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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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380・悪魔王

第380話になります。

よろしくお願いします。

「もう大丈夫よ」


 回復魔法を使ってくれたソルティスは、そう言って、大きく息を吐いた。


(……あぁ、楽になった……)


 僕の全身にあった激痛は消えていた。


 見れば、黒焦げだった僕の身体は、彼女のおかげで、すっかり綺麗な肌を取り戻していた。


 それを見て、イルティミナさん、キルトさんもホッと息を吐く。


「ありがと、ソルティス」


 僕がお礼を言うと、彼女は「別にいつものことでしょ?」と小さな肩を竦める。


 でも、彼女の顔色は白くなっていた。


 体内の魔力が枯渇しかかっているんだ。


(……そうだよね)


 タナトス王との戦いで、彼女は多くの大魔法を使っていた。


 相当、消耗していたはずだ。


 そんな状態で、僕に回復魔法を使うのは大きな負担になったはずなのに、けれど、ソルティスはそれを一言も口にせず、澄ました顔を作っている。


(やっぱり凄いな、ソルティスは)


 出会ってからずっと、彼女には尊敬させられてばかりだ。


 その一方で、


「よかった、マール」


 治療の間、ずっと僕を抱いていたイルティミナさんは、涙声だった。


(……イルティミナさん)


 僕を抱きしめる彼女の背中を、僕はポンポンと軽く叩いてやった。


 その様子に、キルトさんは微笑む。


 けれど、すぐに表情を引き締めて、


「いったい何があったのか、話してもらえるかの?」


 と言われた。


 僕は「うん」と頷いて、3人に事の顛末を聞かせたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「なんと……7人の『ヤーコウルの神狗』が」


 話を聞き終えると、3人はとても驚いていた。


 僕は、神妙に頷く。


 多分、アークイン以外の『ヤーコウルの神狗』は、本物ではなかったのかもしれない。


 300年前に、彼らは死んだんだ。


 でも、その意思は、アークインの中に残されていたのかもしれない。


 それがヤーコウル様の『女神の力』と『神武具』によって、この世界に具現化されたんだ。


 そんな風に、僕は思う。 


「…………」


 僕は、自分の右手のひらを見つめた。


 マールの手。


 そして、アークインの手。


 アークインの魂に取り込まれた『僕』という存在は、その肉体の助けを借りながら、世界を旅して人々のために戦い、そして、ついに『闇の子』を倒した。


 でも、全てはアークインがいたからだ。


 もし、彼がいなかったら、世界はどうなっていただろう?


 …………。


 きっと、この世界に生きる全ての人々は、全ての生命は、アークインという名のたった1人の『神狗の少年』によって救われたんだ。


 ギュッ


 僕は、その右手を握り締める。


(ありがとう、アークイン)


 自らを犠牲に世界を救った少年に、僕は心の底から感謝を思う。


 3人は、そんな僕を見つめていた。


「マール」


 イルティミナさんが、優しく僕の肩に触れる。


 それに気づいて、ふと見上げれば、彼女は、僕へと優しく微笑んでいた。


「貴方も、よくがんばりましたね」


 そんな優しい声。


 僕は、少し泣きそうになりながら、「……うん」と頷いた。


 イルティミナさんは、また僕を抱きしめてくれる。


 その腕の中で、


(……これで、全て終わったんだ)


 僕は、大きく息を吐いた。


 すでに『魔門の鍵』は破壊した。 


 視線を向ければ、『漆黒の天空城』の正面に展開されていた次元の扉――『魔界の大門』は、すでに形を失い、消滅しかけていた。


 上空を見る。


 そこでは今も『神々』と『悪魔』たちの戦いが続いていた。


 けど、


(……神様たちが優勢だ)


 下から見ていても、それがはっきりとわかった。


 互角だった戦況は変わっていた。


 あの『魔門の鍵』が破壊され、『魔界の大門』が閉じたことで、魔界から流入していた大量の『魔素』が遮断されたんだ。


 魔素は、『悪魔』たちの力の源だ。


 それが途切れた。


 それによって『悪魔』たちは自由に力を使えなくなり、次々と『神様』たちに討たれていたんだ。


「どうやら決着はついたの」


 キルトさんも頷き、そう断言した。


 見れば、『悪魔』たちの多くは、消滅しかけた『魔界の大門』から魔界に逃げ帰ろうとしていた。


 それでも、抵抗する『悪魔』も多い。


 けれど、そんな『悪魔』たちは次々と『神々』の力で討ち滅ぼされていた。


(……うん)


 もう間違いない。


(僕らの勝利だ)


 そう確信をもって思う。


 残った『悪魔』たちは次々に滅ぼされていく。


 その死んだ『悪魔』たちの膨大な魔力は、『悪魔王の結晶』という巨大魔法石に吸収されるらしいけれど、それを使う『闇の子』ももう存在しないんだ。 


 何も憂うことはない。


 ……そう思っていた時だった。


「ちょっと、何よあれ?」


 ソルティスの呆然とした声が、この場に響いた。


(ん?)


 僕らは振り返る。


 どうしたの?


 そう声をかけようと思ったけれど、彼女があまりに驚いた表情をしているので、その声を飲み込んでしまった。


 ソルティスは、上空を見ていた。


 その視線を追いかける。


(……え?)


 その先にあったのは、『漆黒の天空城』の最上部にある尖塔の先端――そこに設置された『悪魔王の結晶』だった。


 巨大な魔法石。


 その表面に、ひび割れができていた。


 その内側には、人のような、獣のような、見たこともない異形のような、無数の顔が生まれては消えてを繰り返していた。


 そこから発する膨大な魔力。


 ひび割れから漏れ出す魔力は、無数の黒い手となってもがき、消え、また生まれてもがく。


 まるで禍々しい漆黒の太陽だ。


(…………)


 僕は気づく。


 今、『神々』によって、多くの『悪魔』が討ち取られている。


 その全ての魔力がここに集まり、けれど、その量が膨大過ぎて、『悪魔王の結晶』だけでは吸収しきれなくなっているのかもしれない。


 あそこに浮かんでいる顔たちは、死んだ『悪魔』たちの怨念だろうか……?


 ビキッ


 またひび割れが広がった。


(!)


 溢れる、禍々しい魔力も増大している。


 キルトさん、イルティミナさん、ソルティスも呆然とその光景を見つめていた。


(機能停止しないの!?)


 すでに『闇の子』はいなくなっているのに、魔法具だけが作動している状態だ。


 なぜ?


 そう思った時、ふと『タナトス王』の顔が思い浮かんだ。


(まさか……)


 自分たちの計画全てが破られたとしても、人類を次なるステップに進めるため、あの狂った王は、『闇の子』も知らないこの現象を『最後の計画』として組み込んでいたのかもしれない。


 ビキッ ビキキッ


 ひび割れが増えていく。


 凄まじい魔力が、圧力を伴って、この空間に広がっていく。


「……嘘でしょ?」


 ソルティスが呟いた。


(……いや、大丈夫だ)


 僕は、自分に言い聞かせる。


 本来、『悪魔王』の依り代となる『闇の子』は、もういない。


 いくら魔力が残っていても、それはゆっくりと世界に散っていくだけで、それ以上、何も問題はないはずだ。


(だから、大丈夫!)


 そのはずなんだ。


 ……でも、なんでだろう?


 なぜ、こんなに不安なのか?


 なんで、こんなにも恐怖を感じてしまうのか?


 嫌な予感が消えないのか?


 …………。


 僕ら4人の見守る中、


 ビキッ バキバキッ


 ついに、ひび割れが限界に達し、


 バキィイイン


 巨大な魔法石の表面が粉々に砕け散った。


 その瞬間、まるで巨大な雷雲のような真っ黒い魔力の塊が、『漆黒の天空城』の上空に広がった。


 凄まじい大きさだ。


 そこからは、異形の手足が現れては消え、無数の顔が生まれては消えていく。


 禍々しい気配は濃密で、


「うっぷ」


 それに当てられて、ソルティスは、口元を手で押さえている。


 吐き気。


 眩暈。


 気をしっかり持っていないと、意識ごと失ってしまいそうだ。


(このまま、消えるはず……)


 僕は、そう願った。


 けれど、その悪魔たちの魔力は、その場に停滞を続け、そして、その雲ような存在から何本もの細い手のようなものを僕らのいるバルコニーへと下ろしてきたんだ。


(!?)


 僕らは、慌てて武器に手をかける。


 でも、それは僕らには近づいて来なかった。


 それらの細長い手のようなものが求めていたのは、バルコニーの黒い床にあった黒い少年の生首だったんだ。


(え……あ?)


 キュッ


 無数の手が、その生首を抱え、愛しそうに抱きあげる。


 そのまま、ゆっくり上空に持ち上げていく。


 その意味を、僕は理解できなかった。


「いかん!」


 先に理解したのは、歴戦の『金印の魔狩人』キルト・アマンデスただ1人であり、彼女は即座に『雷の大剣』を振り被っていた。


「鬼神剣・絶斬!」


 リィン


 躊躇のない全力の奥義が放たれる。


 それは生首を持ち去ろうとしている細い手のようなものに直撃し、


 バシュシュッ


 その表面にあった紫色の『闇のオーラ』によって、あっさりと霧散させられてしまった。


(は……?)


 その光景に、頭が真っ白になりかけた。


 キルトさんの奥義が防がれたこと。


 それほどの高密度な『闇のオーラ』が発生していること。


 そして、その先にある絶望的な予感に、頭が思考することを拒否したがっているみたいだった。


 ドップン


 まるで黒い透明な水の中に沈むように、『闇の子』の生首が魔力の雲に取り込まれた。


 …………。


 数秒ほどの間があった。


 周囲へと広がり続けていた魔力の動きが停止し、その黒い少年の生首を中心にして、集束していく。


 そこに現れたのは、『漆黒の大巨人』だった。


 全長は1000メード以上。


 その皮膚からは、歪な黒い肉の手足が生え、触手のようなものが踊っている。


 粘液が肌を濡らしている。


 眼球は、大小、無数に頭部に生えていて、それは焼け爛れたような異形の相貌だった。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 僕らは、誰も、何も言葉が出なかった。


 地上で戦っている人類や『神の子』、『刺青の魔』たちや『魔界生物』も、その圧倒的な存在の出現に戦いを忘れて、動きが止まってしまっていた。


 それは上空の『神々』や『悪魔』も同様だ。


 オォオオ……ッ


 その『漆黒の大巨人』の顔が、ゆっくりとその空を向いた。


 歪な空洞のような口が、丸く開く。


 まばらに生えた牙が見える。


 その奥から、黒い光が溢れた。


 ポパァアン


 黒い炎のように吐き出された超高密度の魔力波は、その進路上にいた『神々』と『悪魔』をまとめて消滅させていた。


(――――)


 超常の存在である『神と悪魔』が……だ。


 それほどの力。


 それほどの無差別な殺戮衝動。


 それほどの脅威。


 僕は悟った。


「……この世界に……『悪魔王』が降臨したんだ」


 震えた声は、吹きつける禍々しい風に溶けて、消える。


 見つめる僕の視線の先で、天を衝くような『漆黒の大巨人』は、世界の破滅の象徴のようにそこに聳え立っていた。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の金曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] これからが本当の地獄だ…
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ 黒幕達を撃退した上での休息の時間。 マールの体験も語られて、これで大団円! ……かと思いきや、今度は裏ボスの登場ですか(白目) [一言] 今回は勝利の余韻の時間…
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