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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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番外編・転生マールの冒険記34

番外編・転生マールの冒険記34になります。

よろしくお願いします。

「はぁ、はぁ、はぁ」


 僕は、森の中を必死に走った。


 目指すのは山頂だ。


 息を乱し、全身に傷を負いながらも、ただ前だけを見続ける。


 周囲からは、戦闘音が続いている。


 剣戟の音、怒号、悲鳴、魔物の叫び声、様々なものが聞こえてくる。


(急げ、急げ!)


 走る先には、『黒大猿』やトルーガ戦士たちの死体が転がっていたりもする。


 その死が充満した戦場の中で、僕は、懸命に足を動かし続けた。


 走っている間にも、『黒大猿』とは何回も遭遇した。


 そのたびに、僕はまともに戦わず、ただ手傷を負わせて怯んだ隙に横を駆け抜けて、ひたすらに先を目指したんだ。


 けど、


『ホギャア!』

『ギイッ!』


 そんな僕の後ろから、何体かの『黒大猿』が追ってきていた。


 ヒュボッ バコォン


 僕の顔のすぐ横を抜けて、魔物の投げた石が木の幹をへし折った。


(っっ)


 少しでもずれていれば、後頭部を直撃していただろう。


 死の恐怖。


 それを必死に抑え込んで、僕は振り返らずに山頂を目指す。


 ――少しでも早く『猿王ムジャルナ』を倒す。


 それが、この『人と魔物の戦争』を終わらせ、多くの命を救うための唯一の方法だったから。


 そんな時だった。


『ギャオオ!』


「!」


 前方の木々の間から、10体ほどの『黒大猿』の群れが姿を現したんだ。


(まずい!)


 進路を変えようと思った。


 でも、その前に『黒大猿』たちは、1人で走り続ける人間の子供を発見してしまっていた。


 人面の顔が、残忍な笑みに歪む。


 そして、奴らは僕めがけて、一斉に襲いかかってきた。


(ここまでなの!?)


 僕は、自分の死を覚悟した。


 同時に、


 ジ、ジジ、ジガァアアアッ


 僕の左腕の『白銀の手甲』が輝いて、そこから美しい『白銀の精霊獣』が飛び出した。


『!?』


 狼の姿をした『白銀の精霊獣』は、群れの先頭にいた『黒大猿』の驚く首に噛みつき、その脛骨をへし折る。


 突然の乱入者に、後続の『黒大猿』たちはたたらを踏んだ。


 ジガァア


 そんな魔物たちめがけて、『白銀の狼』は、咥えていた魔物の死体を投げつける。


 何体か吹き飛ばされ、何体かは慌てて避けた。


 瞬間、『白銀の狼』は、僕の身体を咥えると、素晴らしい速さでその開けた空間を走り抜けた。


 魔物たちの姿は、一瞬で後方へと消えていく。


 森の景色が、恐ろしい速さで流れていく。


「精霊さん……」


 僕は、その鉱石のような硬い鼻先に触れた。


 ジ、ジジッ


 精霊さんは、その紅い瞳を優しく細め、『大丈夫だ』という意思を伝えてくれる。


(……うん)


 僕も笑った。


 そうして『白銀の精霊獣』と僕は、デメルタス山脈の山頂を目指して、死の戦場を駆け抜けていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇ 



 30分ほどが経過しただろうか?


 周囲の景色は、木々の生い茂った森から、岩石だらけの岩場へと変わっていた。


 5~10メードぐらいの奇石が、たくさん転がっている。


 ここは、8合目付近か。


 デメルタス山脈の山頂は、もう目と鼻の先だった。


 ジ、ジジガ……ッ


 その時、僕をここまで運んでくれていた精霊さんが、足をもつれさせるようにして倒れた。


(わっ?)


 僕の身体は、地面に投げ出される。


 すぐに跳ね起きて、


「精霊さん!」


 慌てて、その美しい精霊さんの下へと駆け寄った。


 ……精霊さんは、ボロボロだった。


 ここに至るまでの道中、『黒大猿』に何度も遭遇したんだ。


『白銀の精霊獣』の美しい鉱石の肉体は、奴らの投石や攻撃によって、あちこちが欠け、ひび割れを起こしていた。


 3本ある尾は1本が砕け、右の前足もなくなっている。


 それでも、精霊さんは僕を守りながら、必死にここまでを走り抜けてくれたんだ。


「精霊さん……」


 僕は、その身体を撫でる。


 精霊さんは、心地好さそうに瞳を閉じた。


 ジ、ジジ……ッ


 その姿が光を放つと、『白銀の手甲』の魔法石の中に吸い込まれるように消えていく。


 それを見届けて、


「ありがとう」


 僕は、心からの感謝を口にした。


 あれだけの消耗をした以上、もうしばらくは精霊さんは姿を現せないだろう。


(ここからは、本当に僕1人だ) 


 その事実を噛み締める。


 最後の『白銀の手甲』を労わるように撫でてから、僕は立ち上がった。


 顔をあげる。


 そこには、青い空を背景に、岩だらけのデメルタス山脈の山頂が見えていた。


 僕の青い瞳は、しばらく、そこを見つめた。


「もう少しだ」


 自分に言い聞かせるように呟いて、そして僕は、山頂方向へと歩きだした。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 この岩石地帯には、僕が一番乗りだったのか、他の人たちの姿はなかった。


 視線を下方に向ける。


 岩場の向こうの森からは、まだ大勢の戦士と魔物の戦っている音が聞こえていた。


(…………)


 全ての『黒大猿』は、トルーガ戦士を迎え撃つために、皆、森に集まっているのかな?


 周囲には、魔物の気配もない。


 不気味なほどの静けさ。


 もしかしたら僕は、知らない内に死んでいて、死後の世界に迷い込んでいるんじゃないか……そんな錯覚さえしそうなほどだった。


 いや、まさかね。


 身体のあちこちに、痛みがある。


 触れれば、傷口から流れる血は熱く、僕の指を赤く染めている。


 生きていればこその痛みだ。


「うん」


 僕は、血に濡れた指を握り締める。


 山頂はもうすぐ。


『猿王ムジャルナ』のいる場所は、すぐそこなんだ。


(気を引き締めないと)


 そう自分に言い聞かせ、覚悟を改めた。


 その時だった。


 前方の大きな岩の向こうから、『何か』の気配がした。


「!」


 僕は『妖精の剣』を構えた。


 …………。


 気配は動かない。


 僕は意を決して、死角となっている大岩の向こう側へと一気に踏み込んだ。


(!?)


 そこにいたのは、僕へと手にした剣を振り下ろそうとしている女帝アメルダス陛下の御姿だった。


 僕を見た陛下も、驚いた顔をして剣を止める。


「マールか?」

「は、はい」


 僕は慌てて、剣を背中に隠した。


 びっくりした。


 アメルダス陛下も同じ心境だったみたいだ。


「まさか、お前がここまで辿り着いているとはな。さすが『シュムリアの英雄候補』ということか」

「…………」


 そう語る陛下の足元には、1体の角の生えた灰色狼が倒れていた。


 生きているけれど、虫の息だ。


 腹部が裂かれていて、大量の血が足元の岩場に広がっている。


 僕の視線に気づいたアメルダス陛下は、


「わたくしを『猿王』の下へ送り届けるため、護衛の戦士たちが血路を開き、この『戦獣』がここまでわたくしを運んでくれたのだ」


 そう教えてくれた。


(……僕と同じだったんだ?)


 アメルダス陛下は、傷ついた『戦獣』を見つめる。


 そして、


「ここまでご苦労だった。その苦しみから、今、解放してやる」


 ザシュッ


 もはや助けられぬ『戦獣』の首を剣で裂き、殺した。


(!)


 心が締めつけられる。


 けれど、アメルダス陛下の瞳にある悲しみと、覚悟の光を見つけては、何も言えなかった。


 よくよく見れば、陛下の全身には、結構な傷があった。


 特に左腕だ。


 裂傷が酷く、その左腕は動かすことも辛そうだった。


(あ、そうだ)


 僕は慌てて、『妖精の剣』の剣先でタナトス魔法文字を、空中に描いた。


 腕輪の魔法石が輝く。


 僕は「陛下、失礼します」と、一声かけてから、彼女の左腕に触れた。


「痛みを消し去れ。――ヒーリオ!」


 ポワッ


 緑色の回復光が、傷口を包み込む。


 傷口は、少しだけ塞がった。


「……ほう?」


 アメルダス陛下は感心したように声を漏らす。


 完全には治せないけれど、これで少しは楽になったはずだ。


(あとは、軟膏と包帯で……)


 僕はリュックの中から医薬品を取り出して、可能な範囲での手当てを行った。


 これでよし……っと。


「ふぅ」


 僕は息を吐き、額の汗を腕で拭きとる。


 アメルダス陛下は、確かめるように左腕を動かしてみる。


(うん、大丈夫そうだ)


 彼女は頷いた。


「助かったぞ、マール」


 そう言ってくれた。


 治療ができたことも、そして、その言葉も嬉しくて、僕はつい笑った。


 陛下の赤い瞳は、そんな僕の顔を見つめる。


 そして、


「マール、お前は何者だ?」


 と言った。


(え?)


「何かはわからぬ。しかし、お前からは他の者とは違う『何か』を感じる」


 思わぬ言葉に、僕は戸惑った。


(もしかして、僕が『神狗』だと気づかれてる?)


 このトルーガ帝国を支配する女帝は、それを本能的に感じ取ったのだろうか?


 …………。


 どう答えようか、返事に困った。


 けれど、そんな僕の顔を見て、


「いや、よい」


 アメルダス陛下は、そう表情を和らげた。


「今は、それを詮索する場合ではないだろう。少なくともお前は、わたくしたちを害する存在には見えぬ」

「…………」

「今は『猿王ムジャルナ』の討伐だ」

「はい」


 僕は、大きく頷いた。


 そんな僕に、女帝アメルダス陛下も満足そうに笑った。


「さぁ、行くぞ」


 そう言って、彼女は剣を片手に歩きだす。


 僕も、すぐに続いた。


 そうして僕とトルーガ帝国の女帝陛下は、山頂への道を、2人で歩み始めた。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※番外編・転生マールの冒険記は、終了まで毎日更新の予定です。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ 『白銀の精霊獣』、久し振りの登場! マールが強くなる度に出番の遠退く憐れな子(泣) …………マールが成長して手甲が身に付けられなくなったらどうするんだろか?(´…
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