502・ソルティスの恋人
少し遅くなってしまいましたが、皆様、新年明けましておめでとうございます!
2022年もこうして『少年マールの転生冒険記』を読みに来て下さって、本当に嬉しいです♪
今年も皆さんに少しでも面白かったな、楽しかったな……と思ってもらえるように頑張りたいと思います!
それでは新年初更新、第502話となります。
どうぞ、よろしくお願いします。
「イルナ姉、何言っちゃってるの!?」
翌日、ソルティスの家を訪れた僕らが昨日のイルティミナさんの提案を伝えると、彼女からは、案の定の反応が返ってきた。
(ま、そうだよね)
僕だって、そう思ったもん。
来客である僕らに果実水のグラスを用意してくれたポーちゃんも、その水色の瞳を丸くしている。
そして、イルティミナさんは、
「落ち着いてください、ソル。何も本当に、恋人になって欲しい訳ではありません。ただ2人には、それらしい様子を見せて欲しいのです」
と伝えた。
ソルティスは「……は?」と怪訝な顔だ。
僕を見る。
それから、また姉を見て、
「どうして、そんなことしなきゃいけないのよ?」
と聞いた。
イルティミナさんは、その綺麗な瞳を伏せて、少し間を空ける。
そして、
「ソルが感じるという視線の犯人、その人物を見つけ出すためです」
と言った。
ソルティスもポーちゃんも驚いた顔をした。
「どういうこと!? 私とマールが恋人のフリをすることで、なんで犯人が見つけられるのよ!?」
ソルティスは、姉に詰め寄る。
イルティミナさんは瞳を開き、妹を見つめた。
「私も確信があるわけではありません。ただ、こうすることで見つかる可能性が高いと思っています。詳しくは……今はまだ、言わない方が良いでしょう」
「…………」
「私を信じてもらえませんか、ソル?」
姉は、そう妹に語り掛ける。
詳しい理由は、僕もまだ教えてもらっていない。
けど、イルティミナさんの妹を心配する気持ちは本物だ。
ソルティスだって、不気味な監視者は早く見つけたいだろうし、何より、イルティミナさんのことは深く信頼しているだろう。
だから、
「わかったわ、イルナ姉」
ソルティスは、やっぱりそう答えた。
それから彼女は、大きく息を吐いて、イルティミナさんの横に座っている僕を見る。
苦笑して、
「しっかし、マールが恋人かぁ。せっかくなら、もっといい男を恋人役にしたかったわ」
と肩を竦めた。
(…………)
ソルティスさん、それは酷くないですか?
僕は呆れ、そして憮然としてしまう。
けれど、イルティミナさんは口元に白い手を当てて、クスクスと笑う。
そして、
「あら? ソルには、恋人役ができそうな、そんな心を許せる男性がマール以外にもいたのですか?」
と聞いた。
ピシッ
ソルティスが固まった。
ギシギシと錆びたような動きで、ぎこちなくこちらから顔を逸らして、
「い、いるわよ、一応ね」
「ほう?」
イルティミナさんは頷いて、
「では、その相手にお願いをしてみましょうか? その人物は今、どちらに?」
と微笑む。
ソルティスは「あ~、う~」と唸って、
「え、えっとね、今はちょっとクエスト中で、当分は帰ってこないのよ。残念だわぁ、タイミングが悪いから頼めないわね」
「…………」
「…………」
「…………」
「し、仕方ないから、今回はマールで我慢してあげるわ」
そう作り笑いで言ってきた。
……意地っ張りだなぁ。
僕とイルティミナさんは顔を見合わせて苦笑し、ポーちゃんはため息をこぼしている。
「な、何よ?」
ソルティスは上目遣いに、僕を睨んだ。
僕は「ううん」と首を振る。
(まぁ、ソルティス、人見知りだもんね)
そういう性格もあってか、なかなか、そういう相手には出会えないのかもしれない。
でも、彼女は美人だ。
それこそ姉であるイルティミナさん譲りの美貌があって、最近は身体も大人びてきている。
その気になれば、すぐ相手は見つかりそうだ。
(……それまでは、だね)
だから今回は、僕が恋人としての役目を務めさせてもらおう。
「じゃあ、しばらくよろしくね、ソルティス」
僕は右手を差し出した。
彼女は、その手を驚いたように見つめる。
そして、
「ふん! 仕方ないから、しばらくは我慢してあげるわ。頼むわね、マール!」
ギュッ
そう笑って、僕の手をしっかりと握り返してきた。
そんな僕ら2人に、イルティミナさんは少しだけ複雑そうな顔で微笑みながら頷き、ポーちゃんも『うんうん』と納得したような顔で頷いていた。
◇◇◇◇◇◇◇
そのあとは、今後についての話し合いを行った。
具体的には、これから数日間、僕はソルティスの家に泊まることにして、代わりにポーちゃんがイルティミナさんの家に泊ることになったんだ。
「コイツと2人きりなの!?」
ソルティス、愕然だ。
そう叫んだ頬と耳が、興奮からか赤くなっている。
僕も、
(そこまでする必要があるの?)
と驚いた。
けど、発案者のイルティミナさんは、
「例の犯人が、今もソルの家を監視していない理由はありません。ならば、2人の関係を事実と見せるために、このぐらいは必要でしょう」
「…………」
「…………」
僕とソルティスは顔を見合わせてしまう。
まぁ、仕方ないか。
僕は「わかったよ」と頷いた。
そんな僕に、ソルティスはギョッとした顔をしたけれど、すぐに「わ、私もわかったわよ……」と口元をモゴモゴさせながら了承していた。
それから言われたこと。
昼間は、なるべく2人でデートしているように外出したりすること。
その際、恋人らしい言動を取ること。
夜は、必ず2人で一緒にいること。
「万が一の危険に備え、どちらも1人になるような時間は、決して作ってはいけませんよ」
そうイルティミナさんは警告する。
瞳は真剣だ。
まるで魔狩人として、魔物を狩ろうとしている時みたいだった。
(いや、一緒なのか)
対象が魔物ではなく、人間というだけで。
イルティミナさんにとっては、その犯人という獲物を狩るための罠を仕掛けている感覚なのかもしれない。
それが伝わったのか、ソルティスも頷いていた。
もちろん僕も頷く。
「2人がそうしている間、私とポーも離れて様子を見守ったり、他にも色々と動くつもりでいます。上手くいけば、それで犯人は見つけ出せるでしょう」
イルティミナさんはそう言いながら、ポーちゃんを見た。
ポーちゃんも頷いて、
「了承した」
と、『金印の魔狩人』の指示に従うことを示した。
ギュッ
ソルティスが両手を握り合わせて、
「……上手くいくといいわね」
と呟いた。
本当に犯人が見つかるのか、少し不安になったみたいだ。
僕は、そんな彼女の合わさった両手の上に、自分の手を重ねておく。
ソルティスが驚いたように僕を見た。
僕は笑った。
「大丈夫。きっと上手くいくよ。それまで、ずっと僕がそばにいて守るからさ」
ギュッ
指に力を込めて、そう言う。
ソルティスはしばし呆けたように僕を見つめ、それから、少し赤くなった顔でパッと手を離した。
「ふ、ふん! 何よ、馬鹿マールのくせに!」
そう唇を尖らせる。
(えぇ……?)
な、なんで不機嫌になってるのかな?
ソルティスはプイッとそっぽを向いて、こちらに背中を向けてしまっている。
…………。
これで恋人役、できるのかなぁ? と、ちょっと不安になる僕でした。
それから、その日は4人で夜まで過ごして、そして、イルティミナさんとポーちゃんの2人は『イルティミナさんの家』へと帰ることになった。
玄関の外まで、見送りに立つ。
「それじゃあね、ポー」
「…………(コクッ)」
ソルティスは、ポーちゃんの小さな身体を抱きしめて言い、金髪の幼女も頷いている。
ソルティスは、少しだけ不安みたいだ。
(あぁ、そっか)
これまでは、ポーちゃんが護衛として暮らしてたみたいなものなんだ。
そんな彼女がいなくなる。
…………。
代わりに僕が、ソルティスが安心できるようにがんばらないといけないね。
そう決意する。
と、
「マール」
イルティミナさんが僕の名前を呼んだ。
彼女の白い両手も、僕の身体を抱きしめてくる。
ギュッ
「私自身が言い出したことですが、マールのこと、私は信じていますからね?」
そう耳元で囁かれた。
(???)
僕は「うん」と頷く。
よくわからないけれど、イルティミナさんが少し不安そうだったので、僕はその背中をポンポンと軽く叩いた。
背中に流れた綺麗な髪の感触が、手のひらに心地好い。
「…………」
イルティミナさんは息を吐く。
それから、少し身体を離して、僕の顔を見つめた。
「しばらく、マールといられない夜が続くのかと思うと、とても寂しいです。でも、我慢しなければなりませんね」
そう健気に微笑んだ。
僕も同じように笑った。
「僕も寂しいけど、がんばるよ」
「はい」
また強く抱きしめてくれて、髪にキスを落とされた。
それから、身体が離れる。
イルティミナさんは、並んで立つ僕とソルティスを見つめて、大きく頷いた。
「ここから2人は恋人同士です」
「…………」
「…………」
「フリではありますが、どうかそのつもりで、これからの時間を過ごしてくださいね」
そう言われた。
僕とソルティスは、お互いの顔を見る。
(うん)
僕らはイルティミナさんを見返して、『大丈夫』と頷いた。
イルティミナさんもまた頷く。
「それでは、また」
そして彼女とポーちゃんは、月明かりと街灯に照らされる暗い夜道を歩いていく。
その姿が見えなくなるまで見送った。
…………。
冷たい夜風が、僕とソルティスの肌を撫でていく。
「そろそろ家に入りましょ?」
「あ、うん」
ソルティスの言葉に、僕は頷いた。
先に家へと入っていく背中を、僕は追いかけようとして、
(!)
ふと、あの視線を感じた。
気のせい?
いや、確かに感じる。
でも、それは淡雪が溶けていくかのように、ゆっくりと消えていった。
「マール?」
ソルティスが家の中から呼びかけてくる。
僕はしばらく外を睨み、それから「ううん」と首を振った。
家に入り、玄関の扉を閉める。
パタン
すぐ目の前には、紫色の柔らかそうな髪を無造作に背中までこぼした美少女が立っていた。
「…………」
一瞬、ドキッとした。
……どうした、僕?
そんな自分に、少し戸惑ってしまう。
ソルティスも「?」という顔だ。
なんだか落ち着かない気持ちのまま、僕とソルティス2人きりの夜が、これから始まろうとしていた――。
ご覧いただき、ありがとうございました。
今年も1年、皆様が健康に安らかに、その心に微笑みを咲かせながら過ごせる幸せな1年となるようお祈りしております。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
またマールと仲間たちの冒険物語も、これからも見守って頂けましたら幸いです~♪
※次回更新は、明後日の水曜日0時以降の予定です。もしよかったら、どうかまた読んでやって下さいね。




