339・偉大なる強者
書籍発売を記念しての毎日更新、5日目になります♪(毎日更新は10月30日の金曜日まで行いますよ~)
それでは本日の更新、第339話です。
どうぞ、よろしくお願いします。
お互いの剣気を感じながら、僕らは少しずつ間合いを詰めていく。
キリリッ リィン
外骨格の金属が、筋肉の代わりに動く音が響く。
――3分間。
僕に許された時間は、それだけだ。
その3分間の『神狗』でいられる間に、目の前の『骸骨騎士』を倒さなければいけない。
(集中しろ、マール)
自分に言い聞かせ、呼吸を整える。
と――次の瞬間、『骸骨騎士』が大きく踏み込んできた。
速い。
拡張された『神狗の時間感覚』の中でも、そう感じるほどの動きだった。
ヒュッ
振り下ろされる剣に、こちらも左手の『虹色の小鉈剣』を合わせる。
ガギィイン
凄まじい火花。
同時に伝わってくる、あり得ないほどの衝撃が僕の腕を痺れさせる。
(なんて剛腕だ!)
まるで大砲に撃ち抜かれたような剣の威力だった。
その力を必死に逸らして、僕は、右手の『虹色の鉈剣』を逆袈裟に斬り上げる。
シュッ ガチィイン
渾身の力で放った剣。
ワイバーンさえ殴り殺したほどの全力の攻撃が、あっさりと受け止められる。
(っっ)
その事実に衝撃を受けながら、僕は、更に攻撃を重ねた。
ヒュッ ガキュン カツッ キキィン
僕らの周囲で、無数の火花が散る。
これまでに『悪魔の欠片』や『蛇神人』を倒してきた『究極神体モード』のパワーとスピードを持ってしても、『骸骨騎士』に攻撃は当たらなかった。
(剣の技量も凄まじいんだ)
2の手、3の手を考え、攻撃を繰り出しても、その全てが読まれている。
剣の腕は、僕より上だと認めざるを得ない。
でも、何度も剣を重ねる内に、ほんの少しだけれど、僕の方が力と速さで上回っていることがわかってきた。
シュッ ガキン
打ち合わせた剣は、僅かに押し込めている。
それを少しずつ積み重ねていけば、
(いつか、奴の身体にまで刃が届く!)
それを信じて、僕は、多少強引にでも前進しながら、攻撃をし続けた。
ガッ バキィン ドガァン
僕らの戦いによって、周囲の壁が吹き飛び、地面が抉られていく。
空から差し込む太陽光が、ぶつかり合う2つの美しい鎧の動きに反射して、周囲はまるで万華鏡みたいに煌めいた。
(…………)
集中して戦っていると、不思議な感覚があった。
これは『神武具』による感応なのだろうか?
目の前にいる『骸骨騎士』から、興味、感心、歓喜などの感情が伝わってくるんだ。
興味は、僕ら『神の眷属』に対して。
僕らの使う『神気』や『神武具』、『神術』などを珍しがり、まるで研究者のように、それらに強い興味を覚えているのが伝わってくる。
感心は、キルトさんたちに対して。
彼女たちの『魔血』の力を体験して、この400年の間に、人という種に『悪魔の力』を上手く融合させたと感心しているみたいだった。
歓喜は、自分自身に対して。
タナトス魔法技術の結晶である自身の鎧が、『神の眷属』や『魔血の民』に対して、決して引けを取らない性能である事実に歓喜しているみたいだった。
『…………』
無言の『骸骨の兜』の向こうから、それら感情が伝わってくる。
そして今、また更にもう1つ。
(これは……挑戦?)
それは、僕個人に向けられた感情だ。
その意味は、目前の強敵に対して、自分がどこまで通じるのかを検証するという挑戦の決意だった。
その瞬間だった。
ガギィイン
(ぐっ!?)
今までで一番強い攻撃で、僕の身体は少しだけ押し戻された。
生まれた隙に、『骸骨騎士』は一気に下がる。
そして、左右の手にある剣の刀身に、それぞれ7文字のタナトス魔法文字が輝いたんだ。
(!)
やはり、あの剣も『タナトス魔法武具』。
そして、それは偉大なる『タナトス王』が手にした、魔法武具の頂点に座する武器。
ヒュヒュン
タナトス王は、その輝く剣を振る。
瞬間、7文字のタナトス魔法文字から、魔力の塊が光弾となって僕へと射出された。
計14発の魔力の光弾。
(よけろ!)
僕は、神速でそれを避ける。
でも、その動きに合わせて、光弾はギュウンと軌道を変えた。
(ホーミング弾!?)
慌てて僕は、左右の『虹色の鉈剣』でそれを斬り裂き、金属の翼を盾にして、全ての光弾を防ぐ。
ガシュ ボジュ ボバァアン
凝縮された魔力が破裂し、爆発が連鎖する。
(く……っ)
その威力は、1発1発がイルティミナさんの槍の砲撃みたいな凄まじさだった。
遠距離戦は、まずい。
そう察知して、僕は翼を広げて飛翔し、一気に間合いを詰める。
でも、
ヒュヒュン
『骸骨騎士』の手にした、7つのタナトス魔法文字の輝く剣を振る速度の方が、それよりも速かった。
キュボボッ
14発の魔力の光弾が襲ってくる。
(くそっ!)
僕は足裏と床の間に火花を散らして、急停止。
その攻撃から逃れるため、地面を蹴って、上空へと飛翔する。
虹色の残光を輝かせながら、青い空を上下左右に飛んで、追いかけてくる魔力の光弾を回避し続ける。
ヒュヒュン
その最中にも『骸骨騎士』は剣を振る。
更に14発。
そして、更に14発。
計42発の魔力の光弾が、僕をずっと追い回した。
(くぅ……っ)
必死に回避を続ける視界に、更に剣を振ろうとする『骸骨騎士』の動きが見えた。
でも、余裕を持ち過ぎたのか、その動きが遅い。
――今だ。
急上昇していた僕は、翼を最大限に広げて急制動。
そこから、重力も味方にして、一気に急降下を開始した。
ギュゥウン
42発の光弾も追尾してくる。
その輝きを後ろに従えて、僕は『骸骨騎士』めがけて一直線に落ちていった。
『!』
その動きに奴は気づく。
慌てて、後方に下がろうとしたけれど、
(遅い!)
僕は、その動きを追いかけて、そのままタックルするみたいに体当たりを敢行した。
ゴギャアアン
鎧同士がぶつかり、激しい火花が生まれる。
僕は『骸骨騎士』の腰に両腕を回し、
「うらぁああ!」
雄叫びと共に抱きかかえて、後方へと思いっきり投げ飛ばした。
ブォン
そこには、僕を追いかけてきた42発の光弾がある。
奴から感じる、驚きの気配。
そして、自身の放った凄まじい魔力の光弾たちは、見事に『骸骨騎士』に直撃した。
ドパパドパァアアン
衝撃波が大気を揺らし、『王墓』の構造体を更に破壊する。
それを見ながら、僕は『虹色の鉈剣』を構えた。
大きく振り被り、
ヴォオン
そこに光の粒子が集束していく。
生み出される7メードもの巨大な『虹色の大鉈剣』を、僕は、爆発に包まれる『骸骨騎士』めがけて振り落とした。
「やぁああっ!」
ゴバァアアン
虹色の剣閃が撃ちだされる。
かつて『暴君の亀』を、そして『蛇神人』を仕留めた『神狗マール』の知る最大火力の技。
その輝きが『骸骨騎士』を飲み込んだ。
カォオオ……ン
虹色の輝きは、空へと抜けていく。
そして、その光の奔流が通り抜けたあとには、なんと無傷の『骸骨騎士』が佇んでいた。
(……は?)
僕は呆けた。
この戦いを見守っていた他のみんなも、唖然としていた。
自分の目が信じられない。
タナトス王の身に着けた黒い鎧の各部に、無数の『タナトス魔法文字』が浮かび、その全身を球形の『魔法障壁』が包み込んでいたんだ。
防がれた……。
僕の最強の技が……。
その事実に、僕は、この先の戦いをどう展開していけばいいのか、わからなくなった。
どうすれば勝てるのか、わからなくなった。
シュオオ……ッ
魔法障壁が消える。
鎧の『タナトス魔法文字』も消えた。
それなりに大きな負担がかかったのか、黒い鎧の各部から大量の白煙が吹いている。
でも、無傷だ。
伝わってくる感情は、自信だ。
自らの強さに対して、大いなる自信を確立し、この戦いに勝利できると確信していた。
左右の手には、7つの魔法文字を輝かせる2つの剣。
その身に着けるのは、こちらの最強剣技さえも防ぐ黒き鎧。
――まさに、王だ。
その威厳ある余裕と佇まいに、僕はそう感じた。
そして、それは自身の敗北を認める心でもあったんだ。
(……あ)
手足が震える。
恐怖。
いや、それだけではなくて、今の剣技を放ったことで『神気』が枯渇しかかってるんだ。
バシュッ
瞬間、僕を包む虹色の外骨格が、光の粒子に砕けた。
3分間の時間切れだ。
髪の毛の中に生えていた獣耳が、お尻から伸びていた長い尻尾が、白煙と共に消えていく。
残されたのは、無力な子供のマールのみ。
「あ……ぁ……」
ガクッ
上手く力が入らなくて、僕は、膝から地面に崩れた。
それは、ただの偶然だったけれど、まるで愚民が王に許しを乞うかのような姿勢だった。
「マール!」
イルティミナさんの叫ぶ声がする。
みんなが駆け寄ってくる気配を感じる。
でも、その前に、目の前に立つ『骸骨騎士』の姿をしたタナトス王は、無慈悲に、その剣の1つを振り上げていた。
7つの魔法文字が輝く。
そして、それが振り下ろされようとした瞬間、
「――させないよ、タナトス王」
静かな声が響いた。
キュン
同時に、『骸骨騎士』の直前の地面に向けて、黒い糸のような光線が落ちた。
ドバァアアン
凄まじい爆発。
黒い炎が大地を焼き、荒れ狂う爆風が周囲の構造体を吹き飛ばしていく。
タナトス王は、魔法障壁を展開して無傷。
でも、その手にある、7つの魔法文字の輝く剣を振り下ろすことはできなかった。
『…………』
その眼球が静かに上空を見上げる。
僕も、その視線を追いかけた。
(……あ)
そこに、いた。
4枚の黒い翼を広げた少年が、右手の人差し指を『骸骨騎士』へと向けていた。
黒い褐色の肌。
風になびく黒髪。
そして、白目のない漆黒の眼球は、呆然としている僕を見つめて、その口元に赤い三日月の笑みを浮かべていた。
「――やぁ、マール。大丈夫だったかい?」
鼓膜を震わす、悍ましくも楽しげな声。
広がる青空を背景にして、まるで漆黒の天使のように、あの『闇の子』がそこにいた。
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