流石は夫婦と云うべきか、答えの出ないこと柄に対しても同じ…
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