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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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553・アルン辺境の街道

第553話になります。

よろしくお願いします。

 誕生祭の翌日、僕らは『ヒュパルス寺院』へと向かうための馬車に乗り込んだ。


 行くのは、僕、イルティミナさん、キルトさん、ソルティス、ポーちゃんの5人だけだ。


 将軍さんやフレデリカさんは、自分たちの本来の仕事があるために、この神帝都アスティリオに残ることになっている。


「気をつけてな、鬼娘」

「うむ」


 将軍さんの言葉に頷き、キルトさんは車内から手を伸ばして、握手を交わす。


 軍服姿のフレデリカさんも、


「呼び出された先で何があるのかわからないが、もし2人に会えたなら、よろしく伝えてくれ」


 そう頼んでくる。


 僕は「うん」と約束し、笑顔を交わし合った。


 フレデリカさんの手で馬車の扉が締められ、「出してくれ」と御者さんに声をかけると、僕らの乗った馬車は動き出した。


 ガタゴト


 屋敷の前を出発し、2人の姿が遠ざかっていく。


 窓から身を乗り出して手を振ると、フレデリカさんと将軍さんの2人も振り返してくれ、集まった使用人の皆さんも頭を下げて見送ってくれた。


 門を抜け、貴族街の通りを走る。


 2人とダルディオス家のお屋敷は、すぐに見えなくなってしまった。


 …………。


 片道2週間、また旅の始まりである。


 レクリア王女たちとは昨夜の内に挨拶をしていて、シュムリア使節は、予定では1週間ほど滞在してからシュムリア王国へと帰ることとなっていた。


 それを考えると、僕ら『冒険者』は本当に自由だ。


 突然、1200キロも離れた場所に向かうことも、こうしてできてしまうのだから。


 イルティミナさんは『金印』だから、クエストの予定も詰まっていたけれど、それについては、ギルドと王国の方で調整してもらう手筈になっている。


(リカンドラさん、大変だろうな)


 そのしわ寄せは、きっと彼に向かうだろう。


 でも、リカンドラさんのことだから、もしかしたら、より多くの戦いで強くなれると、むしろ喜んでくれるかもしれない……かな?


 何にしても、レクリア王女の後ろ盾もあるので、今回の件でイルティミナさんが苦情を受けることはないはずである。


 そうこうしている内に、僕らの馬車は、第3城壁の正面門に辿り着いた。


 ちなみに第3城壁とは、神帝都アスティリオを守る3重の城壁の一番外側の城壁のことだ。 


 御者の人が、詰め所で手続きをしてくれる。


 皇帝陛下直々の命令書などもあるので、他の馬車や竜車に比べて、とても短い時間で終わった。


(陛下のおかげだね)


 他にも陛下は『ヒュパルス寺院』宛てに、僕らに便宜を図るようにという書状も書いてくれた。


 本当にありがたい話だよ。


 ふと振り返れば、窓の向こう側に、青い空へとそびえる厳粛な皇帝城の姿が遠く見えていた。


「…………」


 軽く頭を下げる。


 やがて、僕らの馬車は門前の街道を進みだし、神帝都アスティリオを出発した。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 出発してから3日が経った。


 僕らは各地の町の宿屋で夜を越しながら、順調に北東への旅を続けていた。


 宿での食事中、


「パディア殿下には泣かれてしまっての……」


 と、旅立ちを伝えた時の様子を、キルトさんが教えてくれた。


 殿下は、誕生祭のあとも、しばらくはキルトさんと一緒にいられると思っていたんだって。


 だから、今回の話は、かなりショックだったみたい。


『わ、私も一緒に行くぅぅ~っ!』


 と、大泣きしながら駄々を捏ねて、キルトさんやフレデリカさん、近衛騎士やお付きの人たちとかを困らせてしまったそうだ。


(あらら)


 誕生祭では、凛々しい姿も見せていたんだけどね。


 でも、まだ10歳だから仕方ないか。


 今は落ち込んでいるかもしれないけど、皇帝陛下や皇后様、弟君もいらっしゃるし、フレデリカさんもそばにいるから、きっと立ち直ってくれるよね。


 だけど、


「キルトって、皇女様に本当に懐かれてるのねぇ」


 と、呆れ気味にソルティス。


 うん、僕も同感。


 キルトさんは苦笑して、それから、少し優しい眼差しになった。 


「皇女という立場は、とても人から大切にされるものじゃが、同時に多くの人の思いに縛られる立場でもある。それは時に苦しく、寂しいものじゃからの」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「パディアという1人の少女にとって、わらわの存在が、その孤独を少しでも癒せるのならば良いのじゃがの」


 そう言って、自分の盃へと、手ずから酒瓶を傾ける。


 ……キルトさん。


 僕らは思わず、そんな銀髪の美女を見つめてしまった。


 イルティミナさんが頷いて、


「なるほど。キルトがそこまで皇女殿下に懐かれるわけです」

「だね」


 僕も同意した。


 ソルティス、ポーちゃんも『うんうん』と頷いている。


 そんな僕らに、キルトさん本人は「ふむ?」とあまり自覚がなさそうな顔をして、手にしたお酒の盃をキュッと呷った。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 神帝都アスティリオを旅立ってから、7日が経った。


 アルン神皇国の中心から離れてきたためか、街道は細くなり、整備もあまりされていない様相になってきた。


 ガタゴト


 車輪から伝わる振動も大きくなっている。


(揺れるなぁ……)


 転生してから旅慣れてきたとはいえ、これだけ揺れると車酔いを起こしてしまいそうだ。


 と、キルトさんが外の景色を見て、


「そろそろか」


 と呟いた。


 ん?


 彼女は、同じ車内にいる僕らを見回して、


「全員、いつでも戦えるよう、武器、防具の備えをしておけ」

「え?」

「この辺は、もうアルン中央府から外れておる。治安も悪く、街道周辺の魔物の駆除も正しく行われておらぬ可能性もある。用心が必要じゃ」


 そうなんだ?


 驚いてしまったけど、キルトさんは、アルン国内を旅していた身だ。その経験から、その実態がわかっているんだと思う。


 僕らは「わかった」と、すぐに防具をまとい、武器も手元に置くようにした。


 その間、キルトさんは窓の外を確認している。


 僕も見る。


 街道の左右には、背の高い樹々が生え並んでいた。


(……なるほど)


 森林のようで視界は悪く、もしこの周辺が魔物の生息域だとするならば、いつ襲撃を受けてもおかしくない状況だった。


 ソルティスは真っ白な『竜骨杖』を触りながら、


「アルンの街道って物騒ね」


 と、ぼやいた。


 キルトさんは苦笑する。


「全てがそうではないが、まぁ土地の差が大きいの。中央府から離れても安全な街道もあるし、そうでない場所もある、ということじゃ」


 ふぅん。


 アルンの国土統一から50年。


 けど、まだまだ各地の小国だった時代の名残りがあるのかもしれないね。


「あとは、国土の大きさじゃな」


 と、キルトさん。


「アルンは大国じゃが、人の支配領域は、実はかなり少ない。実際には、魔物が支配する大自然の領域が広く、そこを通っているだけの街道も多いのじゃ」


 なんとか、街道は造れた。


 でも、それは『いつ魔物に襲われてもおかしくない環境』の街道ということらしい。


(ひぇぇ……)


 僕らは腕に覚えのある『魔狩人』だからいいけど、一般人には恐ろしい街道だね。


「良くも悪くも、土地に対しての人口が足りぬのじゃな」


 キルトさんは、そう言った。


(……そっか)


 この世界では、人の生息域と魔物の生息域があって、それがぶつかり合う場所で摩擦が起こり、国の軍隊や『魔狩人』が派遣されるといった感じだ。


 そうして人類は、人の生息域を守っている。


 で、アルンは国土が広い分だけ、その境界線も長すぎるんだ。


 今、僕らがいるのは、魔物の生息域の側に喰い込んでいる街道といった感じなんだろうね。


 …………。


 窓の外を見る。


 鬱蒼と広がる森の風景は、安全が保障されていたら、ただ綺麗な風景だと思えただろう。


 でも、そこに凶暴な魔物がひしめいているとしたら?


(やっぱり怖いなぁ)


 思わず、背筋が震えてしまったよ。


 そうして僕らは、かすかな緊張感を覚えながら、危険な街道を進んでいったんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 旅立ってから9日。


 魔物との戦闘は、3回ほど発生した。


 キルトさんが言った通りに、僕らの通っていた街道は危険だったらしく、道の先に当たり前のように魔物がいて、びっくりしたよ。


 いたのは、『白翁鹿はくおうじか』と呼ばれる巨大な鹿の魔物だった。


 体長5メードほどの巨体で、同じぐらいの長さの角が左右に突き出し、顔は人間の老人みたいな顔をしていて、長く白い顎髭が生えているんだ。


 周囲には、群れの仲間らしい体長2~3メードほどの『白翁鹿』が7体。


 あとで教わったけど、小さいのは全部、雌らしい。


 ちょうど群れが街道を横切るように森を移動している最中に、ばったり出会ってしまった感じだった。


 そのまま行ってくれればいいのに、僕らを見つけた途端、


『キヒィイイッ!』


『白翁鹿』は奇声を発して、僕らの馬車に襲いかかってきたんだ。


 キルトさん曰く、


「奴らは、人間嫌いの魔物じゃ。ゆえに人を見つけると襲ってくる」


 とのこと。


 知性が高いらしく、過去に同胞が人類によって狩られた過去があるため、人間を敵視しているとかなんとか……そういう話があるそうだ。


 その真偽はともかく、襲われたなら、僕らも対処しなければならない。


 …………。


 結果から言えば、『白翁鹿』は僕らの敵ではなかった。


 魔法も使ってくるのには驚いたけど、こっちにはキルトさん、イルティミナさんがいて、2人より強いかもしれないポーちゃんもいる。


 油断なく戦えば、簡単に勝利できた。


「やれやれね」


 8体の死体を眺めて、ソルティスは吐息をこぼす。


 街道脇に死体を集めて、あとは他の魔物や動物が食べてくれるだろうと放置して、僕らの馬車は進んでいった。


 …………。


 他2回の魔物の襲撃は、人間の女の匂いに誘われたゴブリンの群れと、上空から獲物と思って強襲してきた『白尾大鷲はくびおおわし』によるものだった。


 ちなみに『白尾大鷲』とは、尾が白い体長12メードもある大鷲である。


 ゴブリンは、攫おうとした人間の女たちに逆に殺された。


 白尾大鷲も、僕とソルティスの魔法で接近を牽制され、イルティミナさんの『白翼の槍』の砲撃を受けて、深手を負いながら空の彼方へ逃げていった。


(……うん)


 僕らだからいいけど、一般人どころか、一般冒険者でも大変そうな街道だ。


 それからも警戒しながら、街道を進む。


 やがて、街道の先に造られた辺境の町へと到着し、僕らはそこで一泊することとなった。


 その夜、お風呂上りの僕らは、客室のベッドの上に広げられた地図を眺めた。


「ふむ」


 それを確認して、キルトさんは頷く。


 そして、


「どうやら、街道を使えるのもここまでじゃの。ここから『ヒュパルス寺院』までは、2日間、森と山を抜けていくことになりそうじゃ」


 と言った。


 ……さすが、深山渓谷の奥地にあるという寺院。


 明日からの僕らの旅は、また少し過酷なものとなりそうだった。

ご覧いただき、ありがとうございました。



実は、これまで週3回更新してきたのですが、ここ最近、執筆が追いつかなくなってきました。


ある程度、ストックはあるのですが、このままだと近々、更新に間に合わなくなりそうなので、しばらくは週1回、金曜日更新にしようと思います。

期間としては6月いっぱい、場合によってはそれ以降も……になります。


本当に申し訳ないですが、作品の質を落とさぬため、より良い物語を作るため、どうかご了承下さい。


また、いつも読みに来て下さっている皆さんには、本当に感謝です!

更新ペースは落ちてしまいますが、どうか、これからもマール達の物語を楽しんでもらえたなら幸いです♪ もしよかったら、ぜひまた読みに来てやって下さいね~!



※次回更新は、6月17日金曜日0時以降を予定しています。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ 今回は無双回でしたね。 まぁ、確かに今更ぽっと出の魔物達相手に苦戦もないでしょうし順当な流れですね(*´ー`*) [一言] 前回は気が付きませんでしたが、遂…
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