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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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324・勝利のご褒美

皆さん、こんばんは。

月ノ宮マクラです。


活動報告にて、書影の公開をいたしました!

まだご覧になっていない方もいらっしゃると思いますので、こちらにも表示しておきますね♪


挿絵(By みてみん)


10月22日発売予定ですが、すでにアマゾン様などでの予約も始まっております。

もしよろしければ、どうかご検討下さいませ。


それでは、本日の更新、第324話になります。

どうぞ、よろしくお願いします。

 真剣での勝負。


 その提案には、さすがにラッセル校長や授業の担当教師が難色を示した。


 けれど、キルトさんは、


「問題ない」


 と言い切る。


「ここにはソルがいる。腕の1本や2本をなくしても、すぐに生やすことができるからの」


 名前を出された少女は、困った顔だ。


 今日はあの大杖を持ってきていないので、学校側から発動体の杖を貸与されることになった。


(……本気?)


 僕は、師匠の顔を見る。


 ……うん、本気っぽい。


 キルトさんの譲らない意思を感じたのか、ラッセル校長と担当教師も諦めた。


(仕方ないか)


 まぁ、真剣でもやることは変わらないんだ。


 木剣だって、当たれば骨折などの大怪我はすることもあるし、最悪、命を落とす可能性もある。


 危険なのは同じ。


(集中して向き合えば、そんな事故も早々起きないだろう、うん)


 僕は、そう自分を納得させた。


「…………」


 でもムハイル君は、少し硬い表情だ。


(……?)


 もしかしたら、授業は木剣ばかりで、あまり真剣を扱ったことがないのかな?


 何はともあれ、そうして僕らは、真剣で戦うことになった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 僕と黒髪の少年は、改めて向き直った。


 ムハイル君の手には、学校から貸与された幅広の長剣が握られていた。


 一方の僕は、『マールの牙・弐号』だ。


(う~ん?)


 ただでさえ身長で劣っているのに、武器の違いで、更にリーチ差が凄まじいことになった。


 これは厳しいぞ。


 不公平じゃないかとキルトさんを見たけど、


「いや、これで公平じゃ」


 と言われてしまった。


 僕の短剣は、僕の使い慣れたものだ。


 けれど、ムハイル君の長剣は、学校の備品で使い慣れたものではない。


 その差分のハンディなのだそうだ。


 ちなみに、ムハイル君は何度か学校の備品の長剣に触ったことがあるので、僕が一度も触ったことのない学校の長剣を使うというのも、公平ではなくなるらしい。


(そういうものかな?)


 よくわからないけど、キルトさんが言うなら仕方がない。


 僕は深呼吸して、気持ちを整える。


(よし)


 そして、『マールの牙・弐号』を正眼に構えた。


 それを見て、


「っ」


 ムハイル君も、少し慌てたように長剣を構える。


 2人の準備が整ったと見て、審判となるキルトさんは、大きく頷いた。


「よし、始めい!」


 鋭い声が、訓練場に響いた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 今回は慎重になったのか、ムハイル君は開始と同時に攻めてこなかった。


「…………」


 いや、妙に張り詰めた表情だ。


(やっぱり、真剣の勝負に慣れていないのかな?)


 そう思った。


 とはいえ、彼の剣の腕は確かだ。


 僕からも、迂闊には飛び込めない。


 というよりも、リーチの劣る僕にできる戦法はたった1つ、カウンター剣技のみだった。


 先に攻めさせ、その攻撃をかわして、斬る。


 それだけ。


 逆に言えば、ムハイル君は先手は取れるけれど、その1撃で仕留めなければいけないのだ。


(さぁ、来い)


 ジリッ ジリッ


 足の指だけで地面を引っ張り、僕は、少しずつ間合いを詰める。


 青い瞳は、彼を見据えたままだ。


(…………)


 落ち着こうとしているのか、彼は、小さく深呼吸していた。


 ……いいの?


 僕に、完全に呼吸がわかってしまうんだけど?


(もしかして、誘われているのかな?)


 少し迷った。


 けれど、彼のそれは演技ではないと直感が告げている。


(よし)


 タンッ


 彼が息を吸う瞬間に合わせて、僕は踏み込んだ。


「!」


 黒髪の少年は驚いた顔をし、けれど、その反射神経はすかさず剣を繰り出してきた。


 ヒュボッ


 鋭い突きだ。


 タイミングはわかっても、当たれば確実に死ぬ。


(集中しろ、マール!)


 僕は、極限集中の世界へと飛び込んだ。


 視界から、色が消える。


 音もなくなる。 


 時間の流れが遅く感じる、灰色の世界だ。


 その中で、ムハイル君の放った突きが僕へとゆっくり接近してくる。


(最小の動きでかわせ!)


 グッ ググ……ッ


 僕は、重くなった身体を必死にずらす。


 近づく剣。


 その先端が、僕の頬に触れた。


 少しずつ動いて、皮膚を裂いていく。


 同時に僕は、前へと思いっきり踏み込んで、『マールの牙・弐号』の射程内へと黒髪の少年を捉えた。


 下から斬り上げる。 


 ムハイル君は、驚いた顔をする。


 その瞳には、死への恐怖が宿っているのが見えた。


「やっ!」


 気合を込めて、刃を彼の喉に当て、そこで止めた。


 ブパッ


 極限集中の世界は、そこで途切れた。


 世界に色と音が戻り、時間の感覚が正常になった。


 プシュッ


 斬られた僕の頬から、鮮血が散った。


 でも、そんな僕の手にある『マールの牙・弐号』は、ムハイル君の喉にしっかりと突きつけられていた。


『おぉおお!』


 生徒さんたちの歓声が聞こえる。


「そこまでじゃ!」


 キルトさんの鋭い声が響いた。


 僕は残心したまま、ゆっくりと剣を引いて、少し下がった。


「……ぁ」


 ムハイル君は、呆然としたままだ。


 少し震えている。


 自分が喉を斬られて死ぬ未来を、幻視してしまったのかもしれない。


(……ん)


 彼の様子に、僕も緊張を解く。


 そんな僕の手を、キルトさんが持ち上げて、


「勝者マールじゃ」


 そう高らかに宣言した。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 ムハイル君は、勝利者となった僕を見つめた。


 そして、


「お前……死ぬのが怖くないのか?」


 と言われた。


(え?)


 彼の視線は、血を流している僕の頬へと向けられている。


「一歩間違えれば、お前、死んでたんだぞ?」


 どこか怯えた声だ。


(あ、うん)


 僕は頷いた。


「うん、そうだね。でも、これぐらいの傷じゃ死なないよ?」

「…………」


 あっさり答えた僕に、彼は愕然とした顔だ。


 それから、


「俺の……負けだ」


 ガクッと肩を落として項垂れる。


 ……ずいぶんと落ち込んだ様子だった。


(えっと……)


 だ、大丈夫かな?


 僕は、ちょっと心配になってしまった。


 どう声をかけようか迷っていると、キルトさんが前に進み出て、少年へと言った。


「惜しかったの」

「…………」

「そなたの剣の腕は、確かじゃった。じゃが、心技体の心が欠けていた。それが敗因じゃ」

「……はい」


 彼は、悔しそうに頷く。


 キルトさんは笑う。


「わらわと手合わせしても、それには気づけなかったろう。じゃが、今、そなたは気づいた。その気づきを、これからも忘れるな?」


 ポン


 黒髪の少年の肩を、軽く叩く。


 ムハイル君は「はい」と、また大きく頷いた。


 それから、彼は僕を見る。


「戦ってくれてありがとう、マール」


 右手を出された。


「うん」


 僕は、その手を握る。


 確かな研鑽を積んだ、剣ダコだらけの固い手だった。


 きっと、僕の手も同じだ。


「…………」

「…………」


 僕らは笑った。


 僕と同い年の剣士。


 凄い剣の腕前だった。


 でも、たまたま僕の方が死地を乗り越えた経験が多かったから、勝てたんだ。


 勝因はそれだけ。


(……もしかしたら、この先、冒険者として彼と競い合う未来もあるのかな?)


 ふと、そんなことを夢想する。


 青空の下、笑顔と握手を交わして、そうして僕らの戦いは終わった



 ◇◇◇◇◇◇◇ 



「冒険者の心構えについては、3年目に教える項目なのだがなぁ」


 校門へと向かいながら、ラッセル校長は、ため息をこぼした。


 キルトさんは、


「別に、今、学んだとしても問題あるまい?」


 と肩を竦める。


 校長先生は「それはそうだが……」と困った顔だ。


 キルトさんは言う。


「それにあの小僧は、悩んでおった。自分に足りないものは何か? 自分の冒険者としての現在地は、どの高さなのか? わらわは、それを与えてやっただけじゃ」


 そう言いながら、視線をグラウンドへ。


 そこでは、先ほどの生徒たちが、今もまだ剣の稽古をしていた。


 そこにムハイル君の姿もある。


「…………」


 それを見つめる黄金の瞳は、とても優しかった。


 その眼差しに気づいて、ラッセル校長も、それ以上は何も言えなくなってしまう。 


 僕は笑った。


「キルトさん、なんだか本当の先生みたいだね?」

「む?」


 キルトさんは驚いた顔だ。


 それから苦笑して、


「そうか。ならば、いつか冒険者を引退したなら、ここで雇ってもらおうかの」


 なんて言う。


 ラッセル校長は目を輝かせた。


「それはいい! その時は、ぜひ声をかけてくれ。すぐ好待遇で採用するよ」

「ちょっと、ちょっと」


 クオリナさんが焦ったように、


「キルトさんがいなくなったらギルド(うち)が困るから、あと10年は引退しちゃ駄目だからね!」


 と釘を刺す。


 僕は、キルトさん、イルティミナさん、ソルティスと顔を見合わせる。


 思わず吹き出し、それから、みんなで大笑いしてしまった。 


 そうして僕らは、校門前でラッセル校長に見送られて、冒険者養成学校をあとにした。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 冒険者ギルドへの道すがら、


「今日は、いい宣伝になったなぁ。これで、就職先に『月光の風』を選んでくれる子が増えるかも!」


 と、クオリナさんは嬉しそうだった。


(あはは……)


 僕も、少しでも自分のギルドの役に立てたのなら嬉しいな。


「役に立ったよ~」


 クシャクシャ


 クオリナさんは、僕の頭を撫でてくれる。


「同い年の子が、こんなに強くなれる冒険者ギルドなんだ? って、きっと思ってもらえたもん! 印象バッチリだよ!」


 そうウィンクしてくれる。


(そっかな?)


 うん、そうだといいな。


 髪を撫でるクオリナさんの指も心地好くて、僕も笑った。


 やがて、


「ではの」

「またね、みんな!」


 冒険者ギルドに帰るキルトさん、クオリナさんと、『イルティミナさんの家』に帰る僕と姉妹の2手に別れた。


 分かれ道の途中で、お互いに手を振る。


 2人の姿が見えなくなり、そうして僕は、イルティミナさん、ソルティスと家路を歩いた。


 空は、少しずつ茜色に染まっていた。


(もう夕方かぁ)


 そう思っていると、イルティミナさんの白い指が、歩いている僕の頬に触れた。


 それは、すでにソルティスの魔法で治してあるけど、傷のあった場所だ。


「今日はお疲れ様でしたね」


 イルティミナさんは、そう微笑む。


 僕も「ううん」と笑う。


 彼女は、その指を優しく肌に這わせながら、


「マールは、本当に強くなりましたね。もはや、同年代で貴方に敵う剣士はいないかもしれません」


 と褒めてくれた。


(そ、そっかな?)


 ちょっとこそばゆい。


 その誉め言葉に、ソルティスは認めるけど、でも、あまり認めたくないというような仏頂面である。


 そして、その姉は、真紅の瞳を細めた。


「貴方の日頃の弛まぬ努力、その修練の成果を改めて感じました。そんなマールの姿に、このイルティミナは、また惚れ直してしまいましたよ」


 そう甘く囁く。


(……うわぁ)


 その甘やかな声に、心臓がドキドキしてしまったよ。


 でも、嬉しいな。


 彼女に相応しい『強い男』に、僕も少しは近づけた気がした。


「えへへ」


 照れる僕である。


 イルティミナさんは、頬に這わせていた指を離して、


「これは、勝利のご褒美です」


 チュッ


 そこに、柔らかく弾力のある唇を押し当てた。


(わっ!?)


 僕は驚き、ソルティスもギョッとした顔である。


 イルティミナさんは、その美貌を離して「フフッ」と甘く笑った。


 その頬が少し赤くなっている。


(……イ、イルティミナさん)


 胸がいっぱいだ。


 勝てて、よかった。


 がんばって、よかった。


 大好きな女の人からの勝利のキスに、僕も赤くなってしまった。


 夕焼けに染まった赤い道を、真っ赤になった僕らは、でも、幸せな笑顔を浮かべながら歩いていった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の水曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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ご購入して下さった皆さんは、本当にありがとうございます♪

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ いよいよ来月に迫った発売日! ワタシは当日に書店で購入しますよ! 今から楽しみですd(^-^) イルティミナのご褒美で満面の笑み! 相変わらずマールはチョロいな…
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