319・いざ、黒鉄の指へ!
皆さん、こんばんは。月ノ宮マクラです。
活動報告にて、書籍カバーイラストを公開しました。
まだご覧になっていない方もいらっしゃると思いますので、こちらでも表示させておきますね♪
描いて下さったイラストレーター様は、まっちょこ様です。本当に素敵なイラストですよね♪
また書籍版に合わせて、タイトルも少し変更になりました。
このように書籍化に向けて色々とありますが、どうか、これからもマールたちの事を見守って頂けましたら幸いです!
それでは本日の更新、第319話になります。
どうぞ、よろしくお願いします。
「お、来たの」
翌日、待ち合わせをした『冒険者ギルド・月光の風』の正門前で、やって来た僕ら3人に、キルトさんが大きく手を振った。
僕らも、大きく手を振り返す。
昨日は、このギルドで、ムンパさんへの報告を行った。
「――そう。みんな、無事でよかったわ。本当にお疲れ様」
真っ白な美しい獣人さんは、そう言って、僕ら1人1人を抱きしめてくれた。
それから、シャクラさんに会いたい旨を話すと、なんと『黒鉄の指』宛てにギルド長署名の紹介状を書いてくれたのだ。
(本当、ありがたいよね)
それに感謝して、そのあと、僕らはギルドをあとにした。
それから、イルティミナさんの家で1日を過ごして、そして今日、僕らはこの『月光の風』の前で待ち合わせをしてたんだ。
キルトさんの前に立って、僕は笑う。
「お待たせ、キルトさん」
「うむ」
銀髪の美女も、穏やかに微笑んだ。
今日のキルトさんの格好は、冒険者らしいものではなく、黒シャツにズボンという私服姿だった。
豊かな銀髪も、ポニーテールである。
一方の僕らも、普段着だ。
イルティミナさんはワンピース姿で、長い深緑色の髪は、緩やかな三つ編みにされている。
上品な若奥様って感じ。
ソルティスは、シャツにフレアスカート。そして、いつもの眼鏡だ。
ちょっと知的なお嬢さん……って雰囲気かな?
(ま、雰囲気はね)
そんなことを思う僕も、シャツとズボンというシンプルな格好だ。
一応、護身用に、腰ベルトの後ろに『マールの牙・弐号』を装備している。
あとは、リュックの中に、シャクラさんに見せるための新調した『白銀の手甲』がしまってあった。
(楽しみだなぁ)
これを見せたり、ご両親のことを伝えたら、どんな反応をしてくれるだろう?
ちょっとワクワクする。
会うのは、2年ぶり近くになるけれど、僕は楽しみで仕方なかった。
そんな僕を見つめ、イルティミナさんは優しく笑っている。
「…………」
ナデナデ
思わずと言った感じで、頭を撫でられてしまった。えへへ……。
「2人とも、何やってんだか……」
呆れるソルティス。
キルトさんは、苦笑する。
それから気を取り直したように、
「では、行くかの」
「うん!」
僕ら4人は、『冒険者ギルド・黒鉄の指』を目指して歩きだした。
◇◇◇◇◇◇◇
人の多い王都の大通りを歩く。
僕らの向かう『黒鉄の指』は、シュムリア王国最大手の冒険者ギルドだ。
所属冒険者も4000人以上。
国内の何ヶ所にも、支部があるんだって。
そんな一流企業だから、本部の建物は、この王都のメインストリート沿いにあるみたいなんだ。
(凄いよね)
ちなみに『月光の風』は、所属冒険者は100人前後……。
規模は段違いです。
やがて、道を歩いていると、遠くに黒い建物が見えてきた。
「あれじゃ」
と、キルトさん。
外観は、磨き抜かれた黒い鉱石の四角い建物だ。
でも、大きい。
高さは30メード以上あって、『月光の風』の3倍ぐらいの敷地面積がありそうだ。
正面には、開放された大きな門がある。
その出入口からは、今もたくさんの人たちが、建物から出たり入ったりしていた。
(大人気店だ……)
ひょええ……と思いながら、僕らも門の中へ。
建物までは石畳の道が続き、周囲は、手入れの行き届いた庭園が広がっている。
(あ)
建物の1階部分は、ガラス張りになっていた。
そこから中が見えるんだけど、
「……喫茶店?」
僕は首をかしげた。
ガラスの向こう側には、たくさんの椅子とテーブルがあって、そこで色んな人が軽食を楽しんでいる風景があった。
あれ?
僕ら、冒険者ギルドに来たんだよね?
戸惑っていると、
「ここの1階は、喫茶店を経営しているのじゃ」
と、キルトさんが教えてくれた。
詳しく聞くと、ここは2階がクエスト依頼人の受付になっているそうだ。
3階が冒険者たちのクエスト受注受付。
(受付の階が別れてるんだね?)
ちょっと驚いた。
その理由は、やはり武装した冒険者というのは、一般の人にとっては威圧感があるから。
依頼をしたい人でも、そのせいで尻込みしてしまう人もいるんだって。
1階が喫茶店なのも、そのためだ。
一般の人たちが気軽に冒険者ギルドに来れるようにするため、お茶のついでにクエスト依頼をどうぞ、という狙いがあるそうなのだ。
ちなみに依頼はせず、喫茶店を利用するだけのお客様も多いそうである。
(ほぇぇ)
目から鱗だ。
冒険者ギルドは、冒険者のためのものだと思っていた。
でも『黒鉄の指』は、冒険者だけでなく、クエスト依頼人である一般の人のことも考えて運営されてたんだね。
さすが、一流企業だ。
イルティミナさん、ソルティスも感心した顔である。
キルトさんは、黒い建物を見上げて、
「『月光の風』が真似をするのは難しいが、しかし、やはり色々と勉強になる点は多いの」
そう呟いていた。
(冒険者ギルドって、本当に、それぞれに特徴あるんだね)
金印2人を擁する新進気鋭の『月光の風』。
伝説の金印が所属する王国一の老舗、『草原の歌う耳』。
そして、王国最大手で、かつては金印のエルドラド・ローグさんも所属していた『黒鉄の指』。
他にも冒険者ギルドは存在している。
本当に色々だ。
僕は感心しながら、目の前の黒い建物を見つめてしまった。
「よし、では中に入るぞ」
「あ、うん」
「はい」
「へいへ~い」
キルトさんの声に、僕らは頷く。
そうして僕らは歩きだし、美しい建物内へと入っていった。
◇◇◇◇◇◇◇
入り口のガラス扉を開けて、中に入る。
すると、すぐ正面に『総合受付』があった。
円形のそこには、2人の制服姿のお姉さんが待機している。
目立つのは、黒い手袋だ。
(ギルド名が『黒鉄の指』だからかな……?)
そのイメージの制服なのかと思った。
そんなことを考えていると、
「いらっしゃいませ。ようこそ、『黒鉄の指』へ」
2人の受付のお姉さんは、揃って、丁寧にお辞儀をしてくれる。
とても綺麗な所作。
(うん、やっぱり一流企業だ)
なんて思ったり。
僕らは、キルトさんを先頭に、受付に近づいていく。
その時、
「……あ」
お姉さんたちが、小さく声をあげた。
どうやら、やって来たのが、あの金印の魔狩人キルト・アマンデスだと気づいたみたいだ。
でも、その表情はすぐに消える。
落ち着いた微笑を浮かべて、
「いらっしゃいませ。ご来店ありがとうございます。本日は、どのようなご用件でしょうか?」
と、穏やかに訊ねてきた。
キルトさんは「うむ」と頷くと、
「実は、ここに所属している冒険者の1人に会いたくての。その所在を知りたいのじゃ」
と言った。
それから、こちらを向いて「マール」と僕を呼ぶ。
「ムンパの紹介状を」
「あ、うん」
ゴソゴソ
僕は、慌ててリュックを漁った。
それを受け付けのお姉さんに差し出しながら、
「会いたいのは、エルフのシャクラさんです。青印の冒険者で、同じパーティーのリーダーが、人間で白印の冒険者クレイ・ボーリングさんです」
と説明した。
お姉さんはニコリと笑って、「お預かりします」と紹介状を受け取った。
封蝋と名前を確認。
それから僕らを見て、微笑んだ。
「かしこまりました。それでは確認のため、少々お時間を頂きますが、よろしいでしょうか?」
「かまわん」
頷くキルトさん。
それから視線を巡らせて、
「それまで、あちらの喫茶店で休ませてもらおうかの」
「かしこまりました」
丁寧な一礼を返してくれる受付のお姉さんたち。
僕は、
「よろしくお願いします」
ペコッ
と、頭を下げる。
お姉さんたちはそれに微笑んで、それから僕らは、その2人に見送られながら喫茶店の方へと歩いていった。
◇◇◇◇◇◇◇
季節は晩秋。
ちょっと肌寒い季節なので、僕は、ホットミルクティーを頼んだ。
キルトさんは、コーヒー。
イルティミナさんは、ホットレモンティー。
ソルティスは、ホットミルクティーとショートケーキ3皿を注文していた。
(ん、美味しい……)
冒険者ギルドの経営する喫茶店だけど、味は文句なしに美味しかった。
温かさもホッとするね。
ムグムグ
「意外といけるじゃない? ここのケーキ」
ソルティスも満更でもなさそうに言いながら、ショートケーキを食べている。
のんびりした一時だ。
喫茶店にいる他のお客さんたちも、ゆったりとくつろいでいる様子だった。
また喫茶店内には、パンフレットも置いてあった。
そこには『冒険者養成学校』や『保険ギルド』などの文字がある。
(ふ~ん?)
やっぱり冒険者ギルドの喫茶店らしく、パンフレットも冒険者関連みたいだね。
そんなことを思いながら、カップの紅茶をすする。
そうして僕らは他愛もない話をしながら、20分ほど待った。
(……おかわり、どうしようかな?)
なんて悩んでいた頃だ。
コツ コツ
視界の奥から、こちらへとやって来る制服のお姉さんに気づいた。
僕らのテーブルの前で止まって、
「お待たせしました、マール様」
と一礼。
僕も慌てて、頭を下げ返す。
お姉さんは微笑み、僕の横で軽くかがんで、僕より視線を低くすると、
「実は、マール様がお探しされていた当ギルド所属の冒険者なのですが――」
と、調べた内容を報告してくれた。
◇◇◇◇◇◇◇
「はぁぁ……」
『黒鉄の指』からの帰り道の道すがら、僕は、大きくため息をこぼした。
そんな僕に、イルティミナさんが心配そうに声をかけてくる。
「今回は、残念でしたね」
「……うん」
僕は、しょんぼり頷いた。
実は、わざわざ冒険者ギルドまで足を運んだけれど、シャクラさんには会えなかったのだ。
なんと、現在クエスト中。
しかも商隊の護衛クエストで、一昨日、王都ムーリアを出発したばかりなんだって。
戻ってくるのは、1~2ヶ月後の予定だとか。
(タイミング、悪かったなぁ)
完全に想定外。
会えるのを楽しみにしていたので、余計にがっかりだった。
励ますように、イルティミナさんの白い手は、僕の背中を優しく撫でてくれる。
ソルティスは、
「ま、日頃の行い悪かったんじゃないの~?」
両手を頭の後ろに組んで、あっけらかんとそんなことを言ってくる。
(そ、そんなことないと思うけどなぁ……)
心配になる小心な僕である。
キルトさんは苦笑しながら、
「仕方あるまい。また帰ってきた頃を見計らって、『黒鉄の指』に訪れてみようではないか」
と言ってくれた。
(うん、そうだね)
落ち込んでいても仕方がない。
今日は、王国最大手の冒険者ギルドの視察と、美味しい紅茶をみんなで楽しんだということで良しとしよう、うん。
パン パン
僕は頬を叩いて、気持ちを切り替えた。
「うん、また次の機会を楽しみにしてみるよ」
と宣言する。
イルティミナさん、キルトさんは微笑み、ソルティスは小さな肩を竦めていた。
そうして僕らは、帰路の大通りを歩く。
午後になっても、相変わらずの人混みだ。
人間、エルフ、獣人、ドワーフ、竜人、色んな種族の人を見かける。
(……ん?)
その中に、ふと見知った姿があった。
ポニーテールにされた、艶やかな赤毛の髪。
そこから生える、ピンとした獣耳。
僕らの見慣れたギルドの制服のスカートからは、短い尻尾も伸びていた。
そして、ちょっとぎこちない歩き方。
「あれ、マール君?」
向こうも、こっちに気づいた。
僕は笑った。
「こんにちは、クオリナさん」
なんと、そこにいたのは『月光の風』のギルド職員、僕とも顔馴染みのクオリナ・ファッセさんだった。
ご覧いただき、ありがとうございました。
※次回更新は、明後日の金曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。




