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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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560・血狂い大蜂の巣

第560話になります。

よろしくお願いします。

 足元の先で、イルティミナさん、キルトさん、ソルティス、ポーちゃん、クパルトさんの5人の姿が小さくなっていく。


 僕の浮き上がる風圧で、キルトさんは銀髪を暴れさせながら、


「マール! 女王蜂には気をつけよ!」


 と、大きな声で警告した。


 僕は大きく頷く。


 信頼しながらも、かすかな不安を滲ませるイルティミナさんの瞳を見つけ、僕は微笑みかけた。


 イルティミナさんも頷く。


 それを見届けて、僕は背中の翼を大きく羽ばたかせ、一気に崖の方へと飛翔した。


 ヒュゴオオ


 風切り音が鼓膜を叩く。


 やがて、草原の上空を抜けると、足元には一気に何もなくなり、遥か下方にアラクネのいた森が見えるようになった。


 高い。


 高度20メードほどだったのが、一気に1000メード近くまでなったのだ。


 広く青い空に、僕はポツンと浮いている。


 ……ちょっと気持ちいいな。


 その心地好さに、そのまま自由に飛びたくなるけれど、僕はグッと我慢して、すぐに崖の壁面に沿って飛行していく。


 ヒュオオ……ッ


 風圧を感じながらしばらく進むと、


(!)


 青い空に点在するたくさんの『赤黒い影』に気づいて、慌てて崖から突き出した岩盤の陰に身を隠した。


 あれは、


(血狂い大蜂だ)


 僕の前方300メードほどの付近を、20~30体ほど飛び回っていた。


 ってことは、魔物の巣は近い。


 僕は慌てて上下に視線を走らせ、崖の壁面を注意深く探した。


 すると、更に遠くの崖近くの空中に、かなりの数の『血狂い大蜂』が飛んでいるのを見つけた。


(あそこかな?)


 僕は、背中の翼を輝かす。


 ヴォン


 近くを飛んでいた蜂たちに気づかれないように大きく迂回して、突き出した岩盤に隠れながら、慎重にそちらの壁面へと飛んでいった。


 そして、辿り着く。


(見つけた!)


 そこには予想通り、たくさんの『血狂い大蜂』の集まった黄土色の巨大な巣があったんだ。


 でも、思った以上に大きい。


 それは70~80メードもある楕円形で、まるで巨大ビルが壁面にあるみたいだった。


 その表面に、無数の赤黒い蜂が蠢いている。


 ……ちょっと気持ち悪い。


 イルティミナさんが言っていた通り、本当に数千体もの魔物が集まっているようだ。


(巣の中にも、もっといるのかな?)


 その数の脅威を思って、少し身震いしてしまう。


 それから僕は、その巣を観察した。


 巣と崖の壁面は、短く太い1本の柱のような結合部で繋がっていて、そこを崩せば、多分、巣は地上に落下して壊せるだろうと思えた。


 けど、蜂の数が多い。


 崩しに近づけば、すぐに気づかれそうだ。


 上手く接近できたとしても、きっと崩している時の衝撃と振動で気づかれて、崩し切る前に襲われてしまいそうだ。


(どうしよう?)


 僕は悩んだ。


 なんとか近づかずに、ある程度、離れた距離から攻撃する方法はないものか。


 僕の知っている『炎の蝶』の魔法じゃ駄目だ。


 多分、火力が足りない。


 なら、『究極神体モード』の超火力ではどうだろう?


 ……下手をしたら、崖ごと崩れて本末転倒だ。


 それだけじゃなくて、そこで神気切れになってしまったら、そのあとに血狂い大蜂に対処できないし、最悪、神武具の翼も維持できなくて落下死してしまうよ。


(う~ん……)


 空中に浮かびながら、腕組みして唸る。


 やっぱり思い切って近づいて、崖と巣の繋がっている部分を切断して、一気に逃げるしかないのかな?


 チャキッ


 腰に提げた『大地の剣』に触れる。


 でも、斬ることに失敗したら、もう2度と近づけなくなりそうなんだよね。


 本当に、他に方法はないものか……。


「あれ?」


 その時、ふと思いついた。


 僕の手が触れているこの『大地の剣』は、その秘められたタナトス魔法の力で、遠い地面に黒い角みたいな物を生やすことができるんだ。 


 その角が攻撃になる。


 そして、今、僕は空中にいるけれど、あの魔物の巣は崖に接するようにあるんだ。


 崖だって、つまり地面の一種で……。


 うん、いけるかもしれない。


「よし、やってみよう!」


 シュラン


 僕は大きく頷くと、『大地の剣』を鞘から抜き放った。


 白銀の両刃の美しい剣身が、太陽の光にギラリと輝き、僕はそこに神気を流し込んでいく。


 剣と柄、その間にある魔法石が光る。


 そして、刀身にあった3つのタナトス魔法文字が1つずつ光を放ち、そして、3文字全てが輝きだした。


 ヒュン


 手の中で回転させ、逆手に持ち替える。 


 そのまま僕は、突き出した岩盤に身を隠しながら、その射程距離である100メードまで接近を試みた。


 ブブブッ


 羽音が凄い。


 たくさんの『血狂い大蜂』が飛び交う中、僕は緊張しながら巣に近づいていく。


(もう少し……)


 あと10メードほど。


 そう思った時だった。


 突き出した岩盤の陰から、ひょっこりと血狂い大蜂が顔を出したんだ。


(ひっ!?)


 その距離は1メードもない。


 向こうは壁面に留まって休んでいたのか、僕は全く気配に気づいていなかった。


 向こうも僕に気づいてなかったろう。


 突然のご対面だ。


(――まずい!)


 思った瞬間、僕の左手は『妖精の剣』を鞘から抜き放って、そのまま『血狂い大蜂』の頭部を斬り飛ばした。


 ヒュコン


 頭部が落下する。


 けれど、残された首無しの胴体は、激しく翅を羽ばたかせながら、崖の壁面に何度もぶつかっていったんだ。


 やがて空に向かい、そして力をなくして地上に落ちていく。


 でも、そのうるさかったこと。


 その騒ぎによって、他の血狂い大蜂たちもこちらに注目して、そして、そこにいる僕の存在に気づいてしまった。


「……あ」


 血の気が引いた。


 同時に僕は、これ以上、隠れるのは無理だと判断して、残りの10メードを一気に飛翔する。


 ブブブブッ


 大量の羽音が迫って来る。


 その恐怖を必死に押し殺して、僕は逆手に握る『大地の剣』を崖の壁面に突き立てた。


大地の破角(アースホーン)!」


 僕は叫んだ。


 突き立てられた剣身から、壁面の中を魔力が流れていき、それは崖と巣の結合部分で集束した。


 ドゴォオン


 壁面から3メードもある黒く捻じれた角が飛び出した。


 それは黄土色の太い柱を貫き、一部を削り落とす。


 ドゴォン ドゴゴォン


 更に連続して、壁面から突き出していく黒い角たちが硬い結合部にぶち当たり続け、やがて、そこにひびが生まれた。


 ビシッ メキメキ


 巣自体の重量もあったのだろう、ひびが大きくなっていく。


(とどめだ!)


 僕は叫ぶ。


大地の破角(アースホーン)!」


 ドゴッ ドゴォオオン


 追加で流し込まれた神気によって、更なる黒い角が生え、その最後の一撃によって結合部の柱は完全に壊れてしまった。


 巨大な巣が落下する。


 まるでスローモーションみたいに見えた。


 1000メードの高さを落下し、やがて眼下に見えるアラクネの森に大きな土煙が舞い上がるのが見えた。


 ズズゥン


 重く響く音は、遠く聞こえた。


 周囲を飛んでいる『血狂い大蜂』たちは、呆然としたようにその空中の場から動かなかった。


 ただ、落ちた自分たちの巣を見ている。


(やった……っ!)


 その中で、僕は1人歓喜した。


 でも、その時、足元に舞い上がる土煙の中から、大量の羽音が恐ろしい勢いで聞こえてくるのに気づいた。


 壊れた巣から、大量の『血狂い大蜂』が飛び出してきたんだ。


(あ)


 その数、3000体以上。


 神武具の感覚を通して、その脅威的な数が伝わってくる。


 うわあっ!


 勝利の余韻から我に返った僕は、大急ぎで方向転換し、イルティミナさんたちの待っている方へと飛翔した。


 ヒュオオッ


 風切り音が凄い。


 それほどの速度で飛翔しているのに、そうして逃げた僕を『血狂い大蜂』たちが追ってくる。


 前方には、最初から僕の周囲にいた巨大蜂たちが進路を塞いでいた。


 足止めされたら、死ぬ。


 それを悟った僕は、体内にあった神なる力の蛇口を一気に開いて、自身の姿を『神なる狗』へと変身させた。


 ピンとした獣耳。


 フサフサして長い尻尾。


 それを生やした僕は、格段に向上した身体能力を使って、足止めに迫る『血狂い大蜂』たちを左右の手にある剣で斬り捨てていく。


「やああっ!」


 ヒュコッ ヒュココン


 魔物の死体が空中に次々と生み出される。


 その中を、必死に飛翔していく。


 チラッ


 視線を下方へと向ければ、こちらに迫る3000体もの魔物の集団が見えた。


 先頭にいるのは、他の『血狂い大蜂』よりも倍近い6メードはある巨大な腹部を持った蜂――多分、女王蜂だった。


 そこから感じるのは、憤怒。


 巣の中には、恐らく卵や幼虫もいただろう。


 それらは全て、眼下の地上で潰れてしまったはずだった。


 我が子たちを殺された恨み。


 その仇。


 僕へと向けられる虫の眼球からは、そうした感情が感じ取れるほどだった。


(…………)


 多少の申し訳なさはある。


 けど、僕は人間であり、相手は魔物だった。


 互いの生存圏を守るために、それを脅かそうとするならば、全力で戦わなければならない相手なんだ。


 だから、謝らない。


 謝る訳にはいかないんだ。


 僕はグッと唇を噛み締めて、飛翔していく。


 邪魔する巨大蜂は、手にした2本の剣で斬り裂き、道を切り拓いた。


 やがて、


「マール!」


 遠い中腹の草原に、イルティミナさんたちの姿が見えた。


 向こうも僕が見えただろう。


 そして、その後ろから迫ってくる3000体もの赤黒い巨大蜂の群れも……。


 みんな、武器を構えた。


 その中に、僕は突っ込むようにして着地する。


 ズシャアン


 靴を滑らせ、草原の草と土を吹き飛ばしながら、必死に踏ん張って止まった。


「巣は落としたよ!」


 僕は興奮のままに叫ぶ。


 それを聞いたキルトさんは、肩に担ぐようにして『雷の大剣』を構えたまま、


「よくやった」


 と短く褒めてくれた。


 イルティミナさんも「さすがマールですね」と微笑み、ソルティスは「蜂に見つかんなきゃ最高だったけどねぇ」とぼやき、ポーちゃんはそんな相棒に小さく肩を竦めた。


 ごめんよ。


 でも、これが精一杯だったんだ。


 そう思いながら、僕もみんなと並んで、2本の剣を構える。


(うん)


 みんなと一緒なら、戦える。


 正面からは3000体以上の魔物の群れが、女王蜂を先頭にして迫っていた。


 空が赤黒い巨体で埋め尽くされる。


 ブブブッ


 凄まじい羽音が周囲に響く。


 クパルトさんは、棍棒をヒュンと回転させて構え、


「アルゼウス神の御名の元、このクパルト・アーディクスも神狗様、神龍様と共に戦う誉れが与えられたことを深く感謝いたします」


 そう落ち着いた声で告げた。


 その立ち姿、その構えからは、これだけの魔物の大群を前にして動揺が見られない。


(頼もしいな)


 僕は心の中で笑ってしまった。


 そうして武器を構える僕ら7人に対して、血狂い大蜂の女王は、その牙をガチガチと打ち鳴らし、我が子である巨大蜂たちと共に一斉に襲いかかってきたんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。



実はマールの更新についてなのですが、当面、週1回更新を継続する事にいたしました。


いつも楽しみにして下さっている皆さんには、本当に申し訳ありません。

詳しい理由については、作者の活動報告に書いてありますので、もしよかったらご覧下さいね。


更新頻度は落ちてしまいますが、これからもマールの冒険は続きますので、皆さんには今後も楽しんで貰えたなら幸いです♪



次回更新は、来週の金曜日0時以降を予定しています。

今後も毎週金曜日に更新していきますので、どうぞ、よろしくお願いします~!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ 蜂に追いかけられながらも巣を壊したのは見事ですが、生死を賭けた鬼ごっこな状況で勝利の余韻に浸れるとは何たる豪胆ぶりか(笑) まぁ仕事は完遂したので喜ぶのも解…
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