463・ハイエルフの森と家
第463話になります。
よろしくお願いします。
早朝の王都ムーリアを、僕らは竜車に乗って出発した。
灯りの石塔が並んだ街道を西方へと向かって進んでいき、コロンチュードさんが暮らしている森の近くで降ろしてもらう。
去っていく竜車を見送り、
「じゃ、行きましょ!」
ソルティスは気合十分に声をあげ、先頭に立って森へと入っていった。
…………。
4人で森の中を歩いていく。
凹凸のある大地、鬱蒼と茂った緑の木々たち、植物の青い匂いが世界を満たしている。
人気のない場所だ。
訪れる者のない森林の奥で、ハイエルフの魔法使いさんは、たった1人で研究に明け暮れ、ひっそりと暮らしている。
(……寂しくないのかなぁ?)
ふと、そんなことを思う。
僕なら、イルティミナさんと離れて1人で暮らすなんて考えられないことだ。
せめて彼女と2人なら、とは思うけど……。
なんとなく、隣を歩くイルティミナさんの横顔を見てしまう。
「? どうしましたか、マール?」
すぐに気づいて、優しく微笑んできた。
僕は「ううん」と首を振る。
「ただ、イルティミナさんと一緒にいられるのは幸せだなぁって思って」
「……まぁ」
僕の奥さんは、驚いた顔だ。
それから嬉しそうに「私も幸せですよ」と言ってくれた。
僕も笑った。
そんな僕ら夫婦に、ソルティスは『うへぇ』とむず痒そうな顔をして、ポーちゃんは変わらぬ無表情だった。
少女の反応に、僕は苦笑してしまう。
それから、木々の隙間から見える青空を見上げて、
(まぁ、コロンチュードさんには、コロンチュードさんなりの考え方や生き方があるんだろうな)
そんな風に思った。
いつも眠そうなハイエルフさん。
でも、心の内では色々なことを考えていて、優しくて、それでも僕らの常識では測れない人だから。
(元気かなぁ?)
もうすぐ会えるハイエルフさんの姿を思い出しながら、僕は、みんなと共に森の中を歩いていった。
◇◇◇◇◇◇◇
森を歩いていく中で、僕らは、他愛もない会話をしていた。
その中で、
「キルトの手紙、そっちにもまた届いた?」
とソルティスが言った。
僕とイルティミナさんは頷いた。
「うん」
「先週、届いてましたよ」
そう、現在、アルン神皇国を旅しているキルトさんから、再びの近況を知らせる手紙が届いたんだ。
『皆、元気でやっているかの?』
そんな一文から始まった彼女の手紙。
それによると、すでに彼女は長く滞在していたナルーダさんの村を出発して、アルン神皇国の南部を巡りながら、神帝都アスティリオを目指しているそうなんだ。
旅の途中では、色々とやっているみたい。
滞在した村での力仕事の手伝いから始まって、近辺で脅威となる魔物の排除などなど。
またアルン神皇国では、まだ『魔血』への差別が根強くて、違法な扱いをする領主に苦しんでいる『魔血の民』もいるそうなんだけれど、すでに一個人となった彼女は、そんな領主を正体を隠しながら鉄拳制裁して回っているそうだ。
(うはぁ……)
さすがキルトさん。
金印の立場ではできなかったことを、今は存分に実行しているみたいだ。
「やっぱ、キルトよね!」
ソルティスも、嬉しそうにそう言った。
代わりに金印の重責を負うことになったイルティミナさんは、苦笑を浮かべていたけれどね。
ちなみにそれらの報酬は、お酒だそうです。
そうそう、実は同時期に、アルン神皇国の黒騎士のお姉さん、フレデリカ・ダルディオスさんからも手紙が届いていたんだ。
内容は、僕の銀印昇格のお祝い。
どこで知ったのかはわからないけど、皇帝直属部隊の騎士様だから、色々な情報網があるのかもしれないね。
そして、そんな彼女からの手紙に、こんな内容があった。
『最近、アルン辺境の魔血差別主義の領主たちが、次々に代替わりする事態が相次いでいてな。それらの領地では、共通して《銀髪に黒装束の鬼神》が降臨したという噂が広がっているようだ』
とのこと。
それを読んだ時、僕とイルティミナさんは顔を見合わせてしまったよ。
(うん)
間違いなく、キルトさんだよね?
フレデリカさんも何となく、その正体には気づいているみたい。
もっとも、アルン神皇国としては、魔血差別主義者がいなくなるのは良いことなので『あくまで噂』と黙認するみたいだった。
ただ、アルン辺境の『魔血の民』たちは、その『鬼神』を信奉するような動きも出てきちゃったとか……。
…………。
金印であっても、なくても、大勢の人を虜にするのが、キルト・アマンデスってことかなぁ。
お酒好きの鬼神様。
きっと今も、青空の下、アルンの大地を酒瓶を片手に楽しみながら歩いているのだろう。
他の3人も、キルトさんのことを思い出しているみたいな顔だった。
(うん、次の手紙が楽しみだ)
そして、いつの日か、また再会できる日が待ち遠しいな。
◇◇◇◇◇◇◇
しばらく歩いていくと、森の木々がなくなり、開けた場所に出た。
足元には、巨大な魔法陣。
周囲には、倒れた柱が2本、無事な柱が4本あり、その4本の上には体長2メードぐらいの鳥の石像があった。
タナトス時代の遺物だ。
そして、魔法陣に触れてしまうと、あの石像たちが門番として襲ってくるんだ。
3年前の思い出である。
そんな魔法陣の向こう側には、森の中でも一際大きな木が生えていた。
太い幹には、扉がある。
そう、あれが金印の魔学者コロンチュード・レスタの暮らしている家なんだ。
と、ソルティスが前に出て、
「ちょっと待っててね」
言いながら、大杖の先を魔法陣に押しつけて、ガリガリと魔法文字を消し、書き直していく。
7文字ほどが修正される。
ソルティスは大きく頷いた。
「これで大丈夫。もう人除けのトラップは発動しないわ」
おぉ、さすがソルティス。
天才魔法使いでもある少女は、この魔法陣の構造を把握して、手直しができるほどになっていたんだ。
(剣士としての修行だけしてたんじゃないんだね)
ちゃんと魔法の勉強もしてたんだ。
努力する天才少女。
うん、僕も彼女に負けないように、これからもしっかりがんばらないと!
少し対抗心を燃やしてしまう僕だった。
そして、ソルティスは魔法陣に足を踏み入れる。
ポフッ
鳥の石像たちは3年前と違って、動き出すことなく、そのままだった。
「よしよし」
彼女は、ちょっと安心したように頷いた。
そんなソルティスに続いてポーちゃんが、そして、イルティミナさんが魔法陣の中へと歩いていく。
僕もあとに続いた。
そのまま『大樹の家』へと向かっていると、
ギィィ
そのうねった太い根の間にある、幹にあった木製の扉が音を立てて開かれた。
(!)
ソルティスが緊張した顔で足を止める。
自然と、僕らの足も止まった。
そして、開いた扉の奥から、寝癖だらけの長い金髪を地面に引き摺りながら、眠そうな顔で猫背のまま歩いてくるローブ姿の女性が現れた。
髪の中から、形の良い耳が長く伸びている。
クシクシ
その手が、ボサボサの金髪をかきながら、
「や……みんな、いら……しゃい」
寝起きみたいなか細い声。
相変わらずの姿に、僕は、つい苦笑してしまう。
1000年を生きたハイエルフ、伝説の金印の魔学者コロンチュード・レスタは、そんな感じで来訪した僕ら4人を出迎えてくれたんだ。
ご覧いただき、ありがとうございました。
※次回更新は、3日後の月曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。




