533・森林での実践講習
第533話になります。
よろしくお願いします。
本日は、実際にクエストを受ける『実践講習』だ。
冒険者ギルドに行くと、すでにギルドの方で選定された討伐クエストの依頼書がギルド職員さんから手渡された。
(ふむふむ?)
内容を確認する。
王都ムーリアから2~3時間ほどの距離に『豊穣の森林』と呼ばれる場所があった。
職員さんからの説明によれば、この森では、邪虎やゴブリンなどの脅威度の低い魔物が多数生息していて、常に討伐依頼が出されているそうなんだ。
魔物を全滅させるのは難しい。
なので、常に一定数の駆除を行うことで、魔物の繁殖を抑える方法を取っているんだって。
常時クエストが出されているので、初心者にとっては手軽な練習の場となり、また経験者にとってはちょっとした小遣い稼ぎができる場所なんだそうだ。
(なるほどね)
新人指導にもちょうど良く、いつも使われる場所とのこと。
地図も渡されて、今回は『豊穣の森林』の北東部の浅層で、実際に邪虎やゴブリン討伐を受講者さんたちに行ってもらう予定だそうだ。
そんな感じで事前の打ち合わせは終了。
講習時間になると、ギルド1階の受付に15人の受講者さんが集まっていた。
「今日は、実践講習ですね」
僕は皆さんに声をかけ、各人に地図を配りながら、15人を4パーティーに分けて実際に討伐を行ってもらう旨を伝達した。
今回は命の危険がある。
みんな、真剣な表情で話を聞いてくれた。
「……はん」
「けっ」
例の『悪ガキ』たちは不真面目な態度を見せてはいたけど、うるさくしたり、邪魔をするようなこともなかった。
昨日の負けが少し響いてるのかな?
あまり視線を合わせてこないけど、こっちを侮る感じではなくなっている。
そんな感じで説明してから、受講者さんたちには、昨日、講習で重要性を説いた『荷物作り』から始めてもらった。
各パーティーの荷物を、僕が確認。
必要ない物、足りない物、それを指摘したりして全員の準備を整える。
まだ実際にクエストを受注したことがない人もいたので、一連の流れも説明したりした。
まずは自分たちのパーティーの戦力や能力を把握した上で、報酬、場所、期日などを確認し、それに合ったクエストを選ぶ。
クエストを選ぶ際は、4色の掲示板の自分の冒険者ランクと同じ色の場所にある依頼から探すと、条件に合ったクエストが見つけ易い。
クエストを選んだら、受付の職員さんにお願いする。
実力に見合ってない場合、ここで不許可となる。
許可が出たら、ギルド用、依頼者用、控用、保険用の書類などに署名し、魔法球に魔法印のある手を押し当てながら口頭入力して、受注完了だ。
「へぇ」
「なるほど」
新人受講者さんたちは、メモを取りながら、興味深そうに実際にやっていた。
(初々しいなぁ)
4年前の自分もこんな感じだったかもと、懐かしいような、微笑ましいような気持ちだった。
一方で、
「ちっ、時間取らせやがって」
「んなの簡単だろうが」
「アホらしい」
「早く行こうぜ、ったくよぉ」
すでに経験があるらしい『悪ガキ』たちは、文句を口にしていたけどね。
でも、直接は言ってこないので聞き流しました。
さて、そんな感じで受注をすれば、ギルドの建物前に、ギルドが手配してくれていた20人用の大型竜車が停まっていた。
受講者さんたちが乗り込んでいく。
「では、よろしくお願いします、マール様」
「はい」
ギルド職員さんに頷いて、僕も乗り込む。
ギッ ギシッ
軋む音を立てて車輪が回り出し、僕らを乗せた大型竜車が動き出した。
窓から外を見る。
天気は快晴で、講習中も晴れていてくれそうだ。
(何事もなく終わるといいな)
そんなことを思いながら竜車に揺られ、やがて数時間後、僕と15人の受講者さんたちは『豊穣の森林』に到着した。
◇◇◇◇◇◇◇
やって来た『豊穣の森林』は、とても綺麗な森だった。
背の高い樹々が集まり、清流の小川もあって、起伏も穏やかな歩き易い地形になっていた。
また食用の果物や野草も多い。
それを目当てに動物たちも集まってくるそうで、近隣の村人や狩人たちにとっても、まさに豊穣の恵みを与えてくれる森であるそうだ。
ただ、同時に魔物もいる。
絶対に安心安全の森という訳ではない。
(特に、森の奥はまずそうだね)
職員さんにも説明されたんだけど、脅威度の低い魔物は森の浅い地域のみで、奥深くには脅威度の高い魔物も生息しているので『絶対に行くな』と言われていた。
僕は、そのことも受講者さんたちに伝えておく。
地図を見ながら範囲を説明して、この中で4パーティーには、魔物を10体討伐するように指示を出した。
そして僕は、順番に4パーティーを見て回っていく予定だ。
何か問題が起きた場合は、すぐに『発光信号弾』を使うようにと言っておいた。
「躊躇しないでくださいね」
と、強めに言う。
杞憂になってもいい、無駄でもいい、もしもの時は迷わずに、即、使って欲しい。
(それが命を左右する場合もあるから)
とある4人を除いて、みんな、真剣に頷いてくれた。
それから僕は、昔、イルティミナさんに教わったみたいに魔物の痕跡の見つけ方や、追跡時、襲撃時の注意点などを話していった。
質問も受け付けて、それにも答える。
それも終わると、
「それじゃあ、皆さん、討伐クエストを開始してください」
と、僕は実践講習の開始を合図した。
◇◇◇◇◇◇◇
樹々の葉を抜けて、木漏れ日が幾筋もの光となって森の中に差し込んでいる。
美しい風景だ。
その中を1人で歩いていると、涼やかな風が僕の髪を揺らしながら、心地好く吹き抜けていった。
(……ん)
僕は目を閉じて、匂いに集中する。
風の流れに乗ってきた匂いから、周辺にいる受講者さんたちや魔物の様子が伝わってきた。
…………。
どうやら1つのパーティーは、もう戦闘に入っているみたいだ。
(相手は、邪虎の群れかな?)
獣臭いので、そう思った。
ゴブリンだと、もっとすえたような臭いがするからね。
血の臭いもあるけど、魔物の方から感じられるので、受講者さんたちが怪我をしているわけではなさそうだ。
(うん、大丈夫そうだね)
そう判断する。
他の3パーティーは、まだ魔物を探しているみたいだ。
ん?
1パーティーの動きが変わった。
(魔物の痕跡を見つけたのかな?)
しばらくその場で停滞したあと、とある方向へと迷いなく進んでいて、その先にはゴブリンらしい魔物の臭いがあったんだ。
うん、ちゃんと風下から接近してる。
これなら無事に魔物に遭遇して、上手くすれば、奇襲をしかけて先制攻撃ができるだろう。
(がんばれ)
心の中で声援を送った。
あとの2パーティーなんだけど、その片方がズンズンと進んでいくのが気になった。
(……この匂いは『悪ガキ』の方だね)
まともな魔物の痕跡探しをしていないのかな?
しょうがない子たちだなぁ……と、ちょっとため息がこぼれしまう。
「ん?」
その時、もう一方のパーティーの近くに魔物の臭いを感じた。
受講者さんたちに気づいた様子はなく、けれど、魔物の方は明確な意図をもって、そちらに近づいているみたいだった。
これは……まずいかな?
魔物は、野生の動物とは違う。
奴らは、人間の存在に気づいた場合、逃げるだけでなく、逆に自分たちから襲ってくる場合もあるんだ。
捕食のため、繁殖手段のため、嗜虐性を満たすため。
様々な理由で人間へと害をなす、決して人とは相容れぬ魔の生物――それが『魔物』なんだ。
(相手は、ゴブリンか)
まともに戦えば、受講者さんたちが負けることはないと思う。
けど、奇襲を受けたら?
経験の浅い彼らがパニックを起こしたり、冷静に対処できなかった場合は、危険かもしれない。
「よし」
僕は頷いて、そちらへと駆けだした。
…………。
…………。
…………。
結果から言うと、その受講者さんたちは、知恵の回るゴブリンたちの奇襲を受けてしまった。
1人が負傷。
残りの3人は、すぐに対応できずに、ゴブリンの群れに分断され、各人が取り囲まれてしまっていた。
やはり、焦り、冷静ではいられなかったみたいだ。
誰も『発光信号弾』を使わない。
身を守ることに手一杯になって、その先のための行動が取れなくなっていた。
「やっ」
ヒュコン
僕が到着したには、その直後だった。
取り囲んでいるゴブリンの1体の首を、背後から切断し、ゴブリンの包囲網を切り崩す。
「負傷者の援護を!」
僕は叫んだ。
彼らは「は、はい!」と頷いて、負傷した1人を守るように隊列を組み、背面から襲われないように大樹の陰に移動した。
2人が前衛に立ち、1人が魔法使いだったようで、負傷者に回復魔法をかける。
(うん、いい判断だ)
その間、僕はゴブリンの群れの中を走って、剣を振るいながら攪乱に努めた。
負傷者の治療が終わる。
(よし)
僕は4人の方へと駆け寄り、
「さぁ、あとはがんばってください」
と笑いかけながら、続きのゴブリンとの戦闘を彼らに引き継いだ。
彼らは頷き、戦闘が始まる。
ゴブリンは10体ぐらいの群れだったけれど、冷静になった受講者さんたちの敵ではなかったようで、あっさりと倒されてしまった。
(うんうん、よかったよかった)
僕も一安心だ。
受講者さんたちも勝利に喜んでいる。
それが一段落したら、僕は、周囲への警戒を疎かにして奇襲を受けた点や、発光信号弾を使わなかった点などを注意しておいた。
(少し口うるさいかもだけど……)
でも、講師である以上、ちゃんと言っておかないといけないよね。
彼らは反省した顔で「はい」と頷いていた。
(そろそろ時間かな?)
成果が出ても、出なくても、時間になったら最初の集合地点に戻るように話してあった。
僕は、この受講者さんたちと一緒に戻ることにする。
その時、ふと僕の鼻が嫌な情報を伝えてきた。
(……え?)
風と共に分かったのは、1つのパーティーが森の奥深くまで侵入している事実だった。
なんで!?
と思ったけど、その匂いが例の『悪ガキ』たちのものだとすぐにわかった。
(あ、あの子らはぁ……っ)
きっと、雑魚の魔物なんてつまらない、もっと大物の魔物を倒して俺たちの実力を見せつけてやるんだ――みたいなつもりだったのだと思う。
なんて浅慮な行動だ。
どんな魔物であっても、侮るなんて絶対にしてはいけない。
まして、森の奥深くにいるような魔物は、素人に毛が生えた程度の実力では、決して勝てる相手じゃないんだ。
僕は、歯を食い縛る。
それから、
「ごめんなさい。皆さんに、しばらく集合場所で待機してるよう伝えておいてください」
そう一緒にいた受講者さんたちにお願いした。
彼らは了承してくれる。
それを確かめてから、僕は、一目散に森の奥深くを目指して駆けだした。
嫌な臭いがある。
強力な魔物の臭いだ。
それがあの『悪ガキ』たちのパーティー近くにあって、接触するのも時間の問題だったんだ。
(間に合ってよ!)
体内の力の蛇口を開き、僕は『神気開放』する。
ドンッ
大地を蹴り飛ばして、一気に加速。
ピンとした獣耳とフサフサした長い尻尾を生やした僕は、軽い頭痛を堪えながら、お馬鹿な子らを助けるため、『豊穣の森林』の中を全力で駆け抜けていった。
ご覧いただき、ありがとうございました。
※次回更新は、来週の月曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。




