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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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299・呼び出し

第299話になります。

よろしくお願いします。

 翌日の午後、キルトさんが僕の稽古のため、イルティミナさんの家へと来てくれた。


 カンッ ゴッ


 青空の下の庭で、僕らは木剣を打ち鳴らせる。


「打ち込みは良いぞ。そのまま、二の手、三の手を意識せい!」

「はい!」


 キルトさんの指導に、大きな声で応える僕。


 最近の指導では、先の展開を意識した剣を教えられていた。


 例えば、僕が剣を打ち込む。


 キルトさんは、それを避ける。


 どちらに避けるのか、僕は、それを誘導するように剣を振らなければならない。


 そして、避けた先にどのような剣を放つのか?


(そこまで考えないといけないんだ)


 キルトさんほどになると、戦いながら十数手先まで考えて剣を振ることもあるというから驚きだ。


 剣の世界は、本当に奥が深い。


 そんな風に僕が汗を流す一方で、同じ庭にあるテラスの椅子には、ソルティスと、キルトさんと一緒にやって来たポーちゃんも座っていた。


「ふ~ん? なるほどねぇ」


 ペラ ペラ


 眼鏡少女の手は、分厚い本のページをめくっていた。


 本の背表紙には、『魔導学理論・その5』の文字――昨日、僕がプレゼントした本だった。


 ……早速読んでもらえて、ちょっと嬉しい。


 少女の耳には、『押し花の栞』も挟まっている。


「…………」


 それをプレゼントしたポーちゃんは、ソルティスの隣に座っている。


 幼女の幼い手は、羽根の団扇を持っていた。


 それをパタリ、パタリ……と左右に揺らして、日差しの中で読む少女へと、爽やかな風を送ってあげている。


 …………。


(う、う~ん?)


 義母の影響か、あるいは生来の気質なのか、どうもこの幼女はソルティスのお世話を焼くのが好きみたいだ。


(……でも、ちょっと焼き過ぎじゃない?)


 剣戟の合間に、そんなことを思ってしまう僕である。


「雑念が多いぞ!」


 ガツン


(ぐへっ!?)


 気づいたら、キルトさんの1撃を食らってしまった……。


 と、そんな情けない姿を晒した時、


「ふふっ……2人とも精が出ますね。ですが、そろそろ休憩にしませんか?」


 家の中から、そう微笑むイルティミナさんが姿を現した。


 その手には、果実水のグラスが5つ、並んだお盆がある。


「わぁっ♪ ありがと、イルナ姉」


 ソルティスは喜色を浮かべ、耳にあった『押し花の栞』を本に挟んで、パタンと閉じる。


 ペコッ


 ポーちゃんは軽く頭を下げて、2つのグラスを受け取った。


 片方を、眼鏡少女へ渡す。


 キルトさんも、構えていた木剣を下へと降ろした。


「ふむ、そうするか」

「うん」


 痛む脳天を押さえながら、僕は頷いた。


 そうして僕らは稽古を中断して、しばらく休憩することにした。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「ふむ? エルフの鍛冶師か」


 休憩中、僕は、キルトさんにベナス防具店で聞いた話を伝えた。


 ゴクッ


 グラスの果実水を一口、飲むキルトさん。


 少し考えながら、


「……いや、わらわも知らぬな。そのような者の話は、聞いたこともない」


 と答えた。


(そっか)


 僕は、ちょっと落胆だ。


 キルトさんも知らないとなると、本当に珍しいんだろうね。


「力になれなくて、すまんな」

「ううん」


 謝るキルトさんに、僕は笑って首を振った。


 別にキルトさんが悪いわけじゃないんだし、そんな謝ったり、気にして欲しいわけじゃないんだよ。


(でも、どうしよう?)


 エルフの鍛冶師さんを探す方法に困ってしまった。


 ゴク ゴク


 悩みながら、僕もグラスを傾け、果実水を飲む。


 すると、キルトさんが、


「エルフに関してであれば、わらわより、『冒険者ギルド・草原の歌う耳』で聞いた方が良いかもしれぬぞ」


 と教えてくれた。


(え……?)


 キョトンと見返す僕に、


「あそこは、所属冒険者の7~8割がエルフじゃからの」


 とキルトさん。


 な、なんだって~!?


(そんなところに、まさかエルフ・ギルドが存在していたとは……)


 エルフいっぱいの冒険者ギルド……僕も所属したい……。


 キルトさんは笑って、


「もし行くのであれば、わらわも同行して口を聞いてやるぞ」


 と約束してくれた。


「うん、ぜひぜひ!」


 コクコクッ


 僕は、何度も大きく頷いた。


 そんな僕の反応に、イルティミナさんは苦笑している。


「よかったですね、マール」

「うん!」


 頷く僕は、満面の笑みだ。


 ソルティスは呆れ顔である。


 ポーちゃんは、その横で、我関せずにグラスを傾けていた。


 ちなみに『草原の歌う耳』は、そのポーちゃんとコロンチュードさんが所属してる冒険者ギルドでもあるんだ。


(行くのが楽しみだなぁ)


 ワクワクしながら、僕は、いつ一緒に行ってもらえるのか、キルトさんに訊ねようと思った。


 その時、


 カランカラン


 家の玄関の方から、来客を知らせるベルが鳴った。


(おや?)


 みんなで一瞬、顔を見合わせる。


 すぐに家主であるイルティミナさんが「はい。今、行きます」と声を出しながら、立ち上がった。


 そのまま、家の中へと消えていく。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 なんとなく誰も喋らないまま、果実水を飲んで、彼女の戻りを待つ。


 1分ほどして、彼女は戻ってきた。


「おかえりなさい」と声をかけようとして、僕は、イルティミナさんの表情に気づく。


 そこにあるのは、かすかな緊張感。


「キルト」


 その美貌が口を開いた。


「む?」

「ギルドからの迎えが来ました。ムンパ様からの至急の呼び出しです」

「なんじゃと」


 キルトさんも驚いた顔をする。


 それから僕ら5人は、すぐに外出の支度を整えた。


 家の前には、馬車が停まっていた。


 それに乗り込み、座席に座ると、すぐに馬車は出発する。


(いったい何があったんだろう?)


 揺れる車内。


 窓から見える王都ムーリアを眺めながら、僕は、小さな不安を覚えていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 ギルドに到着した僕らは、すぐにギルド長室に案内された。


「みんな、よく来てくれたわね」


 真っ白な獣人ムンパ・ヴィーナさん――彼女は、両手を広げて僕らを迎えてくれる。


(おや?)


 そんな僕らのギルド長の隣に、見知らぬ男の人がいた。


 エルフだ!


 金髪に蒼い瞳のエルフさん。


 年齢は、20代後半から30代前半ぐらいかな? でも、エルフさんなので本当の年齢はわからない。


 男の人だけど、とても端正な美貌のエルフさんだった。


 興奮する僕。


(でも……誰だろう?)


 頭の中の冷静な部分が、そう問いかける。


 と、キルトさんが「ほう」と呟いた。


「これは珍しい客人じゃな」

「はい。お久しぶりですね、キルト・アマンデス」


 エルフさんは、落ち着いた声で応える。


(キルトさんと顔見知り……?)


 そう思っていると、そのエルフさんは、こちらにいる金髪幼女の方を見て、


「貴方も元気そうですね、ポー」

「…………(コクッ)」


 頷くポーちゃん。


(え……?)


 どうやら、ポーちゃんとも知り合いみたいだ。


 その事実に、イルティミナさんとソルティスも意外そうな顔をしている。どうやら2人は、このエルフさんと面識はないらしい。


 そんな僕ら3人に気づいて、ムンパさんが微笑んだ。


 その白い手がエルフさんを示して、


「こちらは『冒険者ギルド・草原の歌う耳』のギルド長フォルス・ピートさんよ」


 と紹介してくれた。


(……って、『草原の歌う耳』のギルド長さん!?)


 さっき話していたばかりだったので、余計に驚いてしまった。


 そんな僕らに、


「初めまして。皆さんのことは、コロンからよく聞いていました。よろしくお願いしますね」


 フォルスさんは、穏やかに微笑む。


 凄く綺麗な笑顔。


 男の人なのに、ちょっとドキドキしてしまったよ。


 僕ら3人も、それぞれに自己紹介をする。


 それから改めて、ギルド長室内にある応接用のソファーへと腰を下ろした。


 秘書さんが、飲み物をテーブルに置いて去っていく。


 …………。


 それを見送ってから、キルトさんが口を開いた。


「それで、ムンパ? わらわたちを呼び出した用件は何じゃ?」


 ムンパさんは答えず、フォルスさんを見た。


 フォルスさんは頷いて、


「それは、こちらから伝えさせてください」


 と、僕らに言った。


 みんなの視線が、その美しいエルフさんに集まる。


 彼は、静かに息を吐き、


「実は、現在『エルフの国』へと赴いているコロンから、今日、連絡があったのです」


 と告げた。


(コロンチュードさんから!?)


 僕らはみんな、驚いた。


 キルトさんは問う。


「どのような連絡じゃ?」

「…………」


 フォルスさんは答えなかった。


 代わりに、


「その質問に答える前に、まずはこちらを見てくださいますか?」


 そう口にする。


 そして彼は、テーブルの上へと奇妙な物体を置いた。


 ゴトン


 それは30センチほどの丸いフラスコのようだった。


 フラスコの口元は、金属製の機械のような物と接続されていて、フラスコの底には魔法陣が描かれていた。


 フラスコ内部には、真っ白な小鳥がいる。


 体長は5センチぐらいだ。


 でも、尾羽が長くて、とても綺麗な小鳥だった。


(…………)


 その小鳥に、僕は奇妙な感覚を覚えた。


「この鳥がどうした?」


 キルトさんが問いかける。


 僕以外の4人は、気づいていないみたいで、ただ怪訝そうな様子だった。


 なので、僕は言う。


「この小鳥は、精霊ですか?」


 って。


 フォルスさんは驚いた顔をする。


 みんなも「え?」って顔だ。


「マール君、よくわかったわね?」


 ムンパさんは、よくできた生徒を誉める先生みたいな顔だった。


(やっぱり……)


 なんとなく、『白銀の手甲』にいる『精霊さん』と似たような雰囲気を感じたんだ。


 フォルスさんは、僕の顔を見つめる。


 そして、


「なるほど……これがコロンの話していた、聖なる子供ですか。……確かに、良い『心の眼』を持っていらっしゃる」


 と感心したように呟いた。


 それから頷いて、


「その通り、これは『風の精霊』の1種です」


 と教えてくれた。


 僕は、フォルスさんを見る。


「もしかして、この風の精霊さんが、『コロンチュードさんの連絡』なんですか?」

「はい」


 彼は頷いた。


「これは、コロンが『エルフの国』から放った精霊なのです。精霊は、精霊界を通して、この世界へと姿を現します。そして、その精霊界は、こちらの世界と時間の流れる速さが違っているため、遥か遠い地からでも瞬時の連絡が可能になるのですよ」


 へぇ……。


(それは便利だね)


 本来、『エルフの国』は遠く海をまたいで離れていて、翼竜便を使っても、連絡には1ヶ月以上かかってしまう。でも、それが精霊さん経由だと、一瞬になるんだ。


 感心する僕らに、


「とはいえ、そのためには、このコロンの作成した『精霊界』と『人界』の座標を重ねる『精霊の魔道具』が必要なのですけどね」


 と、フォルスさんは付け加えた。


(ふ~ん?)


 つまり、コロンチュードさんだけが使える連絡方法ってことかな。


 ソルティスなんかは、「さすが、コロンチュード様!」と感動したように目を潤ませて、両手を合わせながら、この丸いフラスコのような魔道具を見つめている。


 やがて、キルトさんは魔道具から視線を外して、


「して? コロンの連絡の内容は?」


 と、フォルスさんに問いかけた。


 フォルスさんは、青い瞳を伏せる。


「それは直接、皆さんに聞いてもらった方が良いでしょう」

「何?」


 驚く僕らの前で、フォルスさんはフラスコに蓋をしている機械を操作し、それを取り外した。


 カチャ カチャン


 金属の蓋が外れる。


 すると、フラスコの中にいた小鳥が嘴を開いて、その喉を震わせた。


『キルキル……マール……』


 あ。


(コロンチュードさんの声だ!)


 まるで録音していた音声が再生されるように、『風の精霊』さんが、記憶している彼女の声を伝えているみたいだった。


 でも、なんだか音質が悪い。


 フラスコの中で、小鳥は嘴を開閉する。


『お願い……助けて』


 …………。


 え……?


 その短い言葉の意味が浸透して、僕は硬直してしまった。


 助けて――彼女は、そう言った。


 小鳥は、それ以上、何も口にしない。


 何も伝えてこない。


 その場の空気は、凍りついていた。


 みんな、恐ろしいものを見たように、フラスコの中にいる『風の精霊』を凝視している。


 やがて、キルトさんが口を開いた。


「これだけか?」


 鉄のような声だ。


「コロンから伝えられたのは、これだけなのか?」

「はい」


 フォルスさんは、真っ直ぐに彼女を見返して、頷いた。


 …………。


『キルキル……マール……お願い……助けて』


 これだけ。


 キルトさんと僕の名前を呼んで、そして、助けを懇願する――それが、コロンチュードさんの連絡の中身。


 ソルティスが戸惑ったように、皆の顔を見た。


 それから、ハッとしたように、隣にいる金髪の幼女を振り返る。


「…………」


 ポーちゃんは、変わらぬ無表情だった。


 でも、ソファーに置かれた小さな手は、ギュッと固く握り締められている。


「……ポー」


 ソルティスは泣きそうな顔で、その手を握ってやった。


 ムンパさんも痛ましげな顔をしている。


 フォルスさんが、落ち着いた声で僕らに言う。


「聞いての通りです。コロンチュード・レスタは、貴方たちに助けを求めました。私は、彼女の所属する冒険者ギルドの長として、また友人として、『コロンの救助』を皆さんに依頼しに来たのです」


 落ち着いた声の裏に、強い感情が滲んでいる。


 それが伝わる。


 反射的に、僕は答えた。


「もちろん受けます!」


 断る理由なんて、1つもなかった。


 リーダーであるキルトさんよりも先に答えてしまったけど、でも、キルトさんも同じ答えを口にすると思えた。


 僕は、キルトさんを見る。


 イルティミナさん、ソルティス、ポーちゃん、ムンパさん、フォルスさんも、彼女を見た。


 キルトさんは頷いた。


「引き受けよう」


 はっきりと口にする。


(さすがはキルトさんだ!) 


 僕らの表情にも、希望の光が差す。


 けど、彼女は冷静だった。


「しかし、助けが間に合うかはわからぬぞ」


 え……?


「『エルフの国』は遠い。わらわたちが辿り着くまで、最低でも3ヶ月はかかるであろう。それまで、コロンが生きている保証はできぬ」


 あ……。


(そうか。そうだった……)


 精霊は一瞬で来れても、僕らはそうはいかないんだ。


「そんな……」


 ソルティスが絶望的な表情で、口元を押さえている。


 イルティミナさんも唇を引き結んでいた。


 距離と時間。


 僕らの前には、その2つの難敵が立ちはだかっていた。


 と、


「それは大丈夫です」


 フォルスさんは、突然、そう言った。


(え?)


『冒険者ギルド・草原の歌う耳』のギルド長は、僕らを見回しながら、


「シュムリア王国より旅立つ前に、コロンは、2つの準備をしていきました。この『精霊の魔道具』が、その1つ。そして、もう1つ、このような状況の時のための準備を、彼女は用意していたのです」


 と、口にしたんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の水曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 助けて、とのメッセージも、たまたま暗黒大陸から戻って来てたから良かったものの、移動にめっちゃ時間のかかるこの世界では、戻ってない可能性の方が高かったと思うわけで。これも運命なのかなぁ。 ま…
[良い点] 暗黒大陸帰還まで読み区切りが良いので一旦感想。 おもしろい。自分は結構飽きっぽいので長編作品は途中離脱も多いんですけど、常に続きが気になるストーリー展開で楽しめています。 [気になる点] …
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ 『冒険者ギルド・草原の歌う耳』。 マールがギルドの移籍を望んでもおかしくない楽園ですね(笑) フォルス相手に、胸の鼓動の高鳴りを覚える位にエルフ好きなマールです…
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