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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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304・エルフ女王との謁見

第304話になります。

よろしくお願いします。

 僕ら5人は、コロンチュードさんと一緒に『王樹の城』の通路を歩いていく。


 目指すのは、謁見の間。


 そこにいらっしゃるエルフの女王様は、なんと1万年以上を生きているハイエルフさんなんだって。


(1万年って……もう神様みたいだよね)


 なんだかドキドキする。


 そうして僕らは、『謁見の間』に到着した。


 そこは円形の空間だった。


 中央が高くなっていて、周囲には、真っ白な石の柱が何本も建っている。柱には、植物の蔓が絡まっていて、そこに色とりどりの花が咲いていた。


 更に周囲には、たくさんのエルフさんがいる。


(あ……アービタニアさんだ)


 3大長老の1人だから当たり前だけど、彼の姿もあった。


 そばにもう1人、エルフの男の人がいる。


 落ち着いた雰囲気で、長身のエルフさんだ。


 アービタニアさんと同じような立ち位置なので、もしかしたら、もう1人の3大長老さんなのかもしれない。


 そして『謁見の間』の中央には、青い水の煌めく池があった。


 そこに大きな桃色の花が、蕾の状態で水に浮いている。


 2メードぐらいの蕾だ。


 僕らは、その蕾の手前の場所で跪いた。


 そして、


「女王ティターニアリス様、拝謁を賜り、恐悦至極に存じます」


 コロンチュードさんが、そう言った。


(え?)


 いつも眠そうな彼女のはっきりした口調に、ちょっと驚いてしまった。


 そして彼女の言葉に合わせて、周囲のエルフさんたちも頭を下げていく。


 もちろん、あのアービタニアさんもだ。


 ヒュル……


 次の瞬間、青い水に浮いていた桃色の蕾が、ゆっくりと花弁を広げて、咲いた。


(……あ)


 そこに1人のエルフの女性が座っていた。


 透き通るような金の髪に蒼い瞳を持ち、天女のような白い衣装と羽衣を身に着けた、とても美しいエルフさんだった。


 その髪の上に、王冠が乗っている。


(この人がエルフの女王、ティターニアリス様……)


 その美しさには、エルフ好きの僕でなくても、目が離せなくなってしまうだろう。


 彼女の蒼い瞳が、ゆっくりと僕らを捉える。


「タナトスの末裔たち……ですか」


 それは、森の奥深くから聞こえてくるような、静かで落ち着いた声だった。


 そして、それはアルバック共通語。


 僕らがアルバック大陸の人間だと知って、それに合わせてくれたのかもしれない。


 そんなエルフの女王様は、僕らを見つめたまま、


「ようこそ、我らが聖なるエルフの国へ。罪人の末裔たる、幼き人の子らよ」


 そう儚げに微笑んだんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 エルフの女王が姿を見せた途端、謁見の間の空気は、神秘的なものに変わった気がした。


(これが1万年を生きた存在感……なのかな?)


 なんだか、同じ人とは思えないぐらいだ。


 その女王様の視線は、臣下であるコロンチュードさんへと向けられる。


「この者たちが貴方の言っていた『手段』ですか、コロンチュード?」

「はい」


 コロンチュードさんは頷いた。


 彼女は、いつもと違う強い視線で、女王様を見つめ返す。


「世界は今、再びの危機に瀕しています。守り石たる『神霊石』は、人間に譲渡するべきです。その代わりに、この者たちが『精霊王』を狙う『邪精』たちを討滅してくれることでしょう」


 そう言って、また頭を下げた。


(精霊王……?)


 聞き慣れない単語に、僕は心の中で首をかしげる。


 でも今は、質問できる空気じゃなかった。


 コロンチュードさんの言葉を、エルフの女王様は静かに聞いていた。


 そして、逆に周りにいる他のエルフさんたちは、その途端にザワザワと騒がしくなったんだ。


 特にその中の1人、


「お待ちください!」


 アービタニアさんが突然、大きな声をあげた。


「『神霊石』は『精霊王』を守る要石です! それを人間に渡すなど言語道断! まして、この者たちは『悪魔の血』を宿した者たちなのですぞ!」


 ザワッ


 その発言に、周囲のエルフさんたちは顔をしかめた。


(…………)


 僕らに向けられる視線が、明らかに変わった。


 敵意。


 嫌悪。


 憎悪。


 そんな負の感情が渦巻き、僕らへとぶつけられている。


 アービタニアさんは、


「ベルエラ! 貴様もそう思うだろう!?」


 そう、もう1人の3大長老と思われるエルフの男の人に問いかけた。


 ベルエラと呼ばれた彼は、斜めに首を傾け、


「どうだろうね?」


 と、曖昧に答えた。


 それから、僕らのそばの3大長老の1人であるハイエルフさんを見て、


「コロンチュード、それ以外に、本当に他の方法はないのかい?」

「ない」


 聞かれたコロンチュードさんは、即答した。


 彼は頷いた。


「そうか。それは困ったね」


 そんな答え。


 何ともはっきりしないベルエラさんの態度に、アービタニアさんは、苛立った様子だった。


(……なるほど、これが中立派)


 保守派と革新派のどちらにも賛同はしないし、けれど反対もしない。


 3大長老の1人は、そんな立場なのだ。


 そして、ベルエラさんは、


「まぁ、全ては女王ティターニアリス様が決めること。私はそれに従うよ」


 と、静かに告げた。


 アービタニアさんは「ぐっ」と呻く。


 それから、アービタニアさんの僕らを見る瞳の中には、それこそ、殺意さえ滲んでいるように思えた。


(なんで、ここまで……)


 僕らは何もしていない。


 なのに、なぜ、ここまでの害意を向けられなければならないのか、わからなかった。


 ただイルティミナさん、キルトさん、ソルティスの3人は動じない。


 表情も硬く動かない。


 彼女たちは知っているのだ。


 このような理不尽を何度も経験させられ、自分たちが何を訴えても聞いてはもらえないことを。


 ただ、耐えるしかないことを。


 …………。


 ギュッ


 思わず、拳を握り締めてしまう。


 すると、


「控えなさい、アービタニア」


 静謐なエルフの女王の声が、謁見の間に響いた。


 ビクッ


 アービタニアさんは身を震わせる。


 それから「ははっ」と言いながら、頭を下げた。


 僕は驚いた。


 そして、エルフの女王様は、そんな僕らを見つめて、


「どうかお許しを」


 そう謝罪を口にしたんだ。


 思わず見つめ返す僕らに、女王様は悲しみの光が宿った瞳を向けている。


「そして、どうかご理解ください。400年前の出来事は、人間にとっては遥かな過去。しかし、我らエルフにとっては、ついこの間の悲劇なのです」


 ……あ。


「悪魔たちによって、私たちは愛する人を、家族を失いました。その傷はいまだ癒えておりません。そして、その悪魔に対する恐怖は、今も私たちの心を捕えているのです」

「…………」


 僕は、周囲を見た。


 そこにいるエルフさんたちの瞳には、強い憎悪があった。


 それは、今まで見てきた差別の中でも、最も苛烈な光に思えた。


(……そうか)


 僕は、ようやく気づいた。


 エルフの差別は、人間の差別とは違うことを。


 人間の差別は、神魔戦争の時代に生まれてもいなかった人々の行う差別だった。


 けれど、エルフの差別は、その時代に生き、その時代に傷つけられた人々が、その心の苦しみの果てに行う差別だったんだ。


 その意味は、天と地ほどに違う。


 アービタニアさんは、まるでその視線で殺そうというかのように、僕らを睨みつけていた。


 その心の声が聞こえてくる気がした。


『忘れるものか……っ』


『自分たちの大切な人へと、悪魔の行った所業の数々を……』


『あれは、この世にあってはならないものだ』


『そんな悪魔の血を宿した存在など、もはや人ではない。それは悪魔の罪の具現そのものだ!』


『そのような存在は、全て、この世から根絶やしにしなければならないのだ!』


 その憎悪が、僕の心を焼く。


(っっ)


 アービタニアさんも、他のエルフさんたちも、神魔戦争で大切な人が殺されてしまったんだ。


 その神魔戦争を起こしたのは、人間だ。


 そして、彼らの大切な人たちを殺したのは、悪魔だった。


 なぜ、エルフの国が鎖国をしているのか、僕ら『人間』や『魔血の民』に対して、強い敵意を抱いているのか、それがわかった気がした。


 …………。


 もはや、理屈ではないのだろう。


(でも……)


 それでも僕は、人の負うべき罪は、その人自身の生きた結果にあって欲しいと思う。


 だからエルフの差別は間違っていると、僕は思った。


「…………」


 その意思を込めて、僕は、エルフの女王様を見つめた。


 それを受け、彼女は悲しげに、


「それは『神の正しさ』であって、『人の正しさ』ではありません」


 と言った。


(……え?)


「人は世界のためではなく、自らのため、そして自らの愛する人のためだけに生きています。極論を言えば、それ以外の人々を、心から切り捨てられるのです。例え間違っていようと、それが『人』という弱き生き物なのですよ」


 深く、重い声の響き。


 その言葉は、1万年を生きたハイエルフの見つけた真実なのかもしれない。


 それに僕は、何も言えなかった。


 そんなことはない、と言いたかったけれど、そこにエルフたちの憎悪を静められるだけの説得力は見つけられなかったから。


 …………。


 悔しさに、唇を噛み締める。


 そんな僕のことを、エルフの女王様は悲しげに微笑み、見つめていた。


 やがて、その瞳を伏せる。


 再び開かれた蒼い瞳は、静謐な女王としての威厳を取り戻していた。


 そして、言う。


「『邪精』の討滅について、コロンチュードに一任しましょう。ただし『神霊石』の譲渡については、その結果によって検討します」

「ははっ」


 コロンチュードさんは、深く頭を下げた。


 アービタニアさんが「ちっ」と舌打ちする。


 ベルエラさんや他のエルフさんたちは、女王の命に対して、忠実に頭を下げていた。


 そしてコロンチュードさんは、


「この者たちは、とても優れた『魔狩人』です。彼女たちの力ならば、必ずや『邪精』たちを討滅してくれることでしょう」


 そう言って、また頭を下げた。


 僕ら5人も、コロンチュードさんに倣って、頭を下げる。


 エルフの女王ティータニアリス様は、頷いた。


「あとのことは、よしなに」


 そう告げて、そのまま瞳を伏せる。


 まるで眠ってしまったような表情だった。


 すると、彼女を包み込むように桃色の花弁たちが動いて、最初に見た時と同じ蕾の状態に戻ってしまった。


 彼女が消えると、謁見の間から、まるで光が消えたような錯覚がした。


 そうして、お互いの価値観をぶつけ合った、僕らとエルフの女王様との謁見は終わったんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、3日後の月曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ 謁見の時は流石のコロンチュードも普通に話すのですね! ……やれば出来るじゃないですか(笑) [気になる点] 『謁見の間』の中央の池に浮かぶ2メードぐらいの蕾。 …
[気になる点] あれ? ここでコロンチュードがマールの事を話してたらどうなったんだろう?←
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