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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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488・カランカの甘い午後

第488話になります。

よろしくお願いします。

 その日の午後、僕とイルティミナさんとフレデリカさんの3人は、新王の誕生に賑わうカランカの街へと繰り出した。


(わぁぁ……)


 凄い人出だ。


 パレードの時は、獣車の上から眺めるだけだったけど、こうして人波の中に入るとその人の多さをより実感できる。


 キュッ


 と、イルティミナさんの白い手が、僕の手を握った。


「迷子にならないよう、繋いでおきましょう」


 そう笑う。


(あはは……)


 僕、もう子供じゃないんだけどな。


 外見は未成年みたいだけど、中身はもう17歳なんだよ?


 苦笑しながら、でも、大好きな彼女の思いやりを断ることもできなくて、僕は素直に手を握っていてもらうことにした。


 キュッ


 と、反対の手も握られた。


(え?)


「空いているならば、こちらの手は私に貸して欲しい」


 そう笑うフレデリカさん。


 イルティミナさんは「むっ」と美貌を少し険しくしていたけれど、僕は苦笑しながら「うん、いいよ」と頷いた。


 今更、1人増えても変わらない。


(ま、両手に花ってことで)


 僕は、そう気楽に考える。


 フレデリカさんは上機嫌に「ふふっ」と微笑み、けれど逆にイルティミナさんは不機嫌そうになった。


 あ、あれ?


 ギュウウ……


 なんだか、イルティミナさんの指の力が強くなって、手が痛くなってきた……アイタタ?


「さぁ、行こうか」


 フレデリカさんが促す。


 僕は「う、うん」頷き、


「……貴方が仕切らないでください」


 イルティミナさんは低い声で応じる。


 そんな僕の奥さんに、フレデリカさんは少しだけ苦笑して、そうして僕ら3人は仲良く手を繋ぎながら、カランカの街の散策を始めた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 カランカは、とても美しい街だ。


 建物の外壁は、基本的には白が多く、その装飾には黄金と魔法石が使われた高級建築ばかりだった。


 まさに『金持ちの国』の首都。


 また街中には、樹木や自然公園なども多く、整備された水路も流れている。


 僕らの所属する『冒険者ギルド・月光の風』のギルド長ムンパさんの部屋も、室内なのに植物や水路があった。


 それに、どこか似ている。


(きっと獣人は、こういう自然と人工物の融合した環境が好きなんだろうね)


 そう思った。


 人の多さも、王都ムーリアと変わらない。


 ただ、そこに歩いている住人の9割は、獣人だ。僕らみたいな人型の人間は、本当に数が少ない。


 右を見ても、左を見ても、いるのは素敵なモフモフばかりだ。


(……さ、触りたいなぁ)


 素敵な毛並みに、そんな気持ちを抑えるのが大変だ。


 今は、新王の誕生のお祭りみたいなので、通りの左右には、たくさんの出店も並んでいた。


(へ~?)


 このお店に並んでいるのは、動物の骨を削った装飾品だ。


 商品の1つを、なんとなく眺める。


(これは、小さな鳥をかたどったネックレスかな?)


 ……おや?


「もしかして、これ、目や羽根の先の装飾に、魔法石が使われてる?」

「え?」

「ほう、そうみたいだな」


 僕の言葉に、2人のお姉さんも商品を覗き込む。


 店の主人が、ドル大陸の公用語で色々と話しかけてくるけれど、ちょっと早口すぎて、僕のヒヤリング能力では理解できなかった。


 まぁ、多分、セールストークなんだろうけど。


(でも、贅沢な品だなぁ)


 こんな小さなネックレスに、魔法石まで使うなんて。


 だけど、造形自体は、小さいけれど細部まで精緻に作られていて、とても綺麗だと思った。


 見ていると、


「欲しいのなら買ってあげますよ、マール?」


 そうイルティミナさんが微笑んだ。


(え?)


 いやいや、そういうつもりじゃないから。


 でも、過保護なお姉さんは、僕のためならいつでも財布の口を緩めますという顔をしていた。


 と、


「いや、それなら私が支払おう」


 なんと、フレデリカさんまでそんなことを言い出した。


(ええっ?)


 イルティミナさんはムッとし、フレデリカさんは微笑みを浮かべ、そして2人のお姉さんは睨み合う。


 バチバチッ


「この子は、私の夫です。この子の欲しい物は、私が買います」

「いやいや、せっかくの機会だ。ここは、私がマール殿にプレゼントしよう」


 ち、ちょっとちょっと?


 僕は、慌てて2人の手を引っ張った。


「だ、大丈夫。ただ綺麗だなって見ていただけだから、別に欲しくはないからっ」


 そう訴える。


 2人は僕を見て、


「そうですか?」

「まぁ、マール殿が不要と言うならば……」


 そうお互いの主張を収めてくれた。


(……ほっ)


 僕は、胸を撫で下ろす。


 一生懸命、僕らに営業してくれている店主さんには悪いけれど、僕らは何も買わずに、その出店の前を離れたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 それからも、僕らは出店の品を眺めたり、ちょっと買い食いをしたりして、カランカの街を散策した。


 やがて、お昼になり、近くの食堂へ。


 少し混んでいたけれど、20分ぐらいの待ち時間で店内に入ることができた。


 ちなみに『魔血の民』も入れるお店。


 ヴェガ国でも少なからず差別があるみたいで、『魔血の民』の入店を拒否する店もあったんだ。とはいえ、シュムリア王国の差別と変わらないレベルって感じだ。


(アスティリオが懐かしいな)


 アルン神皇国の首都は、差別が全くない街だった。


 まぁ、その反面、物価は高いという難点もあったんだけど、それを思うと、世界中から差別をなくすというのは本当に難しいんだなと思ったよ。


 閑話休題。


 そうして僕らは、ヴェガ国の料理だという獣の丸焼きみたいな物を食べていた。


 外側は焦げている。


 でも、ナイフでそれを削ると、中から肉汁たっぷりの焼けたお肉が出てくるんだ。


(いい匂い……)


 香辛料が効いているみたいで、食欲を刺激する香りが広がっている。


「はい、マール」


 ナイフでお肉を切り分けたイルティミナさんが、僕へと微笑みながら、肉の載ったお皿を渡してくれる。


「ありがと、イルティミナさん」

「ふふっ、いいえ」


 僕ら夫婦は、笑い合った。


 フレデリカさんは、自分の分の肉をナイフで切り取りながら、少し羨ましそうにそんな僕らを眺めていた。


 モグモグ


 うん、美味しい!


 肉汁たっぷりのお肉は、香ばしくて、旨みもたっぷりだ。


 2人のお姉さんたちも表情が綻んでいる。


 ちなみに、食べる時は手掴み――それがヴェガ国流の食べ方なんだ。


 指を洗う水の銀ボールも用意されている。


 また別売りのパンとサラダも買って、そのパンにサラダと肉を一緒に挟んで食べると、より味が広がって美味しかった。


 ちなみにライスと混ぜて、手掴みで食べたりもできるそうだ。


 モグモグ パクパク


 異国情緒も味わいながら、僕らは食事を楽しんだ。


 やがて、食後のお茶も頼んだ。


 僕とイルティミナさんは、先にフレデリカさんが飲むのを待つ。


「っ……苦いな」


 その美貌がしかめられ、僕らは笑ってしまった。


 実は、3年前の僕らも同じだったんだ。


「これ、砂糖を入れないと、とても飲めないんだよ」

「そうなのか」


 悪戯な僕の笑いに、フレデリカさんは苦笑しながら頷いた。


 そうして、3人で砂糖を入れたお茶を飲む。


(ん、美味しい)


 満足げに、僕は頷いた。


 それから僕らは、シュムリア王国とアルン神皇国での自分たちの近況など、他愛もない話に興じた。


 楽しい時間だった。


 そんな中、


「……そういえば、この間、久しぶりにラプトとレクトアリスの夢を見た」


 フレデリカさんが、ふと呟くように言った。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「ラプトとレクトアリスの夢?」


 僕は、聞き返す。


 その懐かしい名前の響きに、なんだか胸が温かくなった。


 アルンのお姉さんは微笑み、「あぁ」と頷いた。


「あの2人と過ごしたのは、戦いの日々ばかりだった。だが、夢の中は平和な世界で、どこかの草原に座り、3人で語り合っている夢だった」


 その表情は、とても優しい。


(そっか)


 僕も微笑んだ。


 イルティミナさんも、この時ばかりは穏やかな表情で、フレデリカさんの話を聞いていた。


 フレデリカさんは苦笑し、


「何を話したのか、その内容を覚えていないのが悔しいがな」


 そう呟いた。


 まぁ、夢の話だから仕方がないよね。


 それから彼女は、神帝都アスティリオにある『アルゼウス大神殿』の境内に、あの2人の『神牙羅』を祀った社殿が造られたことも教えてくれた。


「そうなの!?」

「あぁ」


 友人が祀られるという事実に驚く僕。


 フレデリカさんは笑って、頷いた。


 あの2人の活躍や『闇の子』のことなどは、世の中に公表されない歴史だった。


 だけど、アルンの関係者は知っている。


 あの金髪碧眼の少年と紫髪に真紅の瞳をした美女が、アルンのため、そして人類のためにどれだけ尽力してくれたのか、その貢献を。


 …………。


 それを思ったら、僕は、そうして報いてくれるアルンの人たちに感謝したくなった。


「ありがとう、フレデリカさん」


 僕のお礼に、彼女は驚いた顔をする。


 それから、首を横に振った。


「あの2人の協力もあって世界が守られたことは、世界中の誰もが知らない。だが、知っている者は、それを忘れることはできないし、忘れたくもないのだ」

「うん」


 僕は大きく頷いた。


 フレデリカさんは微笑んだ。


「もちろん、それはマール殿にも当てはまるのだぞ?」


(え?)


 驚く僕。


 フレデリカさんは苦笑して、イルティミナさんへと視線を向けた。


 僕の奥さんは、小さく吐息をこぼす。


「まぁ、この子は、こういう子ですから。自覚が薄いのです」

「そのようだ」


 2人のお姉さんは、苦笑し合った。


 ……仲が悪いかと思ったら、なんか、こういうところでは仲が良いんだ、この美人なお姉さんたちは。


 僕は、ちょっと居心地悪くなりながら、そんなことを思った。


 それからフレデリカさんは、


「2人がこの地に降臨した深山の寺院には、皇国から多額の寄付が行われ、傷んだ寺院の改修なども行われたよ」


 とも教えてくれた。


 もしも再び2人が降臨した時に、より良い環境で迎えられるように――だって。


(うん)


 僕の時みたいに、放棄された場所に降臨したら大変だもんね。


 そう言ったら、2人は笑った。


 僕も笑った。


 そうして笑いながら、僕ら3人はしばらく『神界』に帰ってしまった2人の友人について、思いを馳せたんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の水曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ うーん、両手に花ではあるのは間違いないのですが、女性二人の雰囲気はアライグマVSレッサーパンダの様相を呈してきた気がする(笑) どちらにせよ、マールの無自覚…
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