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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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474・海上の稽古4

第474話になります。

よろしくお願いします。

 青い空の下、海上を行くシュムリア王国の大型船の甲板で、銀髪の美女と金髪の幼女が対峙する。


 鬼姫キルト・アマンデス。


 神龍ポー・レスタ。


 向き合う2人の姿に、見物している船員さんたちは戸惑った顔だ。


 気持ちはわかる。


 だって、あの最強と謳われたキルト・アマンデスに対しているのは、まだ未成年の『白印の魔狩人』の女の子なのだ。


 しかも、彼女は無手である。


 木剣などの武器も持っていない。


 もちろんキルトさんは全力を出すつもりで、巨大な木製の大剣を手にしていた。


『大丈夫なのか?』

『なぜ、あんな子供と……?』


 そんな疑問の思いが、ざわめきとなっている。


 …………。


 前は、僕らもそうだった。


 そして、そんな僕らの前で、キルトさんは無手のポーちゃんに1撃で敗れてしまったんだ。


 彼女は『神の子』。


 かつて『神龍ナーガイア』と呼ばれた神の眷属なのだ。


 現在は『闇の子』との戦いのよる負傷で、全盛期の力は出せないけれど、それでもたかが人間に劣るようなことはないのである。


 彼女が『白印』なのも未成年だからというだけだ。


 その実力は、すでに『金印』と同格だと僕は思っている。


「……ポー」


 ギュッ


 彼女の相棒であるソルティスは、それでも少し心配そうに胸の前で両手を組み合わせ、金髪の幼女を見つめていた。


 視線の先のポーちゃんは、いつもの無表情だ。


 むしろキルトさんの方が、再戦できる喜びに肉食獣のような獰猛な笑みをこぼしていた。


「さぁ、始めようではないか」


 滾る思いが、声に溢れている。


 木製の大剣が正眼に構えられる。


(うっ)


 強い『圧』が爆発するように広がり、見ている僕らは全員、息を呑んだ。


 そして、その『圧』は圧縮され、キルトさんを中心とした静謐な空気を形成し、それが周囲を支配していく。


 …………。


 喋れない。


 指1本動かすことも憚られる。


 これから始まる神聖な戦いを、僕らは汚してはならない――そんな感覚に陥っていた。


「…………」


 ただ1人、動くことを許されるのは、ポーちゃんだけだ。


 無表情は変わらない。


 けれど、その水色の瞳に、静かな闘志が煌めいているのがわかった。


 音もなく、両手が上がる。


 あご先の高さで、軽く指を握って、左足を1歩前に踏み出しながら、無手の構えを取った。


 凛とした立ち姿。


 チリッ


 張り詰めた空気が燃えだしたかのように、その小さな両拳が白く発光していく。


 神気が、その小さな手に集束していた。


 戦闘準備完了。


 まさに、そんな感じだ。


 息が詰まるような空間の中で、キルトさんとポーちゃんは見つめ合う。


 タンッ


 そして次の瞬間、まるで示し合わせたかのような同じタイミングで甲板を蹴って、2人は目前の相手へと肉薄していった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 そこからの攻防は、僕らの想像を遥かに超えるものだった。


 パッ パパン カィン


 木製の大剣と光る拳がぶつかり合い、連続した衝撃波を空中に次々と発生させていく。


 2人の動きは、霞むような速さだ。


 一見、キルトさんの方が大剣を使っている分、間合いでは有利に見えるかもしれない。


 けれど、実態は違った。


 ポーちゃんは、見えない『神気の弾丸』を拳から射出することができるんだ。


 大剣の間合いの外からは、その攻撃が繰り出される。


 かつて、キルトさんはその1発で戦闘不能に陥ることになった。直撃すれば内臓破裂してもおかしくないという、それほどの威力だ。


 パン パパァン


 けど、今のキルトさんは、その見えない攻撃を木剣で斬っていた。


(凄い……)


 その攻撃は、本当に見えないんだ。


 それなのに、キルトさんはその気配だけで、それを迎撃できるようになってしまっていた。


 本当に戦いの天才だ。


 ポーちゃんは無表情だけれど、内心では、その成長に感心していたかもしれない。


 とはいえ、その間合いでは一方的に攻撃されるばかりなので、キルトさんは『神気の弾丸』を弾きながら、ポーちゃんへと接近戦を試みる。


 拳は届かず、大剣だけが届く距離。


 間合いは、大剣有利へ。


 けど、その木剣の攻撃は、ポーちゃんの光る拳で防がれる。


 ガッ ガチィン


 凄まじい衝突音。


 それこそ人体に当たったら、無事では済まない確信が得られるほどの音だ。


 そして、ポーちゃんも防戦一方ではない。


 拳で大剣を防ぎ、いなし、捌きながら、合間を縫って『神気の弾丸』を撃っていた。


「っっ」


 キルトさんは、笑いながらそれをかわす。


 パシュッ


 見えない弾丸が頬をかすめ、鮮血が散っていた。


 大剣有利の間合いであることは変わらないけれど、そのような反撃にキルトさんの攻勢が弱まると、『神龍』の幼女は容赦なく更に間合いを詰めた。


 拳の届く距離。


 大剣の間合いの内側であり、最もポーちゃんが得意とする距離だ。


 ガッ バチン キィン


 繰り出される光の拳を、キルトさんの木製の大剣は盾となって防ぎ、あるいは柄を使って撃墜していく。


 後方に引き、間合いを広げようとするキルトさん。


 けれど、ポーちゃんがそれを許さない。


 ピタリと張りつき、拳の間合いから逃がそうとしない。


 逃げようとする動きを『神気の弾丸』で牽制し、あのキルト・アマンデスを自分有利の位置に釘付けにし続けている。


(ポーちゃん、凄い……)


 遠距離、中距離、近距離、全ての間合いで隙がない。


 キルトさんが互角に戦えるのは、大剣の間合いである中距離だけだった。


 対して、ポーちゃんはどの距離でも強さが変わらない。


 見ている者たちも気づく。


 特に、戦いに秀でている者ならば、余計に理解できるだろう。


 あのキルト・アマンデスが押されている、と。


 シュムリア王国で最強を誇り、10年間も『金印の魔狩人』として君臨した鬼姫が、あんな小さな幼女に追い詰められていた。


 これが『神龍』だ。


 僕の中から消えてしまった『神狗アークインの魂』ならば、そう神界の同胞のことを誇ったかもしれない。


 …………。


 いや、逆なのかな?


 あの『神龍』とここまで互角に戦える人間こそが異常なのだ、と。


 アークインも、そう驚嘆していたかも……。


 そうして追い詰められているというのに、キルトさんは笑っていた。


 嬉しそうに。


 楽しそうに。


 そう思った瞬間、常に変わらなかったポーちゃんの表情に驚きが生まれた。


 そして、


「ぬんっ!」


 キルトさんが下段から木製の大剣を振り抜いた。


 ポーちゃんの小さな拳が、それを受ける。


 パッ


 拳の表面が切れ、鮮血が散った。


(えっ?)


 あの小さな拳には、それこそ膨大な『神気』が詰め込まれ、強化されている。普通の剣の刃が当たっても、斬れることはない。


 その拳が、浅くとはいえ斬られた。


 …………。


 たかが木剣で、神の力を切断する――その恐ろしい技量の意味を理解し、僕は震えた。


 神殺し。


 キルトさんの剣技は、そんな人知の及ばぬ領域に1歩、踏み込んでみせたんだ。


 タンッ


 ポーちゃんは、大きく間合いを外し、後退していた。


 キルトさんも、木製の大剣を斬り上げた姿勢のまま、動いていなかった。


「…………」

「…………」


 2人の視線が、互いを見つめ合う。


 そして、先にポーちゃんが構えていた拳を下ろし、戦闘態勢を解除した。


「ここまで」


 短い声。


 水色の瞳は、キルトさんの美貌を見つめたまま、


「これ以上は、稽古の範疇を逸脱するとポーは判断した。ポーは、これ以上の戦闘継続を望まない」


 そう伝える。


 キルトさんも「ふむ」と呟いた。


 構えていた木製の大剣を下ろして、斬れた頬から流れる血を、親指で拭った。


 それを見つめ、


「そうじゃな。これ以上は、どちらかが死ぬ可能性が高すぎる。……今回は引き分け、としておくかの」


 と頷いた。


 ポーちゃんも「了承」と認めた。


 キルトさんは大きく息を吐き、苦笑する。


「やれやれ、結局、負け越したままか。……ポーに勝利するには、まだ強さが足りなかったようじゃの」


 あれで強さが足りないって……、


(キルトさんは、いったい、どこまで行く気なのかな?)


 彼女の強さへの渇望は、留まることを知らないみたいだ。


 僕らは、少し呆れてしまった。


 そうして、キルトさんとポーちゃんはお互いへの敬意を込めて、握手を交わした。


「また稽古をつけてくれ、ポー」

「了承」


 2人は、そんな約束を交わした。


 キルトさんは、満足そうに笑っている。


 …………。


 もしかしたら、僕、ソルティス、フレデリカさん、イルティミナさんとの稽古は、ポーちゃんとの稽古に向けたウォーミングアップだったのかな?


 僕は、ふと青い空を見上げる。


(強くなるための剣の道って、遠いなぁ)


 なんとなく、そんなことを思ってしまった。


 そうして、ヴェガ国へと向かう海上で行われた僕らの稽古は、こんな風に終わりを迎えたんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の金曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ ポーちゃん強し‼︎ 只でさえ戦闘力特化のキルト相手にも一歩も譲らない闘いを見せ、尚且つ家事全般をも熟す万能性‼︎ ……キルトが勝てる要素は酒飲み位か?(…
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