442・番外編・クオリナの休日07
第442話になります。
よろしくお願いします。
「村の者が、ほんに申し訳ないことをしましたじゃ」
私とマール君が訪れた村長の家で、白髪の老人が深々と頭を下げてきた。
この人が村長さん。
先ほどの騒ぎは、もう耳に入っているみたいで、彼は申し訳なさそうな顔をしている。
彼は吐息をこぼして、
「村が滅びるかもしれない……その不安で、皆、余裕をなくしてしまってですの」
と言う。
マール君は、そんな村長さんを静かに見つめた。
「村を滅ぼそうとしているのは、ゴブリンだ。その不安をタオリットにぶつけるのは、間違っているよ」
落ち着いた声。
それは、まるで大人が子供を窘めるような声だった。
村長さんも「その通りですじゃ……」と恐縮した顔で、肩を小さくしてしまっている。
マール君も、それ以上は言わなかった。
私は「それで」と気を取り直して、
「今のこの村の状況を、詳しく教えてもらえますか?」
と話を聞くことにした。
村長さんは「はいですじゃ」と頷いて、教えてくれた。
始まりは、半月ほど前。
村の畑で、育てていた野菜を奪おうとしている2体のゴブリンを見つけた。
ゴブリンは、比較的弱い魔物だ。
王国の各地に生息しているし、数が少なければ、村人でも追い返すことができる。
この『難民村』にも自警団の様なものがあって、4人の団員が、野菜を抱えて逃げるゴブリンを追いかけていったそうだ。
ところが、
「帰ってきたのは、1人だけだったのですじゃ」
村長さんの声は重い。
その帰ってきた1人も傷だらけで、『ゴブリンの集団に襲われた』、『50匹ぐらいいた』、『他の3人は殺されてしまった』と口にしたという。
その人も、そう言い残して、翌朝に亡くなった。
…………。
私とマール君は、言葉もない。
それからも村の周囲に、たまに4~5匹のゴブリンが見受けられた。
今のところ、被害は野菜だけ。
けれど、いつ人が襲われるかもわからないし、このままでは食料がなくなってしまう。
それで、冒険者に頼むことにしたのだそうだ。
(なるほどね)
ゴブリンたちは、この村を完全にターゲットにしているみたい。
そしてこの村の人は、その周囲に潜むゴブリンによって、少しずつ追い詰められていったのだ。
それは不安だったよね。
村長さんは、目の前のテーブルに額をぶつけそうなぐらい、頭を下げる。
「どうかお願いですじゃ! この村を救ってくだされ!」
必死な声だ。
私は、マール君を見る。
マール君は、少し考えて、
「タオリットは『魔血の民』だけど、この村ではどんな様子なの?」
そんなことを聞いた。
村長さんはキョトンとした。
それから、
「タオリットは、親孝行な働き者ですじゃ」
と答えた。
「小さな村ですから、皆が力を合わせないと生きていけません。タオリットは『魔血』のおかげで、大人顔負けの力もありますし、村の多くの者も頼りにしておりますじゃ」
「……そっか」
マール君は、安心したように息を吐く。
さっきの騒ぎは、タオリット君が『魔血の民』だから起きたわけではないと理解したみたいだ。
私も、少し安心した。
彼は瞳を伏せる。
それから、大きく息を吸い、目を開けた。
青い瞳が村長さんを捉えて、
「わかりました。ゴブリンは、僕らが必ず倒してみせます」
そう言い切った。
◇◇◇◇◇◇◇
村長さんの家を出ると、外ではタオリット君が待っていた。
「マール」
心配そうな顔。
マール君は、ニコッと笑った。
「大丈夫。村長さんから、正式に討伐依頼を受注してきたよ」
「あ……」
タオリット君は、安心したように表情を緩めた。
「ありがとな、マール」
「ううん」
2人の少年は、笑い合う。
う~ん、なんだか男の子同士の友情が芽生えていってるみたいで、いいねぇ。
私も、ついつい笑ってしまう。
そんな私たちを、さっきの騒ぎがあったから、他の村人たちは遠巻きに眺めていた。
…………。
まだ私たちの実力を疑っている感じかな?
(ま、いいよ)
こういうのは、結果を出して、信頼を得るしかないのだ。
マール君もそれがわかっているみたいで、周りの視線は感じているけれど、特に何も言うことはないみたいだった。
「今夜は俺の家に泊っていけよ、マール」
「ありがと」
タオリット君に誘われ、マール君は嬉しそうに笑った。
それから、視線を遠くに向けて、
「でも、その前に、現場を確認しておきたいんだ。ゴブリンが現れたっていう畑を見せてもらえるかな?」
と言った。
その顔は『魔狩人』のそれだった。
タオリット君は、その表情に少し面食らった様子だった。
「わ、わかった。いいぜ」
すぐに頷いてくれる。
マール君は「ありがと」と、また柔らかな笑顔になった。
(……うん)
マール君は、本当に1人前の魔狩人だ。
私は、それを再認識したよ。
そうして私とマール君は、タオリット君に先導されて、村の通りを歩いていった。
その時だった。
前方から、何人かの村人が慌てたように走ってきて、
「ゴ、ゴブリンだ!」
「奴らがまた来やがったぞっ!」
「!」
「!」
その叫びに、私とマール君は反応する。
カチャッ
無意識に、腰ベルトに差してあった長剣の柄に触れてしまう。
「クオリナさん」
「うん」
私とマール君は、視線を交わし、頷き合った。
戸惑うタオリット君に、
「タオリットは、ここに残っていて」
マール君は、そう強く言う。
タオリット君は、「わ、わかった」と頷いた。
それを確認して、私とマール君は、逃げてくる村人たちとすれ違いながら、村の畑のある方へと進んでいった。
ご覧いただき、ありがとうございました。
※次回更新は、明後日の金曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。




