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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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番外編・転生マールの冒険記38

番外編・転生マールの冒険記38になります。

よろしくお願いします。

 …………。


 …………。


 …………。


 気がついたら、僕は、真っ暗な水中にいた。


 音もなく、匂いもなく、光もない深海のような黒い世界を、ゆっくりと下に沈んでいく。


(……でも、怖くない)


 そこにあるのは平穏だった。


 ただ静かに、僕は暗い水の中を沈み続ける。


 …………。


 …………。


 …………。


 どれだけの時間が流れたのだろう?


 ふと、沈んでいく先から、白い泡のようなものが浮かんできた。


(?)


 それが、僕の横を通り過ぎる。


 泡を見た。


 そこには、1人の女性が映っていた。


 日に焼けた肌。


 赤い模様。


 編み込まれていた白い髪は、一部が解けて、肩にこぼれている。


 手には、血まみれの剣が握られている。


 そして、その凛々しい美貌は、アメルダス陛下のものだった。 


 彼女は1人、デメルタス山脈の岩場にいた。


 驚いたように、山頂の方を見ている。


 その空には、赤い魔法の光が煌々と輝いて、陛下の美貌を照らしていた。


 その口が動く。


 音は聞こえなかったけれど、それは『マール?』と動いたみたいだった。


 それから彼女は、怒ったような表情になる。


 そして、全身の赤い模様を輝かせながら、『黒い水』の流れる山頂に向かって、突然に走りだした。


 そんな映像を映した泡は、そのまま上方にいってしまった。


(…………)


 今のは、なんだったんだろう?


 不思議に思った僕は、けれど、そのまま暗い水の中へと沈んでいった。


 …………。


 …………。


 …………。


 しばらくすると、また白い泡が、水底から浮かんできた。


 近づいてきた泡を覗く。


(あ……)


 そこに映っていたのは、キルトさんだった。


 銀髪をなびかせて、手にした『雷の大剣』を振り下ろし、目の前の『黒大猿』をまた1体、倒している。


 それはデメルタス山脈中腹の森だった。


 彼女の後ろには、ソルティスがいる。


 魔力を消耗しているのか、呼吸を乱していて、大杖をつきながら歩いていた。


 その後ろには、トルキアだ。


 トルーガ人の少女も、ソルティスと同じように疲れているみたいだった。


 その背中を、金髪の幼女ポーちゃんが押していた。


 一緒にいたはずの冒険者団は、どこにも姿が見えず、そこには彼女たち4人だけになっていた。


 森のあちこちに、トルーガ戦士と『黒大猿』の死体が転がっている。


 移動しながら、4人が何かを話していた。


 やっぱり声は聞こえない。


 その時、彼女たちの顔が、赤い光に照らされた。


 4人とも、驚いたように顔をあげる。


 彼女たちの視線の先には、デメルタス山脈山頂の上空で、赤い魔法の光が輝いている光景があった。


 ソルティスが呟いた。


 声は聞こえないけれど、『まさか……マール?』と少女の唇は動いていた。


 キルトさんが緊迫した表情になった。


『行くぞ!』


 そう叫んだのがわかる。


 そして彼女たち4人は、『近づくな』という危険の合図の輝く赤い山頂へと、迷うことなく走りだしていた。


 その光景を映した泡も、上へと通り抜けた。


(…………)


 懐かしいな。


 4人の姿に、僕はそんな風に思った。


 そして、なぜだか、少しだけ悲しかった。


 まるで、彼女たちとはもう二度と会えなくなってしまうような、そんな感覚があったから。


 そのまま僕は、またゆっくりと、暗い暗い水の中を沈んでいく。


 …………。


 …………。


 …………。


 あれから、どれだけ経ったのか?


 僕は、自分の意識が少しずつ、この黒い水の中に流れ出しているような気がしていた。


 少しずつ、でも、確実に。


 やがて、僕はこの黒い水と同化してしまうのだろう。


 そして、僕は消えてしまうんだ。


 そんな感覚があった。


 でも、それを怖いと思うことはなかった。


 ただ、寂しい……そんな風に感じていた。


 そんな時、突然、僕の背後が明るくなり、白い光が差し込んできた。


(?)


 それは、水底の反対側。


 僕が沈みゆくのとは反対の、暗い水の水面方向からの光だった。


(……眩しい)


 僕は、青い瞳を細める。


 そして、この小さな身体は、まるでその光に引っ張られるかのように、急速に浮上を始めていた。


 黒い水をかき分け、上へ、上へ。


 気がついたら、水面が見えた。


 揺らめく水の境界から先は、とても明るく、光に満ちた世界があるみたいだ。 


 そのまま上へと引っ張られる。


 そして僕は、ついに闇色の水面から、輝く『向こう側』へと顔を出した――。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 最初に感じたのは、何かの焦げるような臭いだった。


 それから、騒音。


 そして、身体を揺らす振動だった。


(……う、あ?)


 意識が覚醒して、僕は、それらを確かめようと、重いまぶたを持ちあげた。


 目の前に、銀色の輝きがあった。


 それは、キルトさんの綺麗な髪だった。


 僕は、自分がキルトさんに背負われていることを、そこでようやく自覚する。


 周囲は森だった。


 そして、キルトさんは森の中を走っているみたいだった。


「! 目が覚めたか」


 身じろぎした僕に気がついたのか、キルトさんがハッとしたように声をかけてきた。


 それから、安心したように息を吐く。


(ここは……?)


 僕はいったい、どうしたんだろう?


 混乱しながら状況を思い出そうとして、


(あ)


 僕は、デメルタス山脈の山頂で、『黒い手』によって殺されてしまったことを思い出した。


 驚き、そして自分が生きていることに、また驚く。


 見れば、『妖精鉄の鎧』の胸には、大きく穴が開いている。


 その周囲には、血の跡も残っていた。


(……夢じゃない)


 その時、僕は、自分の胸元で揺れている物に気づいた。


 細い紐で首から下げられた、灰色の石――それは、力を失った『命の輝石』だった。


(あぁ、そうか)


 僕は生き返ったんだ。


 そう気づいた僕の耳に、キルトさんの声がする。


「アメルダス陛下に感謝しろ」


 え?


「発光信号弾を見て、そなたの嘘に気づいた陛下が、命懸けで山頂に戻り、そなたの死体を回収してくれたのじゃ。おかげで、そなたは生き返れた」


 ……そうだったんだ。


 確かに放置されていたら、僕の全身は『黒い水』に溶かされて、生き返れなかったかもしれない。


 そう考えていたら、


「礼などいらん」


 そのアメルダス陛下の声が聞こえた。


 見れば、キルトさんのそばを、トルーガ帝国の女帝陛下は並走なさっていたんだ。


 いや、陛下だけじゃない。


 ソルティス、トルキア、ポーちゃんの3人も一緒だ。


 陛下は言う。


「わたくしが辿り着いた時、周囲はほぼ『黒い水』に満たされていた。しかし、マールの周囲だけは無事だった」

「…………」

「恐らく『輝きの石』の光が、お前を守ったのだ」


 そう言いながら、陛下は手にしていた光る石――『神霊石』を僕へと見せた。


(……そっか)


 それは『黒い水』を封じていた石だ。


 その石を僕が所持していたから、アメルダス陛下が戻ってくるまで、僕の死体は無事だったんだ。


(……運がよかったんだね)


 つくづく、そう思った。


 物思いにふける僕に、ソルティスが唇を尖らせる。


「ふんっ。勝手に死んでんじゃないわよ、この馬鹿マール!」

「…………」


 どうやら、この少女にも、たくさん心配かけてしまったみたいだ。


 僕は苦笑する。


 それから、ここにいるみんなに言った。


「ごめんなさい。それと、助けてくれてありがとう」


 それに、みんなは笑った。


 キルトさんは、


「今、そなたが無事、生きているならば、それで良い」


 と言ってくれた。


 陛下とポーちゃんは頷き、トルキアは涙ぐんでいる。


 ソルティスだけは、そっぽを向いていた。


 そして、そんな会話をしている間も、みんなは森の中を走る足を止めなかった。


(あ、そうだ)


 思い出した僕は、


「あの『悪魔の欠片』は?」


 慌てて、そうみんなに訊ねた。


 誰も答えなかった。


 そして、キルトさんが言った。


「後ろを見ろ」


(後ろ?)


 戸惑いながら、背負われたまま首だけを捻って、背後を振り返る。


 そして見た。


 空はいつの間にか、夕焼けに染まっていた。


 そこにはデメルタス山脈の山頂も見えていて、その山頂から、無数の『黒い手』が赤い空に向かって伸びていた。


 そして、山頂から中腹までの森が、なぜか燃えている。


 一瞬、呆けてしまった。


(なんだ、これ!?)


 唖然となる僕に、キルトさんは教えてくれた。


「森の火は、あの『黒い水』の侵攻を阻止するため、わらわたちがつけた」


 え?


「あの『黒い水』には、剣も魔法も通用せん。わらわたちには為す術がなく、そなたの身体を回収するのが精一杯であった」

「…………」

「そして、そのあとはただ必死に山を下っている、というのが現状じゃ」


 それは、淡々とした説明だった。


 でも、だからこそ、現状の厳しさが伝わってきた。


 ――あの『悪魔の欠片』には勝てない。


 現状は、つまり金印の魔狩人キルト・アマンデスがそう判断したということだ。 


(…………)


 僕は、もう一度、背後を見る。


 赤い空を背景に、『黒い手』たちがまるで獲物を探すように天へと放射状に広がっている。


 まるで黒い花だ。


 それは、『トルーガ』の大地に400年ぶりに咲いた『黒死の花』だった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※番外編・転生マールの冒険記は、終了まで毎日更新の予定です。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ 信号弾を見たアメルダス陛下が我が身を省みず必死に向かえに来てくれたから、マールは皆と合流出来たのだからアメルダス陛下に感謝ですね! ……しかしそう云えば、アメル…
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