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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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507・伸ばされた悪意の手

第507話になります。

よろしくお願いします。

 それからも、僕とソルティス2人だけの日々は、数日間、続いた。


 その1日は、こんな感じ。


 朝は、僕が先に目を覚まして、1人で朝食を用意する。


「おはよう、ソルティス」

「……ん~」


 朝食が完成した頃に、ソルティスは起きてきて、一緒に朝食を食べながら今日の予定を話したりするんだ。


 午前中は、2人でお出かけ。


 王都ムーリアの中を、散策したり、買い物したり、公園でのんびりしたりする。


 その最後は、いつも冒険者ギルド。


「えいっ!」

「やっ!」


 カン ギィン


 ギルド裏手の湖畔で、2人で剣の稽古に精を出すんだ。


 お昼は、外食。


 冒険者ギルドのレストランだったり、近くの食堂だったり、新しい好みのお店を探したりした。


「このお店、また来ましょ?」


 当たりの店を見つけると、ソルティスも上機嫌だ。


 それから、帰宅。


 午後は、それぞれの自由時間だ。


 僕は、趣味の絵を書いたり、剣や鎧の手入れをしたりする。


 一方で、ソルティスは研究室に籠って、『魔力回路』の開発や、神術や魔法の研究に勤しんだりしていた。


 夕食は、2人で作る。


 たまにソルティスの研究が調子いい時は、そちらに集中してもらうように僕1人で作ってあげる。


「ん。今日のは、なかなか美味しくできたわ」

「うん、そうだね」


 2人で作った時は、その料理を品評したりした。


 でも、


「イルナ姉の味には敵わないわね」


 と、2人で苦笑してしまうことが多かった。


 イルティミナさんの料理は、今更ながらに『凄い料理』だったのだと思い知らされるんだ。


 それから、食後のお茶会。


 今日1日のことを話しながら、明日についても語り合う。


 何をしようか?


 何をしたいか?


 そっちの希望は?


 そんな感じで会話を弾ませる。


 気がつけば、もう日付も変わる頃で、そこで僕らは少し名残惜しさを覚えながら寝室に移動する。


「また明日ね、マール」


 そう微笑みかけられ、僕も笑う。


「うん。おやすみ、ソルティス」


 そうして、お互いのベッドへ。 


 同じ寝室で眠ることにも、ようやく慣れて、そうして僕らの1日が終わっていく。


 …………。


 なんだか、不思議な感覚だ。


 恋人同士が、初めての同棲を始めたら、こんな感じなのかなと思った。


 相手のことは知っている。


 でも、一緒に暮らし始めて、まだ知らなかったことを知っていく。


 共に生きるための決まり事が、日々の積み重ねの中でできあがって、そうして、また1つ『2人での暮らし』が積み上がっていく感じ。


(……変だよね?)


 ソルティスとは『イルティミナさんの家』でも、一緒に暮らしていたのにさ。


 でも、2人きりになったら、まるで別物だ。


 保護者であったイルティミナさんがいなくて、自分たちの責任で、自分たちの生活を築いていかなければいけない。


 喧嘩も。


 仲良くするのも。


 2人だけで行って、2人だけで解決していく。


 そうして生まれる絆。


 一緒に暮らしていく中で、僕とソルティスとの間に、そういった物が生まれている気がしたんだ。


 …………。


 仮初の恋人だけど。


 それでも、今の僕は『ソルティスの恋人』としての時間を楽しんでいるのかもしれない。


 そして、そんな日々は10日間ほど続いた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「今日は、王立魔法院に行くわ」


 朝食の席で、ソルティスはそう言った。


 なんでも、新しい『魔力回路』の論文を、書きかけだけれど見てもらいたいとのこと。


 僕は頷いた。


「うん、いいよ」


 そう言って、ホットミルクを飲む。


 その甘さを味わってから、


「でも、誰に見てもらうの?」


 と首をかしげた。


 すると、3年前、『神界の大門』を作成する時に、コロンチュードさんや『魔学者』さんたちと議論を交わして、仲良くなった人たちがいるというのだ。


(へぇ、凄いや)


 つまり、王国認定の『魔学者』たちに、ソルティスの知識や能力が認められたんだ。


 これまでにも何回か、会っているとのこと。


 ソルティスは、


「やっぱり王立魔法院に勤めてるだけあって、みんな、知識量が半端ないのよね」


 と楽しそうに言う。


(そっか)


 実際、彼女の難しい話には、僕もイルティミナさんもついていけない。


 そんな彼女の全力の知識や発想を理解し、受け止めてもらえるのは、ソルティスとしてもやっぱり嬉しいのだろう。


 うんうん。


 ウキウキした様子のソルティスに、僕もつい微笑んでしまった。


 …………。


 その日の午前中、僕らは『王立魔法院』を訪れた。


 アポイントメントは、すでに取っていたらしい。


 門番の警備兵さんに話をしたら、すぐに中へと通してくれた。


 案内されたのは、会議室みたいな部屋。


 そこに、白衣を着た20代~70代ぐらいまでの『魔学者』たちが7人ほど、集まっていた。


「おぉ、ソルティス君」

「よく来たね」

「今日は、どんな論文を見せてもらえるのかな?」


 そんな感じで歓迎してくれる。


 ソルティスも笑って、


「この間、話していた新式の『魔力回路』についてよ。ほら、魔素の流れを安定化させる素材を変更したら、ちょっと面白い結果が出ちゃってね」


 と、上機嫌で話しだす。


(ふ~ん?)


 人見知りなのに珍しい。


 いつの間にか、ソルティスは、こんなに大勢の人とも普通に話せるようになったみたいだ。


 まぁ、顔見知りだから、というのもありそうだけど。


 でも、また新しい一面を発見した、そんな気分。


 僕は、離れた席に座って、その様子を眺めている。


 ……うん。


 難しすぎて、もう内容についていけないや。


 聞いたことのない難しい専門用語や、何らかの単位が飛び交い、ホワイトボードには計算式が書き殴られては消え、また書き殴られていく。


 凄い熱気だ。


 そうして眺めていると、


「あの、お茶をどうぞ」


 え?


 気づいたら、まだ20代ぐらいの若い男の『魔学者』さんが、ハーブティーのカップを用意してくれていた。


 僕の前のテーブルに置いてくれる。


 僕は笑った。


「ありがとうございます」

「いいえ」


 彼も穏やかに笑った。


 早速、僕はそれを口に運び、その香りと共に味を楽しむ。


(ん……美味しい)


 ホッと息を吐く。


 その様子を、若い魔学者さんは優しく眺め、それから、その視線を目の前の集団へと向けた。


「凄いですよね、ソルティスさん」


 そう呟く。


(ん?)


「あんなに若いのに、あれだけの知識量を持っていて。しかも、発想が斬新なんですよ。僕も、教授たちもいつも感心させられているんです」


 その声には、真っ直ぐな敬意があった。


 …………。


 第三者からのソルティスの評価は、とても高いみたいた。


 僕は聞く。


「そんなに凄いですか?」

「はい!」


 彼は、大きく頷く。


「できれば、このまま『王立魔法院』に所属して欲しいぐらいですよ! 実際に、教授たちも打診してるぐらいなんですから!」

「…………」


 それは初耳だった。


(……もしかして、受ける気あるのかな?)


 少し気になってしまう。


 ソルティスは、僕が昔から知っている女の子だ。


 でも、だから気づかなかったのかもしれない。


 ソルティスは『魔狩人』としては『銀印』の実力者で、王立魔法院からも評価されるほどの『魔学者』としての能力も持っている。


 まさに文武両道。


 どちらの方面でも一流の才能を秘めた、恐ろしい才女だったのだ。


 …………。


(わかってたつもりだったのにな)


 けど、改めて第三者に言われて、それを客観的に強く実感させられた感じだ。


 なんだか、


「……置いてかれてる気分」


 小さく呟く。


 若い魔学者さんは「はい?」と聞き返し、僕は慌てて「何でもないです」と誤魔化し笑いを浮かべた。


(うん)


 僕も、もっとがんばらないと。


 ギュッ


 両手を握り締めて、その思いを強くする。


 若い魔学者さんは、そんな僕にキョトンとしていた。


 それから、少し迷ったように、


「それで……あの……失礼ですけど、貴方は、ソルティスさんとは、どういったご関係なんでしょうか?」


 と聞かれた。


 その視線と声で、ピンッと感じた。


(もしかして、この人?)


 見つめ返すと、彼は「あ、いや」と慌てたような仕草をする。


 その頬が赤い。


 あぁ……そうなんだ。


 確かに、僕は見慣れてしまっていたけれど、客観的に見たソルティスは、誰もが振り返るような凄い美少女だった。


 外見だけでなく、才能も素晴らしい。


 僕は、イルティミナさんを知っているから、あまり意識してなかった。


 でも、他の人からすれば、


(当然、好きになってもおかしくないよね?)


 そう思う。


 彼は、僕の返事を待っている。


 …………。


 本当のことを言いたかったけど、今、僕はソルティスを助けるための役目を負っている。


(ごめんなさい)


 心の中で謝って、


「僕は、ソルティスの恋人です」


 と答えた。


 それを聞いた途端、若い魔学者さんの表情が凍りついた。


 ……あぁ。


 僕の胸も痛い。


 でも、できる限り、表情を崩さないようにしておく。


 彼は、


「あ……あぁ、そうでしたか」


 と頷いた。 


「ソルティスさんは素敵な方ですものね。すでに、そういうお相手がおられてもおかしくないですよね」


 そうぎこちなく笑いながら、続ける。


 そして彼は、僕へと一礼すると、覚束ない足取りで部屋を出て行ってしまった。


 …………。


 す、全てが終わったら、ちゃんと事情を説明に来るべきかな?


 罪悪感を覚える僕。


 そんなこちらの事情も知らず、


「だから、そこの魔素の経路を、こっちの回路で操作してあげるの! それで充填率は2割は増えるし、摩耗する魔金の部位も調整できるんだから!」


 と、ソルティスは、いつまでも楽しそうに論戦を繰り広げていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「あぁ、楽しかったわ♪」


 帰り道、ソルティスはとても上機嫌だった。


 王立魔法院での議論は、5時間にも及んで、結局、帰るのは夕方近くになっていた。


 夕日に赤くなった道を2人で歩きながら、


「よかったね」

「えぇ!」


 僕の言葉に、ソルティスは満足そうに笑った。


 そして、


「ごめんね。マールのこと、放置しちゃって」


 と謝られた。


 謝罪されると思っていなかったので、僕はちょっと驚き、けど、すぐに首を振って「ううん」と微笑んだ。


「大丈夫。新しいソルティスも見られたし」

「??? 何よそれ?」


 彼女は、キョトンとしている。


 それに僕は、また笑った。


 そんな僕の反応に、ソルティスは少し憮然とした顔をしたけれど、


「ま、いいわ」


 と言って、僕に近寄ってきた。


 ギュッ


(え……?)


 唐突に、僕の左腕にソルティスの両腕が絡まってきて、身体を強く押し付けられた。


 ソ、ソルティス?


 柔らかい2つの弾力が押し当てられている。


 目を見開く僕に、


「何よ? 私たち恋人なんだから、これぐらいしてもいいでしょ?」


 と、悪戯っぽく笑った。


 いやいや、


(ここまでしなくても、いいんじゃないかな?)


 だって、本物じゃないんだし。


 でも、ソルティスの横顔を見ていたら、なんだか何も言えなかった。


 頬が少し赤くなっている。


 紫色の柔らかそうな髪から見えている耳の先も、真っ赤だった。


 …………。


 恥ずかしくても、彼女は恋人のフリをしてくれている。


 うん。


 それなら僕も、それを受け入れよう。


 それに正直、僕も驚いただけで、嫌という訳ではなかったから……。


「…………」

「…………」


 2人で黙ったまま、赤い通りを歩く。


 黒い影が、長く地面に伸びている。


 それは寄り添い合って、1つに溶けて、僕らの目の前で揺れていた。


「……恋人、か」


 ソルティスが呟いた。


(ん?)


 すぐ隣にある少女の横顔を見る。


 その唇が動いて、


「マールだったら、恋人でもいいかも……なんて、そんな風に思うようになるなんて、ね」


 その瞳は、伏せられている。


(ソルティス?)


 思わぬ言葉に、僕は、彼女の名前を呼ぼうとした。


 でも、その寸前、


「!?」


 ビリッ


 突き刺すような殺意が背中にぶつけられて、反射的に僕は、ソルティスをかばうように抱きしめた。


「ふぇ!? マ、マール!?」


 腕の中で、焦った声がする。


 でも、それを気にする余裕もなくて、僕は背後を振り返っていた。


 …………。


 けれど、誰もいない。


 周囲には、偶然にも僕たち2人以外に誰もいなくて、それなのに『殺意を向けてきた相手』はどこにも見当たらなかった。


(でも、いる!)


 その剥き出しの刃のような視線は、まだ消えていない。


「マール……?」


 僕の表情に、ソルティスもようやく気づいた。


 そして、顔色を青ざめさせる。


 自分たちに向けられる悪意の視線を、『魔狩人』である彼女も、しっかりと感じ取ったんだ。


「……何よ、またなの?」


 悔しそうに呟く。


 ここしばらくは平穏だったから、その悪意が余計に心に突き刺さったみたいだ。


 僕は、ソルティスを抱く手に力を込める。


「大丈夫」


 ギュッ


「ソルティスは、僕が必ず守るから」


 そう言い切った。


 腕の中で、少女はかすかに身を固くする。


 それから、


「うん」


 と、小さく頷いた。


 その時だ。


 向けられる殺意が今まで以上に明確になった。


(そこか!?)


 それは、通りの脇にある街路樹の裏だ。


 ギンッ


 こちらからも、相手を威嚇するつもりで強い殺気を叩きつける。


 その瞬間、それに反応したように、街路樹の正面に『透明な何か』が集束していくのが、かすかに視認できた。


 あれは?


「いけない、魔法だわ!」


 ソルティスが叫んだ。


(魔法!?)


 そして、僕も気づく。


 集まっていくのは、周囲の空気だ。


 つまり、あれは……、


「まずい!」


 理解した僕は、ソルティスを背中側に隠すと、腰に提げていた『大地の剣』を鋭く抜剣した。


 ギャリィン


 振り抜いた刃が火花を散らす。


 こちらに迫った透明な『真空波』は、真っ二つに切断されて、僕らの左右を抜けていく。


 通りの床石を削り、奥にあった街路樹の幹が斬られて、緑の葉を散らしながら、ドスゥン……と地面に倒れた。


「逃がさないぞ!」


 タンッ


 僕は走った。


 これまでは僕らを監視し、悪意の視線を送って来るだけだった。


 けど今回は、ついに手まで出してきたのだ。


 これ以上は、させない。


「マール!」


 ソルティスの心配する声が背中にぶつかる。


(大丈夫!)


 心の中で答えて、僕は、気配のあった街路樹の裏へと全力で駆けていった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、来週の月曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ イルティミナのマール成分不足になる前に犯人が動いてくれましたね。 ……イルティミナが痺れを切らせてソルティス宅に突入して、マールとソルティスの甘々な同棲生活…
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