318・帰りし6人の冒険者
皆さん、こんばんは。
月ノ宮マクラです。
すでにご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、ついに『転生マールの冒険記』の書籍化が正式に発表されました!
ホビージャパン様より、HJノベルスにて10月22日発売予定です。
皆さんに読んで頂いて、応援して頂いて、ついにここまで来ることができました。皆さん、本当にありがとうございます!
これからも皆さんに楽しんでもらえるよう、また自分自身も楽しめるよう、精一杯、頑張っていきたいと思います。もしよかったら、どうか、これからもマールたちの事をよろしくお願いしますね。
さて、本日から、またマールたちのシュムリア王国での新しい物語が始まります。
どんな展開が待っているのか、どうか楽しんで下さいね。
それでは、本日の更新、第318話です。
どうぞ、よろしくお願いします。
「戻ったのですね、コロン!」
半年以上ぶりに姿を現した友人の姿に、冒険者ギルド『草原の歌う耳』の長であるフォルスさんは、椅子から音を立てて立ち上がった。
ここは『草原の歌う耳』のギルド長室。
観葉植物がたくさん置かれた、木造のモダンな室内には、『エルフの国』から帰還した僕ら5人とコロンチュードさんがいる。
「……や」
小さく片手を上げるコロンチュードさん。
フォルスさんとは対照的に、彼女はまるで『散歩から帰ってきた』とでもいうような挨拶だ。
(……あはは)
彼女らしいといえは、らしいのかな?
僕らは苦笑してしまい、フォルスさんはため息をこぼしている。
それから彼は、僕らを見た。
「皆さん、コロンを無事に連れ帰ってくださり、ありがとうございました」
深々と頭を下げられた。
『助けて』というコロンチュードさんの伝言を受け取り、僕らが転移魔法陣で『エルフの国』に向かったのが5日前だ。
それからも、フォルスさんはずっと心配していたんだろう。
(でもなぁ)
実際には、そこまで危機的状況じゃなかった。
『エルフの国』でのコロンチュードさんは平穏な状況だったし、僕らも差別の洗礼はあったけれど、命の危険はそれほどなかったんだよね。
で、キルトさんは、そのことを説明。
「…………」
フォルスさん、言葉を失ってしまった。
コロンチュードさんは、そんな呆然となるギルド長へと、
「あとね……『エルフの国』の赤ん坊、これから、こっちに送られてくる……から。……あと、よろしく」
と、更なる追い打ちを伝えた。
「……はい?」とフォルスさん。
キルトさんは痛ましそうな顔をしながら、
「実はじゃな――」
と『エルフの国』で生まれた『魔血の赤子』を、シュムリア王国で引き取ることになったと、また説明する。
…………。
フォルスさん、酷い頭痛がするみたいに、片手でこめかみを押さえてしまった。
(まるで、キルトさんみたい……)
その仕草は、コロンチュードさんと関わった時のキルトさんそっくりである。
そして、その痛みがわかるのか、キルトさんの黄金の瞳には、憐憫の色が浮かんでいた。
「……コロン」
「……ん?」
「ちょっと、こっちに来なさい」
呼ばれて、ギルド長の机に近づく猫背のハイエルフさん。
「……何?」
寝癖だらけの髪を揺らして、小首をかしげた。
そして、
「貴方はなぜ、そういう大事なことを勝手に決めてしまうのですか!? 王国への報告や許可は!? いったい誰がするというのです!?」
「っ……っっ」
コロンチュードんさんの長い耳を引っ掴んで、吠えるフォルスさん。
おぉ……。
落ち着いた紳士な彼が怒鳴る姿に、ちょっと驚いた。
「い、痛い……痛いよ? ……は、離して……フォルっ」
「いいえ、離しません! せっかくなので、コロン、貴方には今から、じっくりお説教をして差し上げましょう!」
恐ろしい笑顔のフォルスさん。
(ひぇぇ)
叱られるコロンチュードさんの姿に、僕らは呆然である。
と――彼女が、こちらを見た。
助けを求める涙目。
(…………)
僕らは、ソッと視線を外した。
コロンチュードさんはショックを受けた顔である。
そして、その視線は、最後に義理の娘へ。
「ポーは、諦めろ、と義母に伝える」
ガ~ン
青ざめる義母。
無表情に、幼女はそんな義母を見つめている。
(あはは……)
そしてキルトさんは、『草原の歌う耳』に所属する2人のエルフへと、
「すまんな。わらわたちは、これから王家への報告に向かう。あとのことは任せたぞ」
しかつめらしい顔で告げた。
(……うん)
要するに、この修羅場から逃げる気だ。
そして彼女は、僕、イルティミナさん、ソルティスを促して、このギルド長室をあとにしようとする。
ポーちゃんは、残るみたいだ。
さすがに義母を1人には、できないみたい。
金髪幼女は、僕らに『こっちは気にするな』という感じに、無表情のまま、ピッと親指を立ててくる。
(うん)
「ではの」
「それじゃあ、またね」
「お邪魔しました」
「し、失礼します、コロンチュード様」
そう声をかけ、僕らは退室する。
『あぁ~』と手を伸ばしてくるハイエルフさんの姿を最後に、
パタン
ギルド長室のドアが閉じた。
そのまま階段を下りて、『草原の歌う耳』ギルドの建物内を歩いて、やがて外に出た。
(ふぅ……)
太陽が眩しい。
『エルフの国』とは時差があるのか、向こうは夕方前だったけれど、こちらはまだ朝みたいだ。
早朝の風が涼しい。
そして、周囲には、懐かしい王都ムーリアの街並みが広がっている。
自然だらけの『エルフの国』もよかったけれど、やっぱり見慣れたこの景色を目にすると、ちょっと落ち着いた気持ちになった。
(僕も、シュムリア人になったのかな?)
転生して1年半以上。
世界中を旅してきたけれど、その拠点となるのは、この王都ムーリアだ。
ここに根を張って、生きている――そんな感じがした。
青い瞳を細めて、街の景色を見つめる。
と、
「よし、では、シュムリア王城へと向かうぞ」
キルトさんが言った。
「うん」
「はい」
「えぇ」
僕らは頷く。
そして、
「さぁ、マール」
イルティミナさんが微笑み、左手を差し出してくる。
僕は「うん」と笑って、その手を握った。
見慣れた僕とイルティミナさんの光景に、ソルティスは肩を竦め、キルトさんは苦笑する。
そして僕らは、手を繋いだまま歩きだした。
そんな僕の左手には、布に包まれた4つ目の『神霊石』があった。
落とさないよう、大事に抱いている。
(さぁ、これを届けよう!)
そうして僕ら4人は、キルトさんを先頭に、シュムリア王城を目指して、この王都ムーリアの街中を歩いていった。
◇◇◇◇◇◇◇
大聖堂で手続きをしてから2時間後、僕らは、ようやく神聖シュムリア王城へと入る許可を得た。
案内されたのは、宝物庫だ。
「皆様、本当にさすがですわ」
そこで待っていたレクリア王女は、僕らの渡した『神霊石の欠片』を台座に嵌める。
カチャッ ヒィィン
台座に収まっていた3つの『神霊石の欠片』が、新たな仲間も加わって、神々しい光を放つ。
これで4つ目。
本来30センチほどの球体、その半分ほどを、4つの欠片は埋め尽くした。
(……うん)
ついに、ここまで来た。
アルン神皇国にもある2つも含めれば、全部で6つ。
あと1つのところまで来たんだ。
白く清浄な光が、僕らのことを照らしている。
レクリア王女様は、その蒼と金のオッドアイを細めて『神霊石』を眺め、それから僕らを振り返った。
「まさか、これほど早く、4つ揃うとは思いませんでした」
そう微笑む。
僕らも微笑み、頭を下げる。
「やはり神狗の……いえ、マール様の存在ゆえ、でしょうか?」
そう言いながら、彼女は僕に近づく。
キュッ
僕の両手を、そのたおやかな手で握ってきた。
それを胸の高さまで持ち上げ、
「暗黒大陸から帰られてから、まだ数日。『エルフの国』に向かってからも5日しか経っていませんのに……。本当に素晴らしいですわ」
「ど、どうも」
キラキラした瞳で見つめられて、僕は、少し照れてしまう。
でも、僕だけの力じゃない。
4つ目の欠片を手に入れられたのは、僕らが行くまでに、コロンチュードさんが『エルフの国』で女王様や他の人たちを相手に、交渉や根回しをしてくれていたからだ。
きちんと準備は整っていたんだ。
僕らは、最後の一押しをしただけ。
(本当にがんばったのは、やっぱりコロンチュードさんなんだよね)
たった1人で、ここまでしてくれていた。
本当に、頭が下がる思いだよ……。
でも、そんな僕の説明に、レクリア王女は優しく笑った。
「そのコロンチュード様の期待に、しっかりと応えられるからこそ、マール様たちは凄いのですわ」
そう褒めてくれた。
(そ、そうかな?)
「逆に言えば、マール様たちがいなければ、いくらコロンチュード様が準備をしても『神霊石の欠片』は手に入らなかったということですもの」
「…………」
「それに彼女が準備を終えたタイミングで、マール様たちは暗黒大陸からきちんと戻ってきた。……その運命の強さも、わたくしは感じてしまいますわ」
尊敬の輝きを灯すオッドアイだ。
(ただの偶然の気もするけど……)
でも、目の前のシュムリア王国の第3王女様は、そう思っていないみたいだ。
「報告を受けたお父様も、驚いていましたわ」
お父様って……、
(国王様が?)
びっくりする僕に、彼女はクスクスと笑う。
「マール様の運命の強さは、お父様にも予想つかなかったみたいですわね。フフッ、お父様の珍しい顔が拝見できましたわ」
は、はぁ……。
「やはり、マール様は素晴らしいですわね」
そう楽しそうに笑うレクリア王女様だった。
(う、う~ん?)
なんだか困ってしまう僕である。
キルトさんは苦笑し、イルティミナさんは『さすが、私のマール』という満足そうな顔で頷いている。
ソルティスは、僕が褒められているからか、ちょっと仏頂面だ。
とりあえず、
「あ、ありがとうございます、王女様」
僕は曖昧に笑って、お礼を言っておいた。
そんな僕に、レクリア王女は笑みを深くする。
それから僕の両手を解放して、1歩だけ後ろに下がった。
「さて、これでシュムリア王国として集められる4つの『神霊石の欠片』は、全て集め終わりましたわ」
王女様の静かな声。
僕らは「はい」と頷いた。
「あとは、アルン神皇国が最後の1つを手に入れるのを待つのみです」
(うん)
フレデリカさん、ラプト、レクリアリス、ダルディオス将軍、みんなもきっと今、がんばってくれているはずだ。
キルトさんが問う。
「向こうの状況は、今、どうなっているのか、わかっておりますか?」
「えぇ」
レクリア王女は頷いて、
「現在は、3つ目の『神霊石の欠片』の所在を調査している段階のようですわ」
と教えてくれた。
(そっか)
「とはいえ、先日、2つ目の欠片を回収したばかり。3つ目の欠片の所在が判明するまでは、もう少し時間がかかるでしょう」
なるほど。
神様たちに、だいたいの場所は教わったけれど、アルンは広い。
(具体的な場所を特定するのには、時間が必要なんだね)
レクリア王女も、
「それ以上の報告は、もうしばらく待たなければいけませんわ」
僕ら4人を見回して、そう言った。
「はい」と、僕らは頷く。
レクリア王女は、蒼と金の美しい瞳を細める。
「それから『闇の子』の動向についても、こちらで調査をしておきますわ」
(!)
彼女は、形の良い顎に指を当て、
「マール様たちのお話からすると、向こうはこちらの狙いに気づいた様子。それにどう対応してくるのか、わたくしも考えてみますわ」
「…………」
「また『闇の子』自体も成長していたとのこと。そちらも気になりますわね」
そう呟いて、細い首を傾ける。
僕は、唇を噛み締めた。
(……確かに……強くなってたよね、アイツ)
『エルフの国』で対した『闇の子』は、15歳ぐらいまで成長していた。
それに伴ってか、強い力も感じたんだ。
……それは『悪魔』への成長。
暗黒大陸の『悪魔の欠片』が倒され、その魔力を吸収して、より強力な存在になってしまったんだ。
(くそっ)
本当に嫌な奴だ、アイツは。
少しだけ、室内の空気が重苦しくなってしまった気がする。
レクリア王女は、オッドアイの瞳を伏せた。
「それと、スパイの存在」
彼女は息を吐き、
「人員の調査と整理も進めますわ。神血教団ネークスのように『魔』の味方をする人間がいるのであれば、放置するわけにもいきません」
強い口調で言い切った。
……うん。
人間には色々な考えの人がいる。
できる限り、それは尊重したい。
けれど、どうしても受け入れられない考え方をする人たちは、悲しいけれど、そのまま許すわけにはいかないのだ。
キルトさんは頷き、頭を下げる。
「そちらへの対処は、どうかよろしくお願いします」
「はい」
レクリア王女は、美しい笑みで応じられた。
それから表情を和らげて、
「何かあれば、ご連絡いたしますわ。ですから、それまでは、皆様もしばし休まれてくださいましね」
と、おっしゃってくれた。
穏やかな声に、空気が少し柔らかくなった気がした。
(うん……そうだね)
暗黒大陸から戻ってからも、すぐ『エルフの国』で、あまり休むことができなかったもの。
少しゆっくりしたいな。
みんなも、なんとなく、そんな顔をしている気がした。
そうして僕らは頭を下げると、レクリア王女様とのお話を終えて、宝物庫をあとにしたんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
お城を出ると、もうお昼だった。
僕らは、近くのレストランに行って、昼食を食べることにする。
「やれやれ、これで一段落じゃな」
やって来た肉料理を食べながら、キルトさんは、ようやく肩の力が抜けたようにそう言った。
ムグムグ
成人しても食べ方の変わらない少女は、
「このあとは、どうするの?」
頬をリスのように膨らませながら、そう問いかける。
僕とイルティミナさんも、一旦、食べる手を止めて、自分たちのパーティーリーダーを見た。
彼女は「ふむ」と呟き、水を飲む。
それから、
「まずは、ムンパに報告じゃな」
と言った。
「そのあとは、王女の言葉通りに休もうではないか。次の動きがあるまでは、わらわたちにできることは何もないからの」
(うん、そうだね)
もしもに備えて、勝手に王都から出ることは許されないだろうけど、それ以外は、自由でいいんじゃないかな?
僕らは頷いた。
それから僕は、自分のパスタ料理を、また食べ始める。
と、
「マールはその間、何かしたいことはありますか?」
(え?)
イルティミナさんが優しく僕を見つめて、問いかけていた。
そうだなぁ……。
(あ、そうだ)
思いついた僕は、こう答えた。
「シャクラさんに会いたいな!」
「…………」
イルティミナさん、笑顔のままピシッと固まった。
……あれ?
キルトさん、ソルティスも食べる手が止まる。
2人は、なんだか、こっそりとイルティミナさんの顔色を伺っているみたいだ。
(???)
首をかしげる僕に、イルティミナさんはぎこちない笑顔で訊ねてくる。
「えっと……その、マール?」
「ん?」
「それは、いったいなぜ?」
なぜって……。
「シャクラさんのご両親に会ったことや、もらった『白銀の手甲』を直してもらったこと、それから、ご両親が元気だったことを教えてあげたくて」
と、正直に答える。
すると、
「……あぁ」
彼女は、ようやく納得し、なぜか安心したように息を吐いた。
「なるほど。マールは優しい子ですね」
そう笑って、僕の髪を撫でてくれた。
キルトさんとソルティスも、なぜか吐息をこぼしている。
それから、
「なるほどの」
と、頷くキルトさん。
「本来ならば、『エルフの国』を訪れたことは秘匿すべき内容じゃが、箝口令と共に伝えるならばよかろう」
あ……。
(そっか。『神霊石』に関することは基本、世間には秘密なんだっけ)
ちょっと忘れてた。
反省する僕。
「マールは本当、馬鹿ね~」
ソルティスは、嫌らしく笑って、嫌味を言う。
(……でも、料理のソースが頬についたままだから、あんまり嫌味に聞こえないんだよね)
成人してるのに残念な少女です、合掌。
そしてイルティミナさんは、
「キルトの許可も出ましたし、もし会いに行くならば、私も同行しましょう」
と言ってくれた。
いいの?
「ありがとう、イルティミナさん」
僕は嬉しくて笑った。
イルティミナさんも、そんな僕に優しく微笑んでくれる。
そしてキルトさんは、
「ふむ、ならば、わらわも行くかの」
「え?」
驚く僕ら2人。
キルトさんは小さく笑って、
「シャクラの所属する冒険者ギルドは、『黒鉄の指』じゃ。わらわは、そこに多少じゃが顔が利く。所在ぐらいは教えてもらえよう」
と言ってくれた。
そうだった。
(シャクラさんに会いたいと思っても、僕は彼女の住所も知らないんだったっけ)
2回目の反省だ。
そんな僕を見て、ソルティスも2回目の「馬鹿ね~」である。
うぅ……。
「ありがとう、キルトさん。お願いします」
「うむ」
頭を下げる僕に、彼女は鷹揚に笑ってくれた。
イルティミナさんは、そんな僕とキルトさんを見つめ、そして、少しだけうつむく。
「…………。せっかく、2人きりかと思えましたのに……」
ボソッ
小さな呟き。
(……あ)
聞こえてしまった僕は、なんだか胸が熱くなってしまった。
嬉しくて、恥ずかしい。
そして、ちょっと申し訳ない。
(ごめんね、イルティミナさん)
2人きりは、また別の時にしようね。
長く綺麗な髪を揺らして、ため息をこぼしているお姉さんに、心の中で呼びかける。
そうして僕らは、結局、4人で『黒鉄の指』へと翌日に向かう約束をして、レストランでの食事を終えたんだ――。
ご覧いただき、ありがとうございました。
※次回更新は、明後日の水曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。




