番外編・転生マールの冒険記23
番外編・転生マールの冒険記23になります。
よろしくお願いします。
『闘技場』から、5人の神殿騎士が退場する。
場内は、少しだけざわついていた。
それだけ、アーゼさんたちの勝利は、彼らにとって予想外で、その『強さ』は驚きだったんだ。
(ちょっと誇らしいな)
自分が戦ったわけではないのに、嬉しくなってくる。
やがて、アーゼさんが席に戻ってきた。
「見事な勝利だったぞ、アーゼ」
「ようやったの」
ロベルト将軍、キルトさんに続いて、みんなが彼女に労いの言葉をかけた。
僕も、
「お疲れ様でした。アーゼさん、本当に凄かったです」
と本心から伝えた。
彼女は微笑み、
「ありがとうございます、神狗様」
そう嬉しそうに応じてくれた。
そんな僕らを、女帝アメルダス陛下は上の席から眺めていた。
そして、
「見事であった」
凛とした声が降ってくる。
僕ら10人は、その偉大なる女帝陛下を見上げた。
青いアイシャドーに包まれた赤い瞳は、真っ直ぐに僕らを見つめ返して、
「1つ目の試練を、お前たちは突破した。だが、それで終わりではない。これより、2つ目の試練を行うとしよう」
そう告げたんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
誰もいなくなった闘技場内に、また新たな戦士が現れた。
それは、筋骨隆々なトルーガ人の中にあって珍しい、細身の人物だった。
年齢は50代ぐらいかな?
麻のローブをまとい、骨と石を加工した指輪がたくさんはまった手には、魔法石のついた杖を持っていた。
――魔法使い。
そう一目でわかる人物だった。
そして、その魔法使いの男の人の背後には、全長10メードの『金属ゴーレム』が控えていたんだ。
つまり、彼は『ゴーレム使いの戦士』だ。
(…………)
今度は、あの巨大ゴーレムと戦えってこと?
僕は、唖然だ。
前に、王都ムーリアの地下下水道内で、僕は『石のゴーレム』と戦ったことがある。
動きは遅かったけど、力は強く、身体が妙に硬かった印象だ。
そして今、目の前にいるのは、石ではなく、より強度が高い『金属ゴーレム』だった。
しかも、サイズが10メードととんでもない。
まるで『巨大ロボットと生身で戦え』と言われているみたいだった。
「さぁ、お前たちの戦士を選べ」
女帝陛下が促す。
(ど、どうしよう?)
そもそも、あれは剣で抗える相手なのかな? そこから疑問だった。
他の9人を見る。
(……もしかしたら、魔法なら?)
ふと思って、ソルティスを見た。
視線が合う。
「…………」
「…………」
気づいた彼女は、ブルブルと凄まじい勢いで首を横に振った。
『絶対やだ!』
断固たる意思が伝わってくる。
(いやまぁ、そうだよね……)
そもそも、本当に魔法が通じるかわからないんだし。
僕も、ちょっと思っただけだった。
(でも、そうなると、いったい誰が戦ったらいいのかな?)
そう考えていると、
「ここは、俺の番かな」
レイドルさんが気楽そうに言いながら、椅子から立ち上がった。
(お?)
ロベルト将軍が言う。
「頼めるか?」
「もちろん」
彼は穏やかな笑顔で頷く。
僕は、確かめるようにキルトさんの横顔を見る。
キルトさんも、
「任せたぞ、レイドル」
信頼の表情で声をかけていた。
レイドルさんは「あぁ」と笑うと、部下であるアミューケルさんの肩を軽く叩く。
「じゃあ、行ってくる。しっかり見ておけよ」
「うっす」
アミューケルさんは頷いた。
彼はそれにもう一度微笑んで、それから、闘技場へと向かった。
竜騎隊隊長レイドル・クウォッカ。
シュムリア王国最強の竜騎士が、2つ目の試練に挑む僕らの代表となった。
◇◇◇◇◇◇◇
レイドルさんが『闘技場』へと入ってくる。
中央にて相対するのは、巨大な『金属ゴーレム』だ。『ゴーレム使いの男』は、その20メードほど後方に離れている。
…………。
両者の大きさの差がおかしい。
見ていると、小さなレイドルさんは、1撃で吹き飛ばされてしまいそうに思えた。
「大丈夫かな、レイドルさん……」
思わず、呟く。
すると、
「大丈夫っすよ」
後ろの席にいたアミューケルさんが、憮然とした顔で言った。
彼女は、チラッとキルトさんを見て、
「国民の間じゃ、そりゃあ身近なキルト・アマンデスの方が人気っすけどね」
「…………」
「でも、王国騎士の間で『シュムリア最強』と言われれば、間違いなく『レイドル・クウォッカ』なんすよ」
と言う。
(シュムリア最強の騎士……)
確かにシュムリア最強と呼ばれる『竜騎隊』の隊長は、それに相応しい実力がなければなれないと思う。
キルトさん同様、『最強』の名を冠する騎士。
それが、レイドルさん。
「自分は、ずっと間近でその姿を見てきたんすよ。うちの隊長が、あんな鉄屑に負けるわけないっす」
アミューケルさんは、そう断言した。
僕はキルトさんを見る。
「あの男は強いぞ」
キルトさんは、はっきり言った。
そして、
「何より、あの男は1人ではないからの」
と続けた。
(???)
1人ではない?
その言葉の意味を測りかねていると、『闘技場』にいたレイドルさんが、口元に何かを当てていた。
小さな木の筒だ。
あれは……笛?
(でも、音が聞こえないよ)
耳を澄ませても何も聞こえず、僕は首をかしげる。
と、その時、闘技場に立つレイドルさんの上に、黒い影が落ちた。
(え?)
少し遅れて、
バフッ バフッ
巨大な羽ばたきの音が、空から落ちてくる。
集まった10万人の観客たちが、それに気づいて、ざわめきだした。
(あ……!)
『闘技場』の頭上に広がる青い空から、1頭の竜が降下してきていた。
体長10メード。
翼まで含めたら20メード以上の巨体だ。
全身を包む赤い鱗には、歴戦の猛者であることを教えるたくさんの傷があり、けれど、その表情は気品さえ感じるほどの神々しさだ。
レイドル・クウォッカ。
彼は『竜騎士』だった。
そして、シュムリア王国が誇る『シュムリア竜騎隊』の隊長の跨る竜は、まさに竜の中の竜なのだ。
10万人のトルーガ戦士が、その姿を見つめていた。
『ゴーレム使いの男』も目を見開いている。
「……ほう?」
女帝アメルダス陛下も、感嘆の息を漏らしていた。
微笑むレイドルさん。
その頭上で、赤き飛竜は滞空する。
激しいはばたきの風が、僕らの肌を打っている。
そして、
『グォオオオン!』
赤き飛竜は、雄々しく吠えた。
巨大な『金属ゴーレム』と赤き飛竜が睨み合い、そして、2つ目の試練が始まった。
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※番外編・転生マールの冒険記は、終了まで毎日更新の予定です。どうぞ、よろしくお願いします。




