表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

533/825

485・新国王の即位

第485話になります。

よろしくお願いします。

「あぁ、マール! ようやく見つけましたよ!」


 現実世界で再会したイルティミナさんは、僕の小さな身体をきつく抱きしめてくる。


(ち、ちょっと痛いな)


 でも、それも愛情の強さゆえとわかっているので、その痛みも嬉しかった。


 彼女の甘やかな匂いも、心安らげる。


「よかった、マール殿」


 フレデリカさんも、ホッと息を吐いている。


 ソルティスも「どこ行っていたのよぉ?」とキルトさんに半泣きで文句を言い、ポーちゃんは、そんな少女の背中をポンポンと軽く叩いて宥めていた。


「すまんな、ソル。心配をかけたの」


 キルトさんも優しく笑い、少女の頭を軽く抱く。


 アーノルドさんとオルトゥさんは、そんな僕らの様子を、少し離れて微笑ましそうに眺めていた。


 僕らが再会したのは、『獣神の霊廟』の最奥にあった広間だった。


 僕とキルトさん、アーノルドさん、オルトゥさんの4人が光る出口を抜けると、その広間の中央にあった『獣神の像』の前だったんだ。


(よかった、現実世界に戻ってこれた……)


 そう安堵していると、


「こちらから、マールの気配が……っ」


 と、通路の奥からイルティミナさんたち4人が姿を現して、無事に再会となったんだ。


 僕らが消えていたのは、10分ほどだそうだ。


 あの時、光る『獣神』の輝きに包まれた僕らは、イルティミナさんたちの前から忽然と姿を消してしまったそうで、10分間、ずっと捜してくれていたんだって。


(10分か……)


 向こうの世界では、2~3時間は過ごしていた。


 どうやら向こうの世界と現実世界では、時間の流れが違うみたいだね。


 そんなことを考える僕を、


「このまま会えなかったらどうしようかと……。あぁ、見つかって本当によかった、マール」


 ギュウ


 イルティミナさんはきつく抱きしめまま、頬にキスもしてくれる。


(はわわ)


 人前では、少し恥ずかしいな。


 アーノルドさんは目を丸くし、オルトゥさんは驚いたように頬を少し赤くしている。


 キルトさんは苦笑し、ソルティスは呆れ顔だ。


 ポーちゃんは相変わらずの無表情。


 フレデリカさんは、少し羨ましそうに僕とイルティミナさんの抱擁を見つめ、それからコホンと咳払いをすると、


「それで、いったい何があったのだ?」


 と問いかけてきた。


 あ、うん。


 僕らは、この現実世界に残っていた4人にも、自分たちの体験した不思議な出来事を説明した。


 4人とも驚いた顔だった。


「まぁ、そんなことが……」


 イルティミナさんは、僕を離さないままに呟いた。


 ソルティスは「へ~?」と興味深そうな顔だ。


 フレデリカさんは頷き、


「世の中には、まだまだ我々の理解の及ばないことが多くあるのだな」


 と呟いて、『獣神の像』を見上げた。


 僕らの視線も集まる。


 翼を生やした獅子の像、そのモデルとなった獣神と呼ばれる存在は、このヴェガ国を今も見守ってくれているのだと改めて感じた。


 アーノルドさんの獅子の瞳も細まる。


「歴代の王からたくさんの教えを受けた。その幸運を無駄にせず、俺は、このヴェガの国と民を必ず守り抜くぞ」


 ギュッ


 その手が握り締められた。


 魔法石産業が終わり、激動の時代となるヴェガ国の王にアーノルドさんはなる。その大変さは、僕らの想像以上だろう。


(でも、アーノルドさんなら……)


 今の彼の姿を見ていたら、そんな希望が強く感じられた。


 僕らは、微笑んだ。


 それから、僕らは地上へと帰ることにした。


 オルトゥさんの怪我は、一応、ソルティスにも診察してもらって、後遺症などもないと言われた。


(よかった)


 治療した身としては、安心したよ。


 まだ治したばかりで組織が安定していないだろうから、激しい運動はしないようにとだけ少女は注意して、オルトゥさんも神妙に頷いていた。


 アーノルドさんも安心した顔だった。


『これからも頼むぞ、オルトゥ』


 ポン


 彼女の肩を軽く叩いて、彼は笑う。


『はい、王子』


 オルトゥさんは頷き、


『いえ、アーノルド次期国王様』


 そう微笑みながら、言い直した。


 アーノルドさんは虚を突かれた顔をして、それから大笑いしていた。


(仲良いなぁ)


 悪童だったという頃からの昔馴染みだから当然か。


 アーノルドさんは、まだ足元の覚束ない狼獣人のオルトゥさんに肩を貸しながら、霊廟の出口へと向かって歩きだす。 


 僕らも、あとに続いた。


 コツン コツン


 足音を響かせながら、通路を歩いていく。


(ん……?)


 その時、ふと背後から気配を感じた。


 またか。


(でも、誰もいないんだろうな)


 そう思いながら振り返った。


 通路の奥、広間にある『獣神の像』の前に、青白い光でできた女性の獅子の獣人さんが立っていた。


「…………」


 思わず、立ち止まった。


 たてがみはなく、品のある美しい獅子の顔には、優しい微笑みが湛えられていた。


 その視線は、アーノルドさんの背中に向けられている。


 …………。


 その顔は、どことなくアーノルドさんに似ている……そう思った。


 彼女は、こちらに深く頭を下げた。


 深く、深く。


 その姿を呆然と見ていると、


「マール、どうかしましたか?」

「え?」


 不思議そうなイルティミナさんに声をかけられた。


 すぐに視線を広間に戻す。


 そこにはもう、女性の獅子の獣人さんの姿は、幻であったかのようになくなっていた。


(……あぁ、そうか……)


 息子を心配して、だから、あそこに導いてくれたのかもしれない。


 僕は目を閉じる。


「ううん、何でもない」


 そう微笑んだ。


 そして、そのまま大好きなイルティミナさんの手をギュッと握った。


 彼女は驚いた顔をする。


 でも、僕の様子に何かを感じたのか、


「そうですか」


 そう穏やかに頷いて、僕の手を優しく握り返してくれた。


 僕らは笑い合った。


 そのまま、一緒に歩く。


 先を行くアーノルドさんたちを追いかけながら、僕は、多くの存在に愛されるヴェガ国は、きっとこれからも大丈夫なんだろうなと思った。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 あれから9日が経った。


 本日は、アーノルド・グイバ・ヴェガロスの即位式当日である。


 ヴェガ国の城である『黄金の宮殿』には、多くの臣下が集まり、シュムリア王国、アルン神皇国だけでなくドル大陸7つ国の内の3国の使節団も参加していた。


 その3国は、鎖国していない国で、ヴェガ国とも交流がある国なんだって。


 もちろん、僕らもシュムリア王国の使節として参加した。


 あ、フレデリカさんは、さすがに即位式の間はアルン神皇国の使節として、アルン側の集団に加わっているけどね。


 即位式は、大広間で行われた。


 古来からの美しい民族衣装に身を包んだ現国王シャマーン陛下が、ピラミッドみたいな高台に立ち、その足元にアーノルドさんが跪いている。


 僕らは、少し離れて高台の周囲に並び立ち、その光景を見守っていた。


 奥にいる楽団が、ヴェガ国の国家を静かに奏でている。


(…………)


 シャマーン陛下は、68歳だという。


 けれど、腰は曲がり、手足も細くて、もう少し上の年齢みたいな外見に思えた。


 それだけ、王という立場は重責なのだろう……。


 シャマーン陛下は賢王であり、とても優しい性格の方だったから、多くの心労もあったのだと思う。特に、聖神樹と自国の繁栄の板挟みで苦しまれていたから。


(でも……)


 その役目も今日まで。


 これから、その責任ある立場には、息子であるアーノルドさんが立つのだ。


 シャマーン陛下は、隠居される。


 しばらくは、新国王の相談役のようなことをするそうだけど、その心はとても軽くなるだろう。


 コツ コツ


 シャマーン陛下が高台の階段をゆっくりと降りる。


 穏やかな眼差しだ。


 その細い指が、自分の頭上に収められていた王冠を外し、ゆっくりと我が子の頭へと乗せ、顎紐を締めてやる。


『……がんばりなさい、息子よ』


 その口が、そう動く。


 遠くて声は聞こえなかったけど、口の動きからそう言っていることがわかったんだ。


 アーノルドさんは小さく震え、


『はい、父上……っ』


 と、答えていた。


 そして、シャマーン陛下に手を添えられながら、アーノルドさんが立ち上がり、今後は彼が高台を登っていく。


 1段、1段、ゆっくりと。


 やがて、頂上に立ち、彼は僕らを見回した。


 ザザッ


 集まっていた臣下、使節団、僕らも含めた全員がその場に跪いた。


 王位を譲ったシャマーン陛下も跪いている。


 若くエネルギーに満ち溢れた獅子獣人の瞳は、そんな僕らを見つめ、両手を左右にバッと大きく広げた。


 牙の生えた口を開け、


『オォオオオオオオオッ!』 


 まるで遠吠えのように、その気高き王位についた咆哮を響かせた。


 それは『王の雄叫び』だ。


 呼応して、臣下たちも吠えた。


 護衛騎士として参列していた狼獣人のオルトゥさんも、高齢のシャマーン陛下も嬉しそうに吠えていた。


 オォオオオオオオオオ……ッ


 大広間中に木霊する。


 ビリビリ


 肌が痺れ、まるで世界中に新王の誕生を知らせるかのような大音量。


(これがヴェガ国流のやり方なのかな?)


 アルバック大陸出身の僕らや使節団の人は驚いてしまったけれど、同じドル大陸3国の使節団の人たちは落ち着きながら、その儀式を頼もしそうに見守っていた。


 やがて、共鳴していた咆哮がやむ。


 アーノルドさんは、肩で息をしていた。


 興奮していたのか、その表情はやり切った感があり、かすかに上気している。


 臣下一同が、再び跪く。


 そして、シャマーン陛下が、


『おめでとうございます、アーノルド・グイバ・ヴェガロス新国王陛下!』


 代表して告げた。


『――おめでとうございますっ!』


 続けて、臣下が声を揃えて祝福を重ねた。


 アーノルドさん……いや、アーノルド新国王陛下は、そんな臣下たちを見回して、それから力強い笑顔を咲かせた。


 その眩しさに、僕は青い瞳を細める。


 晴天の広がる暑き日に、こうして僕らは、第17代ヴェガ国国王アーノルド・グイバ・ヴェガロス陛下の誕生を見届けたんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の水曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミックファイア様よりコミック1~2巻が発売中です!
i000000

i000000

ご購入して下さった皆さんは、本当にありがとうございます♪

もし興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、ぜひご検討をよろしくお願いします。どうかその手に取って楽しんで下さいね♪

HJノベルス様より小説の書籍1~3巻、発売中です!
i000000

i000000

i000000

こちらも楽しんで頂けたら幸いです♪

『小説家になろう 勝手にランキング』に参加しています。もしよかったら、クリックして下さいね~。
『小説家になろう 勝手にランキング』
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ 予期せぬ事態に遭遇するも全員で帰還して、無事にアーノルドも即位の日を迎える事が出来て一安心。 何かあったら、残されたキルト達に在らぬ疑いが掛けられる可能性も…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ